【意見交換会】1998年8月参議院選挙結果から何を導き出すか
<参議院選挙の感想>
H)7月号には、東京、広島、名古屋、埼玉から各地の参議院選挙の感想という形で紙面を構成させていただきました。今日(8月2日)は特に在阪メンバーの編集委員・協力者の皆さんに集まって頂いて、さらに議論を深めていきたいと思います。
議論の柱の柱としては、
*参議院選挙の結果から何を導くか
*自民党の敗因とこの党の行方
*民主党・共産党の躍進をどう考えるか
*有権者の投票行動の変化と特徴
*今後の「対抗軸」と、政治勢力の再編について
*小渕政権と経済対策
などをテーマに意見交換会を進めていきます。最初にそれぞれから率直な感想を出していただいて、はじめたい。
<予測できなかった投票率アップ>
A)組合と地域のことで手一杯で、今回の選挙についても余り関わっていません。あまりよくわからない、というのが正直なところです。参加させていただいて、意見を聞いてこようというのが実際です。
B)昨年から保守系の議員に関わった仕事をしています。選挙戦に入って投票率は、45%くらいしかないだろう、と予想をしていました。大阪では自民党と共産党の3位争いになるだろう、と思っていました。それが投票日の3・4日前になって、何か変わってきたのでは、と感じはじめた。結果的には60%に近づく投票率となった。45%と言われていたのが、なぜ60%まで伸びたのか。票にして1300万人くらいになるわけだが、3・4日前までは投票に行かないつもりの人々が、どうして投票に行くことになったか。そこを解明すべきだ。これはマスコミ含めて誰も予想しなかったこと。普通、マスコミや誰かが予想できるのだが、今回はできなかった。それはどうしてなのか。そこに興味を持ちます。また自民党の敗北、民主党の前進はどうして起こったのか、解明したいと思う。客観的に分析して、議論したいと思います。
<バス、飲み屋でも橋本アカンの声が>
C)今回の選挙もお茶の間で、選挙ウォッチャーとして過ごしていました。93年の選挙以来ずっとです。7月号にも書きましたが、予想もしない結果でした。中務の選対(民主党の大阪選挙区候補)の人と話していて、23万票かな、と言う話をしていました(54万票を獲得)。しかし、橋本の減税問題の迷走の前後から街の雰囲気が変わってきた。バスの中とか、飲み屋、地下街の人の会話の中に、「橋本はアカン」とかいう話題が聞こえてきたし、終盤に民主党菅代表が大阪入りした時の街頭演説を聞いている人の雰囲気も変わってきたし、高校生が菅直人が来ていると寄ってきたり、というように雰囲気が変化してきた。7月号に書いたのはまだ不充分な分析なので、今日きっちりと分析していきたい、と思います。
<白紙委任を撤回した有権者>
D)96年の総選挙の後の、この意見交換会で「解釈枠組み」みたいなものを問題にしたように記憶しています。低投票率・自民党の勝利というのは、逆に言えば、「白紙委任」を有権者がした、ということで、「政治不信」という捉え方は十分でなないと。今回は、その逆で白紙委任をしていた有権者がそれを撤回したということ。問題は問題だと感じたのではないか。では、有権者が何を問題と感じたのかということです。投票行動に結びつくには、2つの原因が必要で、一つは「現状が何かおかしい」という意識。そして投票の結果、展望というものが要る。認識と結果への確信が必要になる。そういう意味で、なぜ3日前に、という話があったが、自民党の支持が伸び悩んでいるとかデータが出ていましたから、自分が投票に行けば、大きな変化が起こる、という意識が共有化されたのではないか。
<時間延長、不在投票緩和はプラス要因>
E)今回選挙法の改正で、投票時間が2時間延長になり、不在者投票の緩和が実施された。自治省なりに「低投票率」を改善しようということが、マスコミの事前の評価では、そんなことで効果があるのか、という反応だった。結果的には投票率はかなり上がったわけです。この改正はかなり効果があったと言えると思う。政治に関わる人たちの見方ではなく、一般市民の眼からみると、ハンコはいらない、旅行が理由でも不在投票ができるわけで、これまでは、どこで、何をして、などと事細かに聞かれていたのが、簡単にできるようになったということで、心理的な圧迫を少なからず取り除いたと言えます。選挙の評価にあたって、自民党の政策云々という問題とは別に選挙投票制度の改正は、大きな効果があったと感じています。選挙当日に私も投票事務に従事していましたが、延長された2時間だけで、私の投票所は10%投票率が伸びています。また、幼児を連れてくることが出来ることになったことも、効果があったと思います。さらに、延長された最後の2時間ですが、かなりリラックスした有権者の姿がありましたし、私の地元の投票所だったのですが、明らかに若者たち、それもこれまでは投票しなかったであろう20代前半の人の投票が目立ったのが印象的でした。こんな若者が地元にいたのか、と思うほど若者の投票が目立ちました。
<直前の補欠選挙では自民勝利だったが>
F)選挙期間中、連合系など労組事務所を訪問する機会がありました。これでいいのかと言う程、選挙活動のため事務所が閑散としていたのが印象的でした。選挙の評価は別にしていろいろ厳しい時に、選挙に集中というだけでいいのか、という感想を持ちました。さて、参議院選挙の1ヶ月ほど前に、いくつかの補欠選挙があったと記憶しています。いずれも民主党は躍進できず、自民党が勝ったと思います。そこから2週間、また1ヶ月の間に何があったのか、ということです。あまり大きなことは起こっていないと思います。しかし雰囲気が変わってきた、といのは私も感じていました。自民党圧勝と言われていたのが、これはヤバイぞ、という感じです。一番に思うのは、それまでも経済状況は悪かったのですが、円安の進行や、アメリカとの経済協議でも後手々に廻ったということ、恒久減税も選挙終盤に出され、さらにゴタゴタがあった。さらに不良債権問題処理の不明確さなど、マスコミ評価も一致して、自民党不信を露にしてきた。これが一つ目の問題。さらに投票率の問題です。このままではいけないのでは、という国民の意識もあったし、投票に行かないのは良くないことだ、ということをマスコミがかなり強烈に訴えていた。いつも投票率の良くない自治体にマスコミが入ってキャンペーンをしたとか。「皆で投票に行きましょう」という構えではなく「投票に行かないのは良くない、恥ずかしいこと」という宣伝が功を奏したと思う。時間延長・不在者投票の緩和ももちろん影響しています。最後に、参議院選挙が比例区において、国民の支持が直接議席数に反映するという面がある。小選挙区の衆議院選挙に当てはめれば、どんな結果になるか、興味があるところだ。
