【誌上討論】 参議院選挙 その結果をどう考えるか
☆7月29日投票の第19回参議院選挙の結果について、在阪メンバーによる、アサート恒例の意見交換会を8月4日に開催しました。鉄は熱いうちに、ということで、急遽設定しましたので、5名の参加という事になりました。議論は2時間30分を越えて行われ、小泉現象と参議院選挙結果のテーマから発展して、「対立軸」の問題、ナショナリズムの問題、オランダモデル、IT革命の問題などの議論にも及びました。この内容について、2回に分けて掲載いたします。
参議院選挙 その結果をどう考えるか 意見交換会(その1)
A それでは、先週行われた参議院選挙の結果を受けて、意見交換会を始めたいと思います。司会の方からいくつかのテーマを設定させてください。一つ目は、小泉人気というかブームというか、今回の参議院選挙を規定していた小泉旋風というものの正体は何なのかということです。二つ目は、具体的に参議院選挙結果から何を汲み取るかと言う点、特に連合800万人と言われながら、労働組合候補は9人合わせても150万票であったわけで、マスコミも労働組合の力の低下、また空洞化などの評価が出ています。外から、そして内から、どう考えればいいのか、また無党派層というものの選挙動向をどう考えるか。また社民、共産の低迷をどう考えるかなども。そして3つ目は、今後の政局とそのポイントということになります。
まず、それぞれから選挙の感想をそれぞれからお願いします。
<小泉は大蔵族>
B 最近聞いたんですが、小泉は大蔵族なんですね。そう聞くと小泉改革でやりたいことがわかるんですね。郵政改革も第2の大蔵省をつぶすということでしょう。金融資本を助けようとね、この間の動きもそれを純粋に体現しているのかと。住宅金融公庫の廃止を選挙前に言い出しましてね、それで完全に民主党に入れようと思いましたが。やはり改革の順番が違う、生活実感が違うと思いますね。
住宅金融公庫の民営化ということは、おいしいところを民間でということで言うことですね。しかし長期の固定金利に耐えられるはずがないわけで、個人の金融資産を食いつぶして合理化もせずに銀行が生き延びるのかとね。正体見たりという感じでしたね。本当に腹が立ちましたね。もともと銀行を信用していないし公庫融資と比べて、金利は2%程度高いし固定金利はしないし。個人の住宅取得については、勤労者にとっては大きな問題なわけで。
銀行が抱える問題は大きいと思うんです。金融改革というならもっと大胆に合併知るなり、スリム化するなりすべきなんだけれど、合併したといっても人は減っていないしね。
公的金融機関をすべて民間に移すことはできても、借り難い人やベンチャーの人などにプラスにはならない。それをセイフティネットというのか知らないが、民主党なら、そういう暴力的なやり方はしないのではないか。
国民金融公庫には口を出していないが、やはり自営・中小業者が対象ということで、サラリーマンは、軽く見られているという気がしますね。
<総裁選挙で、すでに選挙は終わっていた>
C 今回の選挙ですが、始まった時にすでに選挙は終わっていたと思うんです。自民党総裁選挙が、自民党内の選挙でありながら、候補者が街頭演説に繰り出してマスコミに取り上げられたりして、すでにここで『擬似政権交替』が行われたわけです。森総理の後で、小泉さんが「自民党を変える」という公約を立てて、「利権圧力集団の橋本派」に勝ち目のない戦いを挑んで勝ったというわけです。ここで「バーチャル」な擬似の政権交替が起こったわけですね。その後の参議院選挙ということですから、小泉が勝って当たり前と思っていたわけです。という意味で私自身はこの選挙にあまり興味がなかった。菅幹事長も同じようなことを発言して批判されていましたが(笑)。
さらに比喩的に言うと、今回の選挙で重要な役割を演じた人がいます。森・前総理ですね。あそこまで自民党の悪いところをすべて体現した人はいなかった、個人の資質も発言の中身も含めてね。極めて自民党的で、自民党の持っていた悪弊をすべて体現していたわけです。この人が辞めて小泉さんが出たということは、ある種の「厄払い」の神事みたいなものです。一切の「厄」は、森さんとともに払われてしまった。その結果が、政治評論家の森田実さんも言っていますが、バートランド・ラッセルの言葉にある「極端な希望は極端な悲惨から生まれる」という事態です。
<キーワードは『バーチャル』だった>
現象的に見れば、擬似政権交替を含めて、キーワードは「バーチャル」だと思います。「自民党だけど自民党じゃない」とか、変っているはずがないのに「自民党は変る」とか、「変らなければ自民党をつぶす」とか、小泉自民党はどこの政党なのか分からないわけです。結果、「自民党でない自民党が勝った」という意味において、小泉内閣はすごい課題を背負ったわけです。もう後がない政権だということですね。
もうひとつの「バーチャル」は、構造改革問題ですね。「改革する」という言葉・決意だけがあって、中身がわからないんですね。どういう改革をして何が変るのか、わからない。自由党の小沢も言ってましたが。中身はわからないけれど、変えるんだという『姿勢』は分かるということでしょうか。閉塞感を打ち破る改革に期待が集まったということです。
もうひとつのポイントで、この間思ったことは、政治家個人の資質というか、行動のスタイル、言葉の使い方などが重要になってきたのではないかと。この前の加藤政変の時も思いました。あの最後の仕舞い方で彼も終わったと思いましたね。政治をどう定義するかと言う問題も絡んで、言葉で人の行動に影響を与える営みなんだという定義があるんですね。政治は言葉によって人を動かしていくということならば、小泉や田中真紀子のような言葉に力をもった政治家の存在は理解することができるのではないか。
そして今後ということなんですが、極端な期待は萎むのが早いということでしょう。選挙が終わって、自民党の中の批判勢力が発言を強めてくることは必至で、すでに動きが出ているわけです。支持率も下がってきた。来年度の予算編成がはっきりしてきた時点で熱病が覚めたら、どうなるかということでしょう。自民党の最終局面という意味で、現在の状況は経なければいけない、そんな気がしています。
<言葉だけが踊る小泉改革の中身とは?>
D 花火大会の最後のフィナーレということでしょうかね。よく似た感想を持っているんですが、投票率があまり伸びなかったですね。本当に政治に国民の関心がもどってきたのかという問題もあるんですね。それは、マスコミの報道などで小泉人気だけが先行して国民が煽られたわけですが、政治への関心が国民的にどうだったのか、意外と覚めた国民も多かったと言うことなんでしょうか。もうひとつは、どうせ自民党が勝つだろう、それならば遊びに行こうか、ということ。
もうひとつは、選挙の争点の、改革か、改革反対か、という2者の対立みたいなものが吹聴されたけれど、改革の中身が見えないということ。既得権益をなくすとか、国家行政をスリム化するとか言われるけれど具体的に何をするのかが見えない。例えば国債の発行を抑えるとかは少し出ていているけれど、まだまだパーツパーツなんで、どういう体制をめざすのかという点はまだ不透明ですね。ただ言葉だけが踊っているわけです。マスコミ的に「抵抗勢力」対「改革派」みたいな構図が全面に出されて、単純な対立図式がマスコミ的にはセンセーショナルなんで、対立構図が先行して具体的改革は逆に後景に退くということになっている。
