【投稿】「自自連立」崩壊への道
<<破綻への道・「救済合併」>>
今年の流行語大賞に「凡人・軍人・変人」、「冷めたピザ」、「ボキャ貧」といういずれも小渕首相を形容するさえない、ネガティブな言葉が三つも入ったという。しかも「ボキャ貧」は首相自らの自己評価にもとづいて、自ら披瀝したものである。支持率、指導性ともども最低のラインから出発した一種の開き直りや自己卑下によるものであろうが、支持率は最低を更新し続けている。
そこで首相は乾坤一擲、大勝負に打って出た。「自自連立」である。今まで調整ばかりで、イニシャチブなど発揮したことがないだけに、初めての独自性発揮である。しかしこれとて、野中幹事長発案、梶山元官房長官根回し、亀井元建設相の立ち回り、またもや俺の出番と中曽根元首相の叱咤激励、これぞ最後のチャンスとばかり、渡りに船の藁をも掴みたい小沢党首の食いつき、これらが一挙に表に飛び出してきたことが見え見えである。
11/19の自民・自由連立合意書では、「いま、日本は国家的危機の中にある」、「かかる危機を乗り切り、国家の発展と国民生活の安定を図るため」などとして、「両党は政権を共にし、責任ある政治を行うことで合意する。予算編成後、通常国会までに連立政権を発足させる。選挙協力については、国・地方を通して両党間で万全の協力体制を確立する」ことで合意し、小渕・小沢両党首が署名している。本人たちは「憂国の志士」ぶっているが、保守同士が泥沼の後退に救命ブイを投げ合った「自民党による自由党の救済合併」といったしろものであろう。
しかしこのところ、長銀・住信、日債銀・中央信託に象徴的なように「救済合併」は常に手遅れ、破綻への道をしか用意していない。
<<ハードルの上げ下げ>>
早速、自民党内では泥試合が始まった。もともと野中氏は「人間として許せない。小沢さんと組むなら無所属になっても闘う」と公言していた人物である。それがいとも簡単に「目標が同じだと気がついた」という。政治の「大政翼賛会化傾向」に警鐘を鳴らした人物としてはいいかげんなものである。また、急遽、「危機突破・改革議員連盟」(四派議連)を旗揚げし、その代表についた梶山氏とて、「政治改革とかきれいごとを言っているが、小沢君のは権力闘争だ」と吐き捨てていた人物である。それが「私たちが保守本流だ。今は保守の亜流が多数派を占めて『保守の本流だ』と言っている」(12/7梶山)などと述べて、早くも「新主流派」の名乗りをあげ、執行部入りと内閣改造で論功行賞を露骨に要求しているわけである。小渕派は、「梶山さんは非主流派をまとめて連れてきた。副総裁になってもらってもいいぐらいだ」と持ち上げる。
保守の亜流とされた加藤前幹事長らYKKラインはとまどい、反発、妥協にゆらぎ、森幹事長は「内閣改造は通常国会後に先送りすべきだ」として、改造先送りと自由党の閣外協力論を流布させる。
これに流されてはなるまいと、小沢氏は「閣僚数削減などが実行されないなら、連立解消もあり得る」、「国連軍への参加は従来の政府の憲法解釈の変更になる」とわざわざハードルを上げる一方で、「(党首合意では)(消費税の)凍結は約束していない」(11/20テレビ番組)と本音を出し、閣僚数削減でも時期、数にこだわるものではないなどと他の幹部に発言させ、自らは入閣を固辞しながら、自党の幹事長や国対委員長を閣僚に推薦する、何ともあさましきポスト欲しさのハードル下げをちらつかせる。
小泉前厚相はこうした事態をとらえて「小沢氏は何のために自民党を出たのか。小沢氏はこれが自民党に戻る最後のチャンスだと考えたのだろう。もっと筋のある政治家だと思っていたが、自民の軍門に下った」と評価し、「首相は何もしないで一番先鋭な野党をつぶし、自民党を総主流派態勢にした。『凡人』じゃない」と述べているが、案外当たっていると言えるのかもしれない。しかしいずれにしても危なっかしい綱渡りであり、双方にとって国民から見放された墜落と瓦解への道を踏み出したとも言えよう。
<<「減税が増税にすりかわる」>>
彼らがいかに党利党略に溺れ、現在の危機的な不況の深化に鈍感であるのかは、12/11に発表された自民税調決定の所得税・個人住民税「減税」案に端的に表れている。一時は18兆円減税を唱えていた自由党幹部でさえ音無しである。この表面上の減税案は、消費を拡大させ、内需を喚起する景気対策どころか、逆にそれらをさらにいっそう冷えこます増税案なのである。
すでに各紙で指摘されているように、年収862万円以下では増税となる。4兆円減税が聞いてあきれる実態である。国税庁の統計によると、昨年の年収800万円以下の給与所得者は全体の86.3%、900万円以下では90.5%と圧倒的多数を占めるのである。減税の恩恵を被るのはわずか1割程度の金持ち層にしか過ぎない。かれらの最高税率を65%から50%に引き下げるだけで、5000億円の財源を費やしているのである。
さらに驚くべきことには、以下の表でも明らかなように、年収500万円では納税額が実に10万円以上も増える。さらにこれまでの特別減税の廃止により、年収306万3000円から427万3000円の課税階層は税額ゼロであったものが新たに課税されることになる。まさに圧倒的多数を占め、消費不況打開の糸口となるべき中・低所得者層にもっとも打撃を与える増税政策であり、「減税が増税にすりかわる」不況深化政策なのである。
年収(万円) 98年税額 99年税額 差引増減税(円)
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300 0 0 0
増 400 0 49,175 + 49,175
500 32,500 138,600 +106,100
600 157,500 240,100 + 82,600
税 700 321,500 375,400 + 53,900
800 516,500 538,400 + 21,900
862 680,180 680,256 + 76
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863 682,820 682,544 ▲276
