【投稿】「カジノ資本主義」の危うさ

【投稿】「カジノ資本主義」の危うさ

<<支持率下がって株価上昇>>
 3/4、小泉首相は「内閣の支持率が下がると株価が上がるんだったら、もっと支持率が下がってもいい」と言い放った。
 その前日の3/3、朝日新聞の世論調査で内閣支持率がついに過半数を割り、44%まで下落したことが報じられたばかりであり、軽口で応酬したつもりであろう。あえて強がってはいるが、デフレスパイラル進行の前に右往左往し、経済無策をさらけ出し、「改革」政権の化けの皮がはがされ、経済的危機の前に崖っぷちに立たされている小泉政権にとって、事態は容易ではない。世論の圧倒的支持をもって脆弱な政権基盤を維持してきた、その支持率が急落してきたのであるから穏やかではない。一時は80%以上、時には90%を超えていた支持率が急降下し、もはや「自民党をぶっ潰しても」でもどころか、党内親分衆に膝を屈したご機嫌伺いの取引・妥協政治に身をゆだねざるを得なくなってきたのである。支持率急落に焦り、不安に駆られた首相は、“学会嫌い”の看板も投げ捨て、公明党の18議員を首相官邸に招いて懇談、「公明党には大変協力をいただいている。皆さんは協力勢力だ」と急に持ち上げ、「これからもこういう形で仲良くさせてください」とゴマすりに汲々としだしたのである。
 解任された田中前外相が喝破しているように、「一見新しいことをおっしゃって、かっこうもよいが、古い体質と言うか、総理自身が抵抗勢力」であることが広く全国的に確認されだしたのである。さらにその古い体質の悪質さは、有事立法に異常な意欲を見せているように、旧来の保守人脈の中でも福田派以来の右派的反動的政策を危機乗り切り策として持ち出していることに現れている。

<<“官製相場”の博打>>
 「支持率が下がっても」発言のもう一つのメッセージは、デフレスパイラルをさらに一層進行させるような政策しか提起できなかった小泉政権が、崖っぷちの経済的危機を前にして、なすすべもなく、場当たり的で人為的な株価操作に踏み出し、裏打ちも検証もない奇策や愚策をこれからもやりかねないことを明らかにしたことである。2/27にあたふたと打ち出された総合デフレ対策は、(1)不良債権処理の加速(2)金融システムの安定(3)株式など資本市場の活性化対策(4)中小企業への貸し渋り対策(5)金融政策の一層の活用の5点であるが、塩川財務相が「今までやってきたことやないか」とつぶやいた通り、目新しいものはまったくない。その中で唯一具体的なのが“空売り規制”の本格発動であった。
 今回の空売り規制で新たに、“直近の価格よりも高い水準で売り注文を出さなければならない”というルールが盛り込まれ、株価を下げる低い水準での売り注文を事実上禁止してしまったのである。売り圧力を規制したその一方で政府は、大量の公的年金資金を使った株価維持策(PKO)で株の買い注文だけを殺到させ、人為的に株価を急騰させ、株価が上がれば損失がかさむ空売り筋も買い戻しに動かざるを得なくなり、何の好材料もないのに300円高、400円高と株価が急騰、平均株価が5日間で12%も上昇、3/8には一時1万2000円台を突破、いわば国家ぐるみの株価操縦がまかり通ったのである。何が何でも3月末の銀行決算を乗り来るために、たとえ一時的ではあっても株価引き上げ効果を見せることのできる“官製相場”の博打に打って出たともいえよう。
 こうした株価操作は、危機の先送りにしかすぎない。問題は、こうした市場操作の反動局面が必ず押し寄せ、より一層危険な暴落局面を招きかねないことである。