<投票率上がれば自民党に不利>
G)投票率の問題です。投票率が上がれば、自民党が不利になるというのはここ最近のことで、自社の55年体制の時代には投票率が上がれば、自民・社会が伸びる、という傾向があった。しかし、細川政権以後、必ずしもそういう傾向はなくなった。連立政権に期待しながら、連立政権が崩壊していく過程とともに、投票率は下がっていったわけです。棄権というのは現状肯定という見方もありますが、しかし醒めた眼で、ニヒリスティックな対応でもあったが、今回、3日前というのはわかりませんが、選挙に入ってから、自民党の政策が右往左往しはじめ、経済政策にも絡んで、「このままこんなことを許していたのではいけないのでは!」という意識が芽生えてきた。ただし、その受け皿となるべき民主党などが有効な政策を持っていたかと言えばそうでもない。しかし結果は無党派の人の30%が民主党へ、20%が共産党に流れた。自民、公明には各10%ということから言えば今回投票した人の投票行動と言うのは、現状肯定ではなくて、現状の変革をどうしたらいいのか、という視点があった。先ほどのEさんの話ですが、延長後の2時間で10%伸び、かつ若い人が多かったということです。さらに若い人が共産党に投票した場合が多い、というのは意外でした。最近のエコノミストによると、最近の投票率を調査すると、さっきの話とは逆に20代は20%、30代は30%、40代は40%と言う傾向があり、若者の投票率は依然低いというのです。ただし、今回の大きな特徴は都市部で投票率が上がったことだ、ということは注目する必要があると思っています。
<民主党が「化ける」可能性あり>
H)7月4・5日の時点でマスコミは事前調査を行ったわけで、その結果は自民は過半数を確保するものの、民主は現状維持、共産躍進というものだった。しかし、選挙終盤に菅代表が大阪に入りましたが、動員者をはるかに越える聴衆が集まるんですね。近鉄奈良駅前には千人の動員に3千人が集まった。その時点で民主党は橋本の後を追うように菅代表を行動させていた。それでも、投票率がここまでくるとは誰も予想できなかったんですね。民主党は躍進したが、党そのものの政策などで躍進したのではない、という議論があります。しかし、今評価すべきは、それでも「化ける」ことがある、ということです。自民党が大敗しましたから、自公連携と言われた公明も動けない、首班指名で自由・共産が一回目から菅に投票するという、このイメージ。力があるから躍進した民主党ではないけれど、勢いが付いてしまうと、化ける、ということは忘れてはいけない。
統一地方選挙を前に、無所属の議員、また社民党議員の中にも、民主党へ移りたいという議員の話が聞こえてきています。労働組合の方は、民主党へ一本化の方向が、時間がかかってもほぼ確定という状況でしょう。
<再び、山が動いた?>
D)投票行動の話が出ましたが、僕が特徴的だなと感じたのは、住宅都市整備公団が開発作った新興団地があるんですが、これまでは常に低い投票率だったんです。階層的にはサラリーマンや中流といったところ。ところが今回の選挙では、市内の他の投票所と比べても、この団地の投票率は、異常に高くなったわけです。これはすごい、と思ったわけですが、山が動いたとか土井さんが言ったことがありましたが、今回もそうだったわけです。無党派、無関心と言われた層が大挙動いたということです。
H)選挙公示後、不在者投票が前回より3倍だとか増えている、という報道が続いて、棄権するのは罪悪とまではいかないが、投票に行かなないといけない、というムードができていたのは事実。
<投票日制から投票期間制へ変化した>
C)日本の選挙は投票日制度なんだが、不在者投票が簡単になったことで、告示以後は毎日が投票日という「投票期間制度」になったと考えるほうがいいのではないか。
D)また、投票できる場所も増えたこともある。不在者投票を活用したのは公明だったと思う。バスを出して毎日、同じ人が運んでいた。これまでは、投票日のみの対応が、不在者期間中ずっとだった。
H)結果として、投票数全体の10%近くが不在者投票で、500万票を超えているようだ。
<従来の不況対策の有効性に疑問>
B)ちょっと本質的な話に入りたい。投票率が上がって、自民党というか世の中への批判が集中したということなんだが、良く言われるのが、自民党の不況対策がなかったからだ、というマスコミ報道。一面事実だと思うけれど、さらに本質的に言って、自民党であろうと民主党であろうと、経済政策が国の経済に与える影響力の限界が低下してきているのではないか。グローバル経済の進行の中で一国経済の中だけで解決できることが困難になってきている。膨大な投機資金が国際金融界で動いている中で、有効な不況対策が果たして出せるのだろうか。それは自民党であろうと民主党であろうと、そう簡単にだせるものなのか、減税の額を争ったり、公共投資云々という議論になっている。こうした対策はこれまで有効だったが、それ自体が限界に来ているのではないか。まだまだ内向きに「一国経済主義」で解決できるかのような幻想を振りまいているのではないか。自民党への批判が集中したが、これが民主党ならできるのか、ということだ。国際的に金融資本が3000兆円がうごめいていると言われているが、アメリカは国益に基づく戦略で対応しているのに対して、日本が「国益を守る」という国家戦略を持っているのかな、と思うわけだ。政党も我々もマスコミも持ち得ていないと思う。国際的に見ても、こうした感覚はまだまだ日本では成熟していない。民度はそこまで行っていない。
<政策よりもスジが問われたのでは>
