【投稿】重油回収ボランティア報告

【投稿】重油回収ボランティア報告
        <広がる環境破壊、頼みはボランティアでいいのか>

ロシア国籍のタンカー「ナホトカ号」が未だ原因不明の事故によって船体が二つに割れる事態となったのが、1月2日。折りから冬の日本海の悪条件も重なり、漏れ出した重油が越前海岸に大量に漂着し始めたのが、1月8日から9日。特に分断された船首部分が流れ着いた福井県三国町の東尋望東側の海岸線は、自然公園に指定されている風光明媚な場所であった。
当初は、三国町の海岸線のすべてに流出した重油が押し寄せ、砂浜といわず岩場といわず黒色一色になった。町民総出で回収作業に当たったという。
日々テレビ報道が行われる中、大阪では民主党大阪の呼びかけと連合大阪の呼びかけによる「重油回収ボランティア」の派遣が1月13日から開始されている。
私も労組の呼びかけで、1月下旬に1泊2日で回収作業に従事することとなった。連合大阪の220名を乗せたバス4台が早朝8時に大阪を出発、一路三国町をめざしたわけだ。
<吹雪きの中の回収作業>
当日は低気圧が接近中ということで、三国町の船首部分の漂着地点付近は吹雪になっていた。すでにこの日までに重油回収のためのボランティア3名が死亡しているわけでボランティア本部も慎重になっている。この場所での作業は中止が決定されていた。波も高く水辺での回収は危険ということだ。急遽、福井市の鷹巣海岸へ移動。三国町が海岸沿いの岩場での作業予定だったのが、夏は海水浴客でにぎわう砂浜での回収作業となった。
もちろんこちらも吹雪きである。高波4mということで海は荒れ狂っている。とりあえずボランティア本部の指示で、むしろ後方支援の形で、回収された重油を一時入れておくドラム缶の作業や回収のための道具の洗浄などをしていたが、短時間で終わる。すこし海岸の方に近づくとあちらこちらに重油の固まりが漂着して砂浜に点在している。ゴム手袋のままで回収作業をはじめた。すぐ近くに波が押し寄せており、時折波が長靴を荒いにくる。しばらくして指導者のほうから「危険だから中止するように」との指示。吹雪きと荒海。作業が進まないのも無理はない。
この日の作業は、ここでエンド。私たちは明日の作業を期待して宿舎に向かった。
<翌日には新しい重油が漂着している>
翌日は、一旦タンカー船首部分近くの海岸にある「連合福井現地対策本部」を訪れましたが、福井県の連合組合から続々とボランティアが集まってきていました。この日は天候は曇りということでしたが、海は依然荒れているのでここでの回収作業はこの日も中止でした。その場所からは、遠く海を望むとタンカーの船首部分が見えます。
そこで昨日の鷹巣海岸では作業が決行されているといので、移動して作業することにしました。すでに現地の漁民の方や市民ボランティア、連合組合員が百名ほど集まっており、私もも一緒に回収作業を行いました。昨日海岸の重油の固まりは回収したはずですが、一晩経つとまた海岸には重油の固まりが打ち上げられていました。午前中は約1kmに及ぶ海岸を固まりを拾いながらの作業。ただ、砂浜の底にも重油の固まりがある、ということで午後はスコップを手に砂を掘り返しての作業になりました。
この日も高波4mという中、流れ着いた重油の固まり(大きい物はバレーボールのようなもの、小さいものはマーブルチョコのような)の回収をしたわけですが、明日になればまた、新たな重油が漂着すると思うと、中々回収作業は進まないな、と感じたのでした。
ただ、現地の漁民・市民の皆さんはこれが連日のことであり、大変な苦労があります。お昼には、ボランティアに心尽しのおにぎりとブタ汁の炊き出しがあり、和気藹々と作業をすることができました。
ただ、午後の作業中に少し足を伸ばして、海岸線を過ぎ、岩場に行ってみると打ち寄せる波の上に重油の固まりが直径4mほどの固まりになって、岩場付近を浮き沈みしています。砂浜は表面上だけなら人海戦術でも回収できるわけですが、すべての海岸線にこうして重油が漂着し、岩を汚している、と思うと、気が遠くなる思いでした。
午後には本日出発した連合のバス四台が到着し、一緒に作業。このバスに乗せてもらって帰阪しました。
<二一年ぶりに同級生と再会>
今回のボランティアで、懐かしい友人と再会することができたのは、もう一つの収穫でした。実は大学の同級生が三国町に就職をしており、年賀状だけは卒業以来20年間欠かさずやりとりをしていましたので、民宿から思い切って電話をしたところ民宿まで来てくれて、三国町内を案内してくれました。案内といっても、タンカーの船首部分とその周囲の被害の一番大きかった海岸線、重油に洗われ黒くなった岸壁、イルカを須磨に送った水族館など、重油被害見学といったところ。一月中旬の一番ひどい時には町の職員総出で回収作業を行ったとのこと。現在きれいになったように見える砂浜も掘れば底に重油が溜まっているらしく、春になれば砂浜全体を掘り返し、重油回収をすることになるらしいのです。
また、彼の話によると、海の自然浄化作用(主にバクテリアが主体)は確かに存在するそうで、近年起きたアラスカでのタンカー事故の場合は比較的早く浄化したと言います。ただ日本海の場合、アラスカや北極海と比べてこうしたバクテリアが少ないという科学的データがあるそうで、自然浄化にもかなりの時間がかかると推測されているようです。また流出している重油はC重油の中でも一番粗悪な重油らしく、回収後の安全な処理も日本中で広島にある施設以外では処理できない、ということで回収後の処理も時間がかかるらしい。
三国町は競艇事業があり、比較的財政に余裕のある街とのことですが、観光には深刻な影響がでており、冬の味覚である越前がにを目当ての観光客が激減し、魚介類の価格も低迷、経済にも深刻な影響が出始めているとのことでした。重油回収費用も膨大な額になりそうで、政府の特別交付税上乗せもいわれているが、とても追いつかないだろうとのことでした。
<危機管理に問題あり>
ただでさえ、ソ連邦の崩壊以来、何かと評判の悪いロシアのタンカーが引き起こした今回の重油流出事故。助け出された乗組員が新潟で買い物をして顰蹙をかっているとか、タンカー会社が責任を逃れようとしているとか、ロシアの評判を益々悪くしているようだ。しかし、今回の事故などに事前の対策が何も取られていなかったという日本政府の対応は批判されるべきである。ボランティアの積極的な参加が。テレビ報道で行われて、そちらに目が行っているが、海底深く沈んでいるタンカー本体からの引き続く重油の流出が予想される中、日本政府の事故対策が問われていると言える。(佐野)

【出典】 アサート No.231 1997年2月15日

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