【投稿】成長なき経済下での民主党の「コンクリートから人へ」の政策転換をどう評価するか

【投稿】成長なき経済下での民主党の「コンクリートから人へ」の政策転換をどう評価するか
                         福井 杉本達也

1 事業仕分けはパフォーマンスか?
行政刷新会議の事業仕分けが11月11日より始まった。自民党の大島幹事長は「わずか1時間で良い悪いを簡単に裁断…パフォーマンスにしか見えない」(朝日:2009.11.18)と酷評している。「公開処刑」・「人民裁判」と評し、説明者の発言を遮る蓮舫参院議員を中国文化大革命時の「四人組」の1人毛沢東夫人・江青女史に例える向きもある。
確かに、1時間で何が分かるかだが、仕分け作業は国民には非常に単純で分かりやすく構成されている。たとえば、初日の11日に行われた国交省の下水道事業であるが、事業費5,188億円を「財源を移したうえで自治体が判断する」と判定されが、もともと、下水道事業は市町村の事業であり、しかも、国交省の「公共下水道事業」(市街化区域)と農水省の「集落排水事業」(農村部)と環境省の「合併浄化槽事業」(分散する地域)がダブっているのである。3省連名で2001年に『効率的な汚水処理施設整備のための都道府県構想策定マニュアル』が出され、どれがその地域にとって安く合理的な事業かが仕分けされうることにはなっていたが、この間何の考慮もなされず、ずるずると事業が続けられてきた。下水道工事を担う土木業界は自民党の集票マシンであったことが大きい(毎日:2009.1027)。たとえば住宅が分散している地域では、m当たり単価10~30万円の下水管埋設工事を延々1kmも2kmも住宅の全くない田んぼの中の道路を掘削してわずか数十軒の住宅に接続するという信じられない工事が横行している。このため全国の多くの自治体は下水道事業のために破たん状態に陥ってしまった。どこの地域は「公共下水」で、どこは「集落排水」で住宅の分散した地域は「合併浄化槽」でと色塗りを決めるのは県の「下水道計画」であるが、ほとんど見直されることはない。下水道は一番端末の終末処理場からつくり出さなければならない。終末処理場は処理する計画人口によってその規模を決定する。規模は下水処理人口が多ければ多いほど大きな事業費となる。一旦終末処理場を作ってしまって、途中で合併浄化槽がいいとして部分的に地域をはずすと、処理人口が減ることとなり、処理場は過大施設となる。見直すと困るのである。合併浄化槽は1戸100万円程度である。家屋連たん地区以外ならば圧倒的に安い。上記マニュアルもあるように、公共事業については財務省の主計官の手を借りなくても費用対効果は研究し尽くされている。人口が減少する中、市町村も補助金という金の圧力がなくなれば自分の頭で考えることになる。「こらおもろいわな。新鮮に映る。非常にヒットしている」(朝日:11.18)と、同じ自民党でも谷川秀喜参院幹事長はほめちぎりである。

2 「もんじゅ」も仕分けの俎上に
新聞紙上などでも事業仕分けは財務省主導だという見解が多い。植草一秀氏も「財務省が舞台回しを行なっていることが明白で、財務省自身への切り込みが極めておろそかになっている」(同氏HP「知られざる真実」2009.11.19)と指摘している。確かに、各事業の予算の法的根拠や考え方・仕組みなど、財務省の査定官でなければ切り込めないところばかりである。しかし、前半最後の日の17日の仕分けは少し異なっていたのではないか。「もんじゅ再開予算容認(仕分け人と文科省との)議論かみ合わず混乱?」(福井:11.18)とマスコミ各紙は評価するが、高速増殖炉「もんじゅ」が仕分けのまな板に上ったからである。「昭和三大馬鹿査定」という言葉がある。「戦艦大和」、「伊勢湾干拓」、「青函トンネル」であるが、「もんじゅ」もこれらに匹敵する。1995年12月8日にナトリウム漏れ事故を起こして以来14年間にわたり停止している。その間1ワットの発電もしていないのに2,300億円もの維持管理費を突っ込んでいる。建設費を含めると約9,000億円という巨額になる。しかも、核兵器に転用可能なプルトニウムを生み出し、冷却材に液体ナトリウムを使用するため事故が絶えず、あの原発先進国のフランスでさえ撤退したというきわめて厄介な原子炉である。「もんじゅ」を仕分けに載せたということは“確信犯”である。仕分け作業を“仕切る”枝野幸男衆院議員は「額も大きく国民的議論が必要と考え、事業仕分けの俎上に載せたが、責任を率直に反省する」と弁明したが、事業仕分けの447の対象事業は「おもいやり予算」のように事前に恣意的に選択することは十分可能だったのであり、まな板に載せたこと自体に行政刷新会議・民主党の「もんじゅ」に対する対応が透けて見える。少なくとも電力業界同様に“やっかいもの”と判断しているのである。

