【投稿】米の医療制度改革法の成立と鳩山連立政権の医療政策200日

【投稿】米の医療制度改革法の成立と鳩山連立政権の医療政策200日
福井 杉本達也

1 米の医療保険改革の始動
オバマ米大統領が内政の最重要課題に据えながらも、難航が続いていた医療保険制度改革法案が3月21日に下院本会議で可決・成立した。米史上初めて皆保険制度への道筋をつけたことになる。米国では所得が少なければ医療保険に加入できないのは「仕方がない」と見る風潮がある。このため歴史的に税金を投入して皆保険制度を実施することへの反対は根強い。その意味で今回の改革は1912年以来懸案となっていた米医療制度の大きな転換となる可能性がある。しかし、これを実現するためには、今後10年間で85兆円の財政支出が必要となる。
最後まで公的医療保険制度の導入に抵抗してきた米国が、国民皆保険制度に大きく近づいたことは、金融危機以降、「小さな政府」から「大きな政府」への流れが強まってきたことを意味する。これまで、米国の医薬品・保険資本からの強い圧力により、自己負担3割・高齢者医療費の2割負担、後期高齢者医療制度の導入、医療介護施設からの高齢者の「追い出し」など公的保険制度の破壊、社会保障費の削減を続け、GDPに占める租税社会保障負担の割合はOECD加盟30ヶ国中最低の部類となってしまった日本の政策にも大きな影響を与えるものである。

2 疲弊する日本の救急医療体制
『救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査』(消防庁)では「重傷患者を搬送時に4回以上医療機関に受入れの照会を行った件数」は、全国合計で13,164件(3.2%)となっている。地域別では近畿圏・首都圏が特にひどく、奈良県が11.8%、大阪府が8.9%、兵庫県が6.8%、埼玉県が8.5%、東京都が6.5%などとなっている。受け入れ拒否の理由は、「処置困難」(21.3%)、「手術中・患者対応中」(21.1%)、「ベッド満床」(17.9%)、「専門外」(13.3%)などとなっているが、根底には医師不足がある。
今年3月19日に7病院から受け入れ拒否され女性が死亡した伊賀市のある三重県の場合は同件数は3.2%で中部圏としては最も高くなっている(県民福井:2010.4.13)。三重県の場合、特に県内唯一の医学部のある三重大学の教育機能の低下が医師不足に拍車をかけている。今年度医学部卒業生の中で、大学に研修医として残るのはわずか5~6人である。大学が卒業生に見切られる状況では医師不足の解消はおぼつかない。

3 二木立氏(日本福祉大学教授)の民主党の医療政策批判
『医療改革』(頸草書房)などの著者・二木立氏は当初、政権交代と民主党の医療政策を大きく評価していた。特に、民主党がマニフェストで、総医療費と医師数の大幅増加の数値目標(共にOECD平均までの引き上げ)を示したことは画期的だと高く評価していた。また、医療保険制度改革についても、民主党は高齢者医療制度廃止と医療保険制度の一元的運用を公約しており、氏が評価したところである。
しかし、2010年度の予算編成段階になると、医療費の大幅引き上げが断念され、本年4月からの医療費全体の引き上げは、わずか0.19%にとどまり、診療報酬改定も4年間の任期中に今回を含めて2回しかないことを考えると、総医療費をOECD平均にまで引き上げることは事実上不可能であり、鳩山政権内での医療政策の優先順位が低い(二木立:「日本の政権交代と民主党の医療政策」『日本医療新報』2010.3.6)と批判に転じた。
財源難で手足が縛られていることが要因であるが、それに対しても二木氏は「2009年度予算総額が昨年度当初予算に比べて2.5兆円も増加していること、国債発行額に至っては11兆円も増加していることを考えると、それは言い逃れにすぎず、民主党政権内での医療政策の優先順位の低さの現れというべきです」(二木:「日経メディカル」2010.1.27)と民主党の政策に手厳しい。

