【投稿】公務員にも「能力・実績」重視の人事制度の動き

【投稿】公務員にも「能力・実績」重視の人事制度の動き

 「親方日の丸」と言われ、「休まず、遅れず、仕事せず」などと揶揄されてきた公務職場だが、近年民間の動向にも影響されて、「能力、実績」を重視した人事管理・人事評価を導入する議論が盛んになっている。
 8月15日に出された「2000年人勧」においても、「公務員人事管理の改革に関する報告」が行われ、勧告本文にも「Ⅴ職務と能力・実績に応じた給与システムの改革」が叙述されている。総務庁、人事院のそれぞれの「人事評価制度研究会」報告は、今年の暮れには、成案となり、2001年4月からの省庁再編に合わせ行政職Ⅰ表職員に、人事評価制度が導入されようとしている。

<省庁再編と公務員改革>
 大きな流れとしては、橋本首相時代6大改革のひとつである行政改革の流れを受けた中央省庁の1府12省への再編があり、これに連動する「公務員制度調査会」(1999年3月)における「公務員制度改革の基本方向に関する答申」、そして「地方公務員制度調査会」の「地方自治・新時代の地方公務員制度」(1999年4月)が先行している。それらは共通して「職員の能力・実績をより重視した人事管理を行っていくためには、公正で客観的な評価システムが必要であり、それを昇任や給与等に反映すべき」という内容になっている。 さらに、大蔵省や農水省の官僚による企業癒着や利権・汚職事件が発生し、キャリア制度による功罪が白日のもとになり、また新潟・神奈川県警の事件で、世間を知らないキャリア署長の無能力もまた、マスコミに取り上げられる事態など、国家公務員に対する厳しい世論に対して、省庁の人事管理が大きく問われている、ということも影響していると思われる。
 
<有名無実の現行勤務評定制度>
 勤評反対闘争で記憶されているように、現在、公務員には「勤務評定」制度があり、法律上は、個々人の勤務評定が行われている。しかし、それらは、特別昇給や昇進・昇格に使われている、と言われているが、人事担当者以外は目にしたことがなく、もちろん本人にも開示されない。地方においては、特別昇給も順番制という実態もある。当然、評価の基準や本人努力の課題も明らかにされず、機能はしていないのが現実である。
 さらに、実態を言えば、勤務評定を行う評価者の側にも「管理能力」「評価能力」に疑問と不安が存在し、公務労働に問われるべき基準はあいまいなままなのである。 

<総務庁の人事評価研究会報告書>
 本年5月に公表された総務庁の人事評価研究会報告を読んでみると比較的よくできていると思われる。人事管理システムの中の要素(サブシステム)として、人事評価システム、任用システム、育成システム、処遇システムを想定し、評価システムは、その上位概念としての組織目標の明確化が必要であることを重視している。また、公務の業務プロセスを構成する基本要素(能力・適正・意欲・仕事・成果)を視点に、その現状を評価するものであり、何を重視した評価システムとするかは、組織目標に関わるものである、として評価の目的をはっきりさせようとしていること。また、評価システムの基本要件として「公平性」「客観性」「透明性」「納得性」の向上の確保、差をつけるための人事評価ではなく、職員及び組織の目標実現に貢献する人事評価であること、を挙げている。また、現行の人事評価システム(勤務評定制度)を踏まえて重視すべき点として、・・革新的・積極的な取り組みを行った職員への加点主義的な評価であること、人間性など一般的な人物評価でなく、具体的な職務行動を通じて現れた能力、業績を評価するものであること、新たな評価システムが、組織内で人事当局、評価者及び被評価者のコンセンサスを確保できるシステムとなること、などが挙げられているのである。

