【投稿】「みんなの党」–矛盾を抱える新自由主義–
7月の参議院選挙において話題を集めたのが「みんなの党」である。民主党菅総理の「消費税議論」に対しては、「増税する前にすることがある」を対置した。2大政党から離れた有権者の受け皿となり、東京・千葉・神奈川選挙区で議席を確保した。比例区では、約794万票を獲得し7名が当選、合計10議席を得て、参議院で11名の議員数となった。(あとひとりはHIV訴訟原告の川田龍平議員で、2007年7月選挙で東京選挙区無所属当選の後、2009年2月「みんなの党」の前身、政治団体「日本の夜明け」に合流。)参議院では社共両党を越えて、第4党の地位を占めるに至る。
なぜ「みんなの党」が躍進したのか。それは明らかに民主党の敗因の裏返しということになろう。民主党政権の10ヶ月間への期待はずれ、選挙直前からの菅総理の消費税発言により民主党離れが起こった。その受け皿になったのが自民党ではなく「みんなの党」であった。それでは「みんなの党」とは、どんな主張をしているのか、その基盤は何か、余り多くない資料の中から、考えてみたい。
<公務員攻撃が第一の主張>
「みんなの党」は、代表の渡辺義美が個性のある人物で、公務員制度改革をめぐって自民党内で対立し、後に離党者が相次ぐ中で、一番早く自民党に見切りをつけた人物として異彩を放っていた。昨年の衆議院選挙直前に、江田憲司議員とともに「みんなの党」結成、衆議院選挙では5議席を確保している。その後今回の参議院選挙までに自民党離党者が加入、保守新党として今回の選挙に臨んだ政党である。選挙では、雨後の筍のごとく乱立した自民党脱党組の「保守新党」の中では、唯一民主・自民の間で、大きく躍進している。
その主張だが、外交・安全保障面では保守党として新しさは何もない。公務員政策・官僚政策において民主・自民を厳しく批判するとともに、消費税増税の前にやることがあると主張し、比例区では約800万票を獲得した(公明を抜き、比例区第3党。)東京・千葉・神奈川での選挙区当選、都市部での高得票など、都市部の無党派層から大きく集票することに成功している。
「みんなの党」はマニフェストではなく、アジェンダという政策パンフを作っている。手元にあるので、読み返してみた。直感的に感じたのは、これは「小泉路線」とほとんど変わらないということであろう。「小さな政府」「規制緩和」「公務員攻撃」など。
「増税の前にやるべきことがある」の項では、表題に「小さな政府(スリムな政府)にする」とし、1.国と地方の公務員人件費削減を実現する 2.民主党政権が断念した「天下り根絶」を断行する 3.「郵政再国営化」を許さず「郵政民営化」を進める 4.「官から民へ」を前進させ、独立行政法人の廃止・民営化等を実行する、とある。
具体的な選挙戦では、この部分を特に強調したと思われる。民主党はマニフェストを実行していないと。
<セイフティネットに一定の配慮>
一方で、小泉路線の反省からか、社会保障・セイフティネット政策には一定の修正が行われている。いわく、「我々「みんなの党」は、「生活重視」を最優先に、全力で取り組んでいく決意である」と。川田龍平議員が参加している印象も影響しているのか。
「世界標準の経済政策を遂行し、生活を豊かにする」項では、「経済成長戦略で雇用を増やす」とし、1.未来を切り開く「経済成長戦略」を遂行する 2.格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する。「「生涯安心」「誰でも安心」のセーフティネットを構築し、生活崩壊をくい止める、の項では、1.病院崩壊、老人ホーム崩壊、年金崩壊を防ぐ 2.「子ども手当」を地域主権の観点から抜本見直し 3.社会保障口座を創設し、社会保障番号を導入する 4.社会的弱者に配慮した所得再分配を強化する などを掲げている。
但し、税体系議論には、租税特別措置の見直しと法人税の実効税率20%への減税が記述されている程度で、消費税論議も封印。小泉時代までに所得税率が特に高額所得者に有利な税制になっている点、即ち所得税の累進性強化については触れられていない。低所得者に配慮する程度であろうか。基本的に、新自由主義の枠内での政策だと思われる。
