【投稿】戦後最悪のマイナス成長と参院選

【投稿】戦後最悪のマイナス成長と参院選

●意表を突く日米協調介入
 6/17夜、日米両政府が2年10ケ月ぶりに意表を突く形で為替市場への協調介入を行った。進行する円安がニューヨーク株価暴落の引き金になりかねないという危惧からである。急遽、クリントン・橋本両首脳が為替問題で電話会談するという前代未開の事態である。サマーズ米財務副長官が東京に急派され、「協調介入の効果が消えないうちに、明確な景気対策を打ち出すべきだ」と、優柔不断な橋本政権を突き上げ、「減税という手段もある」ことを説得して回るという力の入れようである。6/20には先進7カ国とアジア太平洋諸国の蔵相・中央銀行総裁代理級会合=東京通貨会合が招集され、「日本経済と金融システムを立て直し、再び活性化させることが急務である」という共同声明が採択された。
 前回の協調介入は、1ドル=79円に突入した、円高がピークにあったときであった。今回はその倍近く、1ドル=146円という急激な円安におそれおののいた対応であった。この結果、一時は1ドル=133円台に戻りはしたが、東京、ニューヨーク両市場とも乱高下が激
しく、不安定要因が今年は重くのしかかっていることを示している。すでに橋本政権への不信から、再び為替相場は円安の方向へ戻り出している。

●「日本発の経済不安」
 これは、世界最大の債権国が不況に坤吟し、世界最大の債務国が加熱気味の好況を謳歌するという、史上例を見ない異常な現象の反映でもある。もちろんこうした事態が引き続いているということは、そこに客観的根拠が存在していることを示しているのであるが、それは同時に、何らかの形で事態の急激な変化を予測させるともいえよう。今年はその鍵となる年になるのではないだろうか。
 アメリカは、昨年に続き好況を持続させ、98年第1四半期のGDP(国内総生産)成長率は4.2%を記録したが、逆に日本は97年度は23年ぶりのマイナス成長を記録(-0.7%)、経済成長率としては戦後最悪を記録、引き続き98年第1四半期も-1.3%を記録し、4月の完全失業率が戦後初の4%台に上昇している。しかし事態がここまで進むと、アメリカの景気に暗雲が漂い始めたともいえる。このところその多くの兆候が出始めている。たしかにマネービジネスは全盛だが、他国通貨の大幅な下落によって米国産業の競争力は大幅に後退しており、今や製造業のGDPに占める比率は2割台に縮小、ドルという基軸通貨の特権を利用した他国犠牲の消費社会の構造は限界に達しつつあり、バブルの典型とも言えるキャピタルゲイン景気は最終段階にさしかかっているのではないだろうか。
 アメリカが誇る情報産業の花形、ハイテク代表銘柄であるインテルの株価でも、6月初めには2週間で2割以上の下落を示し、6/3にはマイクロソフトも下落、銀行株、医薬品株も下落、ニューヨーク株式市場は8800ドル台割れ、6/12には「日本発の経済不安」への警戒感から100ドル近く下落、8700ドル台にまで落ち込んだのである。9000ドル台を超え、1万ドル台間違いなしといわれていたのはつい最近のことである。

●「1ドル150円もあり得る」
 事態の急展開はささいなことからいつでも起こり得る段階に来ているとも言えよう。今回は、ルービン米財務長官が「日本が経済政策に失敗すれば、1ドル150円もあり得る」と発言したと報道されたことが、急激な円安のきっかけであった。実際は、1ドル=170円説から、ついには200円説まで飛び出してきている。本人はその報道を否定したが、そこには明らかに日本には利上げをしないように圧力をかけ、アメリカでは金融引締めに転じながら日米の金利差を維持・拡大し、円安で資金をドルに呼び込むことで株価を維持しようという意図がありありであった。
 同長官は、ゴールドマンサックス会長からクリントン政権入りした生っ粋の金融マンであるが、株価急落前の辞任説が急浮上しており、後任として経済学者のサマーズ財務副長官が取り沙汰される事態である。迫りつつあるバブル崩壊をできるだけ先延ばしし、この
間に自己に有利な実務を築き、がっぼりと稼ぐことが氏の至上命題となっているのであろう。
 しかしそうした政策自体が、米国経済の危うさを加速しつつある。米国債券市場で顕著となっているのが、海外資金の大量流入である。97年に海外勢が購入した米財務省証券は約1808億ドルに達したが、これは米国資金の海外純流出額に相当し、同時にまた経常赤字額の1664億ドルを上回る規模である。この結果、財務省証券の海外保有率は急速に高まり、94年末の19.0%から97年末には33.5%と全体の三分の一に達している。
 こうした事態は何をもたらすであろうか。米債券市場が海外資金なしには成り立ち得ない依存体質を強め、その動向にに翻弄されやすくなったことは否定しようがないであろう。事実、日銀が4月に為替介入資金の調達のために財務省証券を大量売却した際には、大き
く動揺している。日本を含めたアジア金融市場の混乱は、台湾、タイ、韓国を初め、すでに大量の米債売却を引き起こしている。日本は保有額が最も大きく減少、208億ドルも減少しており、再び進行しつつあるアジア金融危機のより深刻な再燃の中で、さらにアジア各国からの米債売却が続く事態となれば、ドル暴落の事態も想定せぎるを得ないであろう。

