【投稿】小泉訪朝の意味するもの

【投稿】小泉訪朝の意味するもの

<用済みにされる被害者、家族>
 在任中の「日朝国交回復」を明言した小泉首相は5月22日に訪朝、2回目の日朝首脳会談で25万トンの食料支援、1千万ドルの医薬品支援、さらに特定船舶入港禁止法=経済制裁を「平壌宣言が遵守される限り」発動しないことを金正日総書記に約束したうえ、拉致被害者家族8人のうち2家族の子ども5人と共に帰国した。
 この唐突な訪朝は当初から、参議院選挙をにらみつつ、年金問題、民主党党首選などから国民の眼を逸らすための政治的パフォーマンスであると指摘されていた。
さらに、核開発問題、拉致問題で踏み込んだ成果が得られなかった首脳会談の結果は、北朝鮮を一方的に利するものとして、「考えられる最悪の結果」と拉致被害者家族会のみならず、閣僚や自民党有力者からも「首相は北朝鮮に軽く扱われた」などと批判が噴出した。
 ところが、報道各社の世論調査では、大方の予想を裏切り訪朝を評価する人が6~7割にも及び、逆に厳しい小泉批判を行った家族会や政治家には非難が殺到したのである。こうした圧力に家族会や批判者は発言の撤回や弁明をせざるを得ない状況へ追い込まれた。
 さらに一月が経過した今も、死亡したとされる拉致被害者10名の再調査や、曽我ひとみさん一家の「帰国」が事実上、放置されているにもかかわらず、小泉訪朝支持の世論は強く、参議院選挙直前でありながら、野党も追及に及び腰となっている。
これに気をよくした小泉総理は6月2日の衆議院委員会で「金正日は独裁者」としながら「快活で頭の回転の速い人」などと評価。さらに自民党議員との懇談では「大した人物」と持ち上げたという。
 さらに、シーアイランド・サミットでは、「2度も金正日とあった西側指導者」としてブッシュ大統領をはじめとする各国首脳に「成果」を吹聴してまわったのである。
小泉首相が金正日総書記を「独裁者」と称したのも決して否定的意味合いで言ったのではなく、自らの憧憬も含めた尊称ではないかと思えてくる。少なくとも中国の胡錦涛総書記や韓国の廬武鉉大統領よりは、親しみを感じたのではないか。
 いずれにしても訪朝前に早々と「自分の任期中に日朝国交正常化を成し遂げたい」と表明したことを考えると、一連の性急な動きも驚くに当たらない。ゴールとタイムを先に決めてしまえば、そこから逆算して、目的に添うように問題を処理していくだけである。
 こうなれば、本誌315号で指摘したように目指すゴールが違う「拉致被害者家族会」「拉致被害者を救う会全国協議会」は、邪魔者でしかない。小泉首相は無情にも彼らを切り捨てることを決めたようだ。冒頭述べたような「家族会バッシング」は、イラクでの人質や家族に浴びせられた攻撃と同様、官邸の煽りで仕組まれたことが指摘されている。
 最優先されているのは拉致被害者の救済などではなく、小泉首相自らの自己顕示欲と党利党略であることが、ここに至り露骨に示されたのである。

<小泉自身が不安定要因>
 このように自らの引いたレールを強引に突き進む小泉首相であるが、それは暴走と紙一重である。ブッシュ大統領との会談では、核問題に関する米朝協議を望む金正日総書記の要望を伝えたがけんもほろろに拒否された。小泉首相は何の為の6カ国協議か判っていないのではないか。
 さらにジェンキンス氏の問題についても、形の上ではアメリカに「善処」を要望してはいるものの、それが不可能なことは百も承知なうえでの猿芝居だ。仮に北朝鮮に拉致された米国人女性が「よど号」グループメンバーと結婚していたとして、アメリカから「善処」を要請されても、日本政府が訴追免除など行うわけがないではないか。
 シーアイランドでは、言わずもがなのこととしてブッシュ大統領からはリップサービスさえなく、「北朝鮮で暮らせばどうか」などと冷たくあしらわれたのに対し、「生活水準が違う」などとボケた返しをした。
 また当初、曽我さんの意向を無視して、強引に北京再会案を進めたため、結果的に中国のメンツをつぶす結果となった。さらに朝鮮総連への接近と在日朝鮮人への処遇の改善も手放しでは評価できない。なぜなら在日コリアンの参政権問題では、それに反対の立場をとる朝鮮総連の意向が強く反映されかねないからだ。韓国政府は日朝対話こそ歓迎しているが、日本国内のこうした動きには、敏感にならざるを得ないだろう。
 このように見れば、小泉首相が動けば動くほど6カ国協議での信頼醸成、良好な環境作りに悪影響を及ぼしていることは明白である。
これまで巧みなパフォーマンスを繰り返し、世論操作を行ってきた小泉首相だが、ついに綻びが広がってきた様である。最新の世論調査では年金制度問題での動きが批判され、内閣支持率は軒並み低下傾向を示している。
 支持率回復、参議院選挙の勝利を画策し、切ることが出来る北朝鮮カードは、もうほとんど無い。これに対し北朝鮮は永住も視野に入れたキムヘギョンさんの訪日をちらつかせている。この案は拉致被害者10名の再調査終了を前提としたものと言われているが、小泉首相は飛びつきたくて仕方がないのではないか。さらに参院選投票日直前、バリ島での曽我さん一家再会が計画されている。 
 自己保身のために被害者、家族、ひいては国民をなりふり構わず引き回し使い捨てるパフォーマンス政治は、一刻も早く止めさせなければならない。そのためにはこの参議院選挙で明確な答えを出していくことが求められている。(大阪O) 

 【出典】 アサート No.319 2004年6月26日

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