【投稿】大阪市問題を考える
果たして、というべきか、とうとう来たか、というべきか、大阪市の職員厚遇問題に端を発して、公務員への風当たりが益々強くなってきている。思いつくままに、意見を列挙してみたい。まとまってはいないことをお許し願いたい。
今回の一連の流れの特徴として、第一に「カラ超勤」問題が最初に取り上げられたわけだが、実際には、地方財政の悪化を原因として、超勤不払いの現実が広く存在している事実が全く忘れ去られている。個別大阪市のある職場の実態と言う形で報道されてはいるが、一般市民の目からは、大阪市も、どこの市町村も同じようなものという感覚であろう。「カラ超勤」などは、だれも望んでいるわけでもないし、他の市町村では、歴史的に一時期存在したことは事実としても、もうはるか昔に是正され、むしろ支配的な現実は、残業手当不払いなのである。財政再建を錦の御旗に、賃金切り下げと長時間労働が常態化していることこそ、明らかにすべきであろう。公務員組合に求められているのは、このことを明確にすることである。
第2には、自民党と公明党が、2007年の総選挙に向けて、何が何でも政権を維持するために、連合運動と自治体労働運動に焦点を絞って攻撃を仕掛けていることである。昨年の参議院選挙では、比例区で自民党は民主党に大きく票を空けられ、議席を落とした。小泉改革のペンキも剥げ落ち、増税と福祉切捨てで財政再建を進めるしか、選択肢がない自民党にとって、「国民の敵」を自らの外にもって行くことが至上命令になっている。国会での質問、調査団の派遣などを通じて「労働組合は国民の敵」であるかのようなキャンペーンに出てきている。加えて公明党の変質であろう。今回の大阪市の騒動の中で、調子に乗って、同調し、自民党以上に「公務員たたき」に奔走しているのである。
全国的に見ても、宮城県での連合役員の「選挙違反」摘発、山梨県での日教組攻撃など、2007年問題と言われる民主党・連合への攻撃に注意する必要があると思われる。政権交代をめざすと言われて久しいが、自民党公明側の「危機感」に比べて、民主はじめ野党側の「危機感」の方が乏しいのではないか。
第3に、残念なことではあるけれど、組合側の「慢心」と「既得権維持体質」が、より破壊的な事態を招いている事であろう。
確かに、大阪市の労使関係は、市長選挙などにおける表と裏の調整を含めて労働組合が力を発揮し、自民・公明・民主(旧社会)が候補者を擁立し、当選させてきたこともあって、全国的にも特異なほどに、良好な労使関係を築いてきた。さらに、大阪では共産党勢力の地域での力が強いこともあり、共産党以外の勢力は、特に選挙において、対共産党シフトから、大阪府知事選挙、大阪市長選挙、加えて堺市長選挙においても、自民・公明・民主(旧社会)がまとまって対応してきた歴史がある。その中で、組織的であり行動力もある労働組合が、まとめ役を演じることで、政党との関係においても、議会との関係のおいても、それなりのポジションを確保してきたのである。それは、自治体の労使関係にも反映することになった。労働組合の助けがなければ調整ができない実態があった。それは、行政の執務執行の場においても同じ事が言えたのである。
おそらく今回の事態の発端は、衆議院大阪5区における民主党候補が公明候補に対して、2年前の総選挙で肉薄し、小選挙区で敗れたとは言え、惜敗率で復活当選したことにあるように思える。民主党候補は大阪市職出身であった。
新聞報道等を見ていても私自身驚くほどの「厚遇」の実態が暴かれ、市民の怒りを買い、殆んどゼロ回答とも言える「厚遇」剥奪の結果を招いているのである。結果として指摘できることかもしれないが、組合側に慢心がなかったかどうか、既得権に固守する体質がなかったかどうか、反省する点は多いように思う。
第4に、客観的に見て、大阪市は財政的には第3セクター事業を中心に大赤字であり、特に「大阪オリンピック」誘致失敗以来、厳しい財政状況にあったことである。私もかつて組合役員であった頃、大阪市の労使関係がこのまま続くはずがない、と思った事もあったが、今回一番悪い形で、それが実現したことになった。現在の関市長は医者出身であり、「行政手腕」は見てのとおりである。当然理事者側の一部に、今回の事態を十二分に活用して、労組の力を殺いでおこうとする意図があったに違いがない。現業部門の民営化や賃下げ、職員削減などの話もうわさされている。ただ、破壊的な打撃を与えた結果が、逆に厳しい労使関係を復活させるとすれば、それも因果応報というもので、労組の底力をいずれ見せてやればいいのであるが。
第5に、これは推測ではあるが、共産党の力の低下が逆に今回の事態を生んでいるというのが私の意見である。かつて知事選挙でも与党連合と互角に対峙した共産党勢力も、組織力でも市民の信頼という意味でも、その力を弱めてきた。知事選挙、大阪市長選挙、そして堺市長選挙でも、候補者も貧弱、組織力も低下し、危機感を持つことなく与党側は選挙に臨めるようになってきた。頼りない大阪の自民党ではあるが公明と組めば何とかなると思い始めたのかも知れない。今回の事態は一自治体の労使関係に止まらず、大阪の政治地図の激変を生み出すことになるだろう。
大阪市問題は、府内の衛星都市にも波及し、健保・福利厚生施策における当局側負担に向けられ、さらに大阪市においては、組合専従のあり方が非難の的となりつつある。8月人勧での地域別賃金導入、公務員の人事制度改革と並んで、今後大きなテーマとなることは必至である。
いずれにしても、市民の信頼を回復するとともに、正常な状態の労使関係に戻すことが必要である。おそらく大阪市の職員は胸を張って仕事を普通にしている状況にはないことだろう。労使合意なき強行には断固反対を貫き、組合員の声をまとめて、労働組合の力を再び発揮してほしい、と願っている。(2005-05-17佐野秀夫)
【出典】 アサート No.330 2005年5月21日