<<不良債権のジレンマ>>
 問題は、「処理を加速する」という不良債権問題であるが、小泉政権が成立してからだけでも10ヶ月を経過しているが、いまだに一体いくらの不良債権額があるのかさえ掌握できていないというあやふやな実態である。
 銀行側は92年以降、00年9月までに68兆円の不良債権を処理してきたという。ところが今に至るまで不良債権額はまったく減るどころか、逆に膨らむ一方である。金融庁によると、全国136行の不良債権残高は、36兆7560億円(01年9月末現在)で、同年3月末より半年の間に3兆1260億円も増加しているという。この間に約4兆7000億円が処理されたが、銀行が見過ごしていた約2兆8000億円の不良債権が発生し、そのうえ新たに5兆2000億円が発生。首相は金融庁に特別検査を厳格にせよと指示を出すが、もはや誰もその数字を正確なものとして信じるものがいない状態である。
 当然と言えば当然であろう。小泉政権が放置し、いやむしろ加速させてきたデフレ政策が、「銀行が見過ごしていた不良債権」、「新たに発生した不良債権」を増大させてきたのである。不良債権の清算を急いでいるはずの小泉内閣が、検査をすればするほど逆に不良債権が増大するというジレンマに陥っているわけである。
 そこで公的資金の再投入論が浮上しているのだが、金融庁はこれまで「大手銀行の自己資本比率は平均で約11%あり、国際決済銀行の基準の8%をクリアしている」と説明し、公的資金の再投入は必要なしと言ってきた。ところが不良債権額は増大し、小泉首相は「2年以内に不良債権を処理し、新規発生分は3年以内に片付ける」を国際公約としてきたし、フッシュ来日の折には「不良債権処理の迅速化」を約束させられた。ところが閣内では、全く意思の統一が見られない。首相も無策である。経済3閣僚が「公的資金は不要」と表明し、首相も承認したばかりのところに、日銀の速水総裁が「世界各国は公的資金の注入と不良債権処理の促進を期待している。早急にアナウンスする必要がある」と申し入れるとたちまち動揺。竹中・経済財政相が「必要があれば資金を入れるに決まっている」と積極論を展開すれば、柳沢・金融担当相が「これまでの施策を着実に進めれば、不良債権問題は正常化する」「自由主義経済の下では不適切」と反論する事態である。

<<「リスクを冒す勇気」>>
 この問題については、3/1付・朝日「私の視点」で作家の高杉良氏が「竹中流改革 カジノ資本主義でいいのか」と題して実に鋭く切りこんでいる。「日本経済はアングロサクソン・リセッションに陥っている」「歴代為政者のアメリカ一辺倒」「竹中氏は『バブルの清算は2年で終える』と答申したあの小渕の経済戦略会議メンバー」「竹中氏は、弱い企業を早く市場から退出させたほうがいいと論じ、IT革命が日本を救うと旗を振ったのでした」「アメリカでの流行を追っただけの主張」と、その本質を浮き彫りにし、その「国賊」ぶりにも言及したことを書いておられる。さらに竹中氏が雑誌『プレジデント』に連載している日記の最新号「ハイリスク・ハイリターンの時代が到来した」を取り上げ、「会社なども定年までい続けずに、『リスクを冒す勇気』を持てというのですが、ブローカーならいざ知らず、国民に“カジノ”を奨励せんばかりの国務大臣など、いたためしがない。竹中氏が日本マグドナルドの未公開株を譲られたり、国会で地方税納税にからんで追及されたりしたのはリスクだったのかと半畳の一つも入れたくなります」とそのいいかげんさを切っ先鋭く皮肉り、「弱肉強食、勝った者の総取り、ハイリスク・ハイリターンの無理強いは日本社会を間違いなく破壊します」と結論付けておられる。
 2/10付朝日の立花隆氏「破滅目前、幻想が壊れ始めた」で、「救い神のごとく見えていた小泉首相の顔が疫病神に見え始め、あとはつるべ落としの人気下降になる」という指摘とならぶ論陣と言えよう。
 ムネオ問題で気を吐いても、小泉内閣の本質に迫るこうした論陣が野党側から鋭く提起され、現在の与党政権を退陣にまで追い込む迫力がなければ、問題の本質はうやむやにされてしまうのではないだろうか。(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.292 2002年3月16日

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