【投稿】GDP2期連続成長の不安材料
<「統計上の癖」?>
9/11に発表された国民所得統計速報は、昨年7-12月の二期連続マイナス成長から、今年1-6月期の二期連続プラス成長への転換を明らかにしている。本来なら政府・与党は、その成果を誇示し、胸を張るところだが、出てくる言葉は逆の様相を示している。堺屋・経企庁長官はこの日の記者会見で「今年度1.0%成長達成の可能性が非常に強くなった」と述べながら、同時に「統計上の癖や特殊要因などで伸び率が少し大きめに出た。消費も介護保険の導入など特殊事情があり、四月だけ伸びが高い。年度後半にかなり厳しい状況になるのではないか」といたって悲観的でさえある。自民党の亀井政調会長も「(景気は)回復軌道には入っているが、まだ自力反転の軌道に乗っているとは言えない」とこれまた冴えない。もちろんこうした発言の裏には、大型補正予算によって膨大な公共投資予算をふんだくろうという政治的意図が透けて見えている。
もちろん、OECDやアメリカから指摘されている怪しげな統計上の癖や特殊要因があるのならば、詳細に情報開示すべきであろう。その時々のご都合主義によって数字をゆがめたり、恣意的な解釈を押し付けることは、事態をゆがめてしまう。しかしそうした前提の上に立って、冷静に発表された数字だけを見ても、この4-6月期GDP成長率1.0%は、前期比13.6%増という巨額の公共投資、成長率への寄与度1.0%によって達成されたものであることが一目瞭然である。民間設備投資はマイナスに転じ、個人消費は伸び悩んでいる、このことも事実である。
実質国内総生産・GDPの推移 2000年 (単位10億円)
1999年度 1-3月期 4-6月期 寄与度
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実質国内総生産 482,433.6 486,401.7 491,444.0 1.0
前期比成長率 0.5 2.5 1.0
年率換算 6.3 10.3 4.2
民間最終消費支出 286,281.6 287,458.5 290,606.1
前期比 1.2 1.7 1.1 0.6
民間住宅 19,090.7 19,278.0 19,131.0
前期比 5.6 6.6 ▲0.8 ▲0.0
民間企業設備 79,501.9 83,185.6 80,406.7
前期比 ▲2.3 4.8 ▲3.3 ▲0.6
民間在庫品増加 350.4 271.5 792.4
前期比 - ▲38.2 191.9 0.1
政府最終消費支出 46,302.2 46,651.6 46,029.3
前期比 0.7 0.8 ▲1.3 0.1
公的固定資本形成 39,470.9 35,670.1 40,508.1
前期比 ▲0.9 ▲7.5 13.6 1.0
公的在庫品増加 -29.9 90.5 179.4
前期比 - - 98.2 0.0
財貨サービス純輸出 11,465.8 13,795.9 13,791.0
前期比 ▲6.0 41.4 ▲0.0 ▲0.0
財貨サービスの輸出 68,999.9 73,044.8 75,927.4
前期比 6.0 5.7 3.9 0.6
財貨サービスの輸入 57,534.1 59,248.9 62,136.4
前期比 8.8 ▲0.1 4.9 ▲0.6
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<<息巻く政調会長>>
この間の事態の推移が示していることは、小渕―森両内閣を通じて、本予算の公共事業費を年度前半にむりやり前倒しして執行し、年度後半にはさらに大型補正予算で追加して、たとえだぶつき、消化し切れなくても、切れ目なく公共事業費をばら撒いて景気対策のほころびや矛盾を先延ばしするというパターンを取り続けてきたことである。98年の24兆円、99年の18兆円という大型補正はその典型であった。その結果、98年度から今年度末までに100兆円を超す新規国債が発行されるという事態に突入している。
2000年度末での国・地方の債務残高は合計645兆円、GDPの130%にも達する。来年度予算の概算要求でも、50兆円前後の税収に対して85兆円前後の予算を組み、30数兆円の新規国債発行がすでに盛り込まれている。利払いや償還のための国債発行を含めると発行額は予算と同額の85兆円にもなる。もはや予算のよって立つ基盤が借金以外になくなってきたともいえるのである。こうして国債発行をめぐる事態はすでに危険水域に入ってきているといえよう。すでに国債価格は、下がりはじめており、8月に1.6%台だった長期金利は1.9%を超え、2%に近づいている。
