【投稿】世論操作はいかに行われたか・また行われるか

【投稿】世論操作はいかに行われたか・また行われるか
福井 杉本達也

1 闘うべき相手を間違った「不快感」
参議院選挙を総括する民主党の両院議員総会が7月29日に行われたが、枝野幸男幹事長から報告された総括案は、「消費税議論の呼びかけが国民に唐突感を与えたこと」を冒頭に上げた。また、御厨貴氏は「米軍普天間飛行場の移設問題や小沢氏の政治とカネの問題など何一つ解決せずに菅政権にバトンタッチし、その菅さんが10%という数字にまで触れて消費税に言及した。」“政権政党としての迷走ぶり”(朝日:2010.7.13)を敗因とした。しかし、本当の敗因はそこにあるのか。一国の首相がアメリカによって簡単に首を切られたというショックによる国民の諦め・「不愉快な現実」を暴露した不快感(冷泉彰彦:2010.6.10)にこそあるのではないのか。「雁屋哲ブログ」によれば、「(1)鳩山氏はアメリカに負けた。(2)基地問題に於いて、日本人が戦うべき相手はアメリカである。アメリカと戦おうとしている鳩山氏の足を掬い背中から攻撃をする。日本人は、自分たちの敵を間違えている。…鳩山氏が戦後の日本の首相として初めてアメリカと戦おうとしているのに、日本人は一致協力するどころか、鳩山氏の足を引っ張った。(3)日本人は、アメリカの基地問題に本気で取り組む気概を失っている。」(「美味しんぼ日記」:5.25)ことにあるのではないのか。こうした「不快感」は辞任後わずか2,3日しか続かなかった。「不快感」を打ち消そうとした一連の流れが、民主党代表選への世論誘導であり、唐突な消費税議論の争点化ではなかったのか。その中で、一国の首相の首を切った「アメリカ」の文字も「普天間」の文字も完全に消し去られてしまったである。
その証拠の1つは日経の6月3日付けの紙面にある。鳩山前首相の辞任に当たっての『発言要旨』から「米国に依存しつづける安全保障、これから50年、100年続けていいとは思いません。」「いつか、私の時代は無理だが、あなた方の時代に、日本の平和をもっと日本人自身でしっかりとみつめあげていくことができるような、そんな環境をつくること。」(「鳩山首相両院銀総会発言要旨」Asahi:6.2)という肝心の文面を巧妙にも消し去ってしまった。

2 ワシントンの代弁者としての日本のマスコミ
いかに日本のマスコミの論調が歪んだものであるか、朝日新聞の目に余る米国べったりの姿勢を、以下「ゲンダイネット」から引用すると、2009年10月15日の社説では新政権の歓迎ムードで「自民党政権時代は、米軍駐留や基地施設の提供が半ば当然視されてきた。幅広い視野から見直しの俎上(そじょう)に載せてこそ、政権交代の意義がある」と期待を込めていた。ところが、問題解決が長期化し始めると、日米同盟の危機を盛んに煽り出した。「日米関係の基盤は安保条約であり、日本が基地を提供するのは不可欠の要件」(12月10日)、「相互信頼の再構築を急ぐべきだ」(同16日)。「3年前に日米両政府が合意した名護市辺野古への移設も選択肢として否定はされていない」(同29日)と。ヒラリー・クリントンに恫喝され、最後に辺野古案に戻ったら、今度は「米国優先は禍根を残す」と題し、「沖縄の頭越しに米国と手を握るというのでは、県民の目には二重の裏切りと映る」(2010年5月21日)と鳩山元首相を切り捨てた(2010.5.27)。こうしたマスコミ報道の延長線に社民党の政権離脱があった。5月31日の日経は1面トップで「社民、連立を離脱 首相責任論発展も 内閣支持率22%」と報じた。社民党はまさにマスコミに踊らされ、鳩山氏といっしょに切り捨てられたのである。
この1年間のマスコミの世論調査ラッシュは異常である。特に参院選時の“3日ごとの”世論調査にはあきれた。発足間もない何の実績もない菅政権の政策をわずか1ヶ月間に度々評価して何が分かるのか。世論操作のために、調査という名の下の恣意的数字を捏造し続けたのではないのか。