<国家公務員で先行する議論>
 こうした国レベルの議論は、2001年に向け総務庁・人事院の評価制度研究会の中間報告を受けて、9月からは国公の労働組合との協議が始まろうとしている。もはや、後戻りはできないところである。6月には連合・公務員連絡会の「公務における能力、実績評価制度対策委員会」が、こうした『国家公務員の「能力、実績」を重視した人事管理システムの見直しと新たな人事管理システムについての考え方(案)』を各産別に提案し、9月上旬までの組織討議を呼びかけている。
 端的にまとめれば、社会情勢の様々な変化や公務を取り巻く環境の変化からは、現在の「勤務評定」制度は廃止し、「能力、実績を重視した」人事評価システムの導入に対しては、条件付で応じざるをえないこと、その際には、「公正・公平性」「透明性」「客観性」「納得性」を確保し、労働組合が関与・参加するシステムであること、苦情処理制度の確立などの確立が必要であること。こうした人事評価システムは、格差をつけることが目的ではないことを明確にし、昇任や昇給への反映については、別途十分労使協議を行うこと、などが提案されている。

<現在の昇任・昇格には職場で不満が強い>
私なりに公務職場を見た場合、二つの層に不満が蓄積されている。ひとつは若年層である。地方自治体でも大学卒業組が若い層では多数派になっており、賃金・労働条件についての関心より、働き甲斐の方に関心が高くなっている。上司と部下という身分的関係を重要視するより、仕事ぶりで上司を評価する傾向にある。自分の方がよく働き、責任も持っているのに賃金は低い、という不満である。ふたつには、団塊の世代で、同世代の数は多いのにポストは限られており、昇任も不合理な場合が多い。客観的な評価は示されず、昇進の結果だけが明らかになるからである。そういう意味では、労働組合の立場・方針は別にして、職場の意見としては、自分の仕事をちゃんと評価してほしいという気持ちは広範に存在しているように思う。むしろ、労働組合の方が人事評価については消極的な立場が強い。それは、賃金や昇任などに個人別要素が入ってきた場合、「平等」や「連帯」という、これまで労組の看板としてきた役割が、後退することへの危惧であり、労働組合の職場における地位が脅かされる心配を強く感じているからに他ならない。

<問われる労働組合のあり方>
 参考になるのは、民間での経験だが、まだ労働組合側の評価システムへのまとまった文献を読んでいないが、NTTでさえ7月の定期大会で「成績主義賃金制度」の提案を行っている。60年・70年代以降民間では、年功基準の賃金制度から資格給などに重きをおく賃金制度に変化し、さらにそれぞれに成績・実績的要素が加わり、極端には「年俸制」というものの、一部に出始めている。おそらく大企業の組合の場合は、評価する側に労組代表も入っているだろうと思われる。公務以上に職場の活性化が収益という具体的実績に連動する民間の場合、評価システムも硬直的なものでなく、年々とは言わないが、システムシステム自体の改善・変更も労使協議の対象とならなければならない。
 そういう意味で組織の活性化に本当に寄与できる評価システムなのか、どうかが問われるところであるし、その検討こそ一方的な使用者側だけの意図だけでは活性化は望めないはずである。労使対等、労使協議型へのあり方の変更が求められているように思う。

<地方自治体での実施は国に続いて>
 こうして秋から、国公の場では、人事評価システムの導入をめぐる交渉が具体的に開始されようとしている。来年春からの実施のあとは、翌年ないし翌々年の地方での実施が想定されているという。さらに、本年の人事院勧告では、「一定期間の勤務に伴う能力の伸長や経験の蓄積、職務遂行にあたり発揮される優れた成果や実績の三要素を踏まえた、現在の俸給表の基本的な見直し」にも言及し、総合給的な現在の給料表から能力・実績重視の評価システムと連動する給料表への見直しにも言及もされているのである。
 時間はそんなに残されていない。労働組合側の早急な対策が求められているのである。単なる反対のための反対では、当局の一方的な制度導入を許すことは必至であろう。(佐野 秀夫) 

 【出典】 アサート No.273 2000年8月26日

カテゴリー: 分権, 労働 パーマリンク