【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―

【投稿】事故を“なかった”こととするため、住民に大きな被曝を強いて帰還させる人権無視の政府―宮崎真・早野龍五論文不正の背景―
福井 杉本達也

1 福島原発事故、丸8年の恐るべき現実―加速する福島からの避難
2月9日付けの福島の地元紙:福島民友は「福島県立高25校を13校に再編 県教委・実施計画、近隣校 と統合へ」という、福島県民にとってショックな記事を掲載した。再編理由は「本県は少子化が深刻化しており17年3月と比べて28年3月の中学校卒業者数が約5300人減少する見通し」としている。福島県の人口は原発事故時・202万人であったものが、2017年には190万人を割り込み、今年1月では185万人にまで減少している。しかも、女性の減少率は男性の2倍となっており、今後、さらに少子化が進むと見られる。また、共同通信の小さな記事では、放射能から逃げ遅れた飯館村が「三つの小学校と一つの中学校を統合し、小中9年間の教育を一貫して行う『義務教育学校』を設置する方針を決めた。」(福井:2019.2.14)としており、人口減少と共に公共機能もどんどん縮小しており、小さな自治体から解体に近づいていることが伺える。

2 国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に苦言。 日本政府の避難解除基準は適切か?
昨年10月25日、国連人権理事会が日本政府の福島帰還政策に通知を出した。要旨は①日本政府には、子供らの被曝を可能な限り避け、最小限に抑える義務がある。②子供や出産年齢の女性に対しては、避難解除の基準を、これまでの「年間20mSv(ミリシーベルト)」以下から「年間1mSv」以下にまで下げること。③無償住宅供与などの公的支援の打ち切りが、自主避難者らにとって帰還を強いる圧力となっている。というものである。ところが、これに対して、日本政府は、「避難解除の基準はICRPの2007年勧告に示される値を用いて設定している」、「こういった批判が風評被害などの悪影響をもたらすことを懸念する」と反論した。事故直後は半減期が短いセシウム134等が多く、空間放射線量は比較的早く低下するが、事故後8年も経過すると、半減期が長いセシウム137(約30年)からの放射線が空間線量率の大部分を占め、空間線量率はなかなか下がらなくなっている。事故直後と8年後の現在では同じ年間20mSvでも、合計の被曝量は大きくなってしまう(参照:井田真人「ハーバー・ビジネス・オンライン」2018.11.1)。住民に大きな被曝を強い、無理やり帰還させようとし、これを批判する国連人権理事会を逆に「風評被害」と攻撃するとんでもない政府を持ってしまったことを恥なければならない。

3 個人被曝線量は低いと主張した宮崎真・早野龍五論文のウソがばれる
雑誌『女性自身』2月26日号が「東大名誉教授が福島調査で作成 政府の被曝基準論文データは『虚偽だらけ』」という見出しで、伊達市の主婦が2年間にわたり伊達市の被曝隠しに疑問を持ち追い続けた経緯を書いている。伊達市では事故後いち早く、仁志田前市長がガラスバッジと呼ばれる個人の累積線量計を配布したが、線量計は室内に放置されたままだったり、子供のランドセルに入れっぱなしになっていた。この線量計を基にして放射線量が低いからと、主婦が住むCエリアでは除染がなされなかった。これを追及する主婦に、高エネルギー加速器研究機構の黒川眞一名誉教授が協力の手を差しのべた。その中で、黒川氏は伊達市のアドバイザー宮崎真氏・早野龍五東大名誉教授の論文の中に、被曝線量がゼロの人が99%もあるという誤り等々を見つけた。これは「ガラスバッジが正しく装着されていなかったか、解析の過程で自然放射線の部分を引き過ぎたか」であるとして、宮崎・早野論文の誤りを指摘した。結果、市民の被曝線量を実際の3分の1に少なく見積もっていたことがわかった。