D)不況対策なり税問題なり、今回の選挙もそんなに争点が明確ではなかった。例えば消費税の導入に賛成か、反対かのような択一の選挙ではなかった。今回有権者が問題があると認識して、自民党にNOの反応をした原因は何だったのか、と言えば、仮説なんですが、日本語でいうと「スジ」ということではないか。それは今風の言い方でアカウンタビリティ(説明責任)ということだが。自民党は構造改革をやらないといけないと六大改革を言ってきた、特に痛みを伴う諸改革を行う場合はきちっと説明責任を果たすことが必要になってくる。その改革が本当に正しいのかどうか、本当のことはわからないんだけれど、しかし、やらねばならないのなら、説明をして、やりきる必要がある。少なくとも前回の選挙では橋本首相は「大見得を切った」んです、「火だるまで行革を」と。ところが今回政策転換をなし崩し的にやりましたね。特に有権者の反発を買ったのが、金融機関の不良債権処理の問題だった。あるいはゼネコンの問題もあった。例えば金融機関の経営責任の問題をどこまで明確にさせるのか、という面では、やはり菅さんの方がはっきりしていたということがある。普通の主婦の人が言っていることです。将来に赤字を先送りしたらいけない、といいながら、不況対策と言い出す。そんなぐじゃぐじゃした対応でいいのかという意見は多い。そういう「筋の通らない」やり方では、任されない、という意識は強い。そんな「スジ」という切り口で見たら、自民党・社民党が負けるというのは当たり前で、筋が通っていない。社民党なんか特に筋が通っていないわけで。民主は、菅さんの個人的イメージがある、エイズ問題での実績がある。共産党はそれこそスジの政党で、彼らなりにスジを通すわけ。だからそれなりの安心感がある。内容の問題よりも、我々(政党)が何を重視して、何をめざすか、をきちっとやっていく。もし、間違いであれば、きっちり説明をして転換をするというプロセスが大切ではないか。自由党も苦戦を言われていたが、スジという意味ではプラスに作用したということでしょうか。ここで民主党が「クチャクチャ」としてくると、信頼を失うことになると思う。そういう意味で、政策形成のプロセスメイキングみたいなものをしっかりする必要がある。
<政権与党は、なかなかスジが通せない>
B)スジという意味では、その通りだと思うんだが、政権与党と言うことになると、与党というのはスジを通せないんだな。なぜかと言えば民主主義の問題なんだ。民主主義というのは哲学的問題ではなく、ルールの問題として認識しているんだが、今の民主主義について言えば、あの当時、財政構造改革と言いながら、不況になって行く中で、法の凍結という議論も自民党の中でやっているんだが、後世に負債を残さないということで財政構造改革では各省一律で削減という形しかできなかったわけだ。不況ということになると、いろいろなところから異論、不況対策を求める声がでる。市場経済から出てくる要望にスジが通せなくなる。スジが通せない中でも、きっちりとした説明が必要だったとは思う。それを確かに自民党はしていなかったと思う。野党は説明ができるんだ。与党を追及する時、スジがなければいけないわけだ。なぜ社民党がああなったか、さきがけも。私は良くわかる。与党になればあらゆる団体、階層の利害を調整しなければならない、という意味からも与党はなかなかスジが通せない。もし民主党が政権を取ったときも、同様のことに直面するはず。こういう日本の民主主義の形態というのが日本の問題だと私は認識をしている。
<自民の否定票が、民主・共産に>
F)消費税の時と今回が似ている、という意見がありましたが、私も同感です。消費税の時も、それはかなわん、という意識が国民にあった。消費税を導入しない場合の、国の財政をどうするんだ、という議論も十分ではなかったけれど。今回の場合も自民党の経済政策が後手後手だし、実際に失業率も戦後最悪を更新し続けているわけで、倒産件数も増えているという状況の中で、自民党政権は何をしているんだ、という意識は強い。じゃ、民主党が政権を取っての政策内容等で国民が選択したのか、と言えばそうでもない。自民党への否定から民主・共産に流れた、と言う意味で89年の消費税の時と変わらない。小渕内閣は経済政策を転換すると言っている。しかしながら、国家財政が大変な赤字で、不況対策とは言え、この財政危機の中で赤字国債で対策を行うと、それで大丈夫なのかと。積極経済政策で行くというわけですが、それが不況打開につながるかというと誰も責任を持てないと思う。皆さん難しいことを言っているが、結局自民党の経済政策が国民に受け入れられなかったということで良いのではないか。説明したのか、どうか、と言う問題ではないのではないか。民主主義のルールということで言うと、解散・総選挙ということになる。民主党が政権を取る可能性もある。ただ、民主党が政権を取っても有効な経済政策が出せるかというとまだまだ疑問だ。民主党の中がまとまるか、どうか。旧自民党系もいる、連合系でも民社、旧社会系もある、というところでは未知数だ。今回の選挙の評価もその程度で十分ではないかと思う。
<不況即政権批判にはならない>
D)私は、Fさんの意見に全然納得できない。自民党の政策に有権者がNOと言った、それだけの説明では単純すぎると思う。自民党の経済政策が失敗して、批判が出ていたのは、参議院選挙の以前からだった。だから、そんな状態の中でも、世論調査が「自民党が過半数を確保する勢い」とある時点で出したのは、それなりに現実を反映していたわけ。経済不況は深刻だけど、自民党はそこそこ勝つという評価だった。それはたぶん正しかったのではないか。それは、経済の状況が悪いから政権与党に否定票を入れる、ということに直結しないのではないか。景気が悪いということは、一種、今日は天気が悪い、というのと一緒で、それだけで自民党批判が強まることを意味しない。
しかし、現実はそうなった。そうさせたのは何か、ということを評価すべき。それは、選挙に入ってからの、橋本の言動であり、それまでも不信を募らせていたのに、減税問題、不良債権問題などでさらに「火に油」を注いでしまった。
<不良債権処理策に厳しい不信感>
