【投稿】解散・総選挙へ動き出す政局
<<自自公暴走が意味するもの>>
1/20に召集された国会では、すべての審議が自自公与党三党だけで進められるという異常事態が現出した。首相の施政方針演説をはじめ、政府四演説が、野党議員が誰一人出席しないままに与党議員だけで行われたことは、戦前の翼賛国会ならいざ知らず、戦後は一度もない。代表質問も与党議員だけで行われ、ヤジ一つなく、自画自賛の拍手だけが議場にこだまする、議場では大あくびと居眠りの姿があちこちに見られる、なんとも空々しい国会の姿であった。
ことの発端は、衆院比例定数の20削減法案の一方的な強行採決であった。そもそもこうした定数削減法案が、国会の開会冒頭で処理しなければならないほどの緊急かつ不可欠な法案であるなどとは誰も考えてはいない。ただただ自自両党合意の証し、自由党の連立離脱を食い止めるための演出として、つまりは当面の連立政権維持のためにだけ、まさに与党内の内向きの事情によってだけ、議長の斡旋まで拒否して無理やり強行されたものであった。参議院では委員会審議すら一回も行われないままにいきなり本会議で強行採決するという暴走にまで至った。そうした暴走を棚に上げて与党幹部は野党の審議拒否を「議会人としての自殺につながる暴挙」(森・自民幹事長)、「政略的な思惑を優先した党利党略」(神崎・公明代表)などと強がって見せたのであるが、これこそ天に唾するものの典型であろう。
民主党の鳩山代表はこの事態を「大政翼賛政治、ファッショそのものではないか」と、また同党の羽田幹事長も「今の状況を見ると、ワイマール共和国のもとでナチスやヒトラーが生まれた状況に似ていると思う」と糾弾している。確かにその通りであろうし、そうであればこそこうした暴走を徹底的に孤立化させ、自自公政権の瓦解にまで追い込むことが求められていたと言えよう。しかしその後の事態の展開は、大阪府知事選と京都市長選の結果を受けて、いつのまにか「国会正常化」が合意され、野党が審議に復帰し、政府・与党の責任はうやむやのままに予算案審議が行われている。
与党側は野党側を屈服させたとほくそえんでいるのかもしれないが、こうした前代未聞の、「国会不用論」まで言われ出すような事態をもたらした自自公連立への警戒感と嫌悪感の拡大、そして野党側のふがいなさへの失望感は与野党双方に重くのしかかってくることは間違いないと言えよう。
<<朝日世論調査へのショック>>
1月末実施の朝日新聞全国世論調査はそのことをよく示している。「国会混乱の責任は与党と野党のどちらにあると思うか」という問いに対して、「与党」と答えた人は34%。25%の「野党」を大きく上回っている。「予算優先」を口実に審議を強行する与党に最大の責任があるとみなし、審議拒否を貫いていた野党に理解を示していたのである。同時に「両方に責任がある」という回答が19%あったことも見逃せない。この調査でより重要なことは、自自公連立拒否の根強さを鮮明に浮かび上がらせたことである。自自公連立政権を「よくない」とする回答が57%に達し、「よい」の20%を圧倒しているのである。さらに特徴的なのは、小渕内閣の支持率も4%下がって39%と、連立発足以来の最低を記録し、政党支持率でも自民党が34%から29%に、自民に擦り寄る公明も4%から2%に大幅に減少させたことである。
この調査結果が発表された1/31、「朝日の世論調査で内閣支持率が下がり、国会の混乱について与党に責任があるという結果が出ていますが」という記者の質問に、小渕首相は「野党の責任も書いてあるだろ」と反論、「“与党に責任”の方が多いのですが」とたたみかけられるとまともに答えられず、「いずれにしても謙虚に受け止めています」とショックを隠せない様子をありありと見せている。昨年末、あるいは年明け早々に解散を狙っていた強気姿勢も、自自公批判の強さにたじたじといったところである。野党の取り込みと分断が急遽浮上し、首相自ら「野党の協力をひたすらお願いする」などと一転して揉み手姿勢に転換、終わったはずの施政方針演説に対する代表質問で手を打ち、次の解散時期を狙うという、ある意味では当然なのではあるが、政権延命に汲々としたそのばしのぎの無責任姿勢をいよいよ露骨にさらけ出しているとも言えよう。
小渕内閣 自自公連立 国会混乱の責任
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支持 39(43) よい 20(25) 与党 34
不支持 38(34) よくない 57(57) 野党 25
その他 23(23) その他 23(38) 両方 19
その他 22
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支持政党 総選挙時期 総選挙で自民に勝ってほしいか
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自民 29(34) できるだけ早く 44(33) 勝ってほしい 39
民主 10( 7) 急ぐ必要なし 43(54) そうは思わない 46
公明 2( 4) その他 13(13) その他 15
自由 4( 3) ( )昨年8月
共産 4( 4)
社民 3( 4)
なし 36(39)
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1/29,30朝日世論調査、( )は前回12月
<<大阪府知事選・京都市長選が明らかにしたもの>>
「国会正常化」への口実とした大阪府知事選と京都市長選での与党側勝利の実態は、いずれも民主党との相乗り候補であり、共産党が善戦したとはいえ、共産党単独で勝てるほどの幅広さと柔軟性を持たない現在の党指導部の姿勢では結果がある程度は見えていたことも事実と言えよう。
選挙の実態はむしろ自民党の分裂選挙を浮き彫りにし、底辺では、「政教分離」の公約も投げ捨てた公明党=創価学会と、共産党との熾烈な党派間抗争が展開され、これに他の諸党派が加勢するといった実情で、こうした党利党略への庶民の拒絶反応は根強く、大阪府知事選では、過去最低の投票率(44.58%)となったのである。連立政権への信任などとはとてもいえるものではないし、むしろ際立ったのは自自公連立への批判票が共産党候補の善戦に示されたことだと言えよう。
その意味では、自自公とともに民主党の姿勢も大きく問われている。最大野党である民主党は、旧自民と旧社会、旧民社を抱え、一方で衆院比例定数50削減を主張しながら、「20削減なら反対」というあいまいな主張を展開し、内部では旧民社系・友愛グループを中心に中選挙区論の公明党に同調する議員が多数存在し、党として定数削減については方針を明確に打ち出せない状態である。自自公与党三党が定数削減法案を野党欠席の中で強行採決した際、鳩山代表は「小渕内閣を解散・総選挙に追い込む。皆さんの命を私に預けてください」と両院議員総会で大見得を切ったのであるが、姿勢が定まらなくては命を預けるどころか、それぞれの議員は右往左往せざるを得ないのが実態と言えよう。しかしそうした矛盾や弱点を抱えながらも、自自公に対決して野党共闘を堅持し得た実績は貴重なものである。いよいよ政局は予算成立直後の解散が濃厚となってきた。野党のそれぞれには、自自公の無責任で非民主的な連立政権に対抗する対決軸をまとめ上げ、政局転換と政界再編へのイニシャチブを発揮することこそが求められている。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.267 2000年2月19日