【投稿】2004年の年金改革の再評価と増税論議の行方

【投稿】2004年の年金改革の再評価と増税論議の行方
                             福井 杉本達也 

<年金は破綻するのか>
 2004年の年金改革について、当初「看板倒れ」(日経:03.12.17)、「数字合わせ」(読売:12.17)など、全てのマスコミからけんもほろろに批判されたが、最近諸外国の学者や世銀などからは高く評価する声が出ている(RIETIシンポジウム・05.11.9)。「年金は破綻する」という強力なマスコミ・一部学者による宣伝が継続的行われている中、いまだに評価が二分されている年金改革ではあるが、さる、5月26日「社会保障の在り方に関する懇談会」でも「将来の厚生年金の保険料率については18.3%に固定…今後もこれを堅持することが適当」との最終報告が出された。「在り方懇」において経団連の西室氏は「保険料はできるだけ低く抑えることを盛り込むべきだ」と主張、連合の笹森氏も「保険料率や現行制度の堅持の議論はしておらず、認められない」と主張していた(日経:5.10)。また、経団連・連合は基礎年金部分を全額税方式で賄う方式を求めていたが、「年金制度は社会保険方式が基本」としてこれを退けている(日経:5.27)。
 
<2004年金改革のポイント>
 2004年の年金改革のポイントを改めて整理すると①保険料率の上限(18.3%)設定、②基礎年金国庫負担分を2009年度までに2分の1への引き上げ、③マクロ経済スライドによる年金給付水準の自動調整、④有限均衡方式の導入による積立金の取り崩し、⑤モデル年金の所得代替率50.2%の維持である。
<保険料率の上限設定>
 このうち①保険料率の上限設定であるが、神代和欣横国大名誉教授は「将来何があっても18.3%以上には保険料率を上げないと国が約束した」ということであるから、国際的な評価は非常に高いとしている。それまで5年ごとに実施してきた保険料と給付の見直し(財政再計算)をやめた。5年ごとの見直しにより負担増を繰り返していると現役世代の年金不信が高まることとなる。ただし、先の厚生労働省の発表によると、合計特殊出生率が1.25となり、少子化に歯止めがかかってはいない。03年度の13.58%から22年度には18.3%にまで、年に0.354%づつ漸増するが、上限を設けたことの制度的安定の意味は大きい。
 
<基礎年金国庫負担分の1/2への引き上げと財源>
 2点目の基礎年金国庫負担部分の1/2への引き上げであるが、年額2兆7千億円程度の財源が必要とされる。04年の改革では財源については決着していない。消費税が有力であるが、所得税・住民税の最高税率上げ・年金受給者への課税強化や相続税の強化(吉川洋氏など)の案もある。「骨太方針2006」では、「0九年度の基礎年金国庫負担割合引き上げのための財源確保…社会保障給付の安定的な財源を確保するために、消費税をその財源としてより明確に位置付けることについては、給付と財源の対応関係の適合性を検討する。」という表現で、基礎年金部分の財源として、消費税1~2%の上げが俎上にのせられている。上述の「在り方懇」で連合・経済界とも全額税方式を主張していたが、これだけで消費税は5%~10%も(給付水準をどの程度にするかにもよるが)上げなければならない(橘木俊詔著『消費税15%による年金改革』)。10~15%もの消費税に対し、国民はどう反応するのか。昨年の郵政解散では“劇場”もあるが、「小さな政府」「官から民へ」=「増税をしない」という“公約”で自民党が大勝したのではなかろうか。1986年中曽根内閣時の売上税撤回、1994年細川内閣時の国民福祉税構想の撤回等、政府不信の国民が今回は10%以上もの消費税に納得するのかどうか。
 3点目のマクロ経済スライドの導入は、年金の給付水準をその都度決定しようとすると改正が先送りになり将来負担が積み上がるので、インフレ率の変化などによって自動調整しようとするものである。
 
<2004年の民主党案の評価> 
2004年の民主党年金改革案は既に「在り方懇」座長であった宮島洋氏が指摘しているように「給付水準や執行体制整備などを今後の検討課題とし、厳しい検証と批判にさらされるべき具体的な制度・運営設計を先送りした点で対案にはほど遠いものであった」(『論座』2004.12)。遠い将来の案としてはいいが、自営業者の所得把握が全くできない、最低保障年金を受給できるポイントがいくらになるのかわからないといった制度化して法案とするには程遠い中身であった。
<年金純債務の考え方>
 我が国の年金は賦課方式を採っており、世代間扶養の原則に基づき、年金の財源は将来世代の保険料負担であてることとなる。したがって、「年金バランスシート論」でいう過去の債務-積立金=「年金純債務」という考え方は成り立たない。しかし、賦課方式に批判的な小塩隆士氏は「世代間の公平」という切り口で保険料率の据え置き、基礎年金国庫負担の1/3での固定、所得代替率を35%まで切り下げるという案を提唱している(『人口減少時代の社会保障改革』)。だが、所得代替率を35%までも切り下げて政治的安定性が得られるかどうかは疑問である。
 
<賦課方式を攻撃する狙い>
 財界としては厚生年金負担部分の2倍もの企業年金を支払っており「二重負担」となっているので(経団連:2004年度福利厚生事業費調査)、これ以上の公的年金の保険料率の引き上げはかなわないというのが本音である。一方、小塩氏らの真の狙いは、公的年金の所得代替率を低く抑えることにより、私的年金に、そして世界市場に膨大な資金を回すことであろう。橘木俊詔氏も基礎年金部分は全額税方式だが、二階部分は民営化し確定拠出年金で対応するという案である。しかし、「資本のリスク」と「高齢化のリスク」を比較した場合どちらが大きいかは一目瞭然である。年金にマーケット優先の考え方を当てはめてはならない。
 
<今後の課題・パートタイマーへの年金権の拡大>
 パートタイマーへの年金権の拡大は、残された課題の1つである。財界などの反対のために2004年改正では見送られた。パートタイマーは厚生年金に入れないで国民年金に入れという制度であるが、財界としては安い労働力が社会保険負担によって高くなることを嫌っている。逆に言えば厚生年金強制加入事業者の脱法行為であり、社会保障制度のただ乗りである。少なくとも1/2以上の実労働時間就業するパートタイマーには厚生年金に加入させるべきである。また、少子化対策の観点からも重要である。
 バブル崩壊以降の政府の政策が不安を煽り、若い世代が子供をつくらないという選択をしている結果が、出生率1.25である。「官から民へ」と競争を煽り、金儲けを全てとし、「自己責任」を強調することが国家(政府)に対する不信を極端に強めている。社会はお互いに助け合うものであるという考え方、長寿のリスクを世代間で分け合うという保険原理の考え方、保険料の多寡にかかわらず必要とされる低所得者へ所得を再分配するという相互扶助の精神をもう一度取り戻す中で増税の課題を議論する必要があろう。

 【出典】 アサート No.344 2006年7月22日

カテゴリー: 医療・福祉, 杉本執筆 パーマリンク