【投稿】公務員に労働三権—野中発言の狙い
またしても野中自民党幹事長のしたたかさを感じた。公務員制度改革への発言である。報道によれば、14日の講演で野中幹事長は、「21世紀にあるべき公務員像を示す」と述べ、警察、消防、自衛隊、海上保安庁職員を除くすべての公務員に団結権、団体交渉権、争議権の「労働3権」を与えることや、民間企業との人事交流促進など、公務員制度改革に取り組む考えを表明したという。さらに、それに伴い、人事院勧告制度の廃止や、公務員のリストラ推進に弾みを付けたいとの内容もあり、公務員制度改革を来年の参議院選挙での与党政策の目玉にしたいという報道もあった。
まだ問題提起にとどまっているとは言え、ある意味で彼らの側からの挑戦状として真剣に受け取る必要があると思われる。
今、国と地方を問わず、進行している事態は、財政危機に象徴される従来型の行政運営の限界であり、公務員と公務のあり方への「変革」が求められていることであろう。右肩上がりの経済への復帰はバブル崩壊以後ほぼ不可能となり、10年に及ぶ「従来型公共投資」による景気浮揚策も、国・地方での債務を拡大させただけとなった。
総選挙後の「公共事業見直し」論も、筆者が指摘したとおり、小手先の人気取りの枠を出ることはなかった。野中は地方議員出身だけに、税制論議においても地方交付税制度がモラルハザードを生み出している実態を指摘し、借金漬けの地方行政を野放しにできないなどの主張を繰り返してきた。
そこへ今回の「公務員に労働三権」の発言である。組合の立場から言えば、労働基本権の回復という点からは歓迎ということも有りうるが、その狙いが組合の力を見抜いた上での逆の意味で、組合潰しを戦略的に狙っているものとして考える必要があると思う。まあ、舐められたものである。
出口の見えない低成長を反映して、2000年の人事院勧告は、2年続きの実質マイナス勧告となった。「労働基本権剥奪の代償措置」としての人事院勧告だが、マイナスが続いているとは言え、公務員賃金の社会的水準を維持する役目を果たしていることは事実である。財政再建議論の中でも、昇給延伸やカット方式が取られているが、格付けとしての本俸の額そのものを下げるまでは至っていない。
野中発言は、そうした社会的水準の役目を果たしている人事院勧告制度を廃止することを狙い、その過程で国公や自治体労働組合の力を弱めようとする意図が見え見えである。、民主党を支援する連合や自治労を目の敵にしての発想であり、組合費チェックオフ禁止法案と同様の流れに位置付けることができる。
とは言え、労働三権の議論としては、それが実現するとすれば、一人前の労働組合として、公務労働運動の真価が問われるというだけのことであり、一層の運動強化が求められるということだろう。
70年代には、人勧体制打破というスローガンもあった。スト権ストという取り組みもあった。人勧を待たずに5月確定6月条例化などの「議論」もあった。しかし、80年代以降は「労働基本権の回復」の取り組みも薄れ、労使自主決着というのも人勧をベースにした交渉が主体になっている。野中発言が今後、どう与党内で議論され具体化されていくかは分からないが、公務労働運動の側が民間賃金を反映させる人勧制度ではなく、労使交渉で決定していく戦略を早急に準備していくことが求められている。
賃金決定のシステム議論と平行して求められているのが、民間委託問題や現在公務職場で働く非正規職員の課題であろう。来年にかけて「短時間公務員制度」をめぐる議論が焦点を迎える。すべての公務職場の労働者に「労働時間による均等待遇」を実現することが必要である。こうした点について、まだまだ公務労組の取り組みは不十分であり、「本工組合主義」的要素は、完全に払拭されてないない。公務員は優遇されている、との批判が、外からも、そして中からも根強くあるのは、そこに原因の一端が存在している。開かれた行政が求められているが、国民・市民に理解される、支持されるためにも「閉じられた世界」から「開かれた世界」で、堂々と要求を主張していく戦略と発想の転換が組合の側にも強く求められていると言える。(佐野 秀夫)
【出典】 アサート No.275 2000年10月21日