【投稿】均等待遇で公正な社会を拓く
<選択の余地のない多様化>
東京都では何年ものあいだ正規職員は減りこそすれ増えていない、例え退職者が出ても正規職員の採用は控える。その代わり無権利状態のパート(賃金職員)を雇う。かつての美濃部都政の頃は、予算がつくと、優先してパートさんから採用した、それは1つのルールだった。
しかし、石原都政では、有給休暇なし、ボーナスなし、交通費なし、生理休暇もまして産休などなく妊娠すれば即「退職」という労働基準法の主旨に大きく違反した実態の賃金職員が増えた(1年の総労働日数が約200日になる人も多い)。
労基法上、6ヶ月以上働かせると有給休暇の付与や年度をわたって働かせると臨時的な仕事ではないとの解釈となり、正規職員として雇用すべきと考えられる。その為6カ月で任期満了とし次の1ヶ月は雇わない、年度替わりには又任期満了で、1ヶ月たつとまた賃金職員として採用する。そんな働かせ方をして人件費を削減している。
この「多様化」は、辞める以外他に選択の余地はなく、不満なら辞めて結構と「任期が満了しました」との一言で解雇・雇い止めができる。
東京都は、公共機関として男女平等の実現を社会の先頭に立って図るべきであるにも関わらず、姑息な方法で労基法をすりぬけている。
<間接差別の禁止明記を>
厚生労働省「パートタイム労働者総合実態調査」(14年)でパート労働者は、全雇用者の22.9%、1205万人である。正社員と職務や職責が同じパート労働者が「いる」事業所が40%あり、半数以上の事業所で過去3年間に正社員の仕事がパート労働者にシフトしているとの報告もある。そのほとんどは女性であり、その結果「女性の平均賃金は男性賃金の65.3%」と顕著な差別の実態が生まれている。
政府や東京都が人権擁護の先頭に立ってこそ、多くの女性は勇気づけられ、差別のない将来を信じて、羽ばたけるのではないか。
一方、04年6月10日厚生労働省「男女雇用機会均等政策研究会」の報告書(案)には、男女間の職域分離の是正と賃金格差の縮小、均等法改正についても97年には見送られた「間接差別(一見、性別と関係のない基準による募集や採用などで女性が不利になる制度や運用)の禁止」も盛り込まれ、大筋が合意されている。
<1.29の回復は、クオーター制から>
さきの国会で年金法案・給付引き下げ・掛け金値上げが強行採決された。自民・公明党議員の多くが、国民の義務と定めた年金を未納のまま未納の事実を公表もせずにである。議員の給与も年金も我々の税金である、納税者に事実を公表し説明するのは義務である。国民から乖離して、ギロチンのつゆと消えたルイ16世でさえ、食事も結婚初夜までも国民に公開していた、恥を知れと言いたい。
その上、出生率1.29の数字を隠したあげく、年金収入が減るのは大変と「より多くの女性に子供を生ませよう、その策は」と議論している姿はあまりにも女性をばかにしておりグロテスクですらある。
同様に異様な人々がいる。女性を子を生む道具としかみない差別意識を持つ人々が、雅子さんを軟禁状態とも言える状況下におき「男の子を生むこと」を迫りつづけた。宮内庁や男系・天皇制信奉者のかたくなで非情な態度は、憲法に保障された基本的人権を侵害して、厚顔無恥である。反省・謝罪発言もなく、更迭もされない。「皇室」のなかで一人の優秀な女性外交官がスポイルされ、人間としての幸福まで奪われた。この”セクシュアルハラスメント”とも言える人権侵害を放置してきた政府もともにその責任が問われねばならない。
無責任な政治家や女性差別意識が根深い中で忘れてはならない視点は、女性の平均寿命85.2才(02年)の現代において、生殖適齢期、子育て期間はせいぜい20年である、後の65年間はどう考えるのか。女性がどんな人生設計を立うるのか、自己実現の道を探り、社会に役立つ仕事もしたいと考えるのは自然なことだと思う。その延長線上に、パートナー選びがあり、結婚があり、子を生み育てることもある。しかし、こんなにも差別が公然とされる状態では、家庭を持ち子供を育てるなど無理と諦める人が多くなるのはこれもごく自然なことであろう。
年老いた男ばかりが目立つ国会。女性議員比率は10,2%(03年3月朝日新聞)、都議会で14.9%である。10%そこそこの代表しかいない議会で女性にとって大切な法案が決められている。「男が決めて、ついて来ればよい」そんな時代錯誤のパターナリズムでは、出生率の上昇は実現しない。政策立案・決定の場に女性の代表を増やすこと、まずは「クオーター制」の実現が緊急の課題である。
<短時間正社員制度の確立をめざす>
日本では、自殺者3万2千人の数字が示すように、中高年労働者と、時間給1000円程度で正規労働者と同じ労働をさせられている立場の弱いパート労働者に対する差別が顕著である。これで大きく人件費の削減をした企業が「景気上昇・回復」をはたしているが(朝日6月11日)労働者の犠牲のうえに達成された景気回復といえよう。
また、政府が本腰を入れて行った95年以来の支援策である育児休業制度の実態は、公務員では、共済組合から1才までは、給与の4割が休業手当てとして支給され、共済掛け金が免除(雇用主負担分免除)されるが、住宅ローンの支払いや生活費を考えると利用者が増えるにはまだまだ不十分である。また子供の看護休暇制度として年間5日の有給休暇(東京都など)が実現したのは評価できるが、学齢期に達するまでの乳幼児が一体どれくらい医者通いの必要が生じるかは、母親の20日ある有給休暇のほとんどを子供の為に使い切ってしまう現実からは焼け石に水である。しかしそれでも実際にこの制度を使えるのは「組合」のある大手企業や公務員だけである。大勢のパート労働者は無権利状態であり、生理休暇もなく、産休を取って働き続けたくても、妊娠すれば即「退職」を迫られるのでは出生率が上がるはずがない。
これと対照的に、欧州・北欧は、ほぼ10年前、ILO175号条約を採択している。この条約はパートタイム労働を自由に選択された労働とみて、フルタイム労働との均等待遇を図ったものである。基本的労働条件は違いがなく、所定時間による差異(8時間労働と6時間労働のように)によって、労働時間に比例した報酬や有給休暇が保証されるというもので、「短時間正社員」「短時間公務員制度」という働き方の実現につながっている。
真に仕事と家庭が両立し、社会的公正が実現すると、出生率が回復することはこれらの国で実証ずみである。
<衆議院選挙での民主党の躍進を>
「人はその労働に対して等しく報われなければならない(丸子警報機事件判決)」という理念のもと均等待遇の法整備が急がれる。
民主党は「パート労働者の均等待遇確保法案」を、04年6月11日衆議院に提出している。これは連合が2001年来求めてきた「パート・有期契約労働法案要項骨子」を基礎にしたもので、この法案の成立は、パート労働者の賃金労働条件の改善につながって、社会的公正を実現するだけでなく、超高齢化社会を目前に税・年金等社会保障制度の社会基盤の安定に大きく寄与するものであろう。(E,T)
【出典】 アサート No.319 2004年6月26日