【投稿】 バブル破綻と日米経済

【投稿】 バブル破綻と日米経済

<拍手喝采のNY市場>
3/16、ニューヨーク株式市場はダウ平均株価が一時1万ドルを突破、拍手喝采に沸いたが、その後1分足らずで9000ドル台に逆戻りした。しかし、その後3/19にも一時1万ドル台を更新、一進一退が繰り返されている。「バブル崩壊寸前」、「近い内にバブルがはじける」との警告もよそに、株高による資産の膨張に支えられて、米国の消費者は収入の伸びを上回る勢いで消費を増大させ、昨年10-12月期にはついに家計の貯蓄率がゼロになる極限とも言える状態となった。その後も消費は全く衰えず、99/2月には一般消費率がさらに伸び、前月比+0.9%、前年同月比では+7.3%もの上昇である。今や借入れオーバー、貯蓄率マイナスの状態とまでいわれている。
こうした中で、ドル暴落説を声高に叫ぶものはいないかに見える。ところが実際には、米経済の持続的な高成長を支えてきたドルへの資金集中は終わりに近づいてきたという議論と現実の動きが静かに台頭してきている。引き金は、ドルからユーロ、あるいは円への雪崩を打ったような巨額の資金移動か、あるいは米国株価の下落か、支えきれなくなったヘッジファンドの破綻の連鎖か、いずれにしても結果はバブル崩壊への序曲である。
現実に、すでに割高となってきた米国株から割安な日本株へ資金が移動する動きが東京市場の外人投資家主導の株高に表れてきており、NY市場が1万ドル台を記録した同じ日、東京株式市場は7ヶ月半ぶりに1万6000円台を回復している。「海外のあふれた資金が日本の株式市場に向かっている」結果でもある。足もとの危機を見ずに、これらを「日本株式会社の回復」(ウォールソトリート・ジャーナル)とか、「日本の回復への期待高まる」(ニューヨーク・タイムズ)、「日銀の超低金利が回復に貢献する」(ワシントン・ポスト)といった認識の甘さと希望的観測で糊塗していていいものであろうか。

<「破裂を待つバブル」>
実のところ、ダウ平均が1万ドルを突破すること自体に特別な政治的経済的な意味があるわけではない。ダウ・ジョーンズ社が2年前に30社の採用銘柄の入れ替えを行った時に、ヒューレット・パッカードを加えたが、これがマイクロソフト社であればダウ平均はとっくに1万ドルを突破していたであろう、と指摘されている通りである。したがって1万ドルという株価は、これまでの株価からすれば未知の領域ではあるが、冷静に考えればバブルの頂点をどのレベルで画するかという象徴的な株価に過ぎないとも言えよう。ダウ平均は、単純平均ではないが、たった採用30銘柄の株価を合計して割ったものに過ぎないのである。
問題は、「過去20年間で株価は最も割高な水準にある。現水準から10-20%下落しても不思議ではない」(3/18日経、メリルリンチのシニア・アナリストのW・マーフィー氏)というところにある。
グリーンスパン連銀議長が、2/23米上院銀行委員会で証言しているように、「米経済の繁栄は、経済成長の急速な拡大でインフレが再発する可能性と、株価の値下がりもしくは世界の経済不況による脅威との間」のバランスの上に立っていること、そして「連銀の内部調査で、すでに株価は21%も高すぎるという結果が出ている」ことを明らかにし、さらに米国の貿易赤字の拡大について、「米国の国際経常赤字が支払不能になるのではないかと外国の投資家から懸念されるようになれば、ドル安が進行、米国の物価に圧力がかかる恐れがある」との見解を示している。それと関連して、外国の経済状態については、ロシアは危険状態にあり、ブラジルも前途不透明、日本に関しては「日本政府の不況は底を突いたという判断には賛成できない。むしろ日本経済の前途は悪化する可能性がある」との見解を示したことにこそ注目すべきであろう。
3/11付けUSAトゥデー紙は「米経済は破裂を待つバブル」という見出しで、米経済を取巻く三つのバブルとして、貿易赤字の増加と株価の急騰、消費者の借入れ急増をあげ、バブルは結局は破裂し、リセッション(景気後退)が起きると警告している。
このところ論壇でも注目を浴びている米ヘッジファンド大手を率いるジョージ・ソロス氏までが、最近の著書や各紙への寄稿論文の中で「世界各地の経済危機は米国経済にプラスに働いている。安価な輸入品を享受する一方で、資本が危機の国から米国に流れ込んでいるからだ。その結果、米国の消費者は稼ぐ以上に消費できるようになっているが、健全でないし、長続きしない。」「80年代後半の日本とまったく同じ状況の資産バブルになっている」「バブルは自身の重さに耐えられなくなるまで大きくなり続ける。こんな状況だというのにクリントン大統領は一般教書演説で公的年金に株式投資を認める策を表明した。バカげた考えだし、それこそ弾劾に値する。」と遠慮会釈のない論陣を張っていることは周知の通りである。

