【映画紹介】「風の舞」–闇を拓く光の詩–
1時間あまりのドキュメンタリーだった。周りの参加者から涙で鼻水をすする音が聞こえてくる。私の目頭も潤んできて、涙が今にも頬をつたい落ちそうだった。しかし、私の心の中で、違う声が聞こえる。涙を流す映画ではない。流してもいいけれど、映画のメッセージはそれを期待していない。むしろ、しっかり見つめよ、事実を正面から見つめよ、そしてひとりひとりが力強く生きよ、と映画は、主人公である塔和子さんの詩が訴えていると思えたからだ。
映画の舞台は瀬戸内海に浮かぶ「大島」にある「国立療養所大島青松園」である。戦前から不治の病とされ多くの患者が隔離されてきたらい予防施設。一度強制隔離・入所させられたら、名前を変え、園内で結婚しても子供を作ることを許されず、一生を終えても、遺骨は故郷に帰れない。家族が墓に入れることを許さない。そんな遺骨を集めて作られた慰霊塔、それが「風の舞」と名づけられた慰霊塔である。まさに差別そのものの中で一生を終えた人々が「風に乗って解き放たれる」。映画の中では、塔は二つ目になっていた。
ハンセン病が不治の病ではなく、ウイルスが原因であることが究明され、特効薬プロミンによる治療がはじまっても、日本政府は強制隔離政策を続け、昭和28年の「らい予防法」にも強制隔離政策は続けられた。これにより、根拠のない隔離政策が、患者への人権侵害を継続させるとともに、国民の中にハンセン病への恐怖感を植え付けてきた。
映画は、13歳で発病し、15歳で強制入所させられ、57年間を国立療養所で過ごしてきた塔和子さんの詩を通して、生きることの意味、人間の尊厳を問う。らい・ハンゼン病をめぐる歴史と元患者の闘いを挿入しながら、淡々と療養所の生と死を描く。吉永小百合の詩の朗読もしっかりと心を打つ。
今年3月には、塔和子全詩集(全3巻)が発行された(毎日新聞)。是非ご覧になっていただきたい映画です。(H)
【出典】 アサート No.316 2004年3月20日