【投稿】MOX燃料の製造データー捏造について
年も押し詰まった12月16日、関西電力は高浜原発4号機のプルサーマルに使用するMOX(プルトニウム・ウラン混合酸化物)燃料に検査データ捏造の疑いがあったとし、輸入された燃料集合体の使用を中止すると発表した。
福井県ではMOX燃料の高浜3・4号機への装荷のGOサインをすでに知事選直後の6月に出しており、1999年の年末までに燃料を装荷することは既定の事実であった。ところが、9月に、県としては想定外であった、燃料を製造した英国核燃料会社(BNFL)の製造工程におけるデータ捏造疑惑が持ちあがったのである。
なぜ、国・電力会社がプルサーマルを急ぐかというと、原発で使用した使用済み核燃料を英・仏で再処理してプルトニウムが取り出されているが、プルトニウムは核兵器の原料となるため、原発の燃料として燃やしてしまわなければならない。そこに高速増殖炉「もんじゅ」の役割があったが、1995年末のナトリウム漏れ事故によって、いつ再開できるのかわからない状況にある。このままでは、日本はプルトニウムをどんどん貯め込んで核拡散防止条約に違反しかねない。そこで、プルトニウムとウランを混合燃料として既存の原発(軽水炉)で燃やして処分してしまおうというのがプルサーマルである。
MOX燃料の安全性についてはグリンピースや原子力資料情報室等が、燃料ペレットが大きすぎて膨張した場合に燃料棒被覆管損傷の畏れを指摘している。軽水炉はウランを燃料として設計されており、MOX燃料を入れれば当然、燃焼の仕方も違ってくる。仮に被覆管が損傷し、放出エネルギー・レベルの予測ができないと原子炉の制御が出来ず、最悪の場合、炉心溶融につながるといわれている。
ところが、このように危険なプルサーマル計画について、栗田福井県知事は12月16日の県議会最終日前日まで受け入れ姿勢を変えるつもりがないとしてきた。今回の高浜3・4号機に関わるプルサーマル計画については、1998年10月に原電工事のプルサーマル用のMOX燃料輸送容器データの改ざんが発覚し、計画の実施が一度延期されていたところである。昨年6月に栗田知事が計画の受け入れを表明した直後の7月12日には日本原電敦賀2号機(加圧水型)の再生熱交換器配管の亀裂事故が発生し、9月にMOX燃料データ捏造が発覚し、9月30日には日本の原子力史上最悪の東海村・JCOの臨界事故が、そして、12月9日に高浜4号機のMOX燃料データ捏造疑惑が英ガーディアン紙で報じられたのである。さらに12月10日には日本原電敦賀1号機の炉心隔壁支持部に亀裂が見つかっている。
これだけの事故や疑惑が浮上しながら、住民の安全を守る義務のある栗田知事にはそれぞれを十分検討し尽くしたという痕跡は見られなかった。県の原子力安全対策課や出先機関には、かつて、旧動燃の「もんじゅ」ナトリウム漏れ事故隠しを指摘した原子力専門の優秀なスタッフを何人も抱えているにも関わらずである。
9月のデータ捏造疑惑のうち高浜4号機用の燃料は「シロ」とした関西電力の中間報告にあたり、来馬県原子力安全対策課長は、データそのものについては問題がないと結論づけた。12月6日の県議会代表質問の答弁で、栗田知事は「東海村臨界事故の発生によって、事前了解の際の判断を変えるつもりはない」と述べ、12月9日のガーディアン紙の報道についても、通産省・関電の調査結果発表の直前まで牧野県民生活部長は「特に新しい記述はなく、問題にはならない」との見解を示しつづけた。原発についてこれだけ大きな問題が山積みでありながら、12月の県議会はほとんど無風状態であった。東海村臨界事故があり、15機もの原発を抱えながら、原子力防災計画の見直しや医療体制の整備などについてもほとんど突っ込んだ議論はなされることがなかった。
こうした姿勢の裏には4月の知事選の結果がある。4月の知事選では4期目をめざす栗田知事に対し有力な新人が出馬し、特に原発の集中する若狭地方では現職が弱いとされた。栗田知事はなりふり構わず、関西電力に協力を要請するとともに、連合組織を通じて電力系労働組合への浸透を図った。原発が集中するにもかかわらず、社会資本の整備が貧しいという批判には、選挙戦直前に敦賀から小浜での高速道路の着工にめどをつけ、当選直後から核燃料税の増税に通産省の約束を取り付けるとともに、若狭振興の公約の1つであった小浜線電化について関西電力からの協力とJR西日本の内々の同意を取り付けることにより、6月のプルサーマル計画への事前同意を行ったのである。