G)その一つが金融再生トータルプランだ。少なくとも3月前後で30兆円規模を提起したわけ。その時銀行横並びで1000億円を申請した。説明責任なにも無しだ。皆不信に思った。だって体力もいろいろ違うだろう。ところが皆同じ。誰も責任も取らない、説明もなし。また今度もそうなると皆思った。さらに10兆円ということになったらもう100兆円になる。こんな奴らに任せて置けないということ。そういう意味では、自民党の政策というのは、グローバルな経済から離れている。いまこそアカウンタビリティが要請されているわけ。ところが内向き・内向きの「解決」で、以前からの護送船団方式をなんとか守ろうとしているのがみえみえだ。これに対する批判だ。
F)意見の対立が何処にあるのか、わからないので、同じことを言うかもしれませんが、自民党の経済政策、または姿勢に批判が集中したということ。従来、不況の時は、自民党が強い、安心ということがあった。しかし、今回の不況は循環型不況とは違う、国民は感覚的にわかっていると思う。だから、具体的な経済政策を的確にやっていかないとだめだろうと、ところが現実には自民党の政策への不信感から、国民が自民党から離れたということだ。政策対立で民主党がより良い政策を出したから勝利したわけではない、そういう意味で消費税の時と同じと言っているわけです。
<新しい形の投票行動だったのではないか>
D)今回の選挙について、私はさっき「スジ」というものを出しましたし、アカウンタビリティという話をしました。、個々の具体的な政策、例えば税制、消費税などの政策ではなくて、政策の展開手法なり姿勢、質なり体質なり、そこをめぐって有権者が投票行動を行った一つの新しい形の選挙結果ではなかったか、と私は言いたいわけです。つまり、私の姉が、夫の家業の事務手伝いをしている専業主婦みたいなことをしていますが、そんなに政治意識が高いわけではないのですが、テレビを見ていて、やっぱり菅さんの言うことは正しいというわけです。菅さんは金融機関を救済するやったら、全部に管財人をおいて経理を公開させて、その上でどうするか決めると言ってたと、それは当たり前のことやと言うわけです。自分のところの会社もしんどいけれど皆自己責任でやっているわけで、なぜ銀行だけが、横並びで資金を入れてもらったりできるのか、自己責任をはっきりさせるということは大事や、と平場の常識をいうわけ。金融トータルプランがどうとか、消費税5%がどうとかいうことはみんな疑問を持っているわけだけれど、減税やっても景気が良くなる、とは誰も思っていないし、個々の政策の評価よりも、政治へのスタンスとか姿勢に対して、行動を起こしたのではないか。そう言う意味で新しいことだった、と思うわけです。
<消費税3%案、共産党にはプラス要因>
G)ただ、共産党の消費税5%を3%に戻せ、というのは、共産党の票が伸びる一定の要因になったと思う。共産党だけがこれを言ったのではなく、一定の財界とアメリカも言ったと。だから、それで景気が戻るとは皆思わないけれど、一定の層には受けたと思う。
B)自民党の党員も言っています。銀行はスジを通さんかいと。自民党の党員は商売人や鉄工所のおっさんなんか。あんなえーかげんなことをして、とこれは民意です。問題はなぜこれが出来ないかということ。皆デスクロージャーして、自己責任を取ればいい。自民党は金融資本の利益の代表者だからできないのだろうか。
G)そうなんとちゃうの。
B)いや、なぜ出来ないのかというところ。ここはイデオロギーを抜いて考えてほしい。もし経済恐慌が起これば、国民全体が被害を受ける。金融資本だけが無傷でおられるわけがない。なのに、なぜ、こんな状態なのかということ。
G)責任を取らせる体制になっていないからで、それはなぜなんや。
B)それはわからん。自民党支持者もみんなそう言っている。自民党に票を入れた人も皆そう思っている。
F)あまり、複雑にこねくりまわしても、しょうがないわけで・・。例えば、この前、エイズのテープ問題もあったし、大蔵省の隠蔽問題もあった。官僚と業界の結びつきも現にあるわけ。大蔵省、金融機関、自民党の関係構造は、中々拭い切れないものがある。エイズ問題でも菅さんがディスクロジャーさせてやっと解決の道も見えた。不良債権問題でも共産党のように、預金者は一千万円ですか、保護する、銀行は潰しても雇用は守る、というところまで言いきるかは別にして、すべてを明らかにして、だから公的資金導入必要、あるいは必要ない、というところまでやらないといけない。
C)それは既得権がない人間がやらないとしょうがないでしょう。しがらみというか。民主党の候補者はみんな自分はしがらみがない、ということを訴えていましたが。横にしがらみのある羽田幹事長が立ってましたが。
B)みんなしがらみで通ってくるんだよ。しがらみのない候補なんて激烈な選挙に勝ち抜けないよ。労組もそうだし、業界もそうだ。きれいごとでは勝てない。
F)どことのしがらみかということが問題なんです。銀行資本とのしがらみがあるから、白黒を付けられないのでしょう、自民党は。
<「都市政党」思考など自民は危機>
H)話題を変えますが、今自民党の問題が出ましたが、私は自民党はかなり危機だ思う。総裁選の最中、3候補がテレビ討論をしていましたが、「財政構造改革法の凍結」とか「6兆円減税をする」とか言っていました。国会を乗り切るためには、民主党の案を丸のみしてもいいとか幹部が言ったり、政党としてのアイデンティティが危機的だ、と言える。また「都市政党」を作る、という報道が流れた。都市部でほぼ全滅ということで、都市部の自民党の議員が危機意識をもったようです。統一地方選挙もやばい、ということで。確かに民主党は、参議院選挙で「最大風速」がその時吹いて、あんな結果になったけれど、逆に負けた方は、数字の上でも、意識の上でもほんとうの危機になっている、ということは見ておく必要がある。そんな自民党内部の議論はないのか。
B)私はまだ聞かないが、大阪の府議会議員40何人が、梶山で行くように決議をあげたということはある。そうしないと統一自治体選挙が戦えないと。そういう意味で危機感は特に都市部の議員は持っていると思う。
F)なぜ、小渕でなく梶山で、ということなんだろう?