<5期15ヵ月連続のマイナス成長>
対照的に、バブルの後遺症からいまだに脱しきれない日本経済の現状に関して、昨年来、しきりに軽自動車の売れ行きが好調だとか、マンションが売れはじめ、白モノ家電の買い替え需要が出てきたとか、還元セールがにぎわったとか、消費の復調をにおわすキャンペーンが盛んに展開されてきたことは周知の通りである。しかしその結果は惨めなものであった。98/10-12月期の実質経済成長率は、前期比マイナス0.8%、前年同期比マイナス2.8%であった。公的資本形成は前期比実質10.6%の増加となったが、消費は前期比実質マイナス0.1%、設備投資は同マイナス5.7%と軒並み減少となったのである。住宅投資についても、低金利効果で下げ止まってきたとか、持ち家に回復の兆しが見られるとか、やはり期待先行の発言が相次いでいたが、住宅投資は前期比実質マイナス7.0%、前年同期比同マイナス10.7%という大幅な落ち込みであった。実質国民総生産が5期15ヵ月連続のマイナス成長というのは戦後来初めての記録的な最悪の事態である。

実質国内総生産 10-12月期(前期比)  1998年(前年比)
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国内総支出    473,664(▲ 0.8) 478,265(▲ 2.8)
年率換算成長率      (▲ 3.2)
民間最終消費支出 281,663(▲ 0.1) 282,103(▲ 1.1)
民間住宅      17,103(▲ 7.0)  18,554(▲13.7)
民間企業設備    73,366(▲ 5.7)  78,717(▲11.4)
民間在庫品増加   1,650( 28.3)  1,669(▲25.3)
政府最終消費支出  45,318(▲ 0.6)  45,306(  0.7)
公的固定資本形成  42,635( 10.6)  39,470(▲ 0.3)
公的在庫品増加   -584        -69(▲171.1)
財貨サービス純輸出 12,510(▲10.7)  12,513( 29.7)
財貨サービスの輸出 64,302(▲ 3.4)  65,738(▲ 2.3)
財貨サービスの輸入 51,702(▲ 1.5)  53,225(▲ 7.7)
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国民総支出    481,050(▲ 1.0) 485,273(▲ 2.0)
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単位10億円、四半期数値は年率換算

確かに、景気指標に微妙な動きが現れてきているのは事実である。株価は少し戻し、生産指数や機械受注、消費などの各指標も落ち込み幅は縮小する傾向にある。鍵を握る個人消費は、全世帯の消費支出は昨年11月に前年比+1.3%と増加に転じたが、12月-0.6%、99年1月+1.4%と交錯している。住宅ローン減税の拡大によって一戸建て住宅、マンションが売れはじめ、住宅展示場を訪れる人が増え、これらに「変化の胎動」(堺屋経企庁長官)が感じられるというわけである。しかしこれらの住宅需要のほとんどは結婚や転居に伴う新規需要だという。買い替え需要の方は元の買い値で売ること自体が困難でむしろ売却差損が拡大し、自己破産が年間10万件を超え、その中でも住宅ローン返済不能者が急増しているのが現実である。