元々、県庁内では原発の運転に対する信頼感が強く、小さな事故は起こっても、大きな事故は「絶対に」有り得ないとし、原子力防災計画などはほとんど思考停止状態で、おざなりのまま地域振興策を進めてきており、事故は次の振興策の新たな切符という雰囲気が強い。したがって、知事をはじめ、県上層部には、7月以降は何があってもプルサーマルを実施するという認識しかなかったといえる。
今回のMOX燃料のデータ捏造で特に問題となるのは来馬原安課長の9月末時点での判断であろう。課長は福井県の原子力安全行政を支える技術的トップであり、4号機用の製造ロットの疑惑について、関西電力の報告の「シロ・クロ」を冷静に分析しなければならない立場にあった。9月の調査の時点で4号機用の燃料ペレット中、1ロットで、200個の品質検査サンプルのうち66個のデータの改ざんの疑惑が指摘されていたが、関電の説明を重視し、データの食い違いの矛盾を無視したことの影響は大きい。品質管理は技術の基礎中の基礎である。1千個に1個でも不良な部品が混じればTVは写らず、飛行機は飛ばず、自動車は事故を起こす恐れがある。
今回のBNLFの品質保証計画では製造工程中の自動による全数検査の他に、1ロット約3000個から200個を抜き取り6個以上の規格外が出た場合、そのロットを破棄することになっていた。自動による全数検査が完全であれば抜取検査の必要性はない。今回の場合、自動検査による全数検査が不完全と考えられるので抜取検査による統計的方法により検査の信頼性を高めようとしているものと思われる。ところが、関西電力の捏造問題の中間報告で横手原子力・火力本部副本部長は「自動計測を製造者としての品質管理とすれば、抜取検査データは発注者への品質保証」という認識を示している。グリンピースの報告によるとヨーロッパ各国のMOX製造工場で生産されるMOX燃料の不良率は一般的に20~30%にも達するとしており(原子力資料情報室:URL http://www.jca.ax.apc.org/cnic/japanese/index.html99.9.21)、自動機器による全数検査で不良品を大量にはねても、まだ、多量の不良品が完成品に混入する確立は非常に高く、抜取検査は必要不可欠の検査であり、「発注者への品質保証」などと“情緒的な”認識をしているような問題ではない。関電は元来が製造事業者ではないため、品質管理に関する能力は高いとは言えない。こうした関電の中間報告に“納得”した国や県の技術者の知識・品質管理能力も問われなければならない。
技術評論家の桜井淳氏も指摘するように、「原子力発電所の設計条件を厳密に把握しているのは原子炉メーカーのエンジニアだけ」(「サイアス」99.11「高経年炉の安全評価項目と研究課題」)である。関電のようなプラントのオペレーターに設計条件や品質管理の細部について要求しても無理がある。通産省や関電は、当初から単なる管理データのペーパー上の操作であり、自動で全数検査しているのだからたいした問題ではないと高をくくっていたふしがある。しかし、今回の1つ1つ測定したデータを記録するという本当に基礎的な技術工程の軽視がBNLF全体の品質管理体制=製造体制の杜撰さを明らかにするものであった。技術は1つ1つの手順の積み重ねの上に成り立っている。そのどこかの工程を「簡単なことだから」、「やったことだから」と無視すると、技術は根底から崩れ去ることになる。東海村JCOの臨界事故や敦賀2号機の配管亀裂事故、山陽新幹線コンクリート崩落事故、H2ロケットの失敗などもこうした基礎的技術の軽視の延長線上にあるのではないのか。
日本の自動車産業や電気産業等では今なお、品質に対する絶え間無い努力が続いているが、国や総括原価方式にあぐらをかく独占的企業の間では技術の劣化が広範に起っているのではないか。こうした関電の報告を鵜呑みにせざるを得ないところに、日本の原子力安全審査体制の根本的弱点がある。今回のMOX燃料製造データ捏造はこうした杜撰な審査体制をはからずも明らかにしたといえよう。それは、実際の生産現場の経験を踏まえたことのない「机上の技術者」の限界ともいえよう。
(福井・R)
【出典】 アサート No.266 2000年1月20日