4 「空間線量が高いところでも、住んで問題はない」「除染も必要ない」と主張した宮崎・早野論文
宮崎・早野論文は2017年7月に国際専門誌に発表されたが、黒川氏の指摘により、2018年12月27日の毎日新聞で、伊達市・政府と早野・宮崎氏らによる、放射線量を低く見積もり、住民を避難させずに強制的に住まわせようとする犯罪が暴露された。
論文の内容を簡単に要約すると、第一論文では、伊達市は2011年8月から市民を対象としたガラスバッジによる個人線量測定のデータを使い、空間線量率の調査結果から、個人線量を推定する方法を確立するための研究をおこなっている。実測された個人の外部被ばく線量と航空機モニタリング調査における居住する場所の空間線量率を比較し、その比例係数はおよそ0.15倍だった。原発事故による被曝線量は、市内で最も汚染された場所に70年間住み続けても「データの中央値で18ミリシーベルトを超えない」と結論づけた。第二論文では、第一論文の結果を使った解析を行い、住民が受ける追加積算線量を推定し、また、除染が地域全体の個人線量の分布を全体として低減させる効果は見えない、と結論している。論文は、①空間線量が高いところでも、実際の被曝は少ないのだから住んで問題はない。②除染で空間線量が下がっても、被曝量は減らないのだから除染には意味がない。という、非常に政治的な主張になっている。(牧野淳一郎:「ハーバー・ビジネス・オンライン」2019.1.10)。
上記、毎日新聞の記事によると、指摘された問題点は、a) 論文では、約5万9000人分のデータを解析しているが、約2万7000人分について本人の同意を得ていない。b) 論文の著者の一人が所属する福島県立医大の倫理委員会に研究計画書の承認申請を行う前の15年9月に早野氏が解析結果を公表している。c) 図の一部に不自然な点があり、「線量を過小評価するための捏造が疑われる」。の3点であり、早野氏は、 (a) については「適切なデータを伊達市から受け取ったという認識で対応していた」(c)については「計算ミスがあり、線量を3分の1に過小評価していたとして出版社に修正を要請した」とし、(b) についてはノーコメントである。a)の同意を得ているかどうかについては、測定に参加した5万8000人あまりのデータが提供されたが、同意しなかった97人と同意書が未提出だった2万7233人が含まれていた。

5 誤った論文を「削除はするが問題はない」とした放射線審議会の異常さ
放射線審議会では「東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえた緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線障害防止に係る技術的基準の策定の考え方について」の議論を2回(第141回:2018年6月22日、第142回:9月28日)行ない、宮崎・早野論文を引用した。宮崎早野論文の不正が明らかとなった後の2019年1月25日に第143回の放射線審議会が開催されたが、事務方の佐藤暁放射線防護企画課長は「事務局としては、当該論文の学術的な意義について全否定されるものではないと考えるが、論文の筆者が対象となるデータの影響を認めていること、またこの論文を根拠としない場合でも本審議会の今説明している資料の他の3つはその信頼性を確認しているので、この審議会の結論には影響を与えないのではないかと考える。したがって、当該宮崎・早野論文の引用を差し控えることが適切ではないかと認識している。学術論文としての信頼性が確認された場合には再度掲載するとしてどうかというのが事務局の考えです。今回は引用を差し控える。」と“まとめ”た。要約すれば、早野氏自身が1月8日に論文の誤りを認めたにもかかわらず、事務局としては(a) 「学術的な意義について全否定するものではない。」つまり、個人情報的な問題があっても学術的な意義は否定されない(b) さらに、「論文を根拠としない場合も結論に影響しない」という驚くべき結論を出した(参照:たんぽぽ舎:木村雅英・2019.2.12。上記:牧野淳一郎)。ようするに論文は帰還政策の単なるお飾りにしか過ぎない。いかに被曝線量が高かろうが、住民を強制的に帰還させるという結論は政治的に最初から決まっており、政策の変更はしないというのである。
なお、b)の研究計画書の承認申請を行う前に解析結果を公表したことについて、宮崎氏は2月5日、個人線量測定会社「千代田テクノル(本社:東京都文京区)」から提供を受けたデータを使っていたことを認めた。要するに千代田テクノルにいる教え子に頼んでデータを提供してもらったということである。同社は個人線量計測サービス事業者で、福島原発事故後、福島県内の多数の自治体からガラスバッジによる外部被曝線量測定業務を受託してきた。中でも伊達市とは、2011年8月から、他の自治体に先駆けて契約している。また研究は、仁志田昇司前伊達市長に持ちかけられたことも明かした。宮崎氏はさらに「2014年に伊達市長から、ガラスバッジ測定データの活用について相談を受けたことに端を発し、伊達市依頼の下、データの活用方法について伊達市と綿密なやり取りを行ってきた 。」と説明。論文執筆の背景に、市長の関与があったことを明らかにした。伊達市は住民の不安を打ち消すため、被ばく線量は十分に低いという報告書が欲しかった。その意向を受けた早野、宮崎両氏が不正論文をデッチ上げたというのが結論である(OurPlanet-TV 2019.2.8)。

【出典】 アサート No.495 2019年2月

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