【投稿】巨大銀行合併とリストラ-GDP後退と小渕政権のあがき-
<<内需総崩れ>>
12/6、経企庁が発表した7-9月期の国内総生産は、政府当局の予想に反して前期比1%減、年率換算3.8%のマイナス成長となった。その特徴は内需=国内需要の総崩れである。とりわけ民間最終消費支出が1-3月期の0.9%増、そして前期の1.1%増から逆に減少に転じたことは、GDPの約6割も占めるだけに重大であるといえよう。
同じ日に発表された総務庁の10月の家計調査では、全世帯の消費支出(個人消費)が前年同期比で名目3.1%減、実質2.3%減と深刻であり、次期の見通しも楽観できないことを示している。しかも99年度予算で膨大な赤字国債を発行して公共投資につぎ込んだにもかかわらず、国のみならず地方の財政悪化によって予算執行さえままならず、公的固定資本形成=公共投資が大幅に落ち込んでいる。もはやそうした従来型の景気刺激策の限界が明瞭になってきているのと同時に、国債発行残高がGDPをも上回る事態が景気回復の足枷になってきつつあることをも明らかにしてきているといえよう。
唯一の例外は、外需=純輸出16.7%増であり、これによって減少幅が何とかこの程度に食い止められたというところである。しかしこれとて、進行する円高によっていつ減少に転じてもおかしくない事態である。
実質国内総生産・GDPの推移 (単位10億円)
1-3月期 4-6月期 7-9月期
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実質国内総生産 482,863.1 487,498.1 482,809.3
前期比成長率 1.5 1.0 ▲1.0
年率換算 6.3 3.9 ▲3.8
民間最終消費支出 284,691.4 287,902.2 286,990.1
前期比 0.9 1.1 ▲0.3
民間住宅 17,559.8 19,821.7 19,192.9
前期比 1.4 12.9 ▲3.2
民間企業設備 79,829.1 78,158.2 76,497.9
前期比 2.3 ▲2.1 ▲2.1
民間在庫品増加 182.2 638.0 903.0
前期比 - 250.2 41.5
政府最終消費支出 46,558.6 46,942.0 40,751.7
前期比 0.8 ▲1.3 0.9
公的固定資本形成 43,307.0 44,524.3 40,751.7
前期比 6.2 2.8 ▲8.5
公的在庫品増加 -47.2 166.1 62.4
前期比 - - ▲62.4
財貨サービス純輸出 10,782.2 10,345.6 12,071.1
前期比 ▲10.2 ▲4.0 16.7
財貨サービスの輸出 64,367.3 65,308.7 68,363.7
前期比 0.0 1.5 4.7
財貨サービスの輸入 53,585.1 54,963.1 56,292.6
前期比 2.4 2.6 2.4
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<<「予想以上の下げ」>>
堺屋・経企庁長官は記者会見の中で「今回のGDPの伸び率が大幅なマイナスになったのは前年度の値を修正したためです」として、プラスに転じたときには否定した「統計上の原因」を今回は逆に力説し、「高原状態の中でのマイナス」であって、「いぜんゆるやかな回復過程」にあると言い逃れている。しかし「底打ち」宣言の当ても外れ、「予想以上に下がっているなという感じを持った」と言わざるを得なかったのである。
堺屋長官は先月16日に経済企画庁が発表した月例経済報告で、景気は「緩やかな改善が続いている」として、今年度の政府経済見通しもプラス0.5%から0.6%に上方修正し、「景気は最悪の事態を脱出し、回復の息吹が感じられる。来年度は2%成長を目指す」と、大見得を切ったばかりであった。
とすると今回のマイナス成長への逆転は、これまでのプラス成長の相当部分が金融機関への公的資金の大量投入、ばら撒き型公共投資の増発、公的融資と信用枠の拡大、住宅投資への一時的減税措置、等々、いずれも赤字国債発行を前提とした財政出動によって支えられてきたものであって、これらの対症療法的で一時的・短期的・カンフル剤的効果が長続きするものではなく、今度は逆のマイナス効果をさえもたらしかねない段階を示唆するものとも言えよう。
