【投稿】日米首脳会談の危うさ、脆さ

【投稿】日米首脳会談の危うさ、脆さ

<<首相訪米、相手にされず>>
小渕首相の訪米は、クリントン大統領から盛大な歓迎を受け、首相自身が「大成功」と大はしゃぎしたにもかかわらず、アメリカのマスコミは三日間完全に黙殺、首脳会談と晩餐会が終わった翌日の4日になって初めて儀礼的に短い記事を掲載したが、1面記事はなしという惨澹たるものであった。
小渕首相の就任時、「冷めたピザ」と酷評した米政治評論家のJ・ニューファー氏が「あなたは冷めたピザではない」と語ってくれたと喜び、表紙にピザを両手で差し出す写真が掲載された米週刊誌「タイム」を手にとって、「これだけ宣伝したんだから、ピザ会社からお届け物があっていいのでは」とまでおどけてみせたのであるが、アジア版の表紙にはなったが、肝心の米国版では表紙どころか記事としても全く取り上げられなかったのである。G7メンバー国の元首が公式訪問しながら、新聞が社説でこれをまったく取り上げないという事態は、ある意味では異常とも言えよう。しかし異常なのは、こうした事態をもたらしてきた日米関係である。日本側は始めから小渕首相が対米関係を最も重視し、アメリカ側の要求や宿題に誠心誠意応えることに汲々とし、アメリカ側はそれらを点検し、さらに注文を突きつけるという構図が出来上がってしまっていることにある。
したがっていくら体裁を整え、レンジで再加熱したところで、代わり映えのしない
気の抜けたピザの味は変えようがないと言うものであろう。米国べったりの路線が初めから周知されており、世界の政治経済に緊迫感あるインパクトや事態の打開策など期待できないと見透かされている小渕首相は、米国の新聞での存在感はほぼゼロという状態である。それよりもアメリカのマスコミは、国内でも批判が高まり出したユーゴ空爆や、ロシア元首相チェルノムイルジンの訪米、高校での銃乱射事件、過熱気味の株式市場への警告におおわらわであり、クリントン自身、小渕首相との会談よりも、チェルノムイルジンの調停工作にこそ大いなる期待をかけて緊迫した会談が設定された。これには小渕首相も慌ててチェルノムイルジン特使との会談を急遽行ったのであるが、独自の政治解決の方針や打開策も持たない以上、ありきたりのすれ違いに終わらざるを得なかった。

<<「ならずもの」対策>>
しかし表面上のこうした状況とは裏腹に、今回の日米首脳会談の合意には見逃し得ない重大な問題が提起されていることは間違いない。第一は軍事問題であり、第二は経済問題である。
なにしろ軍事予算世界第2位の国が国内立法措置まで尽くして、世界最大の軍事大国と「軍事同盟強化」を図ったのである。小渕首相にとっては、大統領へのお土産として日米共同作戦の戦争マニュアル=ガイドライン法案の衆議院通過を報告し、参議院でも野党を取り込んで通過させる決意を表明しただけではあるが、周辺諸国はもちろん、日本自身にとっても危険な種をまいたと言えよう。日本側は冷戦体制崩壊後の世界の安全保障体制について米国追随以外に何らの政策・理念・構想も持ち合わせていないのである。一方、米国側は、世界の「ならずもの国家」=イラク、ユーゴ、北朝鮮等に対して、まさに「ならずもの」に対しては、「ならずもの」的にふるまうことを当然とし、軍需産業の在庫消化と新たなミサイル迎撃網構築・スターウォーズ構想を展開し、それらの分担から戦費・兵器・軍隊調達までを同盟国に押し付け、取り仕切ろうとしている。今回の日米合意はこうした危険極まりない戦争挑発行為への加担をより明確にしたのである。
米国のGDP7兆6000億ドル、軍事費約27000億ドルに対して、こうした「ならず者国家」全て合わせてもGDP1740億ドル、軍事費150億ドルにしかすぎない。どの国も米国を脅かすほどの「十分な経済力も軍事力もない」ことは歴然としている。
日本にとって問題は北朝鮮への対応である。米国防総省の「99年国防報告」で、北朝鮮を初めて「アジア太平洋地域で最も重大な脅威」と断定し、「経済状態の悪化が脅威を予測不可能にしている」、「米国まで到達する弾道ミサイルを開発する可能性もある」と脅威を煽っている。煽られている最大の対象は日本である。
これに対して直接の当事国である韓国の金大中大統領は北朝鮮問題の軍事的解決はありえないとの立場から、これまでの政権とは違い、大掛かりな平和攻勢を展開、いわゆる「太陽政策」を堅持していることは周知のことである。
北朝鮮のテポドン発射については「建国50周年で国威発揚にぶち上げた、子供だましの人工衛星打ち上げの失敗であった」という米国防省最終報告が、「北朝鮮が、米国本土が射程距離に入るような弾道ミサイルの開発寸前である」に見解変更が行われ、「この見解変更がクリントン政権の弾道弾迎撃ミサイルシステム導入構想のきっかけ」(2/3ニューヨークタイムズ)となり、クリントンは、かつてレーガンでさえ引っ込めざるを得なかった「スターウォーズ」計画に復活予算をつけると発表した。日本側はすでにこの計画への研究段階からの加担を約束している。これは今や中国にとって最大の警戒すべき脅威ともなっている。今回の日米首脳会談で再び確認された対米追随一辺倒の日本の姿勢が問われているのは当然のことと言えよう。

