【コラム】児童虐待根絶には母子世帯・若者の貧困問題解決が必要だ
アサート No.497 2019年4月
○近年児童虐待の件数が増え続けている。児童が死亡に至る悲惨なケースもあり、マスコミは児童相談所や教育委員会、警察などの行政機関の取り組み不備を指摘するのに躍起だ。特に、虐待ケースとして把握していた世帯が転居していた場合、学校・教育委員会・警察などで十分にケースの引継ぎが行われたのか?一時保護を解除した後のフォローは適切だったか、などをテーマに記事が組まれている場合が多い。○こうした指摘は具体的な措置や指導、見守り対応についてのみ焦点を当てる。その指摘に行政機関や担当者は、しっかりと対応すべきであることは当然の事と言える。○しかしである。こうした虐待案件の陰にある「母子世帯の貧困」や「非正規労働者の増加と貧困」という背景にまで、踏み込んだ記事を見たことがない。○児童虐待とは言え、傷害罪や殺人罪として刑法上の対応となる。「児童虐待罪」という規定はないので、傷害罪・殺人罪として裁かれる。○よくあるケースが、母子世帯に別の若い男性が同居し、男性が児童虐待を繰り返したという事件であろうか。○この場合、男性は無職で住所不定とされている場合が多い。定職に就かず(就かれず)、居候状態で泣く子を虐待したなどのケースが多い。○確かに具体的な犯罪行為は、その行為をなした加害者が裁かれるべきだ。しかし、母子世帯や若者の貧困状態が広がる現代では、虐待に至るケースが今後も増えていくと考えるしかない。○橋本健二早稲田大学教授の著書「アンダークラス」によると、現在928万人の労働者が、年収200万円以下の非正規労働者であると指摘されている。(就業者の14.9%、平均年収は186万円)氏の提唱する「新しい階級(アンダークラス)」である。○定職がなく・住所も不定という場合、アンダークラスより、さらに下層ということか。地域社会との繋がりが乏しい場合も虐待発見が遅れることになる。○貧困が蔓延して犯罪が増加する、との社会的要因説に立てば、今後も「貧困」を背景に生活の苦しさ、生き辛さ故の虐待案件が減ることはない。児童福祉士を増やそうが、児童相談所を増やそうが、根本となる「低賃金」や「貧困」に対する社会施策の充実を行わなければ、児童虐待や高齢者虐待事件が増え続け、社会不安が強まっていく。○「貧困は自己責任」という新自由主義的発想では何の解決にもならない。(佐野)
【出典】 アサート No.497 2019年4月