B)それは感覚的なものだろう。こんな乱世の時代には、ちょっと乱暴でもいいからと。
C)都議会の自民党は分裂しましたからね。自民党が二つできたんです。2,3日前の話なんですが。会派が二つになりましたよ。
B)そういう意味では、自民党が危機であることは、間違いでない。ただ危機の中身なんだ。今の不況の状況の中で、その打開策を巡る本など読むんだけれど、まだ心にピッとくるものがなんだな。
<宮沢に誰も期待していない>
G)大蔵大臣が宮沢ではなくて、中坊公平になんて声もあるが、責任をはっきりさせろ、ということなんだ。そういうことが自民党ではできなんだ。誰も責任を取らない中で、住専機構は責任を取らせているんだ。宮沢がそんなことをするか、誰も信じていない。
B)ただ、今回の選挙で国民は、どこを選択したのか。民主党でも27議席なんだ。自民党は40数議席を取っているわけ。事実から議論すべきなんだ。事実から言えば、自民党が否定されたなら、もっと落ち込むべきなんだ。
F)さっきから言っていることなんだが、自民党が否定的評価で敗北したけれど、民主党が積極的評価で前進した、というわけではないんだ。
H)そうかなあ。自民党は選挙区で32しか勝っていないし、無所属の大半は選挙区で自民党に勝った候補で、民主に近い候補だ。
F)負けたのは負けたけれど、全体の得票で一番多いのは自民党、というのは変わっていないんだ。民主党の政策が正しくて勝った、というわけではないんだ。
G)しかし、大都市では軒並み負けているんだ。
B)自民党の得票率は、そんなに落ちていないよ。
G)都市部を見るべきだ、と言っているんだ。圧倒的に人口が多いところを見るべきだ。
D)比例区では、得票率で2%落としている。選挙区では、5%上げているが。
<日本の新しい経済システムの姿は?>
A)少し話題を変えさせていただきます。今回の選挙は争点はやはり経済問題・不況対策だったと思います。アカウンタビリティの問題もあると思うんだけれど、まだピンとこないわけです。それは今の日本の経済が一体どんな状況にあるのか、ということ。アメリカなんか、もう日本は破産したように言っているわけで、日本バッシングがすごい。株価に翻弄される日本経済みたいな。私の認識では、やはりこの前のバブルの時が絶頂であって、いずれイギリスのようになるわけで、バブルのツケが今来ている。減税も不良債権処理もあるけれど、日本の新しい経済システムをどう描くのか、ということがどの党からも提示されていないのではないか。バブルを再来してもしょうがないわけで、さきがけは環境政党とか言っていたが、武村が琵琶湖でゴミ拾いしているけれど。そんな打ち出し方がないから、よくわからないんだな。政党がよく見えないわけ。
<バブルのツケは、土地に集中している>
D)それは見えていないんじゃなくて、日本の経済には、実態の経済と「表層」の経済みたいなものがあると思う。日本の実態経済には、製造業の国際競争力にしても根強いものがある。消費構造、生活基盤みてもきっちりしたものがあると思う。ただ、日本の場合、戦後一貫した右肩上がりの土地政策がどっかで狂ってきたわけで、資産としての土地があって、これを基礎に経済が動いてきた。これがバシャっと崩れたわけだ。バブル以降おそらく数兆円の資産が霧になって消えたわけ。その最大の影響を受けたのは、ゼネコンであり銀行だったわけだ。生保もそうで、土地本位的に海外にも進出していたが、それが崩れた。これは凄いインパクトで、これをどう処理するのか、当面の課題だと思う。これは何処かが泣なあかんわけ。個人レベルでも、株などかなり不良債権処理をやったはずなんだ。ただ、「金融システム」を守る、というのは抽象概念なわけで、そのために公的資金を導入するというのは、個別の銀行を守るというだけでは国民の反発を招くわけだが、システムを守るというのは、国民経済が機能する基礎だから絶対にやらないといけない。個人の経営責任とシステムを守ることが、ごっちゃになっているので、わかりにくくなっている。そこを明確にして、表層経済の部分も絡んで複雑になっているのを早く整理しなければいけないと思う。それがやれるかどうか、一番大事な問題だ。
<金融再編と雇用問題>
F)そこで、教えてほしいことがある。不良債権でなかなか処理できず、グルグル廻っているんだが、そこを解決してグローバル経済に日本がぞう改革していくかが、問われている。しかし、そこで我々は労働者なんだな。だから働くもののことを考えないといけないわけだ。勤労者として、それがどうなんだ、という話をしなきゃいけない。具体的に言えば大阪の信組再編問題があって、来年3月には3行に再編され、ほとんどの職員が首になるという問題がある。信用組合なんていうのは、庶民・中小企業向けの金融機関ですから、不良債権の中身というのも大手の銀行の紹介融資で焦げ付いているのが多いわけです。自らバブルに踊ったというわけでもない。共産党は、預金者と労働者は守らないといけないと言っているわけで、他は、内部留保を吐き出してとか言っているだけ。福徳銀行とどこかの合併などの話もあるように、その過程で銀行業界ではリストラが進んでいるわけです。ゼネコンは吐き出せとか、銀行は潰れてもいいという話になっているんだが、そこに労働者の解雇という問題が忘れがちだ。雇用を守るために護送船団方式で行く、という道も出てくるだろうが、おそらくそれでも持たないことは分かっているんだが。働くものの立場に立った金融再編という議論が必要だと思っている。
