【投稿】コロナ禍に便乗する軍拡策動

「病院船」は感染症対処に有効か

1937年、日中戦争の拡大に際し近衛文麿内閣の杉山陸軍大臣は、昭和天皇に対して「事変は2か月でカタが付く」と大見得を切った。しかし戦況は激化、38年1月に近衛は「(蒋介石の)国民政府を相手にせず」と講和を放棄し戦争は泥沼化、40年の東京オリンピックも中止に追い込まれ、日米戦争へと突き進んだ。

2020年2月26日安倍は「新型コロナの抑え込みには今後1~2週間が極めて重要」と楽観的見通しを示したが、感染は拡大の一途をたどり、一斉休校など効果不明の弥縫策が行われるのみである。

PCR検査や効果的な経済的支援などの対策は放棄され、1億総活躍ならぬ1億総感染=集団免疫戦略=ハイリスク層放置という泥沼へ突き進んでおり、オリンピックの動向を含め、80年前と同じ事態が進行しているのである。

脅威を利用し軍拡が進められるのも同じである。「ダイヤモンド・プリンセス号」の惨禍を口実に、再び浮上したの「病院船」建造構想がそうである。

3月3日、与野党の有志議員が参加する「病院船建造推進議員連盟」が7年ぶりに会合を開き、名称を「災害時多目的船(病院船)建造推進議連」に変更、早速5日に政府に早期の建造を要望した。

これまでの政府対応の総括抜きに「ハコモノ」さえ作ればよいと言う安易な考えであり、その具体案も、2013年3月に内閣府(防災担当)が報告書として示した「災害時多目的船(病院船)」とほとんど変わりないものである。

そもそも、病院船はどの国でも戦時に傷病兵を治療する船舶として整備され、日本も太平洋戦争中は陸海軍が多数の病院船を運用していた。しかし戦後は再軍備が進んでも、軍事予算は兵器優先、さらには戦場医療の軽視などから保有への動きは起こらなかった。

しかし、阪神淡路大震災で災害派遣という観点からの建造が提起され、その後立ち消えになっていたが、東日本大震災で議論が再燃し、件の議員連盟が結成されたのである。しかし「検討の結果」既存の海自艦艇や民間船舶に、陸自の野外手術システム(コンテナ)を搭載することで対応可能(実際は戦闘艦の建造優先)とされ、議連は開店休業となった。

それがまたぞろ今回のコロナ禍を口実に復活したのである。この「病院船」の性能諸元は、全長200m、全幅30メートル、3万5千総トンで速力25ノット、患者ら1000人を収容し、建造費は250億円と見積もられている。

病院船のイメージ

新たな案では今回の状況を踏まえ、医療ユニットでは対応が難しい感染症対応の個室も整備するとしている。

しかし今回の「DP号」の事態を見ても、「病院船」は感染症対策に有効とは言えない。船から船に感染者を移すよりも、陸上での医療設備、システムを構築、整備する方が現実的かつ有効であろう。

また1000人収容と言っても病床数は不明で、「DP号」などクルーズ船の乗員からはキャパ不足ははっきりしている。今回、多数の感染者を岡崎医療センターに受け入れた、藤田医科大学病院の約1400床を始め、1000床以上の病院は全国で21か所あるのだから、これらでのICU(人工呼吸器)の増設などの整備が先決であろう。

インフル特措法(改)では臨時病院開設のための土地収用が盛り込まれた。これは武漢の「火神山病院」などを念頭に置いたものだろうが、有事法制における私有地での「陣地構築」と同じ強権発動である。宝の持ち腐れになりかねない「オリンピック選手村」などを活用すべきだろう。

 

「病院船」は揚陸艦か

実際の「病院船」の目的は、とってつけた様な「感染症対策機能」より、13年の報告書で示された案から踏襲された「被救護者を輸送するためのヘリコプター」及び「ホバークラフト」の運用であろう。

これは「病院船」を海自が運用することを前提として「エアクッション型揚陸艇」(LCAC)を積載するものと思われるが、現在アメリカや中国など、各国海軍が保有する病院船でこうした機能を持っている船は無い。

普通このような船は「ドック型揚陸艦」とされ、海自では「おおすみ型」輸送艦がこれにあたる。新たな「病院船」にこうした機能、さらには大量の物資積載能力を持たせるのは、「揚陸艦もどき」を保有するのではないかとの疑念が生じる。実際、国際的には揚陸艦に病院船の機能を持たせている事例が多いのである。

ドック型揚陸艦

「病院船」の速力は25ノットであるが、これは「2か所の拠点から全国の沿岸部に24時間以内に到着するため」とされる。一方アメリカ軍の病院船は17,5ノット、「おおすみ型」やアメリカの最新鋭ドック型揚陸艦でも22ノットである。

サイズも「おおすみ型」より一回り大きく、「ひゅうが型」ヘリ空母に匹敵する。こうした優速で揚陸機能もそなえている「病院船」は、高速揚陸艦と称しても過言ではない。現在自衛隊は南西諸島への長距離輸送に、民間のフェリーや高速船を、国策会社である「高速マリン・トランスポート」からチャーター=「徴用」(同社のフェリー「はくおう」が「DP号」事態でも対処部隊の拠点として使われた)する一方、陸自も独自の輸送艦建造も計画するなど、輸送力強化を進めているが、「病院船」も大きな戦力になると考えられる。

「病院船」といえども戦時には塗装を変更、最低でも赤十字を消せば良いわけである。また通常非武装であっても、空母へ改装予定の「いずも型」に搭載している近距離対空ミサイルや対空機関砲程度なら、後日装備可能である。

また、1月には震災関連シンポで川崎重工の参加者から「災害救助船」のコンセプトが提案された。この船は全長220m、2万5千総トン、速力30ノットで医療支援のほか食糧輸送、供給、資機材・車両等輸送さらには指揮を考慮し、ヘリコプターやエアクッション型揚陸艇も搭載するとされており、機能も外観もドック型揚陸艦そのものである。

災害救助船のイメージ

「災害救助船」が具体化するわけではないが、「病院船」がこれの機能を取り入れ、より軍事作戦遂行能力を加味した船として計画されていく可能性もあるだろう。

また現実問題として、建造費のほか、現有艦艇の医官はおろかクルー確保にも四苦八苦している状況から、平時は他省庁が運用し戦時には転籍させるという裏技も有りうるかもしれない。

河野は、「病院船」に理解を示しつつ、これ以上自衛隊のリソースを災害派遣に割くのは無理があるとの趣旨の発言をしている。今回の「DP号」を始めとするコロナ対策支援では、自衛隊の感染者は出ていない。しかしアメリカ、イタリアでは揚陸艦乗員に感染者が出て動揺が広がっており、防衛省もコロナ対策特別手当の給付を明らかにするなど、隊員の士気の維持に躍起となっている。

感染拡大に乗じて進められようとしている「病院船」計画であるが、太平洋戦争末期の1945年8月、追い詰められた日本軍は国際法に違反し、本物の病院船で兵員、武器を輸送した。この事件の一週間後、大日本帝国は無条件降伏するが、日本人だけでも300万人以上が犠牲となった結果を招いた近衛、杉山らは敗戦後自殺に追い込まれた。

今回のコロナ禍では政府の無為無策が続き、感染率が80%になれば、致死率1%でも約100万人が死亡することになる。戦禍に匹敵する被害が生じれば、安倍政権の責任は重大である。同時に野党は火事場泥棒のような軍拡に安易に与ぜず、抜本的な対策を求めていくことが求められる。(大阪O)

 

 

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