【投稿】自治体財政の破綻と労働組合(その2)

【投稿】自治体財政の破綻と労働組合(その2)

 前回は、民間の賃金動向と年功賃金システムの変容の課題について、取り上げた。
 さて、大阪府内の年末賃金闘争は、何とか合理化提案を、賃金引き上げ(マイナス人勧だあったが)とは概ね切り離すことができた。とは言っても賃金合理化は、2000年3月の年度末までの課題として残されていた。
 大阪府知事選挙が終わり、3月が近づくにつれ、賃金合理化への対応が労働組合にも求められてきており、いくつかの自治体で交渉が最終局面を迎えつつある。
 共通する対応は、当然ながら組合員への打撃を少しでも小さく、そして、復元を速やかに求めていくための軌道の整備ということである。
 どの自治体を取っても言えることだが、12ヶ月昇給延伸やそれに相当する賃金カット方式だが、それでは、自治体の単年度赤字の10分の1程度の削減効果しかない人件費カットに過ぎない。つまり、自治体財政の赤字は当然ながらほとんどの場合、人件費そのものを究極の原因とはしていないわけである。
 共通しているのは、90年代以降の景気浮揚策に連動した単独建設費の激増に伴う起債の償還時期の到来と、景気低迷による地方税の減収、特別減税の地方税への影響などである。この状態は、少々の景気拡大が起こったとしても、数年の内に解消されるとは思えない。
 こうした中で行われる賃金合理化は、今後起こるであろう市民負担の増加、サービスの低下に対する批判の集中を避けようという意図に他ならない。
 こうした自治体当局・首長の意向に対して、残念ながら一定の妥協策、交渉協議の上の判断をすることは止むを得ないことという認識には同意したい。実際に財源は枯渇し次年度予算すらまともに組めない自治体が少なくないというほど深刻だからである。
 70年代の地財危機の頃の状況とは明らかに違っている。事の深刻さが違うのである。右肩上がりの経済成長が破綻して、低成長を前提とした展望を基礎にした運動方向の練り直しが、根本的に必要になっているのである。バブルの後始末に協力させられたツケが重なり、景気低迷と公共事業重視・赤字垂れ流しの無責任な国の財政出動型財政運営も今年が最後になるのが確実という情勢下、さらにそこに地方分権元年・介護保険導入と新しい要素も加わり、自治体財政と行政のあり方が根本的に問われていると言える。
 自治体財政の健全化の展望も未だほとんど明らかになっていない。地方税議論に一石を投じた石原東京都知事の銀行への外形標準課税の動きも、金融政策で巨額の公的資金が投入されているのにも関わらず、自己責任を明確にできない金融機関への国民の不信を背景に、自公の賛成が確実になった都議会で成立の方向となった。しかし、これとて東京都財政の健全化の一部ではあっても、決定打ではない。それがスタンドプレーと見られる所以である。もちろん議論素材としては、方向は間違っていないが。
 99年の年末闘争では一時金の削減もあった。さらに今年は調整手当の見直しが必至。2000年人勧でも、さらなる一時金の削減が予想され、個別別自治体では、延伸・賃金カットの動き、まさに、今までなら10年分ぐらいまとめての労働条件悪化の年になろうとしている。
 明らかに「退却戦」なのである。ただ、退却しつつ、新しい路線を確立する努力・議論が求められている。この状況では、ストライキで闘う、あるいは、ひたすらに合理化反対、そして政治決戦で展望を、みたいな政治主義的解決では、元のもくあみという展開は必至で、組合員も確実にそれを実感している。労働組合が新しい共通の価値観、次につなぐ確信のある方向性を示す必要がある。賃下げが強行されても、組合への求心力を失わない運動の質が求められているように思えてならない。(続く)     佐野秀夫 

 【出典】 アサート No.267 2000年2月19日

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