【投稿】「テポドン」の落ちる日

【投稿】「テポドン」の落ちる日
                ・・・・・・何が起こるかわからない?

北朝鮮が8月に行なった「テポドン発射」を巡り、はたしてそれが人工衛星の打ち上げであったのか、ミサイルの試射であったのかは、いまもって定かとはなっていない。
しかし、確実に言えることは、北朝鮮が日本全土を射程に捉える、ロケット推進の運搬手段を開発したという事であり、それが軍事目的に使われる可能性が、否定しきれない現在、極めて不気味な存在であるという事だ。
もちろんわが国の最新型ロケットの開発技術をもってすれば、ICBMも製造可能であることは、よく知られているが、搭載すべき核弾頭の開発はおろか、それらの軍事目的への転用の意図も無いし、実行できるシステムもないことは、国際的に明白となっている。 ところが、北朝鮮の場合、核兵器保有(開発)宣言に等しい、IAEAやNPTからの脱退を公言した経過がある。現在は朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)の枠組みがあり、関係国の援助が、核兵器非保持の担保となっているものの、実際のところ、金正日がどの様な意図を持っており、どの程度まで核兵器の開発が進んでいるのか判らないし、化学兵器に至ってはもっとやっかいである。
もちろん朝鮮半島の緊張緩和が根本的な解決方法である事は確かだが、それには、北朝鮮の民主化が必要不可欠である。しかし「北風」であろうと「太陽」であろうと、外圧によってそれをなし遂げるのは、望むべくもない。
したがって、北朝鮮が戦域弾道ミサイルを配備し、近い将来はICBMを保有するという可能性も含めて、対応しなければならないのも事実であるが、一部にある如く明日にでも「ノドン」や「テポドン」が飛んでくるかのように騒ぎ、直ちに対抗手段や報復手段を持たねばならない、と煽り立てるのは、過剰反応と言うものであるし、アメリカの軍需産業に甘い汁をすわれるだけである。(ただし、アメリカに振り回されず、自分で判断できる情報を入手するために「情報衛星」を保有するのは妥当である)
いずれにせよ、実際のところ、たとえ北朝鮮が「テポドン」を配備したとしても、何の兆候もなしに、それがある日突然わが国を目標に発射される、などという事態は100%あり得ない事である。

何が起これば起こるのか

それでは、どんな場合に「テポドン」が日本に向けて発射されるのか、それは「周辺有事」すなわち、第2次朝鮮戦争以外にはあり得ない。
第2次朝鮮戦争については、いわゆる「新ガイドライン」の主題であり、実務レベルの研究は既に終わり、可能なものから新機軸の合同演習などの形で、それに備えた準備が始まっているし、残っているのは、国内の法整備ぐらいとなっている。
さらには全く個別の動きの様ではあるが、先頃日本海で行なわれた海上自衛隊とロシア海軍による「救難演習」も、「周辺有事」とは無関係ではあり得ない。
このなかに、「テポドン」発射という新たなシナリオが書き加えられる事になるのであって、決して北朝鮮と日本の2国間の枠組みのなかで、進展するような問題ではないのである。
すなわち、そこには必ずアメリカが当事者として介在するわけであるし、「テポドン」への第一義的な対処も米軍の仕事となるだろう。具体的には、38度線(休戦ライン)を挟む非武装地帯への、異常な兵力の集中が確認された時点で、アメリカは巡航ミサイルまたは、徹甲爆弾によるテポドン基地攻撃を準備するだろう。また、移動式発射台に対しては、戦闘爆撃機による波状攻撃が準備されるだろう。
そして、基地の状況と平壌や38度線の動きを監視しながら、攻撃のタイミングを判断することになるが、場合によっては、北朝鮮軍の攻撃開始以前に、攻撃指令が出されるかもしれない。
この方法が最も確実に「テポドン」の驚異を取り除く作戦である。
この様に考えられる、シミュレーションにおいては、基地攻撃への直接の自衛隊の出番は有りそうにない。(「第2次朝鮮戦争全般」への対応については、別問題であり、新ガイドラインで求められる「不審船舶の臨検」や「機雷掃海」さらには小規模の派兵も考えなくてはならないだろう)自衛隊の対処が必要なのは、討ち漏らしたミサイルが日本に飛んでくる場合である。これについては、海上からの迎撃を行なった上、それでもだめなら、最後は日本上空での迎撃となるだろう。
そのためには、アメリカが開発中の既存のイージス艦の改良を中心とする、海上配備型のミサイル防衛システムと地上配備のパトリオットPAC-3(99年配備予定の性能向上型)との組み合わせが、日本の地形や信頼性、また、コストの面からも最も効果的と考えられる。
全地上配備型の戦域ミサイル防衛(TMD)=戦域高高度迎撃(TAHHD=サッド)ミサイルとパトリオットPAC-3によるシステムについては、肝心のサッドの実験が5回連続失敗するなど、信頼性において未知数であり(メーカーのロッキード・マーチン社は、後5回の実験中3回成功しなければ、アメリカ政府から莫大なペナルティが課せられる)しかも開発費、調達費を合わせれば、莫大な経費を要するものである。
そのため、日本を巻き込んでおきたいとの思いが、先行する海上配備型を追撃するように「テポドン」を利用した盛んなセールスとなっているわけであるが、日本が単独で北朝鮮と交戦するのでなければ、あえて地上配備TMDに躍起になる必要はない。それを強行するなら、軍備において「一点豪華主義」的傾向の強い日本が、「大和」の二の舞を繰り返さないと言えるだろうか。
また、政府は「攻撃された場合相手の基地を叩くのも自衛の範疇」という趣旨の国会答弁を昭和31年に行なっており、先の通常国会でも再確認されているが、現在その能力を持とうとすれば、巡航ミサイルや、それこそ戦域弾道ミサイルを配備しなけれならない。 現在の日米、米韓間の連携を前提とする限り、アメリカは自分(在日米軍基地)を守るために、「テポドン」発射以前に動かざるを得ないのであり、そのような日本の軍拡は、逆効果でさえある。
わが国も経済情勢を含め、そうした総合的観点から冷静に判断し、対抗手段については、必要最小限の整備を進めながら、北朝鮮の「暴発」を防ぐため、最大限の努力を傾注しなければならいのである。(大阪 O)

【出典】 アサート No.252 1998年11月21日

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