B)金融再編のシステムの問題と個別の経営責任はわけて考えるべきだ、というのがDくんの意見だったと思う。金融システムが安定しなければ、預金者も国民もみんな被害を受けるわけで、公共政策の立場で考える必要がある。システムを考えれば公的資金を導入して支えるべきという議論が出てくるが、無責任な経営者に対しては、銀行でも何でも潰れればいいという議論になる。そこで、解雇・失業はどうするのか、という議論も出てくる。
F)改革には痛みが伴う、という議論もあるが、我々は労働者なんだからその立場から区別した議論が必要だと思うのだが。
<大銀行の不良債権が最大の問題>
G)不良資産が発表されるたびに、増えていくわけ。少なくとも昨年なら12,3兆円だった。ところが今年の初めには30兆円になった。3月には50何兆円になり、つい最近は73兆円だという。皆ここに疑問を持っている。このままでいくと利息もついてどんどん増えていく。これに公的資金を導入するということに皆疑問を持っているわけだ。第3者機関であれ、メスを入れなければいけない。ところが彼らだけで決めて、横並びで一千億円というわけだ。金だけもらってちゃんと株主に配当もしている。税金から配当しているわけで、こんなことは許せない。とするならば、それぞれのディスクロージャーしかない。しかも、その不良資産の圧倒的なものは19行の中の6行か7行が半分を占めている。Fくんの言う中小金融機関の不良債権なんて、これらと比べると極めて小額なんだ。東京三菱銀行の不良資産だけで27%くらいになる。ところがビクともしない。
H)Fさんの意見に対してだが、労働者はまじめに働いてきた。給料もそんなに高くない。大阪のシステム論として信組再編で自分に責任がないのに解雇、ということで、それに反対だ、という論理が今通用するのか、ということを半分くらい思う。大量失業ということに対して逆に社会システム上、雇用対策が必要であるということはわかるけれど、単純に労働者に責任がないという言い方は、もうしんどいのではないか、と感じている。労働組合は失業に反対し、雇用政策を要求するのは当然としても、全員を守るというのはしんどいだろうな。
D)個別の資本や企業を救済するということができないのは、はっきりしている。金融機関であっても、個別私企業の経営責任というものが明確。その結果は何千人が路頭に迷うという意味で。経営責任は重大なものだ。中小企業の経営者もそれは厳しい経営責任を意識していると思う。山一の場合もそうで、社員が全く経営責任から無縁だ、ということにはならないと思う。経営にチェックを入れるとか、意見を言うとか。
<労働者の立場からの金融再生>
F)雇用対策ということで、護送船団方式で公的資金導入・救済するということは、ええとこ取りだ、ということは私も理解する。だけど、中小企業の労働者に経営への意見を言うべきだ、ということだが、実際働いてみればわかるが、ちょっと意見を社長に言っただけで「窓際」になるか、ハラスメントならましな方で、早くリストラされてしまっている。そんな中で、労働者にも責任がある、というのは言いすぎだと思う。問題は、銀行が潰れたら、その社員でなくなることは確かだが、それと雇用対策をどう出すか、は別の話だと思う。それでは労働者から出している金融改革プランということにはならないと思う。
D)そもそも労働者側から出す金融改革プランという考え方がよくわからない。金融システムというのは、高度な公共政策でしょ。そこに、労働側とか資本側とかの二項対立があると思われないんですが。
F)リストラされる立場になれば、そう簡単に割り切れない。銀行が潰れても受け皿銀行とか、債権回収機構とか、金融分野で新たな雇用を生み出すという政策抜きではダメなのではないか。構造改革が必要と皆が言うけれど、それで労働者が多数路頭に迷うと言うことになれば、それは納得することができないが。
D)個別金融機関の倒産に関わってどうするか、というのは極めて個別対策で明確にする必要がある。ただ、宮沢さんがこの間言っていたように、ハードランディングなら誰でもできる、ソフトランディングを考えることが必要ということでしょう。
F)信組全体で1700名の社員がいるというのだが、再編信組に行けるのは200何人名と言われている。これを膨らませても、不良債権取りたて会社を作ってもせいぜい500人、まだ1000人が残るわけだ。だから金融再編と言っても、高度な問題だといっても、この問題をどうするのかをセットに出さないと、働くものにとっての金融再編とは、単に巻き込まれて負けました、というだけなんだ。そこで民主党が政権を取ったとしても、低賃金とか雇用問題で、政策を出さないと、少なくとも連合が民主党を担いでいる意味はないわけ。
G)普遍的な問題と具体的な問題があるわけやな。
F)その通りだが、この事を強調しておかないと、経済研究会だけの議論に終わるのではと思うわけだ。
G)それならば、具体的な提起はないのか。
F)そういう意味では共産党の言っている公的資金論はある程度正しいと思っている。1000万円の預金者保護には公的資金を導入することと、雇用の問題では、国が3セク的に金融監視制度を作って、という話です。数字的に無理があるというのは事実なんだが。
