【投稿】テロ攻撃「報復戦争」の危険性

【投稿】テロ攻撃「報復戦争」の危険性

<<「第2の真珠湾」>>
 9/11、突如世界を震撼させた史上最悪、同時多発の自爆テロ攻撃が、憎悪と混迷の渦を巻き起こしている。アメリカ資本主義繁栄の象徴でもある世界貿易センタービルとアメリカ帝国主義の軍事的覇権の象徴でもあるペンタゴン攻撃と言う思いもよらぬ事態に、ブッシュ米大統領は、当初の驚愕から立ち直るや「草の根をかき分けても犯人を追い詰め、厳罰に処す」との共和党タカ派の本領を剥き出しにした第一声を発した。続く閣僚、ホワイトハウス要人の発言もことさらに「戦争状態」を強調、「悪魔」「ヒットラーの再現」「卑劣」「厳罰」等々、感情剥き出しの憎悪と「正義の報復戦争」にすべてが収斂されている。
 9/13、ブッシュ大統領が「この戦争に勝利することを目指しながらも、アラブ系米国人やイスラム教徒に相応の敬意を払うことを忘れないでおくべきだ」と述べたその後から、パウエル国務長官は「これは米国にたいする戦争ではなく、文明に対する戦争だ」と述べて、文明と非文明の対立を強調、非文明社会に対する戦争行為の正当性を主張。これに呼応するかのように、インターネット・リレー・チャット(IRC)上では、犠牲者の家族への弔辞、献血の呼びかけとは別に、激越な非難が飛び交い、『アラブを核攻撃せよ』(Nuke-the-arabs)や『アラブを殺せ』(kill-the-arabs)といった反アラブ的なチャンネルがいくつも現れている。
 9/12付ワシントン・タイムズは、1面に炎上する世界貿易センタービルの写真を掲載、その中に「汚辱(Infamy)」という1語だけの大見出しを掲げ、中面にはやはり日本軍の真珠湾攻撃によって炎上するパールハーバー奇襲の大写真を載せて、両者の同一性を浮き上がらせ、今回の攻撃を「第2の真珠湾」と形容している。これはアメリカの全メディアに共通する姿勢であり、「アメリカ本土が直接攻撃されたのは真珠湾以来」という歴史的事実、「奇襲」「自爆」「神風特攻隊」といった攻撃形態の共通性に言及、「戦争勃発」という非常事態に対する、そして「報復」攻撃に対する「挙国一致」の核に据えられている。同13日付けワシントン・タイムズのトップ社説の最後は「奴らはアメリカに1発かませた。それならやってやろうじゃないか」で締めくくられているという。

<<テロ攻撃促進政策>>
 事態の展開は、憎悪が憎悪を呼ぶ危険極まりない「戦争状態」に突き進もうとしているが、問題はそう単純ではないとも言えよう。9/12付けニューヨーク・タイムズは、「人の心に育つ憎しみがこのような事件の根元だけに、問題解決に単純な方程式はない」と述べているように、このような時にこそ冷静な判断と評価が必要とされている。同じく同日付の英紙フィナンシャル・タイムズのアメリカ版社説は、「ブッシュ大統領は中東政策を再考慮すべきであろう。アメリカ政府がイスラエル・シャロン首相の強引な政策を許容してきたことが、アメリカに対するテロ攻撃を促進したことは間違いない」と断言している。 民主党から共和党、クリントンからブッシュへの政権移行の顕著な変化は、「嫌いな相手との対話拒否」とまでいわれている。前政権の紛争仲介・介入政策の放棄は、イスラエル・パレスチナ問題、南北朝鮮の対話促進問題等に端的に現れている。むしろ紛争を激化させることに腐心してさえいる。9/3の国連人種差別反対会議の完全ボイコットは、ブッシュ大統領が「事前の準備や決議にイスラエル非難があり、これを撤回しない限りアメリカは参加しない」と繰り返し発言していた結果である。今回のテロ攻撃はいわば自らが招き寄せた側面があるともいえよう。事実、ブッシュ政権以降、「対イスラエル自爆テロ」が増大してきたのである。
 さらに今回の事態が明らかにしたことは、いかに重武装し、ハイテク兵器を展開し、がんじがらめの警戒体制をひいたとしても、すべての可能性を防ぎきることは決してできないという厳然たる事実であろう。対話ではなく、憎悪をあおる戦略の危険性は、むしろ今回の事態によってさらに高まったともいえよう。すでに多くのメディアで指摘されていることでもあるが、あの自爆攻撃が原子力発電所にかけられていたら、放射能汚染が地球規模で拡散し、世界は悲劇的な事態に遭遇していたであろう。「報復戦争」の遂行は、そのような事態をももたらしかねない危険性を内包しているとも言えよう。

