【投稿】 暴走する北朝鮮と日本

【投稿】 暴走する北朝鮮と日本

<肥大化する北朝鮮軍部>
 7月5日未明から夕刻にかけ、北朝鮮はテポドン2号を含む7発の弾道ミサイルを発射した。このうち以前から動向が注目されてきたテポドン2号については、ハワイ方面に投射されたものの、構造上の欠陥から発射後まもなく破損、その後空中分解し日本海に落下した可能性が高い。その他のノドンやスカッド型ミサイルについては、概ね目標地点に到達したものと思われる。
 1991年の湾岸戦争時、イラクはサウジアラビアやイスラエルに約80発のスカッド型ミサイルを打ち込んだが、今回の北朝鮮の発射はそれに次ぐ規模である。イラクの発射数は桁違いだが、それは実戦であったことを考えると、主観的には「戦争中」かもしれないが、北朝鮮の行為がいかに常軌を逸したものであるかがわかる。
 この時期、北朝鮮が「実験」の範囲を大きく逸脱した、一大デモンストレーションに打って出たのは何故か。それはアメリカの金融制裁に対する「報復」と、6カ国協議が膠着状態にあるなかで、なんとか米朝2国間協議に持ち込みたいがための実力行使に他ならない。米朝協議を実現する方策としては、柔軟路線への転換という選択肢が現実的であったにも関わらず、あえて展望のないミサイル乱発という軍事冒険主義的恫喝を行ったのか。それは一連の事態が軍部主導で進められたからである。
 金正日は朝鮮労働党総書記ではあるが、国家主席はではなく、政府機関内の最高位は国防委員長である。このように軍部を自らの権力基盤とする金正日は、逆に言えば軍部の意向に逆らえなくなっていると考えられる。金正日と軍部の関係は、戦前の昭和天皇と軍部の関係に似ている。昭和天皇は統帥権を持つ大元帥でありながら、統制どころか軍の暴走を「勝てるならかまわない」と追認した。さすがに対米戦争については不安になって、何度も「大丈夫か」と念を押しているが、ミサイル発射に際しても北朝鮮の権力中枢でもそうしたやりとりがあったのではないか。
 北朝鮮軍部の暴走はこの間顕著になっている。南北宥和の進展をアピールするものとして、5月25日に予定されていた両国政府高官を乗せての南北連絡鉄道の試験運行が前日になって突然キャンセルされた。これは韓国、北朝鮮の関係当局が同意、すなわち金正日も一端承認したものであったにも関わらず、北朝鮮軍部が安全保障上の理由から、強硬に反対したため土壇場でひっくり返されたのである。
 この失態は「太陽政策」を進める廬政権のメンツを潰したのみならず、北朝鮮政府内の矛盾も露呈させるものとなったが、軍部はそんなことはお構いなしに、自らの意向をゴリ押ししたのである。さらに今回のミサイル発射では、中国やロシアにも事前通告をせず、両国の怒りを買った。中国は鉄鋼や化学薬品などの戦略物資の輸送を停止、ロシアでは怒ったウラジオストック市民が、北朝鮮領事館に押し寄せる騒ぎとなっている。
 このように北朝鮮権力内では、対外協調を進めようとする勢力が排除され、友好国との関係悪化も厭わない軍部の独走は、国内の民主化をより困難にし、地域情勢を不安定なものとしている。しかし、これにも増して、東アジア情勢を危険な方向へ導こうとしているのは、ミサイル発射を口実として軍拡をすすめる日本の暴走である。

<孤立化するのは日本>
 日本は今回のミサイル発射を奇貨として、大幅な軍拡、東アジア地域の一層の緊張激化を進めようとしている。5日以降「まってました」と言わんばかりの政府要人の過激な発言が相次いだ。額賀防衛庁長官は、北朝鮮ミサイル基地攻撃を念頭に、日本が攻撃された場合に備えて、自衛のために敵のミサイル基地などを攻撃する能力を自衛隊に持たせることを、今後、検討していく必要があるという認識を示した。また安倍官房長官は「ミサイル攻撃を受けるおそれがあり、ほかに手段がない場合は、敵の基地などを攻撃することも自衛権の範囲に含まれる」など先制攻撃論を展開、武部幹事長も、国民の理解を得ながら検討していくべきだという認識を示した。
 さらに日本政府はアメリカと共同で、国連安保理に「国連憲章7章」にもとづく制裁決議案を上程した。これは国連加盟国に制裁措置実行義務を負わせると共に、軍事行動を含む強制措置に道を開くものである。これに対し中国は議長声明案や、ロシアとともに制裁措置を含まない独自の非難決議案を作製、さらに拒否権行使も示唆するなど反発。こうした巻き返しで当初日本案を支持していたフランス、イギリスもより柔軟な内容の決議案に傾き、アメリカも7章明記にこだわる姿勢は見せず、ミサイル発射直後とは逆に日本が国連で孤立する可能性が出てきた。
 慌てた政府は、あくまで制裁にこだわる、これまでの強硬姿勢を転換せざるを得なくなった。その結果、国連安保理は15日午後4時、北朝鮮のミサイル発射を非難し、ミサイル計画の中止を要求する対北朝鮮非難決議を全会一致で採択した。
中国は、対北朝鮮制裁に反対する理由として「6カ国協議の崩壊阻止」「国連安保理の分裂回避」「北朝鮮の孤立化回避」を示していたが、本当は、制裁決議が日本の軍拡にお墨付きを与えることになるのを懸念しているのである。それはロシアや韓国も同じであり、とりわけ韓国政府は額賀や安倍の「先制攻撃」発言に強く反発している。
 また折しも来日中であった台湾国民党主席であり、次期総統と目されている馬英九台北市長は、小泉の靖国参拝について「多くのアジアの人々は改めてほしいと考えている」「A級戦犯が祀られていることで国際問題になっている。アジアのリーダー的な存在である日本にはやるべきことがある」と述べた。このようにアジアで危険視されているのは、北朝鮮よりも日本の暴走であることが明らかとなった。
こうした事態を招いたのは、小泉の靖国参拝や一連の挑発的な発言に象徴される、アジア軽視外交の結果であり、因果応報と言うべきものであるが、当の本人は外遊三昧で脳天気な発言を繰り返していた。留守を任された安倍らは、最初は「制裁決議」や「先制攻撃」を声高に叫んでいきり立ったものの、アジアのみならず欧米諸国や与党の一部を含む国内からの反発で、強硬路線の修正を余儀なくされている。この間の日本外交の根本的転換を進める政権の確立が求められている。(大阪O)

 【出典】 アサート No.344 2006年7月22日

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