危険性を強く感じるのは、抵抗勢力だということで改革に反対するのはけしからんと、ちょっと反対意見を言うとけしからんと、先日の朝まで生テレビでもそうでしたね。国会の党首討論でも民主党に抗議のFAXが届く。一種のファッシズムを感じるんです。その事について、本当の「抵抗勢力」かどうか、反対意見を言うことがいけないのか、そこに危険性を感じます。
小泉人気について、確かに言葉にメリハリがあるわけですね。「人がどう言おうと私はこう思う」というような、はっきりした発言をする政治家が受けているわけです。これは右や左を問わずです。例えば小泉、田中真紀子、田中康夫知事、石原慎太郎など比較的保守系に多いけれど、言葉をはっきり言うわけです。皆に受けようとすると言葉は曖昧になりますね。それが国民から政治不信を生んできた面もあるように思います。例えば抵抗勢力だと言われている鈴木宗男なんかでも、結構人気がある。言葉をはっきり言うというのは、これからの政治家には求められていることは確かだと思います。
そういう意味では、例えば共産党が改革政策を出したかどうかわからないんですけれど、言葉ひとつ取っても国民に対してわかりにくいわけですね。
<現状への不安と小泉人気>
小泉人気ということでは、国民の中に現状不安感が強いということが言えると思います。現状に不安感があって、誰かが何かを変えてくれるという期待感、ムードが強い。本当に不安なのは、金融資本の再編に対して徹底して会社分割法とか、企業再編が行われるにあたって、それを促進するための規制を緩和するための改革であったり、国のスリム化を進めるにあたって、この事は労働側から見れば雇用不安に直面するわけです。現状でも300万とも400万とも言われる失業者がいる、そして今後銀行やゼネコンの再編によって100万人以上が増えるとも言われているわけです。これに対するセイフティネットは何も準備されていないわけです。選挙の終盤に自民党の雇用対策が出されたんですが、従来の職業訓練枠を増やすというだけなんです。民主党もこれに対しては十分な政策を対置できてはいないんですね。リストラや雇用不安に直面している労働者は、どちらの政党にも投票しないと思うんですね。職業訓練をただ受けただけで何とかなるという世の中ではないんですね。中高齢者については、職業訓練を受けたとしてもそもそも雇用は厳しいわけです。そうすると先ほどのとおり、小泉支持率も今後下がる、失業もどんどん増えるということで、その時の社会状況はどうなるのか。民主党も有効な対抗策がだせないとしたら、その向こうはどうなるのか、そのことを考えると、本当の意味で私は不安感を覚えるわけです。
<小泉改革は、新自由主義を純化させるか>
A 森さんが悪い印象をすべてかぶってという話がありましたね、これまで参議院選挙は七夕選挙といわれたように7月上旬に行われてきた。それを投票率が上がると不利だということで、自民党が7月29日という夏休み期間中に敢えて設定した。それは小泉政権になる前の話で、森総理などを前提にしてのこと。それから、選挙制度改革で、非拘束名簿制の比例選挙に変えている。いずれも自民党が決めたことだ。
投票率が低かったということだが、世間は夏休みです、そして暑いんですね。29日の正午ごろでも投票率は25%前後で、それからも伸びないわけです。前回の参議院選挙は、時間延長で午後8時までになって、午後6時以降結構投票が伸びたんですね。
この二つは自民党が勝手にやったことなんですが、ことごとく外れたわけです。ただ、小泉人気で救われたと言うことなんです。自民党の戦略性なんてのは、実際はひどいものだと思うわけですね。
小泉改革への批判点として、新自由主義に純化しつつあるという評価がありますね。痛みを伴う改革だとか、自民党が本当にシフトを変えてくるのかどうか、この辺を注目してみています。先週の『エコノミスト』に興味深い文章が出ています。要するに、橋本派は『小泉改革』を見切っている、小泉の改革など自民党の政策の枠内で収束する、だから敢えて「抵抗勢力」だと、表に出る必要はなく、ただ見ているだけでいいんだ、という内容でした。郵政民営化も3年後の公社化は決定しているし、首相公選制や憲法改正も5年以上かかる問題で、小泉自身がそれまで首相でいることはあり得ないと。参議院選挙でも橋本派が増えたわけだし、小泉降ろしをしない限り、いずれ政権は橋本派に戻ってくる、という内容でしたね。
小泉は人気がだんだん下がるけれど、総選挙はしないだろう。3年もあるわけだ。そういう意味では、公明党との連立問題が今後火種になるのではないだろうか。都議選でも公明が出ていない選挙区では民主党候補に公明が票を回したという話もあり、公明にとって自民党圧勝ということは連立の意味が薄れるということを一番気にしていると思う。政権与党であり続けたいけれど、現在の経済状況で「改革の痛み」は、公明支持層に一番きついということは深刻だ。
選挙後、NTTの合理化問題、50歳以上は退職、または別会社へ行って大幅賃下げになるという提案や、三菱自動車が8000人の規模で早期退職募集をしたら1日で18000人以上が応募して受付を打ち切った話、さらにNECなど電機産業での経営不振と合理化、松下の45歳早期退職制度など、IT不況が今後一層深刻化するというなかで、小泉政権がどんな評価になるのか、これはまだ不明というところでしょうか。
<民主党は、なぜ負けたか>
民主党の評価と言う点です。なんで負けたのかということなんです。法定ビラが3回出ましたが、雇用対策などで自民党とどれだけ区別できたのかというと、自民党の『衣替え』に即時の対応ができなかったということだと思うんです。そして、公共事業の削減などの政策も自民党に取られたという面もあるけれど、同じ言葉にどれほどの信頼性があるのか、そういう意味では自民党が言い出すと、政策の中身と実行力みたいな部分では、先ほどの「言葉の力」との関係で、民主党よりも自民党の方にまだ「信頼性」は国民の中にあるのかな、という気もしますね。
この結果について、民主党なり連合にはかなり深刻な雰囲気がありますね。
C 大きな話は後でやりたいんですが、興味深かったのは比例代表の組合票なんですね。それぞれの地域での票がでたでしょう。組合内部ではどんな総括がされているんですか。
一番多く票を取った電力の候補でも25万票ですか、全部合わせても150万という結果ですが、これが民主党内の評価、また連合内の評価がどうなっているのか、非常に興味を持っているんですが。
A:どの産別候補も、居住組合員X2みたいな票を基礎に、予測していたと思うんですね。20年前の全国区選挙との比較という意味でもね。なんぼなんでも60万くらいは出るだろうと思っていたわけでね。しかし、電力総連も支持署名を300万集めたと言っていたわけですが、それでも25万票ということですから、大きなショックを受けているわけです。100万人の組合員の自治労でも21万ですからね。はっきり言って、まだ深刻な総括に入れていません。各県、各自治体毎の票が出ているわけで、妙な方向に行けば責任問題にもなる。ちょっと置いておこう、というところではないかな。