米国の格付会社・ムーディーズが日本の国債をさらにワンランク格下げしたことに対して、亀井政調会長が「ムーディーズの判断にしたがって経済政策をやるつもりはない」と息巻いたが、亀井発言がさらに国債価格の下落・金利上昇に拍車をかけているのである。
それでも政府・自民党は、亀井氏の言う「事業規模で10兆円超、国費ベースで5兆円」の補正予算を9月末からの臨時国会で成立させようとしている。もちろん財源は赤字国債の乱発である。たとえプラス成長に転じてきても、公共事業の息切れを防がなければマイナス成長に逆転してしまうという危機感、ここまでくれば巨額の赤字国債もなんのその額にかまっていられない、来年の参院選まではなんとしてもばら撒き政策で政権を維持し、その後に増税・インフレ政策でという無責任体制である。政府・与党の犯罪性は、空前絶後の赤字国債となって覆い被さってきている。
<「IT」関連予算>
さすがに亀井発言に対しては異論が続出している。加藤・自民元幹事長は「格付機関とか市場が反応し、長期金利が上がって国の借金返しの金が増える。責任を感じてもらいたい。10兆円補正はやってはいけない」とテレビ番組で広言。山崎・自民元政調会長は「公共事業見直しを表明したばかりなのに、一般公共事業中心の補正では方針が一貫しない」と指摘。宮沢蔵相も「何でもかんでも国債を出したらいいという状況ではなくなってきた。財源を考えなければならない」とクギを刺している。そしてついに小泉・森派会長までが「借金をしまくって景気が回復するかといえばそうではない。借金財政から脱却するかどうかの転換点にきている」と、大型補正予算反対の姿勢を明瞭にし始めている。
それにもかかわらず一時の森政権交代論は影をひそめ、加藤氏までが来年の参院選を森首相で闘うことを明言する始末である。「森では参院選は闘えない」と見限られ、最低の支持率で「年末までが命」と見られ、「政権に恋々とするものではない」と意気消沈していた森首相、がぜん息を吹き返し、大型補正予算、来年度予算編成でお得意の利益誘導・ばら撒き政策に政権の吸引力をかけている。
来年度、2001年度予算の概算要求を見ればその無責任さはあきれるばかりである。森首相は政策指導能力のなさを「日本独自のIT国家戦略の構築が不可欠だ」とブチ上げることによって目先を変えさせようとしているのであろう。しかしそれでも馬脚が現れるというものである。概算要求84兆8300億円の中身は、「IT」という御旗のもとに、多少でもパソコンやコンピューターの部品を使う施設、それどころか「電気」、「電線」を使う施設であればむりやり「IT」関連と称して予算要求することがまかり通っているという。たとえば、ダム工事や各種ハコモノ施設も、パソコンを設置、インターネット回線を引いただけで”ITダム”や”インテリジェントビル”、池や水路監視に光ファイバー構想、といった具合である。本来の情報技術(IT)ではなく、まさに利益誘導にまつわるその筋(It’s イット)関連である。
なんでもかんでも「IT」関連公共事業に早変わりするわけである。しかも建設省、運輸省、農水省がそれぞれ独自の”光ファイバー敷設”事業を計画するというずさんさである。現実の通信インフラ整備は、NTTや新電電各社がすでに先行しているにもかかわらず、それらとの関連や接続問題は利権がらみで放置されている。
<「せいぜい1兆円」>
問題は、こうした無責任な政策がすでに限界にきているにもかかわらず、居座りつづけ、ごく近い将来への過大な負担と矛盾を拡大しつづけていることである。たとえ景気回復が軌道にのったとしても、税収入の自然増で解消できるような水準ではなくなってしまっている。宮沢蔵相ですら、「バブル期並みの好況となっても、せいぜい1兆円がいいところ」と言っている。こんな発言をしながらよくも蔵相の地位にとどまり、無責任な政策を追認できるものである。いずれにしてもこの推計でいくと、今年度末の国の国債発行残高だけで500兆円と見積もられており、来年度からたとえ発行をゼロにしたとしても、単純計算でも500年はかかるのである。残る手は、ひたすら消費税を増税させ、ハイパーインフレで借金を減価させることである。うがって言えば、現在の無責任な赤字国債発行は、近々そうした事態をむりやりにでも引き寄せるための最大の近道ともいえよう。GDP指標が回復してきても、不安を極力強調する所以もまたここにあろう。
他の景気指標が回復軌道に乗ってきても、個人消費がなかなか回復しない最大の理由は、すでに現実に見え始めているこうした将来不安への懸念からきているといえよう。政権与党はもちろん、野党も含めて、現在の政治担当諸勢力がいずれもこうした財政的破綻を回避する政治的意思を明瞭に示し得ていないところに問題が集約されてきているのではないだろうか。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.274 2000年9月23日