【書評】『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る──防衛省元幹部3人の志』

【書評】『我、自衛隊を愛す 故に、憲法9条を守る──防衛省元幹部3人の志』
                   (2007.3.発行、かもがわ出版、1,400円)

 憲法九条改定の流れは、今のところ足踏み状態のようにも見えるが、この問題は九条のみならず、これを取り巻く社会的経済的及び日常的な体制に関わる権力の動きとして認識されなければならない。しかしこれに対して、抵抗する側の九条擁護の運動も根強く、各地の「九条の会」を始めとしてさまざまな形態で進められていることは周知の事柄であろう。さらにこれらの運動や主張の中には、今まで伝統的にイメージされてきた運動とはニュアンスの異なる、新たな視点を持ったものも少なくない。九条擁護の運動は、さまざまなバリエーションを持った運動となる要素を含んでいるのである。これらをどう取り入れていくかが、これからの九条擁護運動の幅と深さを方向付けると言えよう。
 本書は、「防衛省元幹部3人の志」という副題を持って、元防衛政務次官/箕輪登、元人事教育局長・官房長/竹岡勝美、元防衛研究所長・教育訓練局長/小池清彦の連名で出されている。このようないわゆる「タカ派」と思われている人々が、イラクへの自衛隊派兵を憲法違反と断じ、九条改定論を批判するという一見したところ戸惑いを覚える本である。しかしその主張は、耳を傾けるに値する。
 例えば、小池清彦はこう述べる。(「第1部 小池清彦—-国民の血を流さない保障が九条だ」)
 「制定当時あまり意識されなかった憲法第九条、平和憲法の持つ大きな意義についてであります。それは、もし平和憲法がなかったら、日本は朝鮮戦争(1950~53年)にも、ベトナム戦争(1965~75年)にも、湾岸戦争(91年)にも、世界のほとんどの戦争に参戦させられていたということであります。(中略)/このたびの憲法違反のイラク出兵は、まことに言語道断であります。安保条約は、平和憲法と両立する形の日米の同盟条約でありアメリカもこれに同意している条約であります。安保条約からは、日本のみならず、アメリカも絶大な恩恵を受けているのであります。日本が毅然としてアメリカに対してこそ、真の友好同盟条約が生まれるのであります。/日本は極力、独力で国を守ることができる防衛力を整備すべきであります。しかし、海外派兵は厳に慎むべきであります。日本は世界の警察官になる道をたどってはなりません。それは国民が血を流し、国が没落する道なのであります」。
 竹岡勝美は、「日本の国恥とも言うべき敗戦以来存続している広大な米軍基地の撤廃どころか縮小すら言挙げできない日本」の現状と「独立国・日本が米国の属国のごとくあまりにも米国に依存している独立気概への疑問」を呈する。(「第2部 竹岡勝美の決意—-憲法九条改定論を排す」)
 「確かに日米安保条約で日本を守ってやっていると言われれば、日本は米国に頭が上がりません。しかし、そもそも自衛隊を堅持する日本には、米軍に駐留をお願いして守ってもらうべき恐ろしい脅威が周辺諸国に存在するのか。/世界は侵略戦争を禁止しました。戦後の日本は、海外における植民地や国家権益を失い、この狭い島国に軍事的に閉じ込もり、平和憲法を護持して、もはや周辺隣国との間には戦うべき一片の軍事争点もありません。冷戦期にあっても極東ソ連軍が日本のみに一方的に侵攻してくる有事シナリオは米軍ですら否定していました。/かつて私が防衛庁に在勤していた当時、陸上自衛隊は、自分たちの唯一の出番と心得ていた極東ソ連軍の北海道侵攻を要撃する演習に際し、在日米軍が参加してこないのが不満でした。『一体何のための日米安保か』と陸上自衛隊は怒りましたが、米軍は『冷戦下のソ連軍は西に200万のNATO軍、南に中国の400万、東に200万の米軍と一触即発の対峙の中で、どうしてノコノコと日本のみに一方的に侵攻してくる馬鹿があるか』と陸自案を一蹴したといいます」。