確かに、組合の組織力の低下という評価はできるかもしれないが、ただ、個人名ではない民主党という党名での投票がかなりあったということは言えると思うんですね。非拘束名簿制という制度改正そのものが徹底していなかったわけです。このことは、選挙終盤になってはっきりしてきたことです。
C:公明党は個人名で、というのが浸透していましたね。
B:混乱しなくていいんですけれどね。私のところにも、3つ以上の陣営から電話が入りましたけれどね。
C:比例区の順位を政党ではなく票で決めると言うことなんだから、本来は大きい組織は有利ということなんだな、きっちりやればね。ただ政党名での投票をした圧倒的多数の人にしたら、ふざけた制度ということにもなりますね。政党に入れたら、組織代表の人が多数当選するというのはね、政党の側では特色を出せないということでしょう。
<複数区では議席を守った民主党の評価>
A:大阪では選挙区で民主党山本たかしが勝ったでしょう。しかし労働組合は、比例区と選挙区の力の配分は、8:2で比例区重点だった。他の産別もそうだったはず。比例区は○○、選挙区は山本、とどこも徹底したわけだ。マスコミは、そうした産別の力が選挙区候補を押し上げた、という評価をしているが。そういう意味で、山本の勝因はまだはっきりしないんだな。
C:民主党に入れる人は、山本に入れるんじゃないの。
A:山本の場合は、大阪市内で3万負けて、府内で4万近く共産候補に勝って、当選したわけだね。同じように、北海道、埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、福岡と複数区の選挙区では民主党は議席を確保しましたね。共産党に勝ったという意味で、大阪の場合は充足感があるよね。共産党が退潮ぎみで、喜んでいいのかな、という気もするけれどね。
C:政界再編でガタガタしたけれど、この2回の国政選挙で第2の選択肢としての民主党の位置というのはそれなりに固まったという気がしますね。ただ、89年の選挙が、自民党1400万、民主党1200万なのに、今回自民党2100万、民主党890万という結果というのは異常な気がしますね。自民党が700万も票を上積みしたわけで、とんでもない話なんだ。自民党に替わる政党としての民主党の位置は固まったとは言えると思います、ただ、選挙に勝った負けたという話ではないな、と思います。
A:今回の比例区選挙は、今後深刻な総括がいるとは思うけれど、従来型の労組選挙に限界がきていることは間違いがない。労組型選挙というのは、組合員とその家族、紹介者の支持を固める、というのが基本。しかし、先ほどの「言葉の力」やマスコミ効果ということを考えると、自民党が2100万を取ったということに象徴的なように「マス」がどう動くか、ということとは無関係なところで、労組選挙があるということだ。労組OBを参議院に出す、ということが果たして、市民的にはほとんど意味がない、ということをどう考えるのか。
<対立軸はどこにあるのか>
C:これまでこの意見交換会に出てきているんだけれど、ずっと気になっているのが「対立軸」ということです。ただ、今、私には、初めて見えてきたような気がするんですね。実際には、今回も対立軸はなかったと言ってもいいぐらいなんですが。改革が見えないというけれど、「改革する」ということはみんな同じだった。改革しないといけないという点では、どの政党も一緒だったわけですね。そしてそれは概ね間違ってはいないと思います。
それでは、今後何が対立軸になっていくのかという点ですが、それを意図的に整理していくことが大事だと思います。そして、対立軸は個別の政策にはないと思うんですね。もっと大きなレベルの底流の、「拠って立つ所」の違いによって出てくるのではないかと思います。
今回、見えてきたなと思うものには、ふたつあります。ひとつは、20世紀型福祉国家の「大きな政府路線」というのは成り立たないということです。ある意味で成長を前提とした産業国家の裏返しのような路線は成り立たない。では、次の対立軸は何なのかというと、「競争を重視した激しい社会」と言いますか、「より競争力のある人が勝ってたくさん得るものがあり、取れない人はとことん落ちるという社会」か、「一定の範囲で競争優位に立った人は所得が増えるんだけれど、一定の枠があり、ひっそりと生きるというか、落ち着いた生活をする人は、それはそれで生きていける社会」をめざすのか、という二つの選択肢があると思うんです。
<新しい社会のビジョンをどう描くか>
小泉さんは、もともと「構造改革なくして景気回復なし」と言っていたが、微妙に変化して「構造改革なくして成長なし」と変えてきた。改革をして違う成長を求めるということですね、そういう路線なんです。より競争力のある産業を創造して、新しい成長を、というね。シュミレーションでも平成14年までは雌伏の時期で、それ以後は黄金の時代だ、などとね。年2%くらいの成長を実現すると。しかし、そんなことはもうないというのは自明なのではないでしょうか。実はこれだけリストラやって失業が出てもやっていけるというのは、社会が豊かだということなんですね。だから、はじき出された人がどう生活していくのかを含めて、少々活力がなくなろうが、職住接近でゆったりと生きていこうという割り切りができないものか。そしてがんばろうという人には、努力できる環境が保障される、そういう社会のビジョン、これも「小さな政府路線」ではあるんだけれども、こうした新しい社会のビジョンを出していく事が必要なのではないかな。
そうした基礎的な考え方ががっきりすれば、個別の政策にメリハリも出てくる。そして、内政的なビジョンがはっきりすると、外交をめぐるビジョンにも反映して分岐が出てくる。現在の小泉と田中外相との対立もそうだと思います。間違いなく小泉の路線はアメリカ追随ですね。ミサイル問題にしても環境問題、京都議定書にしてもブッシュに引っ付いていくというね。アメリカというのは、経済成長中心の国益中心国家で、そのアメリカ中心のグローバリスムに追随する路線ですね。世界的に見ればそんなことにはなっていない。EUも人類益を意識しながら多元的な価値の共存だとか、社会的規制をしながら「落ち着いた社会」を目指している。ワークシェアリングを進めるオランダモデルの話などは象徴的ですね。
日本をとってみれば、周辺諸国に経済や政治で圧倒的な指導力を発揮するようなパワーなど、もはやないのははっきりしている。世界的に見ればアメリカに対抗するもうひとつの核は、今やソ連ではなく中国です。中国・EU・アメリカという3極構造の中で、日本が韓国やアジアに警戒心を呼び起こすような国になる危険性があるという議論は、日本に対する過大評価でしょう。日本がアジアの中での身の程を知ってね、アジアの中で居場所を見出して信頼を勝ち取らないと、生き残れるはずがないんですね。だからこそ戦争責任問題もはっきりさせていく必要があるわけです。そう考えると、小泉さんの頓珍漢な対応では足元がすくわれることになると思う。靖国問題もそうですね。
こうした戦略的な方向をはっきりさせないと民主党も、景気対策や経済成長、活力などの問題に振り回されることになる。それを脱皮しないと、自民党との違いが出せないと思います。
A:ゆったりした生活とか、ゆったりとした人間関係とかね、多元的で人権もしっかり守られてね、みたいな路線は意外と求められていると思うな。