減 900 780,500 767,200 ▲ 13,300
1000 1,044,500 996,000 ▲ 48,500
1200 1,640,500 1,505,000 ▲135,500
税 1500 2,901,500 2,672,400 ▲229,100
3000 9,977,000 9,264,000 ▲713,000
4000 15,615,000 14,014,000 ▲1,601,000
5000 21,790,000 18,764,000 ▲3,026,000
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(片働き夫婦、子ども2人の4人家族の大蔵省モデル)
<<内需不振と貿易黒字の拡大>>
すでに給与所得世帯の98年の賃金所得は前年比で約4兆円のマイナスとなることが明らかとなっており、これまでの特別減税の効果を完全に打ち消した形である。さらに今冬のボーナスは前年比約2.2%のマイナスである。今回の増減税案はこれらに追い打ちをかけ、内需不振、国内消費落ち込みをさらに増進させるものと言えよう。
これに呼応するかのように、98年度上半期の貿易黒字は、実に44.7%増を記録し、この10月で19ヵ月連続、前年同月の水準を上回っている。これは、輸入額が97年下半期に引き続き二期連続減少し、97/4の消費税率引き上げ以降、内需不振、国内消費が大幅に落ち込んでいることを浮き彫りにしたものである。
以下の表にも明らかなように、黒字幅は7兆4108億円という過去2番目の水準を記録、昨年来の通貨危機でマイナス成長に苦しむ対アジア地域の縮小を補って、対米黒字が41.3%増、四期連続の増加、対欧州黒字は倍近く急増、いずれも貿易摩擦と内需拡大策をめぐる対日圧力を激化させる要因をさらに増大させている。
確かに、10月になって、輸出は円相場の急騰などで5ヶ月ぶりに減少に転じたが、輸入は内需不振を反映し、10ヵ月連続減少、対米黒字は25ヵ月連続増加、10月は鉄鋼輸出が倍増という事態である。すでに日本からの鉄鋼輸入が141%も跳ね上がっている米鉄鋼業界はダンピング訴訟を提起、ダンピング課税が実施されようとしている。
国内最終消費を押え込み、結果として景気後退と円安で貿易黒字を拡大させる日本の経済政策はもはや世界的にも受け入れられない事態を招来している。
98上半期 輸出 輸入 出超額 (億円)
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総 額 259,087(+ 2.4) 184,978(▲8.3) 74,108(+44.7)
対米国 79,453(+14.2) 45,211(▲0.3) 34,242(+41.3)
対EU 47,449(+23.5) 25.479(▲4.7) 21.970(+88.1)
対アジア 89,528(▲17.3) 68,487(▲9.5) 21,041(▲35.5)
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(10/28・大蔵省98年度上半期貿易統計速報、()内は前年同期比)
98/10 輸出 輸入 出超額 (億円)
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総 額 43,826(▲ 5.7) 30,119(▲14.9) 13,707(+23.9)
対米国 14,118(+ 8.0) 6,920(▲ 9.1) 7,197(+31.9)
対EU 8,392(+11.7) 4,131(▲ 8.4) 4,261(+41.8)
対アジア 14,453(▲23.7) 11,299(▲17.0) 3,155(▲40.9)
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(11/19・大蔵省98年10月貿易統計速報、()内は前年同月比)
<<出し惜しみの「緊急基金」>>
政府は、11/16の緊急経済対策で、「雇用活性化総合プラン」(事業規模1兆円)なるものを提起している。その一つは中高年の非自発的失業者を支援する「緊急雇用創出特別基金」の創設である。それは、45~60歳までの失業者を採用した企業に補助金を支給するというものであるが、ただし「完全失業率が三ヶ月連続5.2%を上回った場合、地域的には6ヵ月連続で5.7%以上を記録したところ」(労働省総合政策課)という、なんとも出し惜しみも度が過ぎた、さらに景気が悪化しなければ発動されないようなしろものである。
すでに7-9月期の完全失業率は、平均4.2%(前年同期比+0.8%)、9月はさらに悪化して4.3%、完全失業者数は295万人で、史上最高を記録し、北海道や近畿では5.2%を記録している。有効求人倍率は全国平均0.49倍となり、求職2に対し求人1以下であることを示す0.5以下の府県は20都道府県にも及んでいる。このような事態に対して、このような政策しか出せない、出そうとしない小渕政権である。
11/30、国会の代表質問に立った民主党の菅党首は、「首相はリーダーシップのかけらもない指導者」、「景気に対する判断の恐るべき鈍感さ」、「小渕外交は『かわし外交』と呼ぶべきだ」と弾劾して、このところ受け身に立っていた立場から攻勢に転じ、「『小渕沢政権』が従来の自民党政権とどこが違うのか徹底的に究明する」(11/28日本記者クラブ)としている。大いに期待されるところであるが、その一方で「地域振興クーポン券」について、同じ代表質問の中で「世間ではこれを『7000億円の国会対策費』と酷評している」と誰もが周知の当然の言わずもがなの発言で、公明党から猛抗議を受けて陳謝し、発言を議事録から削除する失態を演じている。自民党までもがこれに乗じて、菅党首の発言は小渕首相に対する侮辱発言であるなどと息巻いている。こんなことにとらわれることなく、「自自連立」を孤立化させ、崩壊に導き、それに取って代わる対抗軸の形成こそが、民主党に課せられた課題だといえよう。(生駒 敬)
【出典】 アサート No.253 1998年12月19日