D)それは、Bさんも言っていたが、国際金融の中で、日本の金融システムをどう守るのか、という高度な問題であり、金融改革を進めつつ雇用対策も行う、ということなんですが、一つのことを進めようとすると、輻輳的に色々な問題が出てくるわけです。こんな問題に幅広く、調整してまとめあげてきたのがこれまでの自民党の政策だった。そうした輻輳的な問題の中で、単一の課題を突き付けてきたのが、これまでの労働組合であったし、野党であったわけだ。こうすれば全部解決できる、という一般解を出せる政党なんかないわけで、ないからこそ、いろいろな問題があることはわかっている、けれど、それを引き上げて一つの政策にしていくときに、こういうやり方でいきたい、その原則はこれです、こういう手法で調整していきますよ、みたいなシステムで議論しますよ、というように民主党が関係者を集めて、オープンに議論して政策形成していく、という形なら民主党はもっと支持が増える。自民党はもっと見えない所で調整をやっているはずなんです。上のレベルで。だから参加型の政策形成はできない、そこで違いを出すべきだと思う。民主党は違うやり方で利害調整をするんだ、というシステムにしないと。けれど、結局出てくるのは同じものが出てくるかもしれないが。
<共産党の躍進をどう考えるか>
H)話題を、共産党の躍進をどう考えるか、ということに移したいが。
B)共産党は確かに変わってきたと感じている。宮本が退陣したでしょ。あれが大きいな。関西財界が御堂フォーラムということで月一回の講演会をしているんだが、そこへ志位書記長が呼ばれた。宮本という大阪の候補がいたが、彼が大阪の商工会を廻っているということがあったが、その前段にすでに志位が来ているわけだ。いっぺん共産党の言うことも聞いてみようということだったらしい。それが参議院選挙につながっている。宮本が退陣したが、志位はどちらかというと市民派だな。立場性にこだわらんな。オールドマルキストでないモダンマルキスト(?)かな。そうでないと菅に投票するなんて考えられない。変わってきつつある、と見るべきかな。
E)常任幹部会にカメラを入れたとか、中国共産党との和解とか。
F)共産党が変わってきた、というのは私もそう感じている。労働法制の規制緩和問題で中央では連合と全労連が集会をしたし、全労連系が連合系にさかんに呼びかけをしてくる。本気でやっている。参議院選挙で言えば、民主党の野党共闘の呼びかけに最初に賛同したのは共産党でしたよね、社民がぐずぐずしているのに。くやしいと思ったらいいのか、いいことやと思ったらいいのか、複雑ですが、我々が昔言っていた統一戦線思考になったきたのかな、と思わせるふしがあるが、いつまた独自路線に転換するか不安感はあるが、変わってきたな、という感じはする。
D)変われへんと思うよ彼らは。ただ、いろんな分野で彼らが正当性を競う相手がなくなってきたわけで、これまでは労働運動ならば、社会党系と違いを出さないといけなかった。あらゆる運動分野で競合状態にあった。はっきり言ってそれは解消したのではないか。社会党系、新社会など論外の状況になったわけだ。・・・・
F)・・・・それと反共意識というのが薄れてきたというのがある。実はうちの母親が共産党に入れたというんです。自民党大好き、共産党大嫌い人間がね。年金生活者には共産党が一番いいというんですね。
D)現実基盤が無くなったという意味で、ソ連がなくなったといのが大きい。そういう意味で脅威が無くなっている。
B)ただ共産党の影響力はあまり世の中に及ばないと思う。変わるなら変わって民主党に流れるのか、スジを通していくのか、といっても、ここが政界をどうにかするということはないと思う。そういう意味で共産党に興味はなくて、民主党、あるいは自民党に興味がある。
G)もし、共産党が「オリーブの木」連合路線に転換するというなら、その意味は大きいと思う。その場合与党になり得るんだから。そこまで転換できるかどうかだ。
E)細川政権時代なら、共産党なしで政権は形成できたが、現在の状況なら、共産党がキャスティングボードを握る可能性もありうる。
D)比例区選挙が参議院も衆議院も入っているでしょ。この場合、共産党にとって有利ですよ。これが、中選挙区制ならまずしんどい。選挙制度改正は共産党にとってはメリットに働いている。
<今後の政局、課題について>
H)時間の関係もあるので、議論になっている自民党新政権の行方なり民主党の評価などに移りたい。自民党の危機ということですが、自民党の議員自身が危機を感じているという意味もあるし、また民主党も比例で10取れなければ、解党の危機と言われたのに躍進したため、党内矛盾も隠されてきたという事情もある。また、今回の選挙で特に感じたのは、マーケットの評価がリアルに感じられたということ。円が続落して、倒産が続出するということも考えられる。秋以降の政局ということで意見を出していただきたい。
D)意外と展開は早いと思います。宮沢が大蔵大臣になった。すごい追い詰められているなという感じ。もし何も出来なければ、最後のカードを切ったようなもの。秋口から年末にかけて、極めて不透明だなと感じている。解散・総選挙ということもある。
G)今朝のテレビで、4兆円の所得税減税、法人税減税2兆円はやるといっていたな。
D)自治体の立場からすると、減税はあまりやってほしくないな。住民税減税は自治体財政を直撃しますから。
F)どう転換するかということだが、積極経済政策になることははっきりしている。仕事で聞いた話だが、国の官僚が昨年はマイナスシーリングだったが、今年はそれはしないで認めていきたいと言っているらしい。そのことが具体的に経済に影響してくるのか、すぐには効果はでないわけだから、すぐに小渕内閣の破綻に繋がるとは思えない。ただ経済に政治が敏感な時代なのだから、依然、倒産件数は増加し、失業も増加するという状態が続けば崩壊は早いし、たちまち解散・総選挙ということになる。参議院の結果から見れば、今の衆議院は民意を反映していないわけだから、民意を反映しない無理な政権は崩壊すると思う。意外と早い段階で判断ができるのでは。