C:民主党も労働組合との関係があるし、労働組合というのは企業との関係があって、経済活性化とか産業育成、雇用確保などでは、自民党と同じスタンスになってしまう。先ほど言った社会を描こうとすれば、やはり地域政策ですね。財源問題含めて国の成り立ちを分散型の社会にしていく必要がある。これまで権限と財源を中央に集中する体制を作ってきたわけだが、ゆったりとした社会にするためには、その配分を変えていく必要があるわけ。めざすべきは、そんな世界じゃないのかな。
<政策論争をさせない選挙制度>
D:話を戻しますが、前の小選挙区制導入の時にも発言しているんですが、現在の選挙制度が、政策論争をさせないような、まるで選挙運動禁止法のような実態があるんですね。テレビでも、公示後は討論禁止だとか、立会い演説会もできない、もう連呼しかないみたいなね。共産党が元気なくて、体力が落ちているというのが退潮の原因だとも思うんですが、政策論争がしにくいという意味で、問題のある公職選挙法というのが実態なんですね。
対立軸の問題ですが、改革の中身がない中での、改革派か抵抗勢力かということに終始してしまったということとの関連で、選挙中に民主党が「私たちも改革に賛成です」という法定ビラを配っていまして、これは違うだろうと思いましたね。改革の具体論が提示されたいないとしても、本当に改革するのは私たちです、というべきですよね。小泉の改革ムードに流されているという感じがします。そこで改革の対立ビジョンとは何かという事なんですが、より一層の自由競争に基づく競争の激化と産業企業の変容ということなんですか、そこでセイフティネットが出てくる。つまり最低限の生活保障を明らかにした上で、その上で競争をすると言う意味でのセイフティネットの提起が出し切れていない。民主の側が出すとしたら、セイフティネット型社会の構築みたいな政策になるのかな、僕だったら、そんなビジョンを出したかな、と思います。それがビジョンにおける明確化ではないかな。
<個別政策と新しい枠組み>
C:僕自身、まだ描ききれていないんですが、たぶんその枠組みというのは、旧来の20世紀型の産業社会を前提にしたパラダイムの中にある発想では、対立軸としては描ききれないのではないかと思う。競争に力点を置くのか、セイフティネットに力点を置くのかというのは、大きな観点からは同じ土俵にある議論なんですね。例えば、個別の各論のレベルでは自民党だってセイフティーネットを言うと思うし、民主党も言うと思うんです。個別の政策議論では、自民党の中の一部と民主党の一部の議員がよく似た傾向の意見を持つこともあるし、党内は、結構モザイク模様というのが多いわけです。同じ政策を掲げていたとしても、大きな選挙を前提にした場合、有権者は、大きな底流というか、個別の政策を位置付ける戦略の中での個別政策を理解して、政党を選ぶということになるわけですね。そういう意味で個別政策での政党選択はだんだん不可能になってくるのではないでしょうか。
基調の部分で、方向を指し示す中でこそ、個々の政策が生きてくると思います。例えば、アメリカに着いていくのか、アジアとの協調を重視するのかとかね。経済問題でも活性化をめざさないとは言いにくいとは思うけれど、そういった方向にトーンを変えていって具体の政策を位置付けることをしないと、民主党は自民党との違いを出し切れないのでは、と思います。まだ自分もきっちりと明確にはできていないんだけれど、単なるセイフティネット強化論ではなくて、基調の部分を転換できないとね。そんなことを漠然と思っています。そこが描き切れたら、自民党と違う一人前の政党に民主党もなるんじゃないかな。
D:で言えば、Cさんの言うように、例えば今回の小泉人気について言えば、客観的な背景として背景に強烈な社会不安があるわけです。それが何かやってくれるという期待感と結びついたわけで、私の言うのは、むしろ当面の闘争方針のようなものとして発言しているんですが。具体的なセイフティネット策を明らかにできれば、もっと有権者に訴えられたと思うんですね。例えば年金などの社会保障制度とか雇用対策で安定雇用の社会政策などをね、そういう事をきっちり出すことが重要だったのではないかとね、今回の選挙についてね。
C:例えば社民党のように、年金制度を充実するとか、就業保障のための制度を確立するなどという「単一課題」を全面に押し出して一定の勢力を維持しようという野党の選挙ならいいのだけれど、すべての国家システムを整理して、実現可能な現実政策を打ち出すべき民主党としては、中々、個別課題をポッと整理できる話ではないのではないですかね。
<抽象的な痛みは理解できても・・>
A:今回の選挙で言えば、KSD疑惑だとか、特殊法人改革、天下り問題、外務省の機密費問題とか、今まで50年間日本を引っ張ってきた様々な国家や政財界のシステムに対して、もうだめだという感じは国民の中に明らかに存在していたわけ。昨年の衆議院選挙で、民主党が公共事業の見直しを全面にしたときも、国民は理解を示したわけだ。そうした怒りの票をさらっていったのが小泉だったわけだ。「痛みを伴うけれども実行するんだ」と、言葉に力のある小泉が言えば、こいつならやるかな、少々の痛みならしょうがないか、ということになったわけだな。
ただ、痛みの中身だけれど、あなたの失業手当は2分の1になる痛みですが、耐えられますか、とは言われないんだ、システム改革に伴う痛みという抽象的なものだったわけだ。
Dさんとは、選挙中にも話をしていてあの民主党のビラの話になったね。中折のビラで確かに表は、民主党の改革に賛成だとなっていたけれど、中を開くと6つの点で自民党と民主党の改革案の比較がされているんだ。
C:その民主党のビラは、中々特徴的でね、実は今回の選挙は、ビラの表の「改革」が中心で、中身の個別政策まで議論にならなかった、というのが特徴ではないか。改革への姿勢で国民は選択したんじゃないかな。改革に対して積極的か、そうでないかという姿勢をね。改革への姿勢が問われた選挙だったんだな。
自民党は、自民党でありながら自民党ではない、という小泉を押し立てて信任を得た。共産党や社民党は、各論に入る前に、改革の中身に入る前に、改革に否定的で従来どおりの政策を唱えて、結局支持を広げることが出来なかったという結果になり、一方自民党は国民に対して最後の大きな課題を背負ったということじゃないのかな。終わりのはじまりだ。
A:選挙後特殊法人の改革問題が具体的に出てきた。石油公団もそうだ。赤字垂れ流しの公団だが、廃止するためには1000億程度の税金の投入が必要ということだ。さあ、改革の中身の議論になっていたね。また国民負担だよ。
<ナショナリズムの問題>
E:歴史のターニングポイントというわけだけれど、経済的には日本はバブルの崩壊で違う状況に入って、そして空白の10年があって、これからは前のような成長はあり得ないし、今後は緩やかな成長ということになるだろうね。それに対応する構造改革の方向をどう出していくのか、確かに求められている。小泉は、はっきりわからないがアメリカ型のようで、それに対する対案が明らかではない。そこが問題なんだ。