米財務証券保有減少国            米財務証券保有増加国
97/7保有額 98/2末 億$            97/7保有額 98/2末 億
日本    3,177   2,969   ▲208    イギリス   2,654   3,049   +395
スペイン  542    498    ▲44     ドイツ     803   920   +117
OPEC    547   507    ▲40     オランダ    508   547   +39
韓国     96    64    ▲32     中国     445    477   +32
ベルギー   280    258    ▲22    香港     334    365   +31
カナダ    274    254    ▲20    スイス      246    269   +23
タイ     108    88    ▲20     メキシコ       177    182    +5
シンガポール  351    339    ▲12    フランス      109    111    +2
台湾    316    307    ▲9    (保有額は公的部門と民間部門の合計額)

●いずれ破綻せざるを得ない
 「日本の低金利で絞り出されるように円資金が海外に流れている」(6/10日経)といわれる事態である。円安でいくら日本が競争力を回復し、貿易黒字、経常黒字が増えても、それ以上の資本収支の赤字があれば、外為市場で円売り・ドル買い圧力が優勢になるのは当然と言える。今年になってからの大きな特徴は、日米金利差の拡大を背景としたアメリカヘの資本流出が円安に拍車をかけ、それがさらにアジア各国の通貨を軒並み再度下落させ、株式市場の動揺も招いていることである。その意味では円安と連動した通貨危機の特徴が鮮明になりつつある。
 5/27は円安の進行とともに、世界各地の株式市場が急落、モスクワの株式市場はその日、11%も下落、ロシア中央銀行は海外勢の資金流出を防ぐためとして、20~30%から50%へ引き上げたばかりの公定歩合をなんと150%にまで引き上げた。外貨保有も一挙に半減、先進各国に緊急支援を求めるほどの動揺ぶりである。
 エリツィン政権の底の浅さも暴露されてしまった。今後の鍵を握るのが、まだ米財務省証券の保有を増大させている中国、香港の動向、とりわけ中国の人民元切り下げの動向である。中国は、94/1に人民元を33%引さ下げ、これがアジア各国に大きな影響を与え、
金融不安を拡大させたことは周知の通りである。
 このところ中国経済の減速が表面化し始めてきてはいるが、今のところ中国は輸出促進を狙った通貨切り下げを行うつもりはないと言明している。しかし「アジア各国の通貨が軒並み切り下げられている中で、人民元だけが切り下げなしというのはありえない」こと
でもある。
 末路基首相は最近の金融工作会議の席上、「一部の地方の金融秩序はコントロールできなくなっており、預金の取り付け、銀行へのデモが発生している。一部の企業や機関は権力を利用して金融機関に対して返済の見通しが立たないのに融資を強要している。この結果、銀行の不良債権はどんどん膨張している。これはいずれ破綻せざるを得ない」と発言している。その不良債権額は1兆500億元(1元=約16.6円)にも達し、これは貸し出し総額の20%にも相当する巨大なものである。国有企業の70%近くが赤字、失業者が1500万人という事態は改善されるどころか、より一層深刻化している。
 アジア各国通貨の下落により、予想されている以上に中国の輸出にブレーキがかかり、外資の参入にもそれが影響をもたらし、資金不足に陥り、さらに事態を見越した中国からの資金流出や対外債務が急増するならば、そして香港ドルが売り浴びせられた場合、中国としても買い支えることができない事態に直面するであろう。