B)小渕内閣は従来の自民党政権と違って、発足時から低い支持率で出発した。だから、何か得点できる政策を発揮できれば、逆に支持率は上がるのかな、という気もする。問題は、誰がなっても不況を解決するのは難しいのではと国民は考えている。民主党であろうが。何かをすればどこかで噴出すという複雑な状況は、もうしばらく続くと考えているのではないか。実需の経済もあり、資産もあり、対外純債権もあるのに有効に対策が打てない、そういう中では、一回民主党にやらせてみようということになる。菅さんが経済政策を出すというが、あまり自民党と変わらないものになるのでは。
<ゼネコン救済も空振りの可能性>
D)自民党が出している経済政策なんですが、減税はできますよね。ただ、諸刃の刃で、赤字を増やすことになり、収入も減る。地方財政にとっては厳しいものがあり、公共料金の値上げがおこるだろう。大阪府の財政再建は確実に自治体に影響する。それは国民ベースで言えば、差し引きゼロということになる。一方、積極経済政策なんですが、減税で地方財政を苦しめていますから、公共事業でも地方の一般支出は発生するので、うまく連携できない。建設省・自治省・通産省が連携してが中心市街地の活性化で新しい制度を作り、一兆円規模の予算を付けるというわけです。周辺業界は注目しているらしいが、事業主体の自治体にとってそれに対応できる体力がない。新たな分野に公共投資を拡大すると言っているが、これも結局消化できないと思われる。減税・公共事業が空振りに終わると、経済はあまり変わらない。やはり悪い雰囲気は変わらないわけで、何かの転換をしなければ、という意識は強まる可能性がある。展望なき選挙に打って出るという可能性は高い。
G)結果としていくつかのゼネコンと大手銀行が潰れる可能性がある。秋口にね。富士、さくらまで言われている。ゼネコンも二つ、三つね。
D)PFIという話が国会で出ている。これは、公共施設を民間にさせようという仕組みなんです。事業資金も低利で、補助金も出る、担保物件でもOK、贈収賄事件になっても自首すれば減刑みたいな法案を自民党有志が準備しているらしいが、露骨なゼネコン支援という色合いが濃いので、国会を通ることはむずかしいと思う。それだけゼネコンが抱いている不良土地・建物が多いということだろう。今後中小から大手ゼネコンへ波及したらどうなるのだろうか。
H)都市再開発事業なんかは、もともと土地の右肩上がりを前提の仕組みだ。問題のある土地などは、ゼネコンは先行投資で抱いている場合が多い。この状態で事業がストップすれば、これがゼネコンの不良資産になってくるわけ。これが膨大だといわれているわけだ。これはゼネコンが無理なことをしてきたからだ、というより、システムの問題という性格だ。もちろん、そういう仕組みをさせてきたのは公共に他ならないのだが。
D)それは、金融から見れば不良債権だし、ゼネコンから見れば不良資産ですよね。中心市街地にある不良資産をなんとかしようと、PFIとか中心市街地活性化法なんかが出てくるわけです。しかし、事業主体となる自治体がこの状態なんで、とても見こみがない
<失業率は、ますます上昇>
H)あと、失業率の問題がある。3.9から4.1、4.3%と更新してきたが、5%まで行くでしょう。特にパートであった人の失業も増えてきたというし・・・。
F)現在は、景気がよくなったから、失業が解消するという連動がしないということ。そういう意味でも失業率はまだあがる。構造改革などが進めば一層リストラが進むだろうし、就業者増加が予想されているのは、福祉関係、情報科学関係などと言われているが、まだまだ実態的に増えているわけではない。
G)どんな分野で失業が増えているのか。建設関係とか、
F)建設産業はすでにリストラされてしまっているんです。先ほどパートという話が出ましたが、製造業や建設関係はすでに進んで、第3次産業に失業が増えている。不安定就労者が逆に失業している傾向がある。また中高年層と若年層の二極で進行している。専門職の部分での失業はまだ進んでいないが、年俸制や委託化など雇用形態の変化が進んでいる。情報関係で雇用が伸びるという議論があるが、専門技術者のついては確かに増加し、逆に人材が枯渇している状況にあるらしい。しかし、この業種は国際競争の激しい分野で、人員もかなり絞らないと成り立たないわけで、大量の雇用をつくりだせるか疑問もある。それより、介護保険など福祉分野は確実視されている。また、情報産業について、雇用効果はまだまだだが、経済効果は確実視されている。関西財界も注目している。
D)介護保険導入で何が増えるかというと、医療法人が介護サービスに参入するので、医療法人がヘルパーを雇うとか、そこでの雇用は増える。今までは、福祉法人の分野だったけれど、これからは、福祉と医療の法人の競争が始まるんです。福祉法人はこれまで国の仕組みの中で経営されてきたわけで、医療法人は競争の中で生きてきた実績もあるから、今後潰れる福祉法人も出てくる可能性がある。その垣根は無くなってきます。
(見だし・文章化はすべて編集子の責任で行いました。佐野8月16日)
【出典】 アサート No.249 1998年8月22日