<<「10月解散説」>>
このところ「あと3年は政権を担当したい」と言い始めた小渕首相である。その首
相個人の政権維持にとってもさらに重大な問題は、日米共同声明の中で「99年度のプラス成長達成に不退転の決意で取り組む」と、99年度のプラス成長を国際公約にしてしまったことである。
ところが、首相訪米前の4/20、IMF(国際通貨基金)は世界経済の見通しを発表し、日本の99年の実質経済成長率をマイナス1.4%と予測したばかりである。IMF
は、日本は99年も戦後最悪の景気後退から抜け出せないとの厳しい見通しを公表したのであるが、これは昨年12月の時点で99年の日本の成長率をマイナス0.5%と予測していたのを0.9%もさらにマイナス修正したものである。失業率についても5%を上回る可能性をあきらかにしている(ムッサー調査局長の記者会見)。3年連続のマイナス成長が確実視されているのである。
にもかかわらず、99年度の成長率を「プラス0.5%」と言い張り、「景気は底を打
ちつつある」、「明るさがみえてきた」、堺屋経企庁長官など「99年度は必ずプラス
成長になる。その確信はますます強くなっている」等と言っているが、今やプラス成長を言うのは小渕首相とその周辺だけにしかすぎなくなっている。
確かに、株価は再び1万7000円台に乗り、金融機関は一息つき、国債などの債券も買われている。しかしそのほとんどは外国人投資家によるものである。外国人投資家は、昨年10月半ばに買い越しに転じて以来、日本株を買い続けており、3月の買い越し額は過去最高の1兆8483億円に達し、株価もこれに応じて急上昇、4/23には日経平均株価は1万6923.25円と昨年3月以来の高値を記録した。これは、アメリカの株価がバブル的上昇のために、一株当たり売上高の1.82倍、それに対して日本株はわずか0.47倍、世界的に見ても最も割安だという(ニューズウィーク誌5/5号)こと、さらに国内的には、政府が実質ゼロまで金利を引き下げたために、運用先を失った投資資金が仕方なく株式市場に流れているだけという、実体の伴わない株高の側面が強いことである。金利ゼロ下での金余りが生み出している「流動性相場」というものである。
50円の額面割れだったゼネコン株が2倍から10倍に急騰したり、200円、300円だった都銀株が2,3倍に急上昇しているのはその証左と言えよう。しかしその脆さは市場参加者の誰もが感じているものである。
実体経済では、それぞれGDPの62%、16%を占める個人消費と設備投資に回復の兆しなどまったくどこにも見えていない。過去最悪の失業率と消費の落ち込みは何度も指摘されていることであるが、設備投資にしても経企庁試算で86兆円の過剰設備があり、99年度の設備投資計画は大企業で前年比9.4%減、中小企業で26.2%減、経団連等からはリストラとともに、「設備廃棄減税」が声高に叫ばれている現状である。「景気は今が底」ではなくこれからまだ二番底、三番底が控えているとも言えよう。
こうした危うさ、脆さを前にして、まずは6月解散説で公明党の抱き込みと与党化、総裁選を前倒しする「無投票再選」まで画策し、景気がさらに底を割る以前に何とか解散を仕掛けたいというのが小渕首相の本音であろう。小渕首相が総裁選再選後直ちに解散・総選挙に踏み切るという「10月解散説」が急速に高まっている、あるいは意図的にそう仕向けているのは、迫り来る危機感から来るものと言えよう。
(生駒 敬)

【出典】 アサート No.258 1999年5月22日

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