【投稿】デフレ克服なるか 2010春闘 —-春闘の最大のテーマはデフレ脱却に—

【投稿】デフレ克服なるか 2010春闘 —-春闘の最大のテーマはデフレ脱却に—
                                    立花 豊

経済環境・雇用情勢が依然として厳しい状況がつづくなか、2010年春闘が展開されている。この春闘の最大のテーマはデフレ下の春闘をどう戦うかと言っていいだろう。昨年末には政府の景気刺激策や新興国の需要の高まりのなかで、輸出産業を中心とした大企業に一時からの不況感を脱し、増益を確保する企業が相次いだ。全面大雨・嵐状態の日本経済に一服の「感」が出て、底を脱しつつ増益基調にあるようにもみえるが、流通・サービスを中心とした内需型産業には依然厳しさが続いている。また、自動車・電機産業の賃下げや定昇凍結など、労働条件の切り下げ提案が相次いでいる。連合も「取り巻く情勢」を「2009年通じてのGDPはマイナス成長」「2009年の全産業で19.3%の減益が続く企秦収益」「非製造業中心に厳しさが続く中小企業」「短期的にも長期的にも低下が続く賃金水準」「5%前後の高水準の失業率と前年同期比の半分近くの高卒求人数という過去最悪の雇用情勢」「減少した労働時間」と特徴をあげている。当然、連合もデフレ・スパイラルからどう脱却し、内需を高め、雇用を確保し、「自律型経済成長を描けるのか」としている。これが今春闘の大きなテーマと言えるだろう。
では、具体的に労働組合はどういう闘いをしているのか。第56回連合中央執行委員会(2009年12月3日)は、春季生活闘争方針で以下のように現状を把握し、課題を提起している。

『日本経済は回復の兆しが見られるものの鉱工業生産の水準は、ピーク時の76%にすぎず、低迷が統いている。消費や設備投資などの内需も弱いなかで、輸出は中国経済の回復などで量的には下支えされているものの、アメリカや欧州経済の回復も思わしくなく外需の伸びも期待できない。政府の需要刺激策によって一部で消費が回復しているものの先行きの懸念は大きい。これは、「いざなぎ景気」越えといわれた戦後最長の景気回復期においても、成長の成果が勤労者や家計に適正に配分がなされなかったことによるものであり.賃金は10年前の水準から7.6%も低下している。このような賃金水準の低下は、低所得層の増加と中間層の減少によるものであり、所得格差の拡大と二極化は今も進行している。政府も日本の相対的貧困率が2004年の14.9%から、2007年は15.7%に上昇したことを公表した。このような二極化と配分の歪みから、内外需のバランスは大きく崩れ個人消費は低迷したままとなっている。
一方、不況期においては跳ね上がる労働分配率も、マクロ面から見れば急激な上昇は見られていない。これは、夏季一時金の大幅減などによるものである。
雇用面でも、経済の成熟化や雇用労働の規制緩和などによって、一時は雇用労働者の約4割が非正規労働者となった。このことは必ずしも、ワーキングプアに直結するものでは無いが、低所得者層を多く生み出し、雇用と所得の面からも歪んだ状況を呼び起こした。また、長時問労働、過重労働による過労自殺が増えるなど、ワーく・ライフ・バランスの実現という観点からも大きな問題を残したままとなっている。

日本経済・社会はまさに底割れの状祝にある。配分のバランスは崩れ、社会・経済システムの機能低下、セーフティネットも十分に機能していない。貧困間者も年を追うごとに深刻化している。また、こうした状況への様々な対応の結果、デフレがデフレを呼び起こすという縮小均衡の悪循環を招来しており、雇用調整助成金の効果によって低く抑えられている失業率も、その制度改善がなければ大きな社会問題となることが懸念される。このように、日本経済・社会の枠組みは、正に今こそパラダイム転換が必要不可欠となっている。2010年春季生活闘争は、そのための取り組みである。連合は総力をあげ、貸金、労働時間をはじめとする労働諸条件の交渉を強化するとともに、現下の状況において勤労者の雇用と生活を守っていくことが必要である。このため、労働条件の取り組みと政策制度からの取り組み強化が不可欠との認識のもと、国民の生活が第一とする民主党政権との連携を探めつつ、車の両輪として2010闘争を強力に推進していく。』