3 事業仕分け人:構想日本(加藤秀樹)について
これまで日本の“シンク・タンク”はあまりにも政府・自民党べったりであり、しかもきわめて貧弱なものであった。日本総合研究所(寺島実郎会長)などは、寺島氏個人のスタンスは別として、三井住友G=ゴールドマン・サックスべったりであり、新政権としては使うわけにはいかないだろう。伊東光晴氏は「費用・便益分析」を例に、「シンク・タンクは、発注者の意を受け…コストはできるだけ低く見積もり、ベネフィットは課題に見積もり、その社会的有効性を示していく。」ものであり、九州新幹線の場合、計算を行ったのは銀行系のM総合研究所であり、発注者は鹿児島県選出の自民党議員であり、便益を「鹿児島と福岡の間の利用者の予想数の過大推計と利用者の受ける時間短縮便益を1時間いくらとし、恣意的にふくらませていた」(『世界』2009.11「鳩山新政権の経済政策を評価する」)と指摘している。
政府系でも銀行系・業界系でもないシンク・タンクとなると数は限られる。構想日本は、自民党政権下(「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」河野太郎)においても2008年8月より文科省・環境省、外務省・財務省の事業仕分けを行い始めていた。今回廃止に仕分けされたスパコンについて「世界最高水準のスパコンを開発することが自己目的化している。」との指摘や全国学力調査についても「サンプル調査でよい」とするなど部分的なテストは一部なされている。自民党政権下においてテストされなかったのは、国交省・農水省・防衛省・厚労省・総務省・経産省や文科省においても原発関係などである。周知のように河野太郎は竹中平蔵を顧問と仰ぐ「プロジェクト日本復活」のメンバーであり、世耕弘成や山本一太らと伴に国際金融資本の若手エージェントである。
構想日本=東京財団の出資者は日本財団(笹川陽平会長)である。日本財団の創設者は右翼:笹川良一であり、CIA人脈―児玉誉士夫・岸信介に繋がるものである。亀井金融相は仕分け人に「弱肉強食を推進した学者や外国人を入れている」として川本裕子・土居丈朗・ロバート・フェルドマン氏などを入れていることに苦言を呈したが(朝日:2009.11.12)、単なる事業仕分けの手法は小泉政権下の「聖域なき財政再建」と同様であり、国際金融資本と連動した民主党内市場原理主義者の動きに注意しなければならない。

4 コンクリートへのバラマキでなく、人へのバラマキを
GDP=C(民間消費)+I(民間投資)+G(政府支出)+X(輸出)-M(輸入)である。輸出が増えず、民間設備投資もままならない中で政府支出を仕分けで削ればどんどん経済は縮小し、不況は深化してしまう。11月16日に発表された第3四半期(7月―9月)のGDP成長率は名目で▼0.3%(年率換算)である。実質は4.8%増であり、名目より実質が高いということは物価が下落しているということを意味し、“デフレ”である。米国の10月の失業率は10・2%と26年半ぶりの水準に上昇(日経:11.10)しており、かつてのような輸出ドライブは望めそうにもない。
国民所得を維持するには消費の割合を増やす以外にはない。「子ども手当」や「農業の戸別所得補償」も家計への直接支援であるが、民主党はさらに政策集(2009.7.23)の中で「給付付き税額控除制度の導入」を提案している。これは上記東京財団の森信茂樹氏らが提唱しており、納税額が少なく減税の効果が及ばない低所得者に対し、所得の額に応じた現金給付、または税額控除を行う仕組みである。「負の所得税」「ベーシック・インカム」とも呼ばれ、一定金額を国民の権利として補償するものであり、家計への究極的な直接補助である。
民主党の峰崎直樹財務副大臣はこれを「所得税の課税最低限以下に位置する人々への最低保障」として位置づけ、消費税の中で「基礎的な衣食住の基となる部分をそこでかえそうということです」(『民主党政権で税制はこう変わる』ぎょうせい:藤井財務大臣・仙谷行政刷新大臣・峰崎財務副大臣・古川国家戦略室長座談会 2009.9.3)としている。伊東光晴氏の上記『世界』の解説では、家計所得が年400万円、付加価値税率20%、ベーシック・インカム20万円の4人家族のモデルでは、「年収400万円の家計はそれを支出して年80万円の付加価値税を払う。しかし、80万円のベーシック・インカムがある。したがって、税率は0%になる」ことになる。年600万円のモデルでは差し引き40万円の税を払い6.6%の税率となる(伊東:上記)。逆に年200万円の貧困層モデルでは40万円の税支払に対し、80万円の控除なので、差し引き40万円が戻ることとなる。むろんこれは、消費税を付加価値税とし、プラス累進課税・社会保険番号制度を利用するなどして「ちゃんと所得を把握する」(古川:上記)ことが前提である。これまでの日本の税制・社会保険制度は所得捕捉が出来ないことを前提に形づくられている。
民主党の政策の弱さは社会保険と税制がうまくリンクしていないことにある。基礎年金の全額税方式で一番得をするのは、低所得者層ではなく厚生年金の1/2を負担をしている企業である。付加価値税の増税分は特に医療・介護に使われなければならない。作家の高村薫氏は「時代の変化を止めることばできないけれども、変化に合わせて生き方を変え、分配の仕方を変えて相対的貧困率を下げたとき、私たちはまた新しい安定の実感を得るのではないだろうか」(県民福井:11.18)と説く。政策転換のためには、過去の“消費税”の轍を踏まず国民の賛同を得られるようどううまく説明出来るかにかかっている。

【出典】 アサート No.384 2009年11月28日

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