【投稿】問われる日本の民主主義–在日外国人の地方参政権

【投稿】問われる日本の民主主義–在日外国人の地方参政権

在日外国人の地方参政権を巡り、与党(自・公)内で迷走が続いている。
総選挙終了後の連立与党の動向からは、法案自体に問題点を含むものの、現臨時国会での成立、つまり20世紀中の決着は、ほぼ確実ではないかと思われたが、ここに来て自民党内の反対派がにわかに活気づき、これまで積極的だった公明党も一歩後退とも見える動きをするなど、またしても先送りの気配が濃厚になってきた。
こうした流れの中、積極的に法案成立を推進してきた自民党の野中幹事長は、「選挙権は強制連行された人たちとその子孫(特別永住者)に限定する」との妥協案を提示した。

「野中案」は「時限立法」

野中幹事長はこれにより、同党内の反対派を納得させようとの考えだが、この修正案は「未来志向」という法の理念を曖昧なものにしてしまう。
「特別永住者」とは、日韓地位協定の見直しにより1991年に設けられた在留資格で
あり、サンフランシスコ講和条約により日本国籍を剥奪された、旧植民地出身者およびその子孫に認められたものである。
在日外国人の地方参政権問題を巡っては、確かに戦後補償問題の文脈で論議されることが多かったし、これまでは実態として在日外国人=在日韓国・朝鮮人であったから、在日韓国・朝鮮人の処遇問題、さらには韓国との外交問題との認識が一般的ではあった。
そうした観点からすれば、今回の「野中案」は戦後処理、外交上の懸案の政治的決着という意味はあるものの、それ以上の積極性は無くなってしまうし、法律自体が未来には意味のないものになってしまう可能性もあるのだ。
そもそも、参政権獲得の取り組みは、在日韓国・朝鮮人の運動が軸になっているが、89年に初めて提訴したのが在阪イギリス人であったのに象徴されるよう、すべての外国人に係わる問題であるし、なによりもこれからどの様な民主的な社会をつくるのかという、日本人自身の問題である。
また現在、特別永住者のうち韓国・朝鮮人は約52万人であるが、外国人が総人口の1%を越え、ますます多国籍化が進むなかで、特別永住者の在日韓国・朝鮮人の減少傾向が明らかになっている。
年1万数千人が帰化申請により日本国籍を取得し、結婚する人の8割が相手が日本人(子どもは自動的に日本国籍)という現状から、長年在日外国人処遇問題に携わってきた法務省の坂中英徳氏は98年に「20年以内に韓国籍・朝鮮籍の在日韓国・朝鮮人の人口は半減し、21世紀前半中にこれらの人々は自然消滅してしまう」と予測している。
もちろん、「3世、4世の41%が今後も韓国・朝鮮籍を望む」との大阪市大の朴一教授の調査もあるが、これらの人たちも、本人は韓国・朝鮮籍だが配偶者と子どもは日本籍のケースが増加していくと思われる。
つまり、近い将来には「野中案」の対象者自体がいなくなってしまう(「ゼロ」にはならないが、名前、コミュニティなど文化を維持しつつもほとんどが韓国・朝鮮系日本人=日本籍コリアンとなる)可能性が高く、その時圧倒的多数の外国人は法の枠外となり、「野中案」は実質50年の時限立法となってしまうだろう。

積極的な法案再構築を

野中幹事長がそこまで見越して、修正案を提起しているなら、まさに稀代の策士であるが、反対の一部には「希望者への無条件の日本国籍付与」との主張もあり、帰結点は妙に一致するのである。
しかし、それ以前の問題として反対派の多くは、様々理由はつけるものの、本音は韓国・朝鮮人に対する警戒感・嫌悪感から参政権確立に抵抗しているのだから、いくら「未来永劫にわたるものではない」と説得されても、首を縦に振ることは無いだろう。
例えば以前は外交問題と絡め、「相互主義の原則」が反対論の一つの柱となっていた。
しかし、韓国政府が2002年までに在韓外国人の参政権を認める決定をすると「在韓日本人と在日韓国人とでは数が違う」と「相互主義の原則」を踏み外す主張をする。
さらに反対派は、反対の為には自らが日頃敵視して止まない北朝鮮-朝鮮総聯や日本国憲法まで持ち出して恥じない。
また、彼らは日本国への忠誠心の有無を主張するが、忠誠心が参政権の要件なら本誌の読者のほとんどは公民権停止だろう。
この様に根っからの民族排外主義者に対しては、どんな主張をしてみたところで、感情的な反発が返ってくるだけである。
かといって、こうした人々の「自然消滅」を待つわけには行かない。
やはり、ここでは法案の原点に立ち戻り、全ての定住外国人を対象とし、被選挙権への展望を含めたものとして成立を期するべきである。
そのためには臨時国会での成立は断念せざるを得ないが、ますます多数の外国人が日本社会に暮らす時代の要求に応えられるような、より良い内容としていくべきであろう。(大阪 O)

【出典】 アサート No.275 2000年10月21日

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