4 医療費財源の長期的な見通しが示されていない民主党の政策
二木氏は政権交代前より民主党の医療政策には「医療費拡大のための財源の長期的見通しが明確に示されていないことと言えるかもしれません…税金の無駄使いの根絶と「埋蔵金」の活用等により16.8兆円(2013年度)を捻出できると主張していますが、この試算に対しては、現与党(自民党・公明党)だけでなく、すべての全国紙が疑念を呈しています。私自身も、日本がアメリカと並ぶ「小さな政府」であることを考慮すると、無駄の排除と埋蔵金の活用だけでは、公的医療費拡大の長期的な安定財源は確保できないと考えています。」(二木:「日経メディカルオンライン」2009.8,1)と疑念を呈していた。
確かに、民主党の社会保障や医療政策に財源の長期的な見通しはない。しかし、それは民主党だけに限ったことではない。前政権時代に基礎年金の国庫負担の1/2への引き上げをしたが、財源2.5兆円は今も宙ぶらりんのままである。
小泉政権時の「骨太の方針」=社会保障費の5年間で1兆1000億円の削減は新政権下で完全に撤回された。二木氏は子ども手当や高校無償化への財源の振り向けが気に入らないようだが、それは政策選択の問題である。社会保障費は27兆円と国の一般歳出の51%を占める。何もしなくても毎年1兆円ずつ増える。財源の見通しを立てるには、消費税(インボイスによる付加価値税化)・所得税の累進課税・租税特別措置の整理・納税者番号制と一体的に、財源をどれだけ確保できるかを議論せざるをえない。古川元久国家戦略室長は番号制について「格差の拡大、特に下への格差が広がって、低所得の人が相当増えているはずですが、課税最低限以下の人たちについては、その所得分布状況か全くわかっていないのです。だから、きちんとした手立てを打とうにも打てない。番号の導入によって、本当に手を差し延べなければいけない人に差し延べることが可能になる…一律主義ではなく、めりはりをつけた政策が打てるようになる」(『世界』2010.4 )と述べている。しかし、このような抜本的な税制改正は2~3年では無理である。わずか半年で強引に大改正を行おうとするなら、議会制民主主義を無視したクーデター同様となろう。二木氏はあまりにも結果を焦りすぎである。

5 民主党は公的病院偏重という批判
二木氏は「公的(大)病院偏重という疑念です。…逆に、日本の地域医療の大半を支えている民間中小病院や診療所の役割に対する言及はまったくありません。一般には、救急医療の主役は自治体病院や公的病院というイメージがありますが、それは誤りで、全国的に見ても、救急搬送患者の57%は民間医療機関が受け入れており、…特定の(公益性のあるとみなされた)病院の入院のみを対象にして診療報酬を2割も引き上げる政策は、極めて恣意的である」と公的病院偏重だと批判している(「日経メディカル」2009.8.1)。
確かに、民間の中小病院や診療所が日本の地域医療のかなりの部分を支えていることは間違いない。しかし、限られた財源をどう配分するかである。政権交代後、診療報酬では病院の再診料を60点から69点に、また、救急医療や産科・小児科の診療点数を引き上げた。また、医学部定員を360人増やすとともに、22年度予算で「大学病院の機能強化」などに68億円、昨年の第二次補正予算で大学医学部の定員増を見越し112億円の養成体制強化費が盛り込んだ。医学部の教官が増えるのは、数十年ぶりである。しかし、マスコミはこうした改善点を全く報道しない。
伊東光晴氏は相対的に開業医ら医師の所得は高く看護師らの給与は低いと指摘する。診療所の多くは「風邪」で年間の半分を稼ぐといわれている。「風邪」の原因はウィルスであり、ウィルスには抗生物質は効かない。にもかかわらず、開業医は何かしらの処方(?)を行っている。風邪の季節には待合室は患者で一杯である。昨年5月からの豚インフルエンザ騒動でも多くの開業医は稼げたことであろう。
ところで、豚インフルエンザの「パンデミック(大流行)」という定義をめぐって、WHO内では大激論が交わされている(日経:2010.4.13)。製薬会社の謀略でWHOが意図的に危機を煽ったのではないかという疑いが持たれている。ボーダルク欧州会議保健委員長(ドイツ)は「WHOのある人々は製薬会社とつながっており(各国にワクチンを過剰摂取させるため)恐怖心を拡大させた。こんな戒厳体制を敷く理由はなかった。」と批判している(毎日:2.24)。感染症は全国の開業医が定点となって流行の観測を行っている。日本での流行初期の昨年10月24日の時点で中部大学の武田邦彦氏は「2005年には定点観測で50人の患者さんが出たが,このときのカーブの形は「滑らかなピーク状(正規分布)」になっている.これは流行すると周囲に感染していない人が多いので,患者数が増え,患者が増えてくると「感染していない人の数」が減るのでピークを打つ.さらに一度,感染した人には免疫ができるので…流行は終焉する.実に理窟通りに進んでいる.」と予測した。インフルエンザの研究者が正規分布を知らないはずはあるまい。結果3月末には1126億円もの巨額資金を出した輸入ワクチン9900万回分が行き場を失った。パンデミックを煽った麻生前首相や河村前官房長官が悪いのか、輸入を決定した桝添前厚労相が悪いのか、それとも後の対応を怠った長妻厚労相が悪いのか、統計学も知らない厚労省の医療技官の質の問題か。インフルエンザ特効薬と言われるタミフルはラムズフェルド元米国務長官が会長を務めていたギリアド社が特許権を持っている。貴重な財源を国際医薬・化学資本に掠め取られないよう、また、国内の怪しげな研究者・医師に配分しないようにしなければならない。

【出典】 アサート No.389 2010年4月24日

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