【投稿】軍事同盟見直し以外に道なし―沖縄米軍基地問題―
<アメリカの「怒り」>
日米両政府の懸案となっている、沖縄の米軍海兵隊および基地移設問題は着地点が明らかにならないまま年末を迎えようとしている。鳩山総理は従来の日米両政府の合意を前提とはしないという姿勢を堅持し、岡田外務大臣は普天間基地機能の嘉手納基地への統合を追求しつつ、辺野古案の修正も視野に入れている。さらに北沢防衛大臣は現行案での推進を示唆するなど「閣内不一致」の様相を見せている。
こうした状況に対し、一部外務官僚、マスコミや自民党などは「鳩山政権の迷走」と盛んに喧伝し、ブッシュ政権時代の「政府関係者」「高官」のコメントを元に「アメリカは怒っている」と旧態依然の虎の威を借りる狐のごとく批判を繰り返している。
確かに政権の見解がまとまらず、地元との調整もままならない状況は問題であるが、動揺しているのは実はアメリカ政府も同じである。
当初11月のオバマ訪日が回答期限とされていたが、鳩山総理にのらりくらりとかわされ、ズルズルと後退を余儀なくされている。
オバマ大統領は、政権の要である国防長官にブッシュ政権からゲーツ長官を残留させた。この人事はイラク戦争遂行やその「戦後処理」を巡り、トカゲのしっぽ切りのごとく「辞任」したラムズフェルド前長官の後任として、イラン―アフガン処置担当として任命された経緯によるもので、東アジアの軍事的課題はほとんど考慮されていない。
さらに駐日大使も「素人」のルース氏が起用され、着任以降基地問題に関し、鳩山政権への積極的なアプローチを行った形跡が見られないなど、オバマ政権はタカをくくっていたのか、情報不足なのか、いずれにせよ日本を軽視していたのは明らかで、今になって慌てているのが現状である。
アメリカのマスコミは「鳩山政権の対応では北朝鮮や中国の脅威に対応できないのではないか」と恩着せがましく忠告するが、そもそもアメリカ自身がこの間、両国を脅威とみなすどころか、中国に対しては厚遇を続け、北朝鮮に対しても現実的な姿勢を見せている。
<アジア重視の本音は?>
米中関係に関しては両首脳が「G2」関係構築を謳い上げたが、蜜月ぶりは経済関係強化にとどまらず、9月のロケット関連技術移転規制の緩和(許認可権限を大統領から商務長官に移譲)、10月の中国最高位級将官訪米による軍事交流拡大合意など、着実に共同歩調の分野を拡大し、11月のオバマ訪中もそうした関係を反映したものとなった。
北朝鮮に対しても、ブッシュ政権下における昨年のテロ支援国家指定解除以降、今年相次いだ「核実験」や「弾道ミサイル発射」にもかかわらず、実質的制裁を行わないどころか、12月のボスワーズ特別代表訪朝による2国間交渉開始を決定するなど、柔軟な対応を取り続け、日本に対しては拉致問題などリップサービスのみに止めるという「冷遇」ぶりである。
中朝両国へこうした対応を取りながら「中国、北朝鮮の脅威」を口実に、米軍再編計画への貢献を押し付けることは、それを利用していた自公政権では通用しても、矛盾を隠ぺいすることは無理がありすぎる。
オバマ訪日日程の短縮と併せてこれらは「鳩山政権に対する警告」という文脈で語りたがる向きがあるが、これらはすべてアメリカの既定の外交方針から導き出されたものなのである。
また、アメリカ上院は在沖海兵隊のグアム移転費用約3億ドルの7割削減案を決定した。これも「アメリカのいらだち」とまことしやかに語られているが、グアム移転に反対しているのは当の海兵隊なのである。
さる6月、海兵隊のコンウェイ総司令官は上院軍事員会で、普天間基地存続ともとれる「日米政府合意」の見直しを示唆した。当時は政権交代が現実味を増している時期とはいえ、総選挙の日程も決まらない微妙な時期である。そうした時に生粋の軍人が、日本の政治情勢を先読みするとは思えず、組織防衛的見地からの発言と言われている。
アメリカは国内事情を整理し、オバマ大統領がこの間、東京やシンガポールで明らかにした「アジア回帰」に沿った明確な東アジア方針を、日本国民や沖縄県民に示すべきである。
<利権政治との決別を>
アメリカが考えをはっきりさせれば、困るのは日本の旧政権とそれにつながる一部官僚、業界などの利権勢力である。
そもそも普天間基地の移転構想は、米軍の世界的な再編計画の一環でしかない。冷戦終結後、過剰な軍事力を抱えるアメリカはその財政的負担に喘いでいる。対ソ連用に構築した軍事力を維持するには不可能となり、新たに見つけ出した「国際テロ組織」という脅威へのシフトを進めている。
その中で日本は軍事費の肩代わりをしてくれる稀有の存在だったが、日米安保体制はソ連の脅威が前提だった。しかしそれが崩壊した現在、在日米軍の縮減と日米軍事同盟の見直しは必然的なものとなっている。
これに関連し4月にアメリカが旧政権に対し、青森の三沢基地からのF16の全面撤収年内開始、嘉手納基地のF15の一部削減を打診したが、麻生政権は難色を示したと、総選挙後に報道された。さらに、米軍が1996年に実施した普天間移設の調査研究では、軍事的見地からは県外移設が最も高い評価となっていたことが明らかとなっている。
旧政権の思惑で、在日米軍の再編は、「思いやり予算のキックバック」など、より多くの利権を生み出す冷戦シフトを前提として進められてきたが、砂上の楼閣は崩れだしている。無理やりに同盟を維持しようとするなら、中国を日米共通の脅威とすることか、「対テロ戦争」に参加する集団的自衛権の行使しかないが、そのどちらも不可能である。
冷戦後の安全保障に関する確たるビジョンが存在しない中で、居心地のよい沖縄に居座りたい一部米軍を利用して、基地関連予算、公共工事の利権として現れたのが辺野古基地建設の本質である。
04年の沖縄国際大へのヘリ墜落事故は深刻な事態であったにも関わらず、沖縄の負担軽減という美名のもと、多くの沖縄県民の声は野合を糊塗するものとして日米両政府に利用された。
沖縄では総選挙で「県外移設」を主張する候補者が全員当選し、11月8日には2万人規模の県民大会が開かれた。1月に予定されている注目の名護市長選では基地建設反対派候補が一本化した。
沖縄の民意は決定的となりつつある。鳩山政権は防衛(旧施設庁)官僚等がちらつかせる「負担軽減」という名の利権温存策に惑わされることなく、県民世論を基に「国論」を統一して交渉に臨めば、本音では沖縄から撤退したいアメリカには渡りに船となり、日米軍事同盟の見直しへとつながるだろう。(大阪O)
【出典】 アサート No.384 2009年11月28日