【投稿】低投票率で政権を決めていいのか

【投稿】低投票率で政権を決めていいのか

<自民単独政権にさせていいのか>
第18回参議院選挙の告示が真近に迫ってきた。6月号が読者に届く頃には、選挙期間に突入していることだろう。筆者も選挙運動のど真ん中に居て、感じることも多い。雑感になるが、意見を述べてみたい。
選挙運動をする側から見ても、今回の選挙の盛り上がりは今一つである。その原因は何なのだろうか。理由はいくつか挙げることができる。最大の問題は、政権交替につながるような、あるいは引き続き参議院で自民党に過半数を渡さないことが可能な展望を野党勢力が国民に示し得ていないことであろう。この展望を切り開こうとしているのは民主党だけだ、というのが私の意見だが、残念ながら、まだまだ結成されて二ヶ月という民主党には、国民が安心感をもって支持できる条件はまだ未成熟というのが実態だ。
しかしながら、両院で自民党単独過半数という事態が何をもたらすか、を考えれば、また、経済失政・無策に止まらず、ゼネコン・建設業をはじめ大型補正予算や政権党という地位を利用した、まさに従来型の利権誘導型選挙の色を濃くしてきた自民党の有り様に対する批判が強まれば、今後の選挙戦の展開如何で、自民党一人勝ちという状況は食い止められるのでは、というところか。

<強まる民主党への逆風>
そういう意味で、マスコミがこの間、特に民主党への批判を集中的に行ってきた姿は印象深い。新進党分解という結果を受けて、分立した小政党(?)と、旧民主党が新「民主党」を結成したわけだが、選挙体制や各地方における様々なちぐはぐさは否めない。特に3年前の参議院選挙で「新進党」枠で当選した議員と今回もそうした旧「新進」の枠組の候補者VS前回社会党枠で当選した旧民主党議員や候補との調整は複雑を極め、岐阜、神奈川、愛知や長野(後に調整されたが)そして岡山では、選挙区に民主複数立候補という「調整力不足」が批判の的になった。調整力が不足しているという批判そのものはその通りだろうが、「政党連合」という構想もあっただけに、新党という形が整わない、時間不足が現実であろう。ただ、「共倒れ」の危機感から、そうした県内での選挙活動は逆に熾烈に展開されており、その結果がどう出るのか、興味深いものがある。
さらに、連合が統一対応で比例区は民主党支持を決定し、また可能な限り選挙区でも連合統一候補を擁立している動きに対しても、民主党批判の材料にされている。労働組合が政治に口をはさむのが悪であるかのように。そして、民主党が労組支配下にあるかのような「ネガティブキャンペーン」が行われている。さらにご丁寧に、連合の中にも社民支持産別があるとか民主支持の産別労組の中にも社民党労組、地域がある、と連合の「指導力」を「心配」する形で、連合・民主党への批判が続いている。
しかし、連合サイドから見れば結成9年目にして、はじめて政党との関係で股裂き状態が基本的に解消され、社民勢力を除けば統一対応ができた画期的な選挙となっている側面の方が規定的なのではないか。参議院選挙の結果がどうあれ、連合の政治的統一は大きな一歩を踏み出したのは事実で、この流れが本物になるかどうか、次の総選挙でこそ試されると理解すべきだと思うのだが。

<社民党最後の国政選挙になるか>
明らかに、末期的症状を呈してきたのが社民党である。与党離脱しても橋本内閣不信任案には反対票を投じ、細川議員辞職に伴う熊本1区補選では、組合OBを担ぎ出し、供託金没収とい犠牲を払って、自民党議員を当選させ(現地では自民党から社民党に金が動いたという噂が飛んだほど)、国会議員の中からは、次回の総選挙では自民党に擦り寄ろうとする議員が続出し、参議院選挙後は「与党復帰」が確実視される、という一連の事態から浮かび上がるのは、「死に体」という姿であろう。今回の参議院選挙では選挙区全滅が確実である。すでに自民党は公明を時期のパートナーとする準備を進め、自民復権という社民党の逆説的な「歴史的使命」は終わりを告げようとしている。それとともに国会における社民党自体の消滅もカウントダウンが始まっている。

<「自共対決」キャンペーンの真実>
低投票率が予想される中で、共産党の躍進が確実視されている。新進党の結成・解党や社民党分裂・旧民主党結成、新民主党と「政党がコロコロ変わっていく」という中で、唯一党名が変わっていないということ、財政構造改革や不況という中で、社会保障費の削減などへの反対政党としてのわかりやすさが、支持を拡大している要因と言える。
しかし、躍進といっても共産党が、公明と並んで「拒否政党」である事実は基本的に変わっていない。6月9日付け日経の世論調査でも、政党支持率と好意政党支持率(好意を持っている政党支持)の差が1%未満である。
また、自民党筋が「自共対決」を強調するのは民主党を浮上させないためのキャンペーンであり、「自共対決」よりは、地方での「自共連携」が進んでいることも事実である。城陽市の例、また大阪の大東市の例など、共産党が「革新市政」と呼ぶ実態の中には、保守の一部と連携して、単に首長与党となっているケースが数多くある。
イタリアの「左翼民主党」のような、統一戦線思考はなく、もはや「躍進」もそろそろ頭打ちの状況だと思う。宮本の影がいつまで続くのかはわからないが、統一思考への転換を望んでも無駄だと思うが・・・・・・・。

<争点は、経済政策になるか>
実際はすでに選挙終盤である。自民党は、大型補正予算で得意の利益誘導型配分で業界を締め上げ、国民には「景気回復は自民党安定政権で」と、不況の時は保守に流れる傾向に期待している。しかし、生駒さんの文章で展開されているように、5月からの円安の流れ、そして6月での急速な円安の進行と日米協調介入の経過で示された「アメリカのいいなり橋本政権」の「ふがいなさ」と一方での不況倒産の増加、失業率4%という経済環境の一層の悪化に示される経済無策、不良債権処理と内需拡大を世界に約束した責任を橋本政権が果たせるのかどうか、こうした状況に対して野党側の対抗的政策の提示が、選挙を通じて、どこまで自民党への国民的批判に結びつくか、どうかが最後のポイントになるような気がする。すでにマーケットは橋本政権の格付けを引き下げた。アジアの、さらに世界的な不況の火付け役を避けたい橋本自民党だが、選挙中、マーケットはどう動くのか。

投票率如何によっても大きく左右される。自民党一人勝ちを許さないためにも、50%に近づく投票率となるような、終盤の盛り上げが必要である。(佐野秀夫)

【出典】 アサート No.247 1998年6月26日

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