【投稿】末期症状の小泉政権とふがいなき野党
<<「合わせ鏡」>>
小泉政権の化けの皮がいよいよ剥がれ落ち、政権は末期症状の態を呈し始め、9月の退陣を待たずに4月前後には自壊かとまで言われ始めている。
それを象徴したのがライブドアの堀江前社長の逮捕であろう。逮捕容疑は、企業買収の際の風説の流布や偽計取引ばかりか、ライブドア本体での粉飾、脱税、インサイダー取引、詐欺商法、暴力団・裏社会との関わり、国際的なマネーロンダリング等々と、マネーゲームに特化してきた虚業にふさわしい底なしの疑惑である。首相は、当初は「事件と支援は別問題」とかわしていたが、逃げ切れなくなって「私も党本部で写真を撮った。幹部も応援した。総裁・小泉の責任と批判されるなら甘んじて受ける」と述べ、自らの責任を認めざるをえなくなった。しかし未練たらしく「メディアが持ち上げた。逮捕されると、手のひらを返すのもどうか」とメディア批判にすりかえている。だが、「稼ぐが勝ち」とか「心だって金で買える」と公言するホリエモンを担ぎ出し、改革の象徴のように讃え、総選挙圧勝の広告塔として徹底的に利用してきたのは首相自身であり、首相が先頭に立ってメディアを煽り、そのエセ「構造改革」路線でマスコミを大政翼賛化させてきたのである。
問題の本質は、内橋克人氏が指摘しているように、「堀江貴文氏と小泉政治はウリ二つの『合わせ鏡』だ。『努力したものが報われる社会を』と叫び続けた怪しげな政治スローガンの真意が、一獲千金の成り金や富裕層優遇を正当化するレトリックに過ぎなかったことが、ケタ違いの『報われ方』を享受したホリエモン錬金術によって暴露された」(朝日1/21付)というところにある。
この錬金術に自らも加担してきた竹中総務相が、これまたいけしゃぁしゃぁと「党の要請を受けて応援に赴いただけ。今回の問題と小泉構造改革を直接結びつけるのは誤り」と無責任な居直りをはかったが、わざわざ選挙の公示日に堀江の広島選挙区に入り、散々、堀江を持ち上げ、「小泉・ホリエモン・竹中の3人で改革をやり遂げる」と雄叫びを上げたのは隠しようもない事実である。堀江を「弟であり、息子」と持ち上げ加担してきたイエスマン幹事長を含め、小泉・竹中・武部の三人は、直ちに責任を取って謝罪し、辞職すべきである。いまだ居座れていられるのは、マスコミの責任のおもさもさることながら、野党のふがいなさとその追及の甘さにもあるといえよう。
<<「政局が早くなる」>>
それでもこの政権は、次から次へとほころびを目立てさせはじめている。「官から民へ」がもたらした耐震設計偽装問題、それと関連した安倍官房長官秘書や伊藤公介元国土庁長官の“口利き疑惑”、約束した手順まで省いて日米首脳会談で「輸出再開」が性急に決められた米国産牛肉輸入の危険部位混入問題、米軍再編と絡む巨大プロジェクトに連動する防衛施設庁主導の官製談合、これらはいずれもライブドアと同様、小泉政権の規制緩和・構造改革路線と密接に絡み、それがまたいかにもずさんで、あくまでも政官業の癒着を温存・拡大させながら、なおかつ無責任な強者優遇・格差拡大の市場原理主義と結びついているかを明らかにしており、起こるべくして起こった事件である。
その一方で、天皇制維持を目指した皇室典範改正案は党内から反対論や慎重論が渦巻き、この際防衛施設庁を「解体」して焼け太り的に防衛庁を一気に「省」に昇格させようとしてきた関連法案も今国会への提出が絶望的となり、しかも沖縄の米軍基地移設問題を含め、日米合意の受け入れを地方自治体に強要する役目の防衛施設庁が今や解体寸前の状態で、日米合意達成の展望さえ開けない。公明党関係者は「防衛省もダメ、皇室典範もダメ、国民投票法案もダメ……。このままだと予算成立後は、宙に浮いた状態になる」と案じ、首相周辺も「政局が早くなる。(予算が成立したら)総裁選モードだ」と政権の求心力低下を懸念する声が出始めているという(2/15朝日)。総選挙圧勝で小泉独裁体制とまで言われた政権基盤が、音を立てて崩れだしたともいえよう。
それだけに首相は起死回生を期して何をしでかすか分からないのであるが、自民党内ではすでに小泉首相・自民党総裁としての指示に対し、中川政調会長、武部幹事長、竹中総務相らは相変わらず直ちに同調するが、それに対して久間総務会長や片山参議院幹事長らは不支持の発言をし始め、さらに首相の靖国参拝問題をめぐっては、谷垣財務相、福田元官房長官、山崎前副総裁、加藤紘一元幹事長らは「首相に苦言」を呈し、小泉批判を公然と展開し始めたのである。古賀誠元幹事長にいたっては「あの個性、今の政治手法がこれ以上続くと、日本が滅びていく危うさを大きくする」(2/12)とまで批判を強めている。