特に危機感を感じるのは、小泉のナショナリズムの傾向だ。生駒さんも書いていたけれど、グローバリスムに対する反動として、いろいろな問題が出てきている。Cさんが言うように、もちろん日本が侵略するとかアジアの盟主になることはあり得ないわけだけれどね。失われた10年とは言うけれど、NPOなど平場の努力は続けられてきたわけで、そういう流れに水をさす結果になりかねないわけだ。国民の中にも不満が溜まっているので、ナショナリズム的傾向に流されている人も多いんだ。日本の状況に対して非常に狭い視野の傾向が生まれてきていて、我々もこうした傾向に対置していくことが求められているように思う。
<ナショナリズム批判の方法論について>
C:今日は生駒さんが来ていないから面白くないんだけれど、生駒さんの論調と、ちょっと感覚が合わないな、ものすごく古いな、と思うわけ。発想枠組みがね。変ろうとがんばっておられるんだけれどね。(A:おるときに言えよ!!) でも、残念なんだけれど古いよ、って言おうと思ってきたんだけれどね。例えば、古いなと思うのは、小泉の評価なんかね。教科書や靖国の問題にしても違う切り口から見ないと。
ナショナリズム批判も、ナショナリズムとは何ぞやという定義の話から議論をしないといけない。それで、今、アーネスト・ゲルナーの「民族とナショナリズム」という本を読んでいるわけです。日本で批判されているナショナリズムのことなんですけれど、ナショナリズムはどこでも生まれる現象ではなくて、沸騰するには一定の条件があるように思う。そういう観点では、抽象的な言い方で申し訳ないけれど、この種の動きをどう読み取るべきかという点で、過剰評価することで相手を強化する側面があるのではなかろうか。非常に漠然とした話ですがね。例えば、民間レベルでの多元的な運動は、そんなにゆり戻されることは無いと思うし、戦前と圧倒的に違うのは、アジア諸国のすごいエンパワーに日本の側が負けていることだと思う。
E:そうした動きが表面化してきたわけだけれど、いままでもやもやしたものが形になってでてきたわけで、対立点ははっきりしている。そういう意味でこれまで積み上げてきたことを対置していきたいですね。はっきり対置することが求められていると思う。
C:ただね、その対置する内容が問題だと思うわけ。いままでの紋きり型の批判、例えば新しい歴史教科書を作る会のあの教科書ですけれど、従来の論調での批判だけでは克服できないのはないだろうか。もっと根の深いところで捉えていかないといけない。例えば、日本が単一国家で単一民族だみたいな常識、あるいは縄文時代があって、弥生時代があって、古墳時代があって、みたいな西日本でしか通用しない歴史が学校で教えられてきたことですね。これは、網野さんが展開している日本論とか、「東西/南北考」(岩波新書)で赤坂さんが主張している日本の歴史の見方の違いに関わる話なんだけれども。作る会が「歴史は物語りだ」みたいに言っていることの根拠のなさみたいなところをもっと深いところで切断していかないとね。もっと高みに立って、国際的観点からも、「日本的」観点からも、何を子供じみたことを言っているのか、そんなことではだめになるよ、という批判の仕方の方がいいのではないかと思う。
<守るべき伝統のある>
A:僕自身も、やわらかなナショナリズムは容認するんですね。アメリカ映画でも結構海兵隊ものが好きだったりしてね。国のために死ぬなんてね、物語のなかではね。それから僕のおやじが大工でね、むかしから職人というのが好きなんですね。テレビ番組でも職人技の番組なんか好きですね。この間も金属関係の人と話をしていてね、伝統工芸や職人技をね、後世に残すみたいな事業を起こしてみてはどうかと言う話なんだが。現在の金属関係の職場もコンピューター化が進んでいるんだけれど、歯車や精密製品の最後の部分で職人技が残っているらしい。そんな技術を残さないと、製造業もだめになるんじゃないかという話をしたんです。伝統工芸や技術を残す事業をね、労働組合がファンドを作って行うことは決して無駄にはならないとね。ナショナリズムというわけじゃないだけれどね。伝統ということかな。
C:テレビ番組に「どっちの料理ショー」というのがあって、「本日の特選素材」というルポに出てくる人たちは結構高齢の人たちなんだけれど、見るとほっとする面があるね。
それから、先ほどのAさんの話の中で出た愛国心という概念には、二つの言葉があるんですね。ナショナリズムとパトリオシズム。これは別物なんですね。パトリオシズム、つまり愛国主義という、言語や文化を共有している国家とか郷土を愛する素朴な感情があるわけで、それをみんな一緒くたにして排斥してもだめなんですね。
ナショナリズムと言う概念は、ゲルナーによると、政治的な単位と民族的な単位が一致しないといけないと主張する政治的原理で、それが一致した時の熱狂、あるいは侵害された時の怒りをナショナリズムの感情と言い、その感情に動機づけられた運動のことだと言うんだけれど、実は前提となる国家という概念も民族と言う概念も非常に曖昧な概念ですよね。国家は200台の数で、一方、民族の分類に密接な言語の体系は8000ほどあるんですね。そこで不一致が起こっているんだけれど、でも、どこでもナショナリズムが起こっているわけではない。だから、ナショナリズムがどうやって起こるのかということをもう少し明確にする必要があるし、日本の中での議論で言えば、国家的なことに関連することを何でもナショナリズムとして排斥してしまう傾向があるように思う。
<ナショナリズムは勃興するか>
網野さんの説によれば、律令国家をつくった100年の間と明治維新以降の70年の二つ、合わせて170年だけが特殊な世界だと言えるそうだ。戦前の70年というのは、天皇を戴いて他国を侵略していった時代、「八紘一宇」ということで他民族を支配下に置こうとした時代ですね。ナショナリズムに満足心を持ち、且つ非常に抑圧的な時代だったわけ。そういう条件に今あるのかということを問題にしなくてはならない。アジア各国の主権に日本が政治的支配を及ぼすようなことはできっこないし、支配統一できる満足感も持ちようがない。そういう意味で、今の日本でナショナリズムが勃興する基盤はないといわなければならない。ナショナリズムが強化される基盤はないと思うんですね。
E:本当にないかな。
C:ただ、危険なものがあるとすれば今後、痛みの伴うかたちの政治的な改革が実行され、社会が極端に不安定になっていって、そこに他国の民族が、それこそ異なる言葉、言語体系を持った外国人が非常に大量に入ってきて、実際に自分の職業を脅かしたり、影響力を持ち始めると、ナショナリズムが非常に激化する可能性は大いにある。可能性が一般的にないというわけではなく、今の状況の中ではないと言えるのではないか。
E:流れとしては、外国人は今後とも入ってくるだろうし、一般論としてはないとしても可能性はあるわけだ。
<アジアの追い上げはすごい>
A:立場を変えて、私の場合はニュースステーションが見れない時間に帰宅するので、WBSを見ているんです。小谷さんのやつね。あれを見ていると、中国の労働者は、ユニクロの場合、月給が2万円です。2万円だけれども技能はすごく高い。昔は「安かろう悪かろう」だったが「安くても良いもの」ということになっている。アジアの労働者は、ベトナムでもどこでも同じ状況なんだな。賃金は安いけれど技能は高まっている。製造業だけではなくコンピューター技術でも、中国でもすごい数のコンピューター技術者が養成されている。昔からインドはよく例に出されるけれどね。現地の給料という事で安いというだけで、技能はそうとう高いということを忘れてはいけない。単純労働者が入ってくるというだけでなく、高度な技能をもった労働者が今後入ってくるという前提が必要ではないかな。そうした労働者が日本に大量に入ることは想定できるし、その時、明らかに排外的な傾向は予想されるだろうね。
