【コラム】ひとりごと—生活保護の現場から—
○ 何年ぶりかで、再び生活保護の職場に配属された。10年以上の間隔があるせいか、いろいろな意味で驚きの日々である。○当然ながら保護率は上昇する一方である。確かに近年の不況の影響でもあるわけだが、それだけではない。○社会の変化が大きく影響している。第1は、何といっても高齢世帯の増加である。老齢基礎年金だけで、生活できるわけはなく、医療・介護絡みで、縁者の援助が望めない場合、生活保護しか残っていない。高齢化率の高まりとともに、高齢世帯の保護率が上昇することになる。一昨年から老齢加算が縮小されたが、高齢者の医療扶助費・介護扶助費は増え続けている。もちろん、年金がある人はましな方であり、年金の支給要件を満たしていない人が圧倒的である。○さらに、息子・娘からの仕送りがある場合は、ほとんどない。現役世帯も、苦しい生活の中にあるからでもあるが、親子が一緒に暮らす世帯が少なくなり、高齢者のみの世帯が増えていることも一因である。世帯の個別化は保護率の上昇を必然にしている。○次に増えているのは、母子世帯の増加である。離婚率の増加もあるが、前夫からの養育料がもらえないケースがほとんどである。さらに、近年増えている「できちゃった婚」、この場合は、極端な例では、夫婦とも10代の場合もあり、子供ができても、生活は安定せず、即離婚してしまい、養育料もない。そして保護受給となるケースも多い。単に生活費の問題以上に、育児そのものに準備ができていなかった場合、不安定な世帯となり、育児上の問題も深刻である。○就労歴を見ても、厚生年金のない職歴を重ねてきた人が多く、特に30歳以下の場合などは、厚生年金のある職場経験を探す方が難しい。アルバイトやパート就労歴しかなく、さらに短期間に転職を繰り返し、職歴・スキルも身についていない。そんな場合は、自立の道も険しく長期の保護ケースとなる。○厚生労働省は昨年末にまとめられた「生活保護制度の在り方に関する専門委員会報告」に基づき、単に経済的支援を行うだけでなく、就労支援などを行うために「自立支援プログラム」を策定した。従来から就労指導として転職や収入増を被保護者に求めてきたわけだが、様々な就労支援プログラムを実施していこうというわけだ。○確かに、これまでの制度では、就労に結びつく職業訓練などについて、その費用等については、厳しい基準があり、名ばかりの制度であった。○近年の法改正で社会福祉法に「自立支援」という言葉が入り、障害者福祉にいても「障害者自立支援法」が現在審議中である。「自立支援」というネーミングには、「エンパワーメント」の考え方があると思われるが、現実の生活保護実態を変えていくことができるかどうか、まだ未知数である。○かつてイギリス労働党が、低所得層を固定化させないために、社会的包摂政策(ソーシャル・インクルージョン)と教育改革を打ち出した歴史を思い起こすが、日本社会の激変もまた、生活保護のあり方の「改革」を求めているように思える。(B)
【出典】 アサート No.330 2005年5月21日