【投稿】「チョナン」爆沈の衝撃

【投稿】「チョナン」爆沈の衝撃

<乱れ飛ぶ憶測>
 3月26日夜、韓国海軍のコルベット「チョナン(天安)」(1200トン級)が、海の38度線と言われる「北方限界線」近くの韓国西岸ペリョン島沖で哨戒任務中、突然強い衝撃を受け、間もなく沈没した。
 この事件で乗組員104名のうち、46名が死亡または行方不明となった。当初は、正確な沈没場所や時間も含め様々な情報が錯綜し、原因についても憶測が乱れ飛んだ。
 沈没原因については、①内部要因説と②外部要因説に大別され、①では「弾薬庫爆発」「艦体(金属)疲労」「過重兵装(トップヘビー)による転覆」「気化燃料に引火」などが示され、②では「座礁」「機雷」「魚雷攻撃」などと見解が分かれた。
大まかに言えば①は事故、過失であり②は、自然現象を除けば北朝鮮の関与を臭わすものとなっており、韓国内では、北朝鮮に対して厳しい姿勢を取る与党関係、保守派などと、融和的姿勢の野党サイドで沈没原因について、その主張が分かれ、行方不明者の捜索をよそに論議が沸騰する事態となった。
 しかし、生存者の証言などから、艦は直前まで既定の進路を正常に航行し、波も穏やかであり、艦内では燃料漏れなど引火爆発にいたるアクシデントも発生していないことが分かり、内部要因説はほぼ否定された。

<魚雷説が有力>
 当然「機雷」もしくは「魚雷」など兵器による爆発に絞り込まれることとなったが、救援、捜索活動による犠牲者が続出したことなどから、艦体引き上げが難行、原因の特定は進まず、韓国国会やマスコミでの論議が続いた。
 4月15日になって引き上げられた艦体の破損状況を見た軍関係者や造船関係者からは「魚雷による爆発の可能性が大きい」との見解が支配的となり、16日、韓国軍民合同調査団は「外部爆発の可能性が非常に高い」との見方を示した。
 魚雷説が確定されたならこれは、北朝鮮による意図的な攻撃ということになり、朝鮮半島情勢は改善への動きは停滞し、今後の展開次第では更なる緊張激化へと進むことが懸念される。
 朝鮮戦争休戦以降、北方限界線付近では3回に渡って、南北艦艇の交戦があり、双方1隻ずつの損失があったが、いずれも小型艦艇であり100人以上が乗り組む1000tを超える水上戦闘艦が「撃沈」され、50名近くの「戦死者」が出たのは初めてである。

<韓米の対応は>
 韓国の柳明桓外交通商部長官は4月18日、KBSテレビのインタビューで「沈没が北朝鮮の攻撃によるものだった場合、まず国連安保理への提起を検討する」と述べた。
 これは、沈没から時間が経過していることから、不幸中の幸いとして、公の場で是非を論じる方向性に進んでいるのであって、「チョナン」爆沈直後は付近を航行中の僚艦がレーダーで探知した「目標」に、主砲による撃破射撃を実施するなど、一触即発の状況があった。
 後にこの「目標」は水鳥の群れだったと説明されたが、北朝鮮の艦艇であった場合、本格的な交戦にエスカレートしていたと考えられる。
 仮に安保理での論議が開始された場合、声明や何らかの制裁が議決される可能性がある。しかし、過去の「ノドン2号改」発射や「核実験」に関わる制裁措置が、中国、ロシアの消極的姿勢で腰砕けになったのと同様の結果となるだろう。
 アメリカとしても、国連においては中、露の協力を得てのイラン核開発への対処を優先させるため、韓国に対し原因究明への協力は行っているものの、6ヶ国協議や米朝協議の再開延期程度の対応にとどまるだろう。

<危惧される展開>
 こうした状況を見ながら北朝鮮は、現在のところ抑制された対応を取っている。朝鮮中央通信は「沈没事件は我々とは無関係」とし「(南)は魚雷攻撃説をでっち上げている」と非難しており、韓国政府の「自作自演」との見方も示している。
 しかし、北朝鮮は1983年、ミャンマーでの韓国政府高官に対する爆弾テロ、87年の大韓航空機爆破テロなどの際も「南朝鮮の自作自演」と主張してきた経過があり、今回も同様ではないかとの疑念が出ている。
 北朝鮮の関与が明らかになった場合、初動と救助、事態究明の不手際を追求されている韓国政府としては、やすやすと攻撃を許したことに対する国民からの非難の声に晒され、アメリカの対応と相まって6ヶ国協議の長期中断や、南北交流の全面停止レベルの事態に進むかも知れない。
 さらに今後北朝鮮が「犯人」と名指しされた場合、金正日政権がどのような動きに出るかは、まったく不透明である。昨年末のデノミ失敗、金正日総書記の健康不安、不確定な後継者問題など、国内情勢は不安定なままである。
 とりわけ金総書記に関しては、年明け以降訪中説が流布されているが、いまだに実現していない。何らかの理由で国外に出られない事態が続いているのだろう。北朝鮮が国際的に「犯人」と指弾されても、絶対に認めはしないだろうし、かえって新たな挑発、暴発の口実とされかねない。
 現時点で韓国政府は軍事報復を選択肢としていない。李大統領も4月19日の犠牲者に対する追悼演説で「原因が明らかになれば断固たる措置をとる」と述べるにとどまっているが、今後新たな「攻撃」があった場合、政権は苦しい対応を迫られるだろう。この間も「これは明白な停戦協定違反であり、韓米相互防衛条約が適用されなければならない懸案だ」(「中央日報社説」4/18)との強硬意見が噴出している。

<反応鈍い鳩山政権>
 このように朝鮮半島情勢は、予断を許さない状況に進みつつあるが、鳩山政権の対応は何とも心許ない。鳩山首相は普天間基地問題で頭がいっぱいかも知れないが、そもそも海兵隊の沖縄駐留理由とされている朝鮮半島情勢に対し、鈍感すぎではないだろうか。 
 朝鮮半島で緊張が激化すれば、ますます沖縄海兵隊の存在が大きくされるのであって、在日米軍縮減や沖縄の負担軽減など画餅に帰す懸念がある。さらに「東アジア共同体」や6ヶ国協議進展を追求するのならば、それと密接にリンクする問題として平和的解決を目指す動きを見せるべきである。
 間違っても今回の問題を、朝鮮高級学校無償化を認めない理由の一つとするような愚を犯すべきではない。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.389 2010年4月24日

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