B:来なくても仕事は流れますよ。
A:日本人は、日本がまだまだ技能が高いと思っているかもしれないが、ここ10年以内に確実にアジアの諸国が技能的にも追い上げてきますよ。活力が違うからね。小野瞭さんが言っている起業家社会の議論で言えば、負けちゃう可能性もありますよ。
C:例えば、日産でゴーンさんが社長になったでしょ。トップが外国人ですよ。ビシビシ、リストラしますよね。ああいうのが日常風景になってきますよね。企業であれ組織であれ、国際的なM&Aが進んで実権が外国の人に握られるという状況になって、日本の企業の実権が『日本人』でない人に握られるということになれば、確実にナショナリズムの傾向は強まるでしょうね。
B:僕はそうなっていくと思うし、そうなっていかないと活力を見出せないんです。つまり人脈や信用を破壊しないとベンチャーは上がっていけないんですね。仕事ができないんですね。ある種の品質を持っているだけでは日本では受注できないんです。海外からみてもそういうように言われてきましたね。自分で仕事を始める、起業しようとすると系列とか商習慣の壁にぶち当たるわけで、できるだけビジネス機会は公開されていないと困るわけ。フラットな条件で競争できる、競争といっても、がむしゃらに仕事をするんじゃなくて、サラリーマンが普通に仕事をするように個人でも起業して働いていける、本当にチャンスが公開されていくんですよ、というのがセイフティネットというんじゃないのかな。
E:そうかもしれないね。
C:貫いているのが合理主義の世界、例えば企業にしてみれば、国家とか民族というのは間違いなく不可解なものに違いないわけ。企業組織はそんなものを超越しているわけで、だからこそゴーンさんが社長になり、リストラをしているわけだれど、ただすべての人間が合理主義で動くわけではないし、合理精神で感情を乗り越える人ばかりではないわけだ。不合理の上にナショナリズムも起こるし排斥も起こる。だから、その摩擦が大きくなる可能性はある。今は表にでないけれど、今後その摩擦が大きくなる可能性は高いというべきかな。
<人権運動の対抗としてのナショナリズム>
E:僕は、逆に、合理主義というか人権主義というか、そうした運動の流れが強くなってきたから、反発としての「ナショナリズム」の動きが強まってきている、という考え方なんだな。だからこそ、こうした流れに対抗していくことが必要だということを、今回の選挙でもどこの言っていないんだ。
<オランダモデルとは>
B:構造改革というわけで制度のことが言われているわけだけれど、僕はひとり300万円くらいでね、誰でも生きていける社会が理想なんです。僕は子供の頃から、男が女を食わせるというのは嫌いだったんですね。オランダに友達がいるんですね、変ったやつなんだけれど、男ひとりと女二人で暮らしているんだけれど、女の子は姉妹なんだけれど、それは自由なんです。性的モラルも全然違うんですね。オランダは、空家があったら、占拠して3日たったら所有権が移るんですね。空家に入って暮らしているんです。800万とか違って、働いたり失業したりしながら暮らしているんですね。年に3回長期休暇があってバカンスも楽しんでいる。彼が日本に遊びにきた時に「クレージーだ」というんです。朝から晩まで働いてね。しかし、こうした現状から、ゆったりとした、安定した社会に誘導していくスローガンというのは、出すのは難しいですね。結果としてなっていくのかな、という気がしますが、 結果としてならないかもしれないわけですね。
情報政策が強化されて、新たな成長が生まれるかもしれないし、金融資産が1200兆円あるとけれど、ほとんどが高齢者のものですし、国家とアメリカが全部吸い上げて、最後は何も残らず、日本が普通の国になってしまっているかもしれないわけです。
いずれにしても、代表制としての政党が、言わば生活を切り下げるということを主張できるかどうか、非常に難しいとは思いますがね。
C:そういう転換をしてもいいと思っている人の中に、無党派層と言われる人が多いと思うんですね。無党派層は、従来の枠組みと従来のベーシックな発想、パラダイムと言って良いのかな、そんな枠組みでの有り様を覚めて見ている人たちのことで、そんな人たちが都市には結構いるような気がしてね。そういうところをつかむような打ち出し方ができるのかなと。
昨年の総選挙の後にも書いたんですけれど、オランダの場合、政権交替が起こったのはそんなに古いことではなくて1994年ですね。それまでの中道で支配していたキリスト教民主党政権が崩壊するんです。「紫連合」と言われる、右派自由主義と左派自由主義と社民党の連立政権ができる。そしてオランダの労働組合総連合の委員長が首相になるんです。そこで方向が変わって、徹底した自由主義路線に転換していくんです。ポイントは、ケインズ式の福祉型国家路線を社民党が放棄したので、連立が可能になったということです。
(続く) (文書責任 佐野秀夫)
参議院選挙 その結果をどう考えるか 意見交換会(その2)<No287に掲載>
<徹底した個人主義は日本で可能か>
C:鍵は、オランダではケインズ式の大きな福祉国家路線を社民党が放棄したので、連立が可能になったということです。
だから、ワークシェアリングで仕事を分け合い、何もかも国家がするのではなくNPOもどんどん活用していく仕組みにしようという事になったと思います。
ただ、オランダは徹底した個人主義の国で、日本で同じようなことが可能かどうかと考えると疑問もあるけれどもね。
A:日本はまだ「ムラ社会」ですからね。
C:そこに不安があるわけ。オランダはすごく他民族の国なんですね。そして個人主義で、それぞれが踏みこまないんです。だから、合わせるという文化がない。合わなければ別れましょう、という感じですね。「とことん話し合って仲良くなる」というの発想はないんです。とことん喧嘩すると宗教も絡んで最悪になる。一体化できるという幻想がないんですね。日本ではまだ幻想があるので、だから、個人主義に非常にマイナスのイメージがあるんですけれど、オランダ型の社会を作ってみようよ、みたいな呼びかけは可能じゃないかな、と思うんですね。
B:そういうのは、遺伝子的にいうと、緑の党という感じですね。すごいナイマーな政党ですね。民主党とか与党になろうという政党で言えるかどうかですね。経済成長して、所得を増やして、一家の大黒柱が家族を養えるというような家族観、国家観に則った言い方をしないと支持されないのでは。
C:その怖さを抱えていると、自民党と同じところから抜け出せないということです。
B:それは昔の社会党も同じですね。
A:例えばですね、契機として、土地価格がとことん下がるということが起こればね、ローンを抱えている人は大変だけど、まだまだ土地価格が公表されて下がってはいるんだけれど、部分的には上がっているところがあってね、、どこかに上がって欲しいという期待感が残っているんだけれど、徹底的に下がるというような刺激的なことが起こって、勤労者の夢を打ち砕くようなことがおこればね、新しい考え方も起こるかな、とも思うけれど。