<「リストラ予備軍」>
しかし、雇用所得が前期比実質マイナス1.1%、前年同期比実質マイナス2.0%といった具合に、所得が減少し続けている状態でマクロレベルの消費増を期待するのはそもそも無理というものであろう。今年はさらに減税と銘打った増税によって、年収794万円以下の世帯は、98年度より所得税、住民税の負担が約1兆円増大する。これによって給与所得者の内6割は税負担が増えるのである。
2/26労働省発表の毎月勤労統計調査結果速報(99/1月分)によると、従業員5人以上の事業所が労働者に支払った現金給与総額は前年同月比2.0%減の31万2387円となり、2ヵ月連続の減少、実質賃金指数は同2.3%減で18ヵ月連続のマイナスとなっている。
おまけに今年の企業の3月期決算は、史上空前の赤字ラッシュになることが確実な情勢となっている。銀行が不良債権償却のために軒並み巨額の赤字を計上し(住友7500億、第一勧銀6500億、高吟3500億、あさひ2150億等々)、すでに日立が3750億、NECが2200億という巨額の赤字転落、東芝も23年ぶりの赤字転落(単独で200億円)三菱電機900億円、富士通200億円、富士電機120億円、沖電気500億円、王子製紙、コマツ、日本精工、等々、続々と赤字を計上しようとしている。この際黒字企業まで不良資産を上積みして赤字決算を続出させているという。「法人税減税以前に、法人税そのものが入ってこない」のではと揶揄される所以でもある。これらの赤字決算と同時に人員整理が空前の規模になろうとしている。すでに大手銀行で2万人、NECが1万5000人(内、6000人強制解雇)、三越1000人、といった具合である。ベアゼロどころか、三井造船やコスモ石油のように賃金一律10%カットの企業が続出してもいる。
朝日生命が2月にまとめた雇用動向予測調査によると日本企業が抱える「リストラ予備軍」はサービス業で173万人、卸・小売業で124万人、建設業105万人など、全産業で約446万人に上り、そのすべてが失業した場合、失業率は10.7%に達すると予測している。
「変化の胎動」などと浮かれている事態とは裏腹に、雇用情勢がより悪化し、消費がより冷え込みかねない事態が進行しているといえよう。

<「やけっぱち政策」>
今月3日、日銀は日々の金利調節の誘導対象としている「無担保コール翌日物金利」を0.02%に誘導し、実質ゼロ金利を容認することとなった。先進国で金利をつけずに資金取引をするのは事実上初めてのことである。悪夢の国債引受を呑む代わりに最後の金利カードを切ったというわけである。だがゼロ金利による副作用が早くも出てきた。こうした金融資本間のコール市場では、投資信託や生命保険会社が、運用の旨みがなくなったコール市場からこれらの巨額の資金を流出しはじめたのである。無担保コール翌日物による資金調達額は「上位都銀の場合、3兆円にも上る」といわれ、国内資産の1割にも相当する資金を「その日暮らし」でしのいでいるのが日本の金融機関の実態である。これらの資金を融通してきた出し手のコール市場からの逃避によって、信用力の乏しい銀行の決済リスクが俄然高まりかねない危険性を招来しているのである。
たしかに今回の日銀による「実質ゼロ金利」容認後、長期金利は数日で0.2%以上も低下、日経平均株価は1000円近く上昇、一段の金融緩和はとりあえずは金融・資本市場からは評価された格好である。しかし、英フィナンシャル・タイムズ紙が3/4付けの社説で「日本は金融政策の極限に挑戦しはじめたが、”デスパレート(やけっぱち)”の政策が経済状態を改善に向かわせる可能性は小さい」と断じている通りであろう。
すでに日銀の資産悪化が同時に進んでいるために、こうした強引な緩和策は将来に様々なツケを残すことになろう。すでに日銀の預金保険機構向け貸出は、昨年3月末に1兆円台だったが、長銀と日債銀の破綻・国有化などで年末には8兆円弱に急増、今回の公的資金7兆4500億円注入の大部分も日銀からの借入金でまかなう見通しであり、すでに国債引受と同じ現象がすでに始まっている。ゼロ金利が招来する新たな銀行破綻、すでに破綻の危機がささやかれている投資信託や生命保険会社の信用崩壊は、またもや新たな公的資金導入を拡大させることとなろう。ここでも再び、国債の日銀引受という「禁じ手」議論が台頭するであろう。
こうした破れかぶれの金融政策が長引けば、その行き着く先はとめどもない貨幣価値の下落かもしれないし、それは正真正銘の「日本発の世界恐慌」をもたらす危険性を内包しているとも言えよう。小渕首相の「鈍牛」どころか、日本の政府・与党、野党ともにこうした事態の進展に何とも鈍感なことは、一体何をもたらすのか、真剣な検討が必要なのではないだろうか。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.256 1999年3月27日

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