さらに、後述するが、雇用政策・労働政策では、従来の自民党路線と変わらない。年功賃金制の廃止と雇用の流動化推進策である。
<雇用の流動化を促進>
社会保障問題には多くの記述があるものの、労働政策となると曖昧である。「格差を固定しない「頑張れば報われる」雇用・失業対策を実現する」の項には、①原則すべての労働者(非正規を含む)に雇用保険を適用、②同一労働同一待遇(賃金等)や正規・非正規社員間の流動性を確保、③雇用保険と生活保護の隙間を埋める新たなセーフティネットを構築(職業訓練・生活支援手当・医療保険の負担軽減策・住宅確保支援)、④民主党政権の派遣禁止法案は、働き手の自由を損ない、雇用を奪うもので反対、④最低賃金を経済成長により段階的にアップ、サービス残業規制、⑥ハローワークを原則民間開放などがある。
問題は、雇用の流動化を確保という内容であろう。おそらく、解雇の自由化を意味しているものと思われるが、それは文字にされていない。流動化するということは、年功賃金の徹底した排除と「成績主義導入」ということになる。冒頭の公務員制度改革でも、原則労働基本権を与えた上で、公務員のリストラにより人員・人件費を削減すると書かれている。当然、解雇者・失業者の増大を予測しているだろうが、雇用保険の全労働者加入、職業訓練・失業手当に言及すれば、保険料の引き上げ、使用者側の負担増があってしかるべきだが、曖昧なままである。「流した汗が報われる政治」とは懐かしいフレーズだが、企業負担の増について言及していない。全体にアジェンダは、「検討する」などの曖昧な表現が多い。
<矛盾した新自由主義路線>
同一労働同一待遇や全雇用者の雇用保険加入、低所得者への「給付付税額控除」など、社会的問題となっている貧困問題について、一定の了解事項が生まれつつあることは、選挙結果とは違う観点で評価する必要はあるとも言える。ただ、新自由主義が弱者救済を主張するという矛盾した姿として。
天下り批判は当然としても、公務員賃金の引き下げ2割カットというのは、余りにも唐突であろう。それも地方公務員も同様である。昨年の民主党マニフェストでは、国家公務員の総人件費を2割カットとされている。この違いは大きい。人気取りの政策は止めた方がいいだろう。(3年間で、国家公務員1兆円、地方公務員4兆円の人件費を削減としている)
<地域主権について>
地域主権について「みんなの党」は、「地域主権型道州制」の導入で格差を是正するとし、3ゲン(権限・財源・人間)を地方自治体に委譲するとしている。7年以内に「地域主権型道州制」に移行する、国・州・地方自治体の歳入比は、2:3:5とし、国の中央省庁の役割は、外交・安全保障、通貨、マクロ経済、社会保障のナショナルミニマムなどに限定する、消費税は地方の基幹・安定財源とするとしている。
地域主権は聞こえがいいが、道州制の中身については、上記の内容以上の記述がない。
<民主党と政策目標が交錯>
今回の選挙結果から単純に想像すると、前回の参議院選挙の各党比例区得票から、民主党500万、自民党200万、共産党100万の合計800万票が、「みんなの党」に流れたとも言える。特に民主党の減らした票はほとんど「みんなの党」に流れたのではないか。
「みんなの党」は、民主党の政権公約である「政治主導」が不十分だとし、脱官僚も同様である。民主党よりもこちらが徹底して行える、と主張したに過ぎない。民主と同様の都市型政党であること、企業・団体献金の全面禁止も掲げている。今後自民党がより衰退するとすれば、その受け皿になる可能性がある。これは3年後(?)の総選挙を待たないとわからない。しかし、ねじれた国会状況の中では、公務員問題があるとは言え、民・みん連携は、将来現実化する可能性が高いと見る必要がある。
その意味で、特に労働諸課題における、民主党内での徹底した党内闘争、議論は起こしていく必要があると思われる。(2010-08-21佐野秀夫)
【出典】 アサート No.393 2010年8月28日