<新しい働き方の価値観>
E:ナショナリズムの話に関わって、その話になっていると思うんだけれど、まずナショナリズムの話については、僕はかなり危険な状況だと思っています。さっきも言った社会の不安、例えば失業者がもっと増えていくとどうなるのか、ナショナリズムの方にいくのか、「開き直り型社会」の方にいくのか。どちらにしても外部注入というか、政治的なイニシアチブが必要になるということですね。
ただ面白いのは、最近、ベンチャーも一つの働き方ということだけれど、かなり失業者が増えていて、失業者の中から、言われているような傾向が出てくる可能性があると思いますね。別に雇用、雇用と言わなくていいよ、けったくそわるい、とね。あれだけひどい仕打ちを受けて、もう一度働きにいくより、自分で何とかしようか、とね。例えば農業に帰る、帰農というんですが。農業というのは、高額所得さえ望まなければ、とりあえず食べるいうことだけなら可能なんですね。あいりんやホームレスの人が結構、農業についているんですね。農村では田んぼを遊ばせるわけにはいかないし、耕す人がいないということで、結構需要もあるんですね。また、自分たちで企業を起こしていこうという人たちも多くなっています。決して大きな資本ということではなく、これまでの会社時代の顧客リストを利用したりして、月20万くらいでいいからのんびりしたいというわけだね。そんな考え方が出てきているんですね。ワークシェアリングというのもそういう事だと思うんですね。そんな考え方、働き方の価値観の変化は起こっている。
労働組合もね、雇用を要求することだけが労働運動ではなくて、労につけばいいんだということで、それがセイフティネットということなのかも知れないね。
A:労働者供給事業もできることなんだからね。仕事を作り出す方もね。
C:NPOなんかもね、地域の課題解決に貢献できるような事業、コミュニティビジネスといいますが、福祉・環境・子育て、介護などで、いわば小銭を稼いで、自分の生きがいと生活を充実させようという傾向はもっと強まると思う。
非常に駆け足で高度成長をしてきたわけだけれど、「ポスト高度成長」の社会をイメージすることから始めて、文明論的、文化的な戦略も加えていかないと対立軸を形成することはできないのではないかと思うわけです。そういうことを描くことを期待したいわけです。
<新しい長期ビジョンと具体的政策>
D:Cさんの話は、今日の参議院選挙総括みたいなことで言うと、かなり先の話かなとも思うわけです。それが真剣に議論されることもいずれ来ると思うけれども、言わば「当面の闘争方針」みたいなね・・・・
C:いや、逆に長期ビジョンを語れる人がでないと、小泉さんみたいな人には勝てないということです。
D:僕は逆に具体論の提起しかないと思うわけです。
A:具体論で言えば、農民と言うのは農業をやめても土地を手放さないですね。それで地方の土地の有効活用ができないですね。例えば年金でも厚生年金とか公務員共済とか教員の年金とかと国民年金の格差があるでしょう。それぞれが利害を持っていて、利害の調整がどういうようにされようとしているのか。小泉改革は皆に平等ということはないだろうし、小泉に投票した人は、自分の得にならないと思って投票したわけではないわけで、そこがねじれているならば、自分の利害にとって合致する政党に投票すればいいわけです。
もっと普遍的な、利害を乗り越えた課題、社会を改革していくプランということになれば、一般に理解されるというのは難しいかもしれない。嘘か本当かわからないわけだから。明治維新のように思想家が言ったとしても、実現していこうというのに一般的にはすぐにならない。なってから気がつく、結果としてそうなった、ということにもなるかもしれないですね。
小泉のやろうとしている改革が、今の利害関係の中で、どこの利害を代表しているのか、小泉自身がそんなものを超越してもっと社会の構造を抜本的に変えてしまうと口で言っているけれど、本当にやろうとしているか、どうかですね。
C:いずれにしても、どんな政策もそれを全体として調和させる背中を一本貫いたヴィジョンがないとバラバラになってしまう。一つの利害を重視することは、誰かの利害を損なうというゼロサム社会なんですね。100%皆が得をする社会は無いんでね、全体がちょっとずつ損をして、最大多数の利害で、少数の損害を調和して調和してとやっていくと何をしているのかわからなくなるということになる。大きなヴィジョンみたいなものをベースにして整理しないと、体系立たないし、有効じゃない。
E:今の方向が出るまでは、オランダだって、北海油田がでてバブルになって、そして落ち込んでオランダ病とまで言われていたわけだ。それを変えたわけだ。本を読んで見ると、その時労働組合の役割は大きいわけだね。結局企業側と賃下げの交渉をして、賃金抑制して、そのかわりワークシェアリングしましょうと、大転換をするわけですね。完全な路線転換ですよ。そして、労働組合の委員長が連立政権の首相になってしまった、ということでしょう。
C:やはり、そういう転換ができる人物がいるんですね。
<年金一元化とセイフティネット>
B:年金は、セイフティネットにすごく関係があると思うんですね。年金について、今支払っているのは、今使われているものという説明に変えましたが、自分たちが貰えるころには、残高がなくなる、みたいなことがありますね。僕らは年金制度は一本化してほしいんです。すべての人が例えば10万円はもらえる、そして団体別の年金はすべて廃止する、だから損をする人も出てくる。
E:今は、職域年金やね。個別利害は出てくるな。
B:年金制度の一本化に反対するのは誰か、たぶん民主党は反対しますね。
C:年金制度をなんで一本化するのか、と。10万円で一元化するという理屈はね、その社会的合意を調達しようと思えば、違う次元で説明がいるわけだ。どんな社会にするのか、という説明がいるのではないか。それを抜きに、一元化の話は出てこないんですね。そこが、さっき言った言葉で人の行動に影響を与えることが政治だとしたら、そういう個別の利害を乗り越えてこういう世界を作っていこうという合意調達の役割が政治だとすれば、それを言える政治家が出てこなければいけないし、世の中を変える時に、思想のレベルや理念の話がついてこない改革、革命はありえない。近代の革命である市民革命も、社会主義革命も、そして明治維新もそうですね。
E:社会が変わるときに、全体像が示されるわな。
D:いまなお、という時に、いまそれが直ちにニードなのかというと、そうなるかはわからんな。そういうのを出していかなあかん、ということは分かるけれどね。
C:間違いなく、ある意味での社会主義幻想というか、20世紀を支配した社会主義幻想は、崩壊したんですね。力を持ちえなくなったんです。
<労働組合も新しい発想で>
A:労働組合の話題も出たけれど、連合が800万人で150万票しか取れなかったということは、元気がないのは、はっきりしているよ、賃金は上がっていないんだから。NTT労組が参議院選挙で職場の組合員にオルグしたら、「おれの雇用はどうなんねん!」と言われる状況なんだよ。選挙どころではない、という状況も一方にあるわけ。連合が元気がないというのは、賃上げがとれない、それが基本的なところですよ、ベースはそこにあると思うけれど。