<<「スーツケース核弾頭」>>
 さらに危険なのは、テロ攻撃の形態には核弾頭さえ含まれる可能性さえ指摘されていることである。ブッシュ政権は、クリントン政権時代の「ゴア=チェルノムイルジン合意」を「高くつきすぎる」との理由で破棄しているが、この合意はゴア副大統領とロシアのチェルノムイルジン首相との間で「現在、世界における最大の脅威は米ロおよび旧ソ連から分離した旧共和国に存在する合計20万発近い核弾頭で、特にロシアにおける不完全な管理態勢が脅威だ」として、その核弾頭の段階的解体と厳重な管理への資金援助について合意に達していたものである。それはいわゆる「スーツケース核弾頭」にも適用されるものであった。問題は、すでにこの「スーツケース・サイズの核弾頭100個のうち、半分近くが行方不明だ」との驚くべき実態が報道されていることである。
 すでに世界のどこかで闇取引されている可能性のあるこの核弾頭は、無線起爆装置によって広島原爆の10倍以上となる破壊力を持っている。以前から「ドイツ諜報部は、巨大なスーツケースを背負った人間が五月雨式にカイバル峠を通過した事実を確認している」とのニュースが流されている。カイバル峠の先は、中東諸国であり、アメリカが再び叫び出した「ごろつき国家」群である。今騒がれているオサマ・ビン・ラディンのグループであれば、すでに入手している可能性さえあるであろう。まさに「報復戦争」の当事者でもあり、それをかくまう当事国でもある。緊急に必要とされている措置を放棄し、こうしたずさんな実態を野放しにすることからどのような利益が得られるというのであろうか。
 ブッシュ政権はさらに、ロシアとの弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の一方的破棄を宣言し、途方もない幻想的なミサイル防衛構想に巨額の予算を配分しようとしている。この夏には「中国の核ミサイルの拡張にあえて目くじらを立てない」と示唆し始め、米各紙は「新たな世界的核軍拡を容認するもの」と批判したばかりであった。
 こうしたブッシュ政権の一方的軍拡と覇権主義、対立をあおる緊張激化政策が、その深刻なツケを払わねばならない事態を迎えているとも言えよう。

<<「テロリストに救われた」>>
 テロ攻撃は憎悪を増すばかりであり、事態をより悪化させることは言うまでもない。「報復」もしかりである。すれすれで大統領の座を確保したブッシュにとって、今回のテロ攻撃は全国民的支持を取り付ける絶好の機会ともなった。しかしこの「報復戦争」は自らの政策が招き寄せた国家的テロルとしての軍拡と緊張激化政策の結果でもあり、際限のない泥沼化の道でもある。
 小泉首相も事件後ただちにブッシュ大統領に「アメリカに全面的に協力する。日本のできることは何でもやる」と伝え、「民主主義社会への重大な挑戦であり、わが国は米国を強く支持し、必要な援助と協力をおしまない」と強調し、ことさらに「米国と一体になって闘う」決意を表明した。それはあたかも自らへの攻撃として米国とともに戦争を決意し、はせ参じる「特攻隊精神」の表明でもある。そして自衛隊法改定による自衛隊の米軍基地警備実現や有事立法の制定、集団的自衛権の行使の合憲解釈などへの動きをこの際一機に実現しようとあわただしい動きを見せている。
 株価暴落では打つ手を何も提起できず、ただただ傍観していた小泉首相にとって、刻々と近づいていた株価1万円割れが自らの責任ではなく、米国の同時多発テロの影響による全世界的な株価下落に責任を転嫁できたのである。9/12の東京市場は実に17年ぶりに1万円を割り込み、開始後わずか6分で1万円台を割り、終値は前日比682円安の9610円。小泉政権登場以来、株価は政権を見放すかのように下落を重ね、8/29に11000円台を割ってからは、連日株価は急落し、直前の9/10には10195円にまで下落、その後数日で1万円台割れが確実視されていたのである。そこにふってわいたテロ攻撃、まさに「テロリストに救われた」わけである。しかし責任逃れが可能なのは当面のことにしかすぎない。ブッシュ路線に入れ揚げていけばいくほど、日本発の世界的大恐慌への道を先導しかねない事態へと日本を引きずり込むのではないだろうか。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.286 2001年9月22日

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