●「貸し渋りを逆手に高笑い」
 間題は戦後最悪のマイナス成長に陥った日本経済の動向であり、今や世界的な焦点ともなっている。しかし当の橋本自民党政権は、国際的には信用度ゼロに近い状態といえよう。
 問題の不良債権処理に関しては、今年度、98/3の銀行決算では、10兆7500億円の不良債権の償却を行ったにもかかわらず、全体の不良債権は97/3の19兆3000億円から21兆9800億円と、逆に2兆6800億円増加している。これはあくまでも公表数字である。日銀の内部資料によると、主要加行の不良債権は実際は38兆9780億円に上っているという。さくら銀行は公表約1兆4800億円に対し実際は、3兆7600億円、大和銀行は公表約9600億円に対し、実際は約1兆7900億円といった具合に、軒並み公表の2~3倍の不良債権を抱えている。そのほとんどはバブル3業種といわれるゼネコン、不動産、ノンバンク向け融資に集中している。金融機関全体の不良債権の総額は76兆円と公表されている。
 政府・日銀が史上最低の超低金利によって銀行救済に乗り出して以来の、この4年間を振り返ると、銀行は毎年のように「不良債権の償却は山を越した」といいながら、減るどころかむしろ不良債権を増大させ、さらにアジア通貨危機の再燃により新たな不良債権を発生させる可能性さえ高くなっている。ところがこうした今回の決算の直前に、1兆7000億円もの公的資金を注入し、全銀行横並びで公的資金の申請をしながら、減配をしたのは1行だけで、残り18行は安定配当を続けたという。これでは国から株主へ所得移転が行われただけであり、銀行の問題解決への姿勢が実にずさんなものであり、税金の無駄遣いであるかを如実に示している。
 ところが「銀行の貸し渋りを逆手に高笑い」といわれる中小零細事業者相手の商工ローンでは、20%を超える高金利の貸し出しが行われており、「貸付金利は地銀なら4%ほどなのに、商工ローン業者から借りると22~30%にも跳ね上がる」実態で、東証一部上場になった日栄などは、「このまま貸し渋りが続けば続くほど、うちの業界は繁栄する」とポロ儲けを謳歌しており、この日栄だけで「貸付残高1兆円が目標」という繁栄ぶりである。
 さらに消費者金融大手(武富士、アコム、プロミス、アイフル、三洋信販)の98/3期の経常利益はいずれも過去最高となっている。これら各社は調達金利が超低金利下で下がっているのに、貸出金利は年25~27%台と高い水準のままである。まさに高利貸しそのものである。利息制限法では元本10万円未満で年20%、100万円未満が年18%と上限が定められているにもかかわらず、これを上回る無担保ローンが堂々と出回っている。裁判になれば超過した分は無効であるが、年40.004%を超えるまでは、借り手が任意に返済していれば問題はない、という現行制度の欠陥を巧みについて過去最高のぼろ儲けをしほうだいという、庶民にとってはなんとも許し難い事態である。大手金融機関は庶民には貸し渋りながら、こうした高利貸しにはふんだんに資金を提供しているのである。

●「金融再生トータルプラン」
 今や国際的な公約ともなった不良債権処理と内需拡大政策であるが、政府・自民党のやることはすべて後手後手、規模・内容ともに中途半端で一貫性がなく、内外から一致して見放されているといった実態である。そもそも橋本政権の政策は、消費税増税、医療費負担の増大以来、財政構造改革法に至る、ことごとくが消費支出を収縮させる政策が基本に据えられ、その手直しとしてしか景気政策が位置づけられていない、つまり不況深化政策を根本から改めようとしていないところに特徴があるといえよう。9兆円もの増税と公的負担の増大を前提にして、2兆円程度の時機を失した小出しで一貫性のない減税は、かえって政策不信と今後の増税を予感させ、実質所得増効果を台無しにしてしまっている。
 16兆円の総合経済対策も、「真水」が不明瞭でそれぞれの政官財の利益ぶんどりの縄張りに取り込まれて、砂漠に水を撒くかのごとくに吸い込まれて、その効果が一切現れてこないという実態である。
 そこで今回、自民党が準備を進めている「金融再生トータルプラン」なるものは、今後2年間で金融機関が抱えている不良債権をすべて処理するというものである。加藤幹事長は「大きなゼネコンや不動産業の不良債権処理に国が介入することがいいことなのかという論議が必ず出てくるが、日本経済を本格的に回復させるにはぜひ必要なことだ」として、銀行が抱えているゼネコン向け不良債権を、またもや公的資金=税金で買い上げようという、これまた後退いの禰方策である。その額、1伽兆円にも達する銀行とゼネコン、不動産業の救済策である。バブル期にさんざん儲けるだけ儲け、無責任経営を野放しにしてきたこれら業界と、これと結びついてきた政界・行政、官僚機構の責任を全く放置しているかぎり、国民からの支持など得られるものではない。
 各種世論調査でも、橋本政権の支持率はかつてなく低下し、30%を割り込んでいる。しかし新進党の崩壊の中で保守系議員を次々に復党させ、今や衆議院500議席のうち、自民党は261議席の過半数以上を確保している。
 社民・さきがけは閣外協力の与党連合から離脱したが、参院選後は再び自民党との連携の可能性を念頭においており、これには自由党、新党平和・公明までもが自民党に媚びを売っており、自民党執行部は笑いが止まらない状態とも言えよう。
 参院選の波乱要因は、史上最低の投票率、自民独走のもとでの、民主党、社民党、共産党の消長いかんといった事態に終わらせてしまっては、日本の政治・経済の展望は開けてこないといえよう。橋本内閣を退陣に追い込む、対決軸の明確さこそが求められている。
(生駒 敬)

 【出典】 アサート No.247 1998年6月26日

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