<<「最悪期はこれから」>>
パンデミック危機の拡大が、経済危機の進行と結合して、新たな段階に突入し、すでに「コロナ恐慌」と言われる事態へと進展している。新型コロナウィルスの蔓延は、昨年来、醸成しつつあった世界経済の危機の進行を、急速かつ世界規模に拡大し、経済の縮小・凍結の深刻さは未曽有のものになろうとしている。明らかにこれまでの経済危機とは異なった様相を呈している。
その際立った特徴は、経済恐慌の進展がパンデミック危機と結合したことによって、これまでにない過去最速のペースであること、なおかつ金融システムの崩壊と実体経済の崩壊が、段階的ではなく、同時的に進行し、圧倒的多数の人々の社会的経済的文化的生活の全面にわたる危機をもたらしていることである。なおかつ、この危機に便乗した専制的・独裁的手法が、情報の徹底的公開と透明性をないがしろにし、民主主義的コントロールを棚上げにし、人びとの連帯と協力、同意、参加を求めることなく、幅を利かせていることである。しかもこの危機の進行は、今始まったばかりであり、簡単に収束するどころか、「最悪期はこれから」、まだまだ予期しえぬドミノ的な危機の進行が待ち受けている可能性が極めて大きいことも、その特徴と言えよう。こうした特徴はいずれも、どれ一つとして過小評価できないものであり、危機を克服する、打開する道筋の対策に欠けてはならないものであろう。
すでに3月に入ってからの株式・証券市場での暴落で、時価総額25兆ドルもが蒸発したと言われる(ブルームバーグが86カ国の証券市場の時価総額を集計した結果によると、3/19現在これらの国の証券市場の時価総額は62兆2572億ドルで、2/19現在の87兆8708億ドルより25兆6136億ドル、29.2%減少)。しかもこの間、米国、欧州、日本の全雇用人口の23%に達する1億人以上が新型肺炎発の消費減少により事実上の休職状態に入り、パンデミック危機の直撃を受けたホテル・レジャーと運送、小売り販売の3業種の従事者が占める割合は欧州で27%、日本26%、米国24%で、米・欧・日の国内総生産(GDP)合計に占める割合は13%、5兆5000億ドルに達し
、この3業種の時価総額は昨年末より1兆4400億ドル減少してしまったのである。非常事態宣言が世界各地に波及し、3業種から全経済の縮小にさらに拍車がかけられている事態が進行している。
米シンクタンクの経済政策研究所(EPI)は、米国で新たに失業保険を申請した件数が21日までの1週間で328万3000件と過去最大を記録し、今夏に1400万件に達する公算だと分析している。
ILO(国際労働機関)は3/26、新型コロナウイルスの感染拡大によって世界で失われる雇用が2500万人を「大幅に超える」可能性があるとの見通しを示し、一時的失業やレイオフの規模、失業保険申請件数が当初予想を大幅に超えていると指摘、こうした雇用への下押し要因を今後の見通しに考慮する必要があると強調している。
3/21付けワシントンポスト紙は「8400万人のアメリカ人が家に閉じ込められ、ほとんどの企業がほぼ完全に閉鎖されたため、数日前に予想されていたよりも急速に悪化している。数百万人の労働者を失業ラインに送り込む経済的メルトダウンは、連邦政府の対応努力を上回っています。」と報じる事態である。
<<ギグ労働者も失業保険の対象>>
3/25、米議会の与野党は25日、2兆ドル(約220兆円)という歴史的な規模の財政出動をただちに実施する緊急経済対策法案に合意し、上院は全会一致で法案を可決した。当初、企業救済に重点を置いていたトランプ・上院共和党の提案に対して、下院・民主党側が数度にわたる拒否の中で、14日間の有給医療休暇、休暇の支払いを支援する中小企業への税額控除、失業給付金の増加、フードスタンプの労働要件などの制限の解除などを要求、合意の中で、失業給付を大幅に拡大し、解雇された労働者に給与と健康保険給付の最大100%を4か月間提供などを盛り込むことに成功している。
民主党左派の大統領候補・バーニー・サンダース上院議員は、この法案の支援パッケージは、アメリカ史上最大の失業給付の拡大、2500億ドル以上の増加を提供し、4か月間、給与と健康保険の最大100%を受け取ることができ、毎週の失業手当は600ドル増加しする。したがって、仮に解雇された場合、失業給付は通常の場合よりも600ドル高くなり、さらに非常に重要なことは、この失業の拡大にはパートタイム)労働者も含まれ、ユーバー(Uber)の車を運転するようなギグ(単発・短期・請負)労働者も含まれ、失業保険の対象とならない自営業者が含まれることです。これは法案の中でより重要な規定の一つです、と述べている。さらに、この法案は、大人1,200ドル、子供500ドルの1回限りの小切手ではあるが、2500億ドルを支払うこと、また、州や地方自治体への直接援助として1500億ドル、企業への2,200億ドルを超える税制優遇、病院および退役軍人の医療への援助としてほぼ1,200億ドルが含まれているという。問題はこの支援パッケージの中に企業のためのローンとローン保証として多額の資金を提供する予定が含まれており、その限られた監督措置からして、「私は、必要とされる説明責任と透明性なしに5,000億ドルが支出されることは問題であり、現時点では、大規模な収益性のある企業に大量の企業支援を提供する必要はない」と警戒を呼びかけながらも、この法案に賛成票を投じた理由を明らかにしている。(3/26・ニューヨークの独立放送局デモクラシー・ナウ)
まさにここで問われているのは、経済危機・パンデミック危機に対抗する反恐慌政策だと言えよう。この緊急支援策の最大の問題は、緊急という名にあるとおり、一時的・限定的であること、全住民を対象とした健康保険・セーフティネットとして構築されていないことである。継続的・永続的・普遍的セーフティネットの構築こそがパンデミック危機に対抗する手段として緊急に要請されているのである。それらを構築する大規模な公共投資プログラムが同時に提起されるべきであろう。危機を打開する政治・経済の根本的転換、ニューディール政策こそが要請されていると言えよう。
(生駒 敬)