【投稿】米軍再編の足下揺るがす民衆の反発
<基地押しつけ進める政府>
在日米軍再編の最終報告を自治体、住民の反発で、予定の3月末までにまとめることが出来ず、メンツを潰された形となった日本政府は、ますます強引な方法で基地を押しつけようとしている。
暗礁に乗り上げていた普天間基地の代替施設建設問題は、V字型に2本の滑走路を設ける「新沿岸案」で政府と名護市が4月7日合意した。15年の使用期限を設けた上で軍民共用施設の辺野古沖建設を求め、それ以外の案では県外移設を主張していた、沖縄県の稲嶺知事も態度を軟化せざるを得なくなっている。
これにより議会も含めた両自治体トップレベルでの抵抗は、弱まらざるを得ないが、地域住民による反対の声は衰えを見せていない。地元メディアの県民世論調査では7割が「新沿岸案」に反対を唱え、普天間基地を抱える宜野湾市も強い反対姿勢を崩していない。
また名護市が同意を取り付けたとしている飛行予定コース下の「地域住民」も、一部の有力者のみであることが明らかになり、頭越しに決められた市民からは島袋市長の辞任やリコールの声も出ている。今後名護市、沖縄県とも政府と市民、県民の板挟みとなり,苦しい立場に追い込まれることは必至の状況となっている。
一方、日米両政府は着々と再編計画を具体化し、「新湾岸案」を既成事実化しようとしている。4月14日の日米審議官級協議では、普天間に配備されている12機の空中給油機を岩国基地に移転させ、訓練は航空自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)などを使用することで合意した。合併前の旧岩国市は先月の市民投票で、空母艦載機移転反対が示されたばかりである。しかも昨年の中間報告では空中空輸機の移転先は鹿屋が有力視されていたのである。今回の決定は地元の意向を無視したものとして、新岩国市長選挙で再度民意が示されることとなった。
<拡大する不安定地域>
そもそも在日米軍再編を含む世界規模での軍事再編(トランスフォーメーション)の目的は、アメリカの言う「新たな脅威」と効率よく戦うためであり、同盟国の負担軽減など「おまけ」に過ぎない。アジア地域では「新たな脅威」「不安定の弧」への備えとして日本、韓国、フィリピンが位置付けられている。韓国でも大規模な在韓米軍の再編が計画されているが、廬大統領の「北東アジアのバランサー」発言にみられるように、アメリカの世界戦略とは一線を画す姿勢を打ち出している。国民の間でも反米意識は拡大し、など米軍基地の地元では激しい闘争が続けられている。
フィリピンでは、現憲法で規定されている「外国軍基地設置原則禁止条項」を削除した新憲法が年内に制定される予定となっている。スービック海軍基地、クラーク空軍基地が閉鎖されて以降、本格提起な米軍の駐留は途絶えていたが、東南アジアの「イスラム原理主義テロ組織」攻撃のため、再び重要視され始めたのである。しかし拡大する国民の経済格差などから、アメリカにとって都合の良い政情が続くとは限らない。アロヨ大統領は強硬姿勢により、イスラムや左翼の反政府勢力、野党はもとより軍の一部も回しており、再び退陣要求が拡大しつつあり、ミンダナオ島など南部では武力衝突も起こっている。
中央アジアではカザフスタンまでしか東欧から「民主化ドミノ」が波及せず、ウズベキスタンでは独裁的な政権に米軍駐留を依存せざるを得ない状況である。さらにロシアの強力な巻き返しもあって、カリモフ政権から撤退要求を突きつけられるなど、この地域は以前より混迷の度を深めている。
このように「不安定の弧」への戦略拠点が不安定になりつつあり、米軍再編の足下を揺るがしている。それ以前に9,11以降、戦火を拡大し不安定な地域を拡大させているのは。そもそもアメリカ、ブッシュ政権自体である。そのアメリカでさえ、イラクが内戦状態になるなか、国民からのイラク撤退要求が高まり、さらには退役将官からのラムズフェルド批判が噴出するなど、政権基盤は揺らいでいる。
こうしたなかで日本は世界中で最も安定したアメリカのパートナーである。イタリアは中道左派政権によってアメリカとの距離が広がるだろう。ドイツの大連立政権も社民党政権より踏み込んだ対米協調策は打ち出していない。ブレア政権も、アメリカと共に新たな戦争に踏み込む力は無いだろう。関係各国の協力が無ければトランスフォーメーションも画餅に帰すだろう。対米協力を続ける小泉政権は、国内での在日米軍再編の強行とともに、イラクからの自衛隊撤兵も先延ばししようとしている。世界の潮流に逆行する政権の継続を許してはならない。(大阪 O)
【出典】 アサート No.341 2006年4月22日