【投稿】イージス艦派遣の真相
政府は12月4日アメリカのイラク攻撃への間接支援を目的として、海上自衛隊のイージス艦派遣を決定、これをうけ16日横須賀基地から護衛艦「きりしま」がインド洋に向け出航した。
昨年の対テロ特措法成立以降、イージス艦の派遣は再三にわたり企てられてきたが、同艦が高度な情報処理能力を持つため、その情報で米軍が戦闘を開始した場合、集団的自衛権行使にあたるとの指摘で、見送られてきた経緯がある。
今回も、野党はもちろん、与党である公明党、さらには自民党の一部からも厳しい反対意見が出されている。
政府が、こうした反対意見を押し切り派遣を決めた理由は、(1)派遣している艦艇が交代時期にきている (2)高度の情報処理能力を持って補給作業の安全を期する (3)厳しい勤務環境の改善、であるが、これらは説得力を持つのだろうか。
<魔法の船?>
このうち最も問題なの2番目の理由である。イージス艦(システム)は元来冷戦時代に、アメリカが空母をソ連の攻撃機、対艦ミサイルから守るために開発したものであり、日本は現在「こんごう」型4隻を保有している。
イージス艦は高性能レーダーとコンピューターをリンクさせ、100個以上の標的の進路、高度、速度を検知し、そのうち十以上の目標を同時に対空誘導ミサイルで迎撃できる性能を持つ。
また、1998年8月、北朝鮮によるテポドン発射の際、イージス艦「みょうこう」がその航跡を追尾したこと、さらにイージスシステムを改良すれば弾道ミサイルの迎撃も可能なことから、「万能艦」というまさに、「イージス神話」が創られたと言ってもよい。
しかし、イージス艦はあくまで、正規軍同士の「正々堂々」たる戦争を前提に作られたものであり、対テロ戦争のような非対称戦争に有効かといえばそうではない。
航空兵力を持たないテロ組織(イラクも同様である)に対してはイージスシステムも「宝の持ち腐れ」である。またイージス艦は、不審機や不審船が何者かを識別可能なように喧伝されているが、実際にはそうした能力はない。
対象が敵か味方かが判るのは、イージスシステムとは別の敵味方識別信号の送受信によるものである。戦闘地域では味方と識別されないものは敵と見なされるのだが、自衛隊の活動地域は戦闘地域ではない。
したがって、仮に接近してくる飛行機、船があっても、それらは敵味方識別信号には反応しないので、それが本当の民間のものなのか、テロ組織のものなのかは容易には判らないのである。
とはいえ、現実問題としてテロ組織は(イラクも)自衛艦隊の活動地域に到達できる攻撃手段、それ以前に自衛艦隊の位置を探知できる情報収集能力を持っていない。こうした条件が変わらない限り、攻撃を受ける可能性はないのである。
唯一危険なのは、陸上から目視できる湾岸地域周辺である。2000年10月イエメンのアデン港沖で米海軍のイージス駆逐艦「コール」はアルカイーダの自爆ボートによる攻撃を受けた。油断していたとはいえ、さしものイージス艦もボートが爆発する瞬間まで、テロ組織の船とは判らなかったのである。
以上のように、現在の活動地域ではテロの脅威は低いこと、入港時などのテロ組織の攻撃方法に対しては、イージス艦の能力は発揮できないこと(その意味でイージス艦も普通の護衛艦も変わりはないどころか、ヘリが搭載できない「こんごう」型は、むしろ不適切でさえある)から、2番目の派遣理由は破綻している。
<ホテル「イージス」>
3番目の理由は士気の低下を自ら吐露しているようなものである。事実、先日明らかになった派遣艦隊最高幹部の飲酒事件は、それを如実に示すものだ。いかに高性能の装備であっても、それを使う人間の能力が低ければ、性能は発揮できない。
なぜ、士気が低下しているのか。現在の海自による支援活動は「対テロ戦争支援」という大義名分はあるものの、それは隊員の士気を奮い立たせるどころか、緊張を維持するには程遠い「意義と任務」なのである。
派遣艦隊は攻撃をする可能性も、攻撃を受ける可能性も無く、米英軍への補給活動時以外は、遊弋しているだけと言っても過言ではない。入港、停泊、出港時には緊張を強いられるが(上陸中は緊張は一気に弛緩する、寄港地で事故死した隊員もでた)、公海上にでればうだる暑さの中、無為に日々を過ごすのみであり「厭戦気分」が蔓延するのも無理はないと言える。
そこで考え出されたのが、勤務状況の改善である。現在派遣中のヘリ護衛艦「ひえい」は艦齢28年、冷房は旧式で艦内は30度の暑さ、ベッドも3段式で窮屈だと言う。これに対してイージス艦は最新の空調で25度、ベッドも2段式で快適だと言うのである。
たしかに乗組員の負担は軽減されるかもしれないが、意義が見いだせない任務の中では、本質的な解決にはならないだろう。また「快適さ」を基準にするならば、イージス艦よりも艦齢の新しい護衛艦がある。
旧日本海軍の戦艦「大和」「武蔵」は兵装だけでなく艦内設備も最新鋭のもので、水兵もハンモックではなくベッドで寝ることができた。しかし大艦巨砲の時代は過ぎ去り、実戦参加の機会もなく、ただ停泊地に浮かぶ両艦は「大和ホテル」「武蔵旅館」などと揶揄されたという。今回派遣された「きりしま」も、同じ運命をたどらないと言えようか。
また、交代理由のひとつとして旗艦能力を有する護衛艦のローテーションが言われている。しかし今程度の任務と艦隊編成に本格的な司令部機能は必要無い。
<X,masプレゼント>
ところで、派遣に当たり危惧されている「海自イージス艦の情報で米軍が攻撃」する事などは現実にあるのだろうか。その様な仮定は、日米の軍事力の差を無視した論議と言わざるを得ない。米軍は多数のイージス艦と早期警戒機、電子戦機、さらには偵察機、偵察衛星などを結ぶ戦場ネットワークを構築し、自衛隊など足元にも及ばない高度な情報収集能力を有している。自衛隊が米軍の情報の提供を受けることはあっても、その逆はあり得ない。言われているような形で、集団的自衛権を行使しようとしても無理なのである。日本国内での論議を聞いて、アメリカは苦笑しているに違いない。
先日、イエメンにスカッドミサイルを運ぼうとしていた北朝鮮の輸送船が臨検を受けた。これも出航時から追跡していたアメリカの情報で、スペイン海軍が臨検したのものである。
いずれにしても今回の派遣劇は、はじめにイージス艦ありきで、派遣理由はいずれも説得力を持ち得ない。今回のイージス艦派遣は、対テロ戦争からイラク攻撃に突き進もうとしている、アメリカに対する同盟国の象徴としての「クリスマスプレゼント」なのである。(大阪O)
【出典】 アサート No.301 2002年12月21日