【投稿】「予防保全型」安全管理の崩壊
東京電力は8月29日、1980年代後半から原発検査記録の改ざん等を行っていたことを明らかにした。東電発表の前に奇妙な発表が続けてあった。8月22日発表の福島第一原発3号機の制御棒系配管36本のひび割れであり、23日発表の柏崎刈羽原発3号機の炉心隔壁(シュラウド)のひびである。さらに27日には同柏崎刈羽原発3号機のシュラウド下部に新たなひびが30本も点在していると発表した。通常、これだけ大量のひび割れが1回の定期点検で発見されることはありえない。点検を怠っていたか、検査記録の発表をしてこなかったかのどちらかであることは明らかであった。
少しさかのぼって、7月6日、経済産業省原子力安全・保安院は「全国の原発を故障回数や被ばく管理など運転成績に応じて格付けし、格が高い原発は最低限の検査項目で済ますなど優遇措置をとる一方、低い原発は重点的に検査を行う安全管理制度を導入する方針」(2002.7.7 福井新聞)だと発表した。これだと、一見、検査制度が改善されるのかと錯覚するが、本音は原発機器・設備の「予防保全」から「事後修理」への根本的な安全管理体系の変更を目指すものであった(2002.8.26 福井新聞)。東電の記録改ざん発表後も保安院は「原発の機器、設備に損傷があった場合に、直ちに補修が必要なのか、運転を続けられるのかを客観的に判断するための『許容欠陥基準(維持基準)』を2003年度に導入する方針を固めた」(2002.9.4 福井新聞)として、安全管理体系の変更を明言している。
日本の原発の安全管理の特徴は「日本では、世界に例がないほど厳密な『定期点検』を実施している。1回の定期点検に費やす費用は、約50億円と推定される。欧米が発生対応型(トラブル処理)に対し、日本は予防保全型である」(「プルサーマルの科学」)と技術評論家の桜井淳氏は述べている。「予防保全」(PM)とは機器・設備が故障したり破断したりする前に機器を修理したり、一定期間の年数の経過した機器や設備はそっくり取り替えてしまい、安全を保とうということであり、この「予防保全」の考え方は何も原発だけに限らず、全ての産業に共通する機器・設備保全の考え方であり、共通するからこそ、日本の技術者は原発の検査内容に一定の(ある程度の)信頼を置いてきたのである。たとえば、自動車の2年に1回の車検では特に悪くなったわけでもない電気プラグやエレメントを交換するということも、車が走行中に突然故障しないようにするということであるから「予防保全」の考え方である。「日本の原子力発電所に適用されている定期点検の技術基準は大部分がアメリカ機会学会で定めたものをそのまま借用している。そこには過去に産業現場、特にボイラーや火力発電所、原子力発電所などで得られた安全実績や経験則、ノウハウ等が反映されている。そのため確かに工学的根拠」桜井淳「プルサーマルの科学」)があったのである。そうした貴重な工学的根拠となるべき事故を、検査結果を改ざんすることによって東電は十数年間にわたりどぶへ捨て続けてきたのである。
今回の改ざん事件から図らずも明らかなことは電力会社には工学的解析能力が全くないということである。もともと今回の改ざん事件もGE社の子会社の社員からの内部告発によるものであったが、検査体制を下請け会社に依存し(下請けが悪いというのではない)、自らは検査結果から何も学び取ろうとせず、ひたすら隠そうとする姿勢からは東電のエンジニアは既に工学を捨てたとしかいいようがない。それをさらに追認し、原発から「予防保全」を捨てさろうとする保安院にはさらに技術者としての良識のかけらもないといわなければならない。(福井:R)
【出典】 アサート No.298 2002年9月21日