<<税収を上回る国債発行額>>
本来、これだけ長期間不況が持続すれば、当然自立反転する段階が到来するものである。しかし小渕政権ができてからだけでも、乱発された赤字国債は実に50兆円、国と地方を合わせた長期債務残高は99年度末見込みで608兆円(国が451兆円、地方が179兆円、重複分22兆円)にも達し、GDPの1.22倍以上という異常事態である。こうした巨額の借金財政が、本来財政が持っている「所得の再分配機能」を阻害し、膨大な利払いが国債を保有する大手金融資本と独占企業、資産家や金融ブローカー、カジノ資本主義に没頭する有象無象に財政を通じて流し込まれ、GDPの圧倒的比率を占める個人消費増大には流されない、むしろ税を通じて利払いに吸い上げるという不況促進要因となってきたのである。
99年度だけでも、国債発行額は38兆6160億円、99年度の税収見通しが45兆6780億円、地方交付税を差し引いた純税収は32兆5936億円であるから、国債発行額が税収を6兆円以上上回るという戦後初めての異常な事態である。そして99年度の国の利払い総額はなんと10兆9000億円にも達するのである。
11/25付け米紙ニューヨーク・タイムズは、1面トップで、「日本の経済刺激策――金メッキの施された景気対策」と題して、日本の公共投資は「ムダ遣い、浪費」、「穴を掘っては埋め、同じ作業を何度でも繰り返す古典的手法」、「これほどの放漫支出は米国ではあり得ない」と切って捨てている.。
<<「三井財閥の終戦記念日」>>
「個人消費は持ち直してきた」、「底堅い景気回復」などという政府やエコノミストの発言とは裏腹に、庶民には景気回復の実感などないし、逆に首切りからリストラ、増税に至る一層の厳しい不安感に追い込まれているのが実態である。 問題はまさにこれから産業再生法を利用したリストラが本格化することの景気に与える重大さである。大企業はこれ幸いと、次々と大規模な合理化案を発表している。10月以降に発表されたものだけでも、高島屋2000人、住銀・さくら銀合併で9300人、NTT2万人、三菱自動車1万人、三菱重工7000人等々、十数社だけ
で9万人の削減計画である。
これに金融機関の大規模な再編・合理化はこのリストラに一層の拍車をかけようとしている。興銀・第一勧銀・富士銀の三行合併は「ジリ貧三兄弟の合併」と揶揄されているが、これで総資産が世界一になったとしても、不良債権が5兆円を超え、これも世界一で、3行あわせて6000人の人員削減が発表されている。
さらに住銀・さくらの合併で、「三井財閥の終戦記念日」とまで言われた10/14の記者発表の席で、3人に1人の首切りが宣言されている。巨額の不良債権を抱え、株の含み益も底をついていた「落ちこぼれ組」のさくら、さくら側に壮絶なリストラを迫ることを条件に全面提携に踏み切った住友、この両行の合併後の総資産は98兆円、世界第2位の規模となるが、旧財閥の中核をなす2行の周囲には数千社の系列企業群が存在している。
両行は、3万人の行員のうち、2002/3月までにまず6300人、さらに2004/3月までに3000人の人員削減を発表、この数字は3月の早期健全化計画時点ではさくらが3500人、住友2000人であったものが倍近くに増大している。
当然、住友、三井両グループに属する金融資本グループは、住友信託・三井信託、住友生命・三井生命、住友海上・三井海上などが合併、合理化、リストラの対象となる可能性が急速に浮上している。さらに両行合併で融資比率や持ち株比率が上昇する企業群、とりわけ大手ゼネコンの鹿島、熊谷、住友建設、フジタ、三井建設、さらには長谷工、大林組にまで再編、切捨てが波及するのは必至であろう。