 「現在はどうか。脅威とは、日本に届き得る距離にある周辺隣国、即ち中国、ロシア、南北朝鮮の四国のいずれかの国が、少なくとも数十万の大軍を率いて、一方的に日本本土に上陸侵攻して来る時でしかありません。さきに有事法制として立法された『武力攻撃事態』がそれです。/もちろん、私はそのような有事は起り得ないと確信しています」。
 そして「日本の有事とは、まさに在日米軍を含む米軍と日本周辺国家との戦争に巻き込まれる波及有事のみです。万一にも、米軍が一方的に北朝鮮を崩壊させようとした時、北朝鮮の二〇〇発のノドン・ミサイルが、日本海沿岸に濫立する十数基の原発を爆砕するかも知れません」と警告する。
 箕輪登は、自衛隊イラク派兵差止北海道訴訟での口頭弁論における証言において、国会議員になった当時からの思いを熱っぽく語る。(「第3部 箕輪登の遺言—-命をかけて自衛隊のイラク派兵阻止を訴える」、証言は、2006年2月27日、この後5月14日に死去。)
 「佐藤総理、岸、そのときは元の総理ですが、何回か会ったもんですからお話をして、そうじゃないと、自衛隊は専守防衛なんだと、どこからか攻められたときに、武力攻撃を受けたときに、日本の国の独立を助けるんだと、そういう考えの自衛隊であって、自衛隊法をもっと勉強せいと言われました。自衛隊法のどこに、外国に行ってもいい、戦争してもいいなんて、どこにも書いてないよ。それは、自衛隊法七六条、外国から攻撃がなければ武力行為は取れないんだと、武力行為を取るにしても、国会の承認がなければ取れないんだということを聞かされました。佐藤さんからも岸さんからも聞きました。で、だんだん調べているうちに、そうかなと思って、これがあるんだと思ったんです。で、今ごろ思い出すのが遅かったんですが、そのときに佐藤さんが、自衛隊ができても自衛隊の海外出勤は禁ずるという参議院の国会決議があるよということを思い出しまして、調べてみたところが、いまだにやっぱりまだあるんです」。
 「僕はイラク特措法を勉強したことはありませんけれども、イラクという外国に自衛隊が出動したことは、何と理屈付けても・・・、自衛隊の任務の中に、自衛隊法の第三条ですよ、外国の治安を守れとか、人道支援をせえとか、復興を支援しろとは、美辞麗句を並べるけれども、使命の中には入っていないんじゃないか。自衛隊法を補足、直すならば、第三条を変えなかったら、第三条は日本の国の独立を武力攻撃があったときに守るだけですよ、自衛隊法に書いてあるのは。外国まで行って外国の治安を維持するなんて、一つも書いてない。アメリカの言うとおりやっているだけじゃないですか。そのアメリカは、国際法違反のイラク戦争だと、国連事務総長のアナンが言い切ってるんです」。
 この訴訟の背景については、本書の最後に「〈解説〉自衛隊派兵差止訴訟と箕輪さん」で、北海道訴訟弁護団事務局長の佐藤博文弁護士が、要領よくまとめている。その中で、箕輪の未来への現実的な展望を端的に示している証言がある。
 「アジアでは、今、どの国も皆日本としっくりいっていません。しっくりいかせるのが外交であり、防衛対策です、先般、西ドイツのシュレーダー首相が、かつてテロ組織の存在したルーマニアで言いました。『ECは今や二五ヵ国。今までドイツはこんなに友人が増えたことを経験していません』と。これこそが安全保障だと私は思います」。
本書に登場するのは先にも触れたように、わが国の防衛政策を直接になってきた人々である。しかしこのような視点を持った人々が存在し、イラク派兵反対、憲法九条擁護を主張していることはまた、この運動が広がりと深さを持っていることの証拠でもある。自衛隊の存在とシビリアン・コントロールについて、防衛力と専守防衛について、また集団安全保障のあり方についての彼らとの意見の相違は存在するが、これらの問題をも含めて議論することの必要と、有効な視点を取り入れることのできる運動の構築への提起として本書はあると言えよう。(R)

 【出典】 アサート No.369 2008年8月30日

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