【投稿】米軍、自衛隊再編の危険性

【投稿】米軍、自衛隊再編の危険性

<先制攻撃戦略の完遂>
 ブッシュ大統領は8月16日、欧州、アジア各地に駐留する約20万人の米軍のうち、6,7万人を今後10年間で米本土に撤収させることを表明した。現在アメリカは、冷戦期にソ連軍などとの全面戦争を想定して、世界各地に配備した米軍の変革・再編(トランスフォーメーション)を進めている。  
 これらの措置は、アメリカおよび駐留先の同盟国の負担軽減につながるとして、歓迎する向きも多い。しかしこの本質は「9,11」以降、「対テロ戦争」を大義名分にアメリカが進める、中東地域への覇権拡大を効率的に行うための「改革」に他ならない。
 ソ連、ワルシャワ条約機構軍の脅威が完全に消滅した欧州では、かつての最前線であったドイツに駐留する地上兵力を中心に削減を進める一方で、侵攻の最先鋒となる航空兵力については、ドイツ配備のF-16戦闘機はトルコもしくはルーマニアへ、アイスランド配備のF-15戦闘機はイタリアへと、より中東に近い地域への展開が計画されている。
 極東地域については、欧州とは異って、朝鮮半島、中国、台湾情勢など多くの不安定要因を抱えていており、これらをにらんだ再編となっている。朝鮮半島に関しては、最早北朝鮮の大規模な南侵は不可能であることから、在韓米軍3万7千人のうち陸軍約1万2千人を削減、基本的には航空兵力による「先制攻撃シフト」へと切り替えられ、その際の早期拠点制圧のため、沖縄からの海兵隊移駐も検討されている。
 こうしたなか、日本については極東のみならず、世界規模の「対テロ戦争」の戦略拠点として位置づけられようとしている。この間の日米協議で明らかになった再編計画は、①陸軍第1軍団司令部を米本土のワシントン州から、キャンプ座間(神奈川)へ移転、②横田基地(東京)とグアム島の空軍司令部の統合、(司令部機能は横田に、戦闘機、輸送機など実働部隊はグアムへ)③三沢基地(青森)からF16戦闘機を嘉手納基地もしくはグアム島に移転(グアム島については、米本土から戦略爆撃機や新型戦闘機が配備される計画もある)、④在沖縄海兵隊については一部を先述の韓国の他、矢臼別(北海道)やキャンプ富士(静岡)など本土へ移転、等である。
この再編計画が目論むものはなにか。米軍は世界のどこであろうと空爆による先制攻撃で「テロ集団」や「テロ支援国家」に打撃を与えつつ、地上部隊を4日以内に1個旅団、5日間で1個師団、1ヶ月で5個師団を展開し「敵」を制圧することをめざしている。
 これらが実現すれば、日本中枢圏(横田、座間)を司令部としつつ、グアム島や米本土などからの航空、地上兵力が朝鮮半島のみならず、アジア全域および中東を攻撃するという体制ができあがる(中東に対しては欧州からとの2方向)。
 
<進む自衛隊の「外征軍」化>
 米軍戦略に呼応する形で、自衛隊の再編も進められようとしている。小泉政権はアメリカのアフガン攻撃以降、「対テロ戦争」に協力し、自衛隊の海外派遣を繰り返してきた。それでもこれまでの護衛艦隊の派遣やイラクへの陸自派遣は、いわば「お付き合い」程度の内容であったが、今後はさらなる一体化に向けて踏み込もうとしているのだ。
 防衛庁は年内に策定される新たな「防衛計画の大綱」に関わり、PKOなどの海外任務を、これまでの「付随的任務」から「本来任務」へ格上げし、2段階ある本来任務のなかでは、治安出動、災害派遣、と同様の「従たる任務」(主たる任務は防衛出動)とする方針を明らかにした。
 そのため陸上自衛隊は新たにPKF活動も視野に入れた、900人の普通科大隊を中軸とする「国連任務待機部隊」を編成、1300人規模の部隊を同時に2カ所派遣可能な態勢とすることも示された。この部隊は先に創設された対テロ特殊部隊の「特殊作戦群」などとともに、防衛庁長官直轄の中央即応集団に置かれる計画であり、これらは名実共に日本の「緊急展開部隊」に他ならない。
 現在はあくまで「国連任務」という歯止めがかけられているようだ。しかし少なくとも小泉政権下では、今後の「恒久的海外派遣法整備」の過程で「テロ特措法」や「イラク派遣法」と同様、性格や任務が曖昧にされたうえ、実施段階に於けるなし崩し的な拡大解釈で、米軍との共同行動が強行される危険性があると云わざるを得ない。
航空自衛隊も、「新大綱」で空中給油機を4機から8機に倍増、また装備計画とは別に航空総隊司令部の横田基地への移転、那覇基地へのF15戦闘機の配備、沖縄本島と台湾の中間地点にある下地島への戦闘機配備を計画、アメリカ側も嘉手納基地の日米共同使用を検討するなど、より露骨な形で海外展開、一体化が進められようとしている。
 とくに沖縄方面の動きは、中国に対する明確な牽制であり、日中関係をより悪化させる危険性を孕んでいる。
 また海上自衛隊は日米共同のMD(ミサイル防衛)計画に対応し、弾道ミサイルに対応するイージス艦の性能向上を図ろうとしている。さらに今後大型輸送艦、補給艦やヘリ空母も逐次配備され、海外展開能力は飛躍的に高まる。
 「新大綱」は、戦車、火砲、作戦機、護衛艦の削減を打ち出しているが、これらは冷戦時代「本土決戦」用に整備されたものであり、今回はMD予算と引き替えになっただけである。その内容は創立50年を迎えた自衛隊総体の再編方向が、国土防衛からアメリカと一体となった海外派兵の強化へ、急速に転換していくことを示したのである。
 この動きを後押しするように、小泉首相の私的諮問機関「安全保障と防衛力に関する懇談会」は、「基盤的防衛力」の見直し=戦力上限の撤廃、武器輸出解禁、国連中心から国益中心への転換、(海外派遣は貢献ではなく国益が基準)などの提言を行おうとしている。
 今回の在日米軍再編にあたり、沖縄県など基地を抱える自治体が期待しているのは、地元負担の軽減である。しかし日米両政府が向かおうとしている先には、大きなリスクはあっても真の負担軽減はない。ハイリスク・ローリターンなのである。
小泉政権のようにアメリカ一辺倒や、露骨な国益を声高に叫ぶのではなく、国連を舞台とした地道な国際貢献こそ国益につながる道であるし、拍手を持って常任理事国に、迎え入れられるのではないだろうか。(大阪O)

 【出典】 アサート No.322 2004年9月25日

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