【投稿】経済恐慌現実化の兆し--経済危機論(19)

<<何が「おめでとう」だ!>>
 3/15、FRB(米連邦準備制度)=米中央銀行が慌ただしく意表を突く形で会合を日曜日に開き、パウエル議長が緊急記者会見を開いた。内容も意表を突くつもりであったのであろう、通常はこれまで一回の会合での利下げ幅は0・25%であったが、一気に1%の利下げに踏み込み、今月3/3の0・5%の緊急利下げと合わせて、政策金利の下げ幅は1・5%という大きさであった。ただし、金利か限りなくゼロに近づいたとはいえ、日本やEUのようなマイナス金利については、「われわれはマイナス金利が適切な政策対応になる可能性は低いとみている」と述べている。ともあれ、パウエル議長は「(新型コロナ危機の)今後の影響は感染がどれだけ広がるかに依存し、どれだけ続くかはわからない」と述べ、ゼロ金利を「(危機を)乗り越えたと確信できるまで続ける」と予告した。合わせて3/17、18両日に予定されていたFOMC(連邦公開 市場委員会)の緊急会合を開き、少なくとも7000億ドルの資産購入という形での量的緩和を発表し、「家計や企業への信用の流れを支えるため、あらゆる範囲の手段を活用し、最大限の雇用と物価安定を促進する用意がある」と表明したのであった。
 トランプ大統領は、今回のFRBの決定を歓迎、「私は非常に満足であり、金融当局におめでとうと言いたい」とした上で、「大きな一歩だ」と称賛したのであった。
 ところが、週明け翌3/16、月曜日のニューヨーク株式市場は、トランプ氏やパウエル氏の期待に反して、ダウ工業株30種平均はほぼ全面安となり、終値は2万0188・52ドル、下落幅は12日に記録した2352ドルを超えて過去最大となった。下落率でも1987年の歴史的株価暴落「ブラックマンデー」以来となる、史上最大の急落となったのである。この日、取引開始直後からすぐさま、相場安定を図る「サーキットブレーカー」が9日と12日に続いて発動し、取引所は15分間の取引停止の事態となった。2/12につけた史上最高値(2万9551ドル)からわずか1カ月あまりで9千ドル超、31・7%も下落したのである。ダウ平均を構成する30銘柄すべてが下落し、航空機ボーイングは20%超の急落、ゴールドマン・サックスなどの金融株やエネルギー株、インテルやマイクロソフトなどのIT銘柄も下落、ハイテク株中心のナスダック市場の総合指数も急落し、12・3%安で終えている。同じ3/16のニューヨーク商業取引所では原油価格も急落し、前週末比3・03ドル安い1バレル=28・70ドルと、ほぼ4年1カ月ぶりの安値に下落している。トランプ大統領には、何が「おめでとう」だ! という事態が突きつけられたのである。
 トランプ大統領はすでに3/13、パンデミック危機に対する初動の甘さに批判が高まってきたことに恐れをなし、国家非常事態を宣言したが、「私には全く責任はない。ルールや規制が遅れを生んだ」と開き直り、今回は「金融危機ではない。乗り越えられる一時的なものだ」と繰り返し強調したが、市場はまったく評価しなかったのである。
 トランプ大統領は記者会見で、甘さと強気一辺倒も消え失せ、「新型コロナウイルスの流行は7月か8月まで続く可能性がある。米国民は今後15日間は10人以上で集まらないのが無難だ。米国経済は衰退へと進んでいるかもしれない」と泣き言を言い出す始末である。

<<「恐怖指数」VIXの更新>>
 米シカゴオプション取引所が、ニューヨーク市場の時価総額の約75%をカバーしているS&P500種指数のオプション取引の値動きをもとに算出・公表しているボラティリティ・インデックス(Volatility Index)・VIX指数は、別名「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家の不安を指数で表し、平常時は10から20の範囲に収まることが多いのであるが、株価暴落などの際に急上昇する指数である。そのVIXが、年初来じわじわと上がり始め、この3/12、40%も上昇

して終値は75.47となり、2008年金融危機以来の最高を更新したところであった。それが3/16にはさらにこれが82.69まで上昇している。経済危機到来が現実のものとして、「恐怖指数」として明示されだしたのである。
 危機を打開する根本的な政策転換、ニューディール政策を持ち合わせていないがために、対症療法的な利下げをしても、金融緩和をやり尽くしても、打つ手が限られた、政権や当局の対応は見透かされ、信頼が崩壊し、株安は止まらず、「恐怖指数」が高まり、いよいよ金融システム瓦解の事態へ、実体経済が危機に見舞われる最悪の事態へ、経済恐慌の事態へと進行しつつあると言えよう。
 すでにそのさまざまな危機の兆候、発火点が現実化しつつある。
 すでに3/12には、金融の中心地であるニューヨーク・マンハッタンのミッドタウンにあるバンクオブアメリカ支店は、口座から現金を引き出すために多くの人々が列をなし、現金不足の事態となり、引き出し制限がかけられる事態となっている。
 3/16月曜日、ニューヨークの失業ウェブサイトは、失業手当を申請する洪水に見舞われ、失業者は、午前7時30分から午後5時まで申請できるはずが、700人以上のスタッフが待機したにもかかわらず、アクセスの急増で対応不可能となった、とDaily Newsが報じている。緊急事態宣言によって、ニューヨーク州のサービス産業の何万人もの労働者がすでに収入の道を絶たれているのである。1%の富裕層とウォール街には無制限の現金と融資を惜しみなく与えながら、99%の庶民には徹底した緊縮政策が押し付けられているのである。
 すでに石油価格の暴落で、シェールガス・オイル産業では投資引き上げが多発し、1年以内に数万人のレイオフが発生することも現実化しつつある。シェールオイル原価は、新規で1バレル=55ドル、既存で35ドル程度とされているが、今や30ドル以下、20ドル台であり、すでに数千億ドルの価値が失われ、赤字続出である。このシェールガス企業が大量に起債しているジャンク債がデフォルトになるのは必至であり、これを大量に購入、保有している日本の金融機関も戦々恐々といえよう。
 しかしこれらはまだまだ始まりにすぎない。パンデミック危機と結びついた経済恐慌の進展によって、全世界経済は全般的に収縮する下降スパイラルに向かっており、この事態を放置するのではなく、危機を打開する政治・経済の根本的転換、ニューディール政策こそが問われていると言えよう。
(生駒 敬)

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