公務員だって3年連続の一時金マイナスだしね。労働組合がものを取ってきた、そこに依存してきたいままでのパターンが通用しなくなっている。「労働組合は抵抗勢力」とマスコミは評価しているし、いったい労働組合はどんな役割をするのか、この場の議論では新しい役割が議論されているけれど、役員を支配しているのは、組織維持であったり、面子であったりね。労働組合、とくに公務員の場合、労働基本権がない中で、公務員制度改革が強行されるということになった場合、労働組合が本当に生き延びられるのか、労働組合が生き延びることが主眼であるという考え方と、腹くくって一点突破していこうというのか。リストラされた皆さんと協力していこうという立場に立つのかね。労働組合の持っているファンド、組織をどう投入していくのか、ワークシェアリングもあるし。公務員給与は一面では確かに高い水準を維持しているわけだから、それを吐き出せ、と言われて中々できないけれどね。
E:僕は難しいのではと思いますね。だけど、オランダの場合は、賃上げを放棄したわけだ。
A:オランダの場合は、ワークシェアリングということで、そのかわりに余暇が増えたわけだ。
E:家庭の総収入と言う意味では、維持されたわけだね。物価も安定したわけで、家計の可処分所得が減ったというわけでもいない。そういうイメージが出せて、それを労働組合が主導でやったということが面白いわけ。
D:日本の場合は企業内労働組合ということで、難しい面もあるわけ。そして民間主要大手の労働組合の場合、労働組合の態をなしていないという現状だ。第二労務管理部的な役割もある。法的な36協定なんかも法律違反はできないから、やっているみたいな面もある。オランダの事はよく知らないけれど、ここまでではないと思う。自立的になっているかどうか、ということだろうな。
A:自治労というのは、平和・人権とか違う組織のコンセプトを維持しているから、違うレベルの議論はできると思うけれど。
<IT革命と景気・文化・雇用>
A:話題を変えたいんですが、IT革命と言われているんだけれど、景気や経済への影響は、本当のところどうなんだろうか。
B:IT革命というのは技術革新なんだから、生産性も向上させるでしょうし、文化そのものや精神生活そのものにも大きな変化をもたらすでしょうね。
僕らの世代よりの上の人は別にして、若い世代の人たちは幾つかの人格を持つようになると思います。ヴァーチャルの人格をね。一つ、二つ、三つ、四つとね。携帯電話もある意味でそうですね。精神生活の変化が社会生活にも現れるのではないかと。文化にも大きな影響が現れるでしょうね。今まで起こってきた人間関係をも壊してしまう、「お蔭様で元気に暮らしています」と言う文化・土壌も変化していく。顔が見えないどころか、本当の自分は今生活している自分とは違うんだ、みたいな人も増えてくるのではないでしょうか。
D:ITで景気が良くなるかということだけれど、ITというのはね、先端を走っている限りはいいんですね。しかし、2番手3番手はもう経済への先導力はないんですね。そういう意味で全体への経済効果は期待できないのではないか。僕の関心は景気がどうなるかではなく、雇用がどうなるか、という点なんですが、景気がよくなることと雇用が安定することとは一致しないので、企業はリストラして贅肉落として立ち直って、もう一度人を雇うかというとそうはならない。森内閣の時にいろいろ言ってましたが、ITで雇用が拡大するということにはならないと思っています。経済界・産業界もITで雇用拡大なんていうのはとんだもないと言っています。雇用を少なくするための技術革新なんですからね。
A:僕らなんかは、技術革新の結果、小企業でもやっていけるんですね。今まで考えられなかったことです。何千万、何億という資金が要ったんですね。DTPでね。仕事のシステムの中で、技術革新というのは働き方の自由度を高めてくれているとは思うんですね。ついていけた人はね。
D:SOHOというやつだね。
A:付いていけた人は、救われたということですかね。
C:仕事でIT政策関連に関わっているんですが、ITというのは、これはすごい転換で、機会費用や取引費用を軽減するんです。いままでならすごい装備を抱えていないと国際的な貿易や取引もできない、その設備投資のためには資本が要るというわけ。ところが、今では電子メール一つで取引ができるし、ソフトウェアだって自分で買わなくてもフリーの物がたくさんある。そんなわけで、組織はそれに伴って小さくなりますよね。大きな企業などというのは、20世紀型の組織です。日産にしても、飲料メーカーのウェルチだって、リストラするだけであれだけの利益が出るわけだから。そういう意味でIT社会というのは、組織を小さくしていくんですね。効率化されるということは、GDPを減少させていくことにもなる。そういう意味では景気がよくなるはずがないんですね(笑)。どんどんコスト削減できるわけだから、景気がよくなるわずがないわけ。そういう意味で生き方を変えるような理念が追いつかないと、先ほど来言ってきた「開き直り型社会」に対応できる思想と政治の体系、社会の仕組みと言うのはというのは、IT社会の進行と競争の激化の中で、もうすぐそこに来ているのかもしれないな。
D:そういえばそうですね。
C:だから理念の方を追いつかせて、ヴィジョンをはっきりさせて、うちの方が新しい社会を考えていますよ、自民党ではできませんよ、と言わないと民主党に将来はないんではないかと思います。
<再チャレンジできる社会>
A:競争社会という意味でね、今までは100人いれば20名の「成功者」を産む社会だったとすれば、中どころが50名くらいで、最下層も20名だったとしよう。今後考えられるのは「成功者」は5名になり、中くらいが70名になる社会と考えてみよう。今の学生達は、就職志向は大企業なんだろうね。でもそれはもう不可能なんだ。今の親たちは、こうした社会の変容の中で子供をどう育てようとしているかなんだな。そこにセイフティネットの鍵があるような気がするな。セイフティネットの対象は、一番下の人たちのためのように皆考えているんだろう。「落ちこぼれ」みたいな感じで対象を想定しているのではないか。競争とセイフティネットとの関係なんだけれどね。
C:今までの「中流」というのは、もっと落ちるんですね。
B:生活保護みたいな受け止めではなく、再チャレンジみたいな、事業が失敗しても再挑戦できる、やりなおせる、3回くらいまでは罰点が付かないとかね、そういう社会をセイフティネットのある社会というべきではないのかな。
C:福祉国家における「生活保護」みたいな概念ではなくてね。
A:起業者のためのセイフティネットやね。
B:事業が失敗したから、自殺するみたいなことのない社会ね。それだけ追い詰められる社会なんだな、現状は。
C:その辺の価値観の変化が必要でしょうねね。この話は、小野瞭さんの「万人企業家論」とつながる話だろうし、一度最近の話が聞きたいですね。 (終)
( 文章化責任は、佐野にあります)
【出典】 アサート No.286 2001年9月22日