【投稿】「対テロ戦争」こそ疑惑の源泉

【投稿】「対テロ戦争」こそ疑惑の源泉

<泥沼の「軍事疑獄」>
 防衛省の守屋前次官を軸とする防衛調達品事件は、時がたつにつれ収束するどころか、ますます疑惑が深まっている。
 今回の問題の基本的な構造は、守屋と山田洋行の宮崎元専務が共謀し、航空自衛隊の次期国産輸送機(CX)エンジンなど自衛隊の装備品としてゼネラル・エレクトリック=GE社の製品を無理やり調達させ、巨額の利益を得ていたということである。
 さらに宮崎は日本ミライズという軍事商社を設立、山田洋行の軍事利権を持ち逃げし、海上自衛隊が建造する新型護衛艦のエンジンなどで、より直接的に利益を吸い上げることを目論んでいたのである。
これまでの調べでは、守屋夫妻への接待に巨額の裏金が使われていたことが判明しているが、当然政治家への工作が行なわれていたことは、だれしも想像ができる。民主党は額賀財務大臣が疑惑の宴会に同席していたとして、一度は額賀大臣の証人喚問を参議院で議決したが、確証が取れずに断念した。
しかしながら、いくら実力者とはいえ官僚でしかない守屋前次官を抱き込むだけで、事が思い通り運ぶわけもなく。政治家にカネが流れていたことは確実である。さらには、普天間飛行場の移設など、沖縄県を中心とした米軍基地再編事業においても守屋が介在した、不透明な部分が浮かび上がって来ている。これらの解明が進めば、他省庁や民需部門も巻き込んだ、ロッキード事件にも匹敵する一大疑獄に発展する可能性がある。
政府与党は、一連の疑惑を守屋の個人的犯罪として収束させようと躍起になっているが、歴代の防衛庁長官、総理大臣の責任は免れないところである。とりわけ久間元防衛大臣は、接待を受けていた宮崎らが日本ミライズを立ち上げて以降、今度はCXエンジンを巡り、山田洋行に有利な発言をしていたことが明らかとなっており、徹底追及すべきである。

<日米軍事利権構造の解体を>
 福田政権は「対テロ支援=給油活動再開と疑惑解明は区別すべき」と主張しているが、守屋や宮崎は、「対テロ戦争」や「イラク復興」も悪用し利益を得ていたことが明らかになっている。
 陸上自衛隊が導入した「生物テロ」などに対処する、生物偵察車の検出装置は、守屋の横車で山田洋行の子会社が代理店を努めるイギリスのメーカーが契約した。またクェート駐留の空自輸送機用の対空ミサイルを撹乱するための「チャフ・フレアランチャー」は、代金の水増し請求が発覚している。
12月10日の参院決算委員会で石破防衛大臣は、水増し請求問題について、山田洋行をはじめとする業者からの水増し請求が98年以降12件あり、そのうち10件の過払い額が597億円に上ることを明らかにした。
 こうした所業で、暴利をむさぼる輩を放置しながら「対テロ戦争」への協力や、国際貢献の大義名分を口にしても、まったく説得力を持たない。
 政府与党は防衛省のあり方を官邸主導で見直す有識者会議「防衛改革会議」を発足させた。会議では今回の問題のほか、給油活動実態の様々な改竄、イージス艦情報の漏洩などを踏まえ①文民統制の徹底、②厳格な情報保全、③防衛装備品調達の透明性確保、を中心に対策が検討されるというが、その実効性に対しては疑問符がつけられている。
 守屋や山田洋行が排除されても、巨大な軍事利権は温存され、新たにそれを貪り食う者が出てくるだけである。「官邸主導」にしても「官邸による利権配分の仕切りなおしではないか」との疑念が寄せられている。
 求められているのは、利権を生み出すシステムそのものである日米軍事同盟の、抜本的な見直しである。そもそもアメリカの進める「対テロ戦争~イラク戦争」は軍需産業の要請もありはじめられた。
 イラク情勢が泥沼に陥いり、スペイン、イタリア、オーストラリアなど多くの国が外交政策の転換を図る中、日本のみが親米一辺倒なのは、利権を温存させるためと見られても仕方がないだろう。
 与党は「給油活動」再開に向け衆議院再議決を視野に入れた国会再延長を目論んでいる。民主党をはじめとする野党は、イラク、クェート、インド洋への自衛隊派遣に絡む利権の洗い出しを進めるとともに、今後の米軍再編、日本の軍拡にかかわる疑惑の全体像を明らかにし、総選挙で信を問うことが求められている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.361 2007年12月15日

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