【投稿】大都市圏における市町村合併~自治体連合としての政令指定都市~
<焦点となる2002年度>
今、自治体行政において、市町村合併の議論が大きな焦点となっている。起債や交付税、補助金などで有利な措置が受けられる合併特例法の期限が、2005年3月に迫ってくる中で、政府-自民党は、3,223の自治体を1,000にするという数値目標を掲げながら、法期限までに所要の成果が上げられるよう、躍起になっている。市町村合併支援本部を設置するとともに、都道府県に対しても「指針」を通知し、合併支援本部の設置や合併重点支援地域の指定を「指導」するなど、国の出先機関のごとく扱い、地方分権や「自主的な市町村合併の推進」のタテマエもかなぐり捨てた、なりふり構わぬ動きを見せている。
国は、近日中に通知される予定の新たな「指針」の中で、全県での合併重点支援地域の指定や本年6月を強化月間と位置づけることなどを打ち出そうとしているが、合併までには手続きに約2年かかると言われていることも考えあわせると、この2002年度は、各市町村長が一定の判断を迫られるという、重要な意味をもっているのである。
<ワールドカップか市町村合併か?!>
国のお手盛りで設置された「21世紀の市町村合併を考える国民協議会」のメールマガジン(2002.3.11付)では、「最近では、市町村合併への機運はますます高まっており、おそらくこのままいくと6月には、「ワールドカップか市町村合併か」と言われるほど、まさにヒートアップしているのではないでしょうか!?」としている。果たして、そこまで盛り上がっていると言えるのだろうか。
総務省が発表した合併重点支援地域の指定状況は、31府県・79地域・347市町村(2002年3月6日現在)にとどまっている。しかも、東京都、神奈川県、大阪府といった大都市圏においては、未だゼロなのである。一方で、法定協議会・任意の協議会・任意の研究会の設置状況は、440地域・2,026市町村(2001年12月末日現在)であり、全市町村の2/3にのぼるとしているが、その実は、大半が任意の研究会である(346地域・1,638市町村)とともに、いわゆる農村部に集中している。また、あくまで研究会であり、法定協議会に至るか否かは、全く不透明なのである。国が言うほどに盛り上がっているとは決して言えず、ましてやワールドカップと対等の機運であるなど、意図的とはいえ「思い込み」が激しいと言わざるを得ない。
<都市部も合併は必要>
このように、都市部と農村部では、明らかに取り組みに差が生じている。そもそも、国の意図は、危機的な国家財政、完全に破綻した交付税制度を背景に、財政的に自治体の体をなしていない、いわゆる「弱小」町村の「面倒を見る」ことが不可能になりつつある中で、それらを統廃合し、行財政基盤の強化を図ろうとしていることにあると言える。そのこと自身は、当の町村自身が、非常な危機感を持っているのである。
また、市町村ごとにきめの細かい利益誘導政治を行ってきた自民党としても、構造改革の議論の中で、個々の市町村の「利益」に対応することができなくなっていることとも密接不可分であろう。さらには、合併特例債や合併補助金などにより、新たな利権ネタを生み出そうとしているとも言える。
そのような中で、農村部の町村合併が国の本来の意図であるとしても、大都市圏では市町村合併が不要であると言い切れるのであろうか。
大都市圏においても、長引く景気低迷の影響をモロに受け、税収は大幅に減少しており、甘く見込んだ推計による人口増加=税収増を前提に、ハコモノ行政を続けてきたツケが回っており、大半の自治体で危機的な財政状況を迎えている。税財源の分権も遅々として進まない一方で、好景気のころの高水準な行政サービスの低下は必至なのである。また、狭い面積の中で人口が集中していることや都市基盤の整備が進んできていることから、住民の生活圏は行政境界を意識するものとはなっていない。以上のことから、都市部においても、合併が不要であるとは決して言えない、厳然たる事実があるのである。
<自治体連合としての政令指定都市>
では、都市部においては、どのような態様の合併が求められるだろうか。都市固有の自治を発展させてきた歴史的経過や首長の政治的プライドなどを考えあわせると、農村部の町村のような「救済型合併」は考えにくい。これまでの自治を尊重しつつ、一方で都市部ならではの行政需要に応えるためには、現行制度においては分権の最高形態といえる政令指定都市を展望することが、現実的な選択肢として浮上してくるのである。
財政事情以外に「大義」のない合併議論が多い中で、都道府県なみの権限や財源の下でまちづくりを行える政令指定都市は、都市の格上げによるイメージアップも含めて、大きなインパクトとなる。また、旧市町村の枠組みが、区役所という形で残せることから、地域のアイデンティティも保持でき、一定の区政自治によるまちづくりも行い得る。いわば、自治体が連合して、都道府県と対等に渡り合える強大な新自治体をつくるという、地方分権の一大運動として、位置づけられるのである。都市部の都道府県が財政破綻で頼りにならない現状やさいたま市・静岡市の動き、合併するならば指定要件の運用を100万人から70万人に引き下げるという国の表明などを考えると、この議論はもっと大胆に展開されるべきなのである。
いずれにせよ、選択するのは住民である。徹底した情報公開と市民参加の下で、大いに議論がなされることが前提であり、国に言われずとも、2002年度はそうした議論が活発化すべきであろう。私の在住する大阪府内でも、さまざまな議論がなされつつある。機会があれば、今後、具体的な現場の状況をレポートしていきたい。
(大阪 江川 明)
【出典】 アサート No.292 2002年3月16日