3 読売新聞・日本テレビとCIA
既に、有馬哲夫氏の『日本テレビとCIA ―発掘された「正力ファイル」』や『CIAと戦後日本 保守合同・北方領土・再軍備』など貴重な研究結果などから、読売新聞の社主、正力松太郎がCIAに操縦されていた歴史的事実が明らかとなっている。根拠は、米国公文書館の公開された外交機密文書である。同じCIAのファイルとして既に岸信介元首相や重光葵元外相があるが、CIAは正力を「ポダム」という暗号で呼んで徹底してマークしていた。CIAは1000万ドルの借款を正力に与えて、全国縦断マイクロ波通信網を建設させようとしていたという。戦後、米国は読売グループを親米・反共のプロパガンダ機関として援助・育成したのである。日本テレビの政治バラエティー「太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中」(金曜後7.56)が9月いっぱいで終了することになったが、公共電波を使った全くひどい内容の偏向番組であったが、なぜ、読売グループが積極的に対米追従番組を制作するかは、この歴史的事実からも明らかである。

4 唯一まともな東京新聞(中日新聞)社説
東京新聞(中日新聞)の8月15日の社説は豊下楢彦関西学院大学教授の論考を引用する形で、「米国に依存しつづける安全保障、これから50年、100年続けていいとは思わない」という鳩山辞任演に同感しつつ、安保の分析を試みている。敗戦で昭和天皇が直面したのは戦犯としての訴追と天皇制消滅の危機であり、次なる危機が共産主義の脅威。昭和天皇にとり日本を守ることと天皇制を守ることは同義であった。昭和天皇は、米軍依拠による天皇制防衛の結論に至り、「米軍駐留の安全保障体制の構築」が至上課題となった。象徴天皇になって以降も、なりふり構わぬ「天皇外交」が展開され…例えば1947年9月、マッカーサーの政治顧問シーボルトに伝えられた有名な天皇の沖縄メッセージは「米国による琉球諸島の軍事占領の継続を望む」「米国による沖縄占領は共産主義の影響を懸念する日本国民の賛同も得られる」などの内容で、沖縄の戦後の運命が決定付けられてしまった。もし天皇外交がなければ日本外交は選択肢の幅を広げ、より柔軟なダイナミズムを発揮し得た。安保の呪縛(じゅばく)は戦後の日本外交から矜持(きょうじ)も気概も奪ってしまったと。

5 グーグルと情報操作
中国政府は7月9日グーグルの中国でのネット事業免許の更新を認めた。グーグルは検索結果の自主検閲を巡って中国政府と対立。中国大陸の利用者に香港経由で検閲なしのサービスを提供してきたが、6月末に香港版への自動転送を停止した(日経:7.10)。中国のネット検閲は厳しく、ダライ・ラマやウイグル関係はもちろん、反中国的言動のブログ、我々が日常使っているサイトもブロックされることが多々ある。中国の検閲には大きな問題がある。しかし、グーグルのサイトはいったい何をしているのか。「グーグルのアプリケーションを使えば使うほど、グーグルはあなたについていっそう深く知ることができる。…あなたの一挙手一投足がグーグルに追跡され…入力した検索文字列も、…訪問したウエブサイトも追跡できる。…閲覧の趣味についても追跡可能」なのである(クリストファー・ケッチャム他「グーグルは何をめざすのか」『世界』2010.8)。そして、その収集された情報は非公然諜報活動に利用される。2008年の情報公開法による調査で、グーグルは米国国家安全保障局「NSA」に対して、4つの『検索機能設備』を提供し、その保守契約を結んだことがわかっている。情報はユーザーの知らないうちに第三者に転送される(同上)。これは「エシュロン」(通信傍受システム)の世界である(その存在が2002年に欧州議会特別委員会で初めて公に明らかにされた)。グーグルが収集した情報は、個人が何に興味があるか、何を欲しているか、どうすれば情報操作に協力する人材となるかを瞬時に“計算”している。もちろん、操作したい情報を「検索」のトップに持ってきて、知られたくない情報を隠すことは簡単である。たとえば「小沢一郎」を検索すると「小沢一郎の正体」などの怪しげなサイトがトップにヒットするし、関連する検索でも小沢氏に否定的なキーワードの羅列である。日本人の個々のレベルでの考え方が分かれば、それだけより細やかなソフト・パワーを行使できる。鳩山元首相はヒラリーに恫喝され「海兵隊の抑止力」という思考停止の“奴隷の言葉”を使わざるを得なかった。菅首相も広島で「抑止力」を口にした。海の向こうでは、誰がいかにこの言葉を上手に使うかを監視している。しかし、それを「これから50年100年続けて」はいられない。6月1~3日の短い3日間はそれをわずかでも明らかにした。我々には矜持も気概もある。

【出典】 アサート No.393 2010年8月28日

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