<<日本の「国際的な外交問題」>>
ここでやはり決定的な問題として、首相の靖国参拝問題が浮上してきている。完全に行き詰まりに陥ったアジア外交の責任を追及されて、首相は例によってイライラがつのり、切れが高じたのであろう、2/7の衆院予算委員会で「私が靖国参拝しなければ首脳会談に応じるという方がむしろ異常だ。外国の首脳が行くなとか、この大臣ならいいがあの大臣はだめだとか、そんなことを言っている首脳は(中国や韓国の)ほかにどこにもいない。」と発言したのである。ここには、日本の侵略戦争によってもっとも深刻な被害を受けた中国と韓国を敵視する態度、そこからの批判をことさらに低く貶め、真摯に批判に向き合おうとしない首相の姿勢が端的に現れているといえる。
そして問題はそれ以上に、一国の首相が自らの引き起こした靖国参拝問題が、他の諸国にどのような反応をもたらしているかについてこれほど無知であり、情報も持ち合わせていないということである。これは、知っていても知らせない、あるいは意図的に情報隠しをする外務省の無能力さもさることながら、本人自身にとっても致命的な弱点である。それは一個人ではなく、首相として日本という国の戦争犯罪に対する反省の欠如、モラルの低さを世界にさらけ出すような程度の低さである。こうした事態に対して近隣諸国はもちろん、首相が頼りとするブッシュ政権要人でさえ、このほど来日したゼーリック氏を始め、靖国参拝への批判的発言をしていることは、周知の事実であり、外交機密でもなんでもない、調べればすぐ分かる程度の情報である。麻生太郎という古典的帝国主義思想の持ち主、程度の低い植民地主義者、「天皇陛下の参拝が一番だ」と天皇の靖国参拝まで持ち出す問題発言を繰り返す人物を外務大臣にすえるくらいであるから、外務省も知らせないのであろう。自らに不利な情報は知りたくないし、知ろうともしない首相のその姿勢こそが問題なのである。
ごく最近でも、シンガポールの前首相で現閣僚でもあるゴー・チョクトン上級相が、2/6、アジア太平洋円卓会議で、小泉首相の靖国神社について「靖国神社参拝問題は日本の内政問題でもあり、国際的な外交問題でもある」として、「日本の指導者たちは参拝を断念し、戦犯以外の戦死者を悼む別の方法を考えるべきだ。この件に関して日本は外交的に孤立している。」と断言し、「米国さえも、この問題で日本側だけについてはいない」と語っている。首相はこれに対して真摯に応える言葉を持っているのであろうか。
<<反小泉連合の柱>>
このように末期症状を呈し始めた小泉政権ではあるが、野党のふがいなさで何とか持ちこたえているというのが現状といえよう。野党にとっては倒閣と政権交代の絶好のチャンスであるはずが、攻めきれず、せっかくの好機を生かせず、結果的に傍観者的立場におちいっている。それはひとえに野党の側に、反小泉での結束がないことに現れているといえよう。予算委員会での追及はバラバラであり、野党の質問はいずれも首相のはぐらかし答弁にていよくあしらわれ、空回り、詰めの甘さから首相が逃げ切ることを許している。その典型が、ライブドア・堀江からの武部幹事長次男への振込み疑惑の追及であろう。
民主党・前原執行部は、政権参加意欲のとりことなって、憲法問題ばかりか対中外交でも自民党と同じ土俵に取り込まれ、自民党との違いを打ち出しえていないところにそれは現れている。このほど発足した党内政策勉強会「リベラルの会」は、このような前原代表の安保・外交路線とは異なる政策提言を3月中にまとめることで合意したという。
一方、社民党の福島党首は2/13、国会内で共産党の志位委員長と会い共産党が申し入れていた「憲法改悪阻止に向けた」共闘に関する党首会談を近く開くことで合意したという。福島党首は「社民党は憲法改悪阻止のため、自民、公明、民主各党のハト派と連携を組む。国民の皆さんとも大きな改憲阻止の輪をつくりたい。その一環として、共産党とも話し合いの場を持ちたい」という立場を明らかにしている。それが社共だけの狭い合意ではなく、幅広いあらゆるハト派の合意に成長させることが何にも増して重要であり、反小泉連合の結束の柱となるならばその意味は決して小さくはないといえよう。この際、反小泉を柱としたハト派とタカ派の政界再編があってもおかしくはないし、それが期待されているとも言えるのではないだろうか。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.339 2006年2月25日