こういsた再編・合理化・切り捨ての波は商社やゼネコンから、自動車、化学、造船、重機、鉄鋼、すべての産業界に及ぶであろうことはいうまでもない。すでに住友化学と三井化学が合弁に着手、住友重機と石川島播磨の統合が取り沙汰され、住友商事と三井物産、NECと東芝、住友ベークライト・電気化学工業、住友金属・三井金属、住友倉庫・三井倉庫、住友不動産・三井不動産など両行グループのさまざまな組み合わせが俎上に上ってきている。これらグループに所属する従業員は何百万人にも及ぶのである。
<<リストラの「入り口」>>
問題は、「護送船団方式」といわれる国家独占資本主義の手厚い保護に寄りかかってきた日本の金融資本が、世界的な金融再編と競争の只中で、資本金の何倍もの公的資金を導入してもらって、それを悪用・流用して彼らの一方的に都合の良いリストラや銀行同士の合併、資金流用等々に何らの規制も制限もかけられていないことにある。
そのごく一部の象徴的な現れが、中小零細事業者には徹底的な貸し渋りを行いながら、金利40%、根保証、暴力的取り立てなどで『地獄の商工ローン』といわれる日栄、商工ファンドなどには、第一勧銀を筆頭に大手都銀が軒並み巨額融資をしていたことに現れている。
このようにして私的資本の論理だけで資本集中と独占化が一方的に進行し、強者への蓄積を強行すれば、これは逆に経済を疲弊化し、活力を奪うものでしかなくなる。
ソ連崩壊につながった、ゆがめられた「社会主義経済」の負の遺産でもある。こうした事態の進行に、「独占禁止」の視点からの注文がまったくつかない、政府は逆にこうした事態を奨励し、独占禁止法の議論を欠落させたまま、公的資本注入をさらに拡大させようとまでしていることに重大な問題が横たわっていると言えよう。
このような事態の進行は、リストラといわれるものが今はまだ「入り口」に差しかかったのであって、これからいよいよ本格化することを物語っているのだとも言えよう。帝国データバンクの調査によると、10月の倒産件数は前年同月より減少したが、不況型倒産の割合は逆に戦後最悪となっている。
問題はリストラだけではない。新規採用の手控えから、新卒の就職浪人が大量に出てくる可能性が現実のものとなりつつある。労働省の調べでは、来春の就職内定率は大学生63.6%、短大生36.5%、高校生41.2%と、調査開始以来最低の数字である。大卒就職未決定者が23万人もいるのである。
総務庁調査によると、すでにリストラ対象となって職を失った人々のうち、71万人が1年以上も再就職できないでいる。
<<「もうリストラは赦さない」>>
第二次小渕政権誕生で自民党政調会長に就任したあの亀井静香氏が、なんと中央公論12月号に「もうリストラは赦さない」と題して、「マスコミも労組もだらしない。
片っ端からクビ切りをしてはばからない大企業をなぜもっと正面切って批判しないのか。このままでは社会全体がなし崩しにくずれてしまう」と啖呵を切っている。
亀井氏は言う。「このあいだも経団連との会合で大きな声を出したんです。『あなたがたはリストラと名がつけば『そこ退け、そこ退け、お馬が通る』のつもりで、片っ端から人員整理・事業縮小をしてはばからないというのは、ちょっとおかしいんではないですか』と」、「連合の幹部も叱ったんです。『なにをしている。組合員の職を守るのがあんたたちの仕事だろう。それなのに最近はついぞ、人がクビ切りになっても団体交渉をやってスト権を確立したなんて話、聞かないぞ』と。頭を垂れていましたがね」といいたい放題である。指摘はまったくその通りである。しかしこうした
事態を進行させているのは、亀井氏が深く関与している小渕政権なのである。だがこれは同時に亀井氏一流の敏感な危機感の表れとも言えよう。
事実、第二次小渕内閣の自自公政権の支持率は急激に低下してきている。朝日新聞が11/23、24日に実施した世論調査では、小渕内閣の支持率は2カ月連続でダウンし、9月のピーク時に比べ、10ポイントも急落している。読売新聞の調査でもやはり支持率は連続で落ち込み、毎日新聞の11月調査では、支持32%、不支持39%でいずれも完全に逆転してきているのである。
亀井氏などに言いたい放題のことをいわせない、むしろ彼らの責任を追及し、自自公政権を瓦解させる労働組合や野党の反撃こそが問われていると言えよう。
(生駒 敬)
【出典】 アサート No.265 1999年12月18日