少々長く引用したが、以上のように、形としてだけの今までのように選挙カンパニア的、「反政府」的な、政治的な春闘でいいわけでなく、厳しい環境のなかで、「パラダイム転換が不可欠」であり、「勤労者の雇用と生活を守っていく」春闘が提起されているといっていいだろう。
今春闘の具体的な要求をみると、連合レベルでは賃上げ基準を設けていない。賃金水準については、わずかに「到達すべき水準値として25歳185000円、30歳210000円」などを例示しているのみである。「賃金水準の維持、底上げ、ゆがみの是正のため」に「賃金カープ維持分の確保をはかり」、「賃金水準重視の取り組み」を行うとしている。

<ペアを要求できない産別>
賃上げ水準を明示できない姿勢は産業別労組に強く影響している(産業別労組の姿勢が連合レベルに影響しているともいえるが)。個別産業では、自動車産業の労働組合を包括する自動車総連は、日本を代表するトヨタはベア0円と、富士重工業を除く各社は軒並みペア0円である。また、自動車とならんで日本経済のけん引役であった電機もほぼベア0円が続いている。他の日本を代表する大企業の新日鉄、東京電力、NTTドコモなども0円ベアとなり、わずかに年間一時金要求で昨年を上回る組合が一部あるといった状況だ。要求段階でベアを望まず(できず)、個別企業の枠のなかに埋没しているといっていい状況である。企業横断的に見られる要求は、「定昇確保」と賃金カーブの維持だけというもので、「業績連動型」という一時金要求にその姿勢はみてとれる。いま『脱デフレ』がテーマなのだから、着実な賃上げをどう実現するのかが問われているのだが、こうした大企業労組の姿勢は、要求段階で中小の要求に悪影響をもたらし、全体に『逆波及」している。全産業的な大幅な賃金水準の上昇はまったく望めず、所得面での『脱デフレ』は到底望めないといっていいだろう。

<孤立する中小の闘い>
一方、こうした大企業労組の影響を受けて、中小労組では明確なベースアップ基準を掲げられない中でも、「格差是正」を要求の柱に掲げている。さらに「全労働者を対象に処遇改善を図るために」「企業内最低賃金協定の締結拡大」とその「水準の引き上げ」を挙げている。中小の闘いは本年も2年目を迎えた共闘連絡会議で賃金の社会的横断化を求めていくことになり、格差是正を要求していく。共闘連絡会議ごとに各産業の代表銘柄の貸金水準を明確化させ、格差是正や体系整備など中期的な取り組みを進めていくとしている。しかし、元請けたる大企業などが軒並みベア0円のなかでどう賃上げができるのか。賃金水準をたとえ維持しえたとしても、大企業との格差は一向に縮みにくいだろう。正規社員ですらこうした状況で、派遣やパート労働者の闘いはより困難を強いられているのが現実である。いきおい、こうした賃金以外の要求として政治解決=民主党や国会での政策にゆだねるしかない。

<政策・制度闘争のゆくえ>
連合は春闘と同時に取り組むべき課題として、A「180万人の雇用創出プラン」および政府の緊急雇用対策の着実な実行に向けた予算措置の実現と中小・地場産業の育成・支援と地域経済活性化の重視、B 雇用の安定・確保にむけた雇用調整助成金の要件緩和対策、労働者派遣法の抜本改正、緊急人材育成・就職支援基金の恒久化、C 最賃の引き上げ、D 医療・介護提供体制の確立、E 公契約基本法と公契約条例の制定、F 公賓労働での労働基本権の確立などを挙げてきた。
民主党などの連立政権は昨年末需要からの成長を中心とする「新成長戦略」を発表した。それは基本的にGDP名目3%(実質2%)を上回る成長を目標として、「環境・健康・観光」で100兆円超の需要を創出するとしている。さらに失業率は3%台へ低下させ、「地球温暖化阻止」を旗印に掲げている。この「戦略」には労働組合の要求する課題と合致するものが多いが、戦略を実行・実現する条件としてはいかにもハードルは高い。短期的に目下の景気をどう浮上させるか、中・長期的には実現する財政的な裏付けが必要だ。消費税すら「4年間はあげない」という程度のレベルで、労働者からみて期待を裏付ける材料は乏しい。労働組合のあげた課題を実現するにも、場当たりな対応にならないか、戦略は画にかいた餅とならないか、危惧されるところである。

【出典】 アサート No.388 2010年3月20日

カテゴリー: 労働 パーマリンク