【投稿】沖縄・特措法と保・保大連合
<平成の琉球処分>
4/11、米軍用地特別措置法改悪案が衆議院の9割の議院の賛成で可決され、参議院に送付された。これによって事実上、沖縄県収用委員会の審理、採決を無視して、国側が一方的に強制使用が必要と判断すれば、「暫定使用」の名の下に永続的に基地使用が出来ることとなった。
「橋本首相は、沖縄の米軍基地の使用の継続、日米安保条約の義務の履行、安保体制の堅持という大きな”手土産”を持って24日に訪米、クリントン米大統領との首脳会談には笑顔で臨むことであろう。しかしこの笑顔づくりのために、いかに沖縄県民の心と声を踏みにじったかを知るべきである。」ーーこれは同法が衆院を通過した翌日の琉球新報の社説の冒頭部分である。
また沖縄タイムスの社説は「政府は、同法改正に当たって『必要最小限の措置』と説明しているが、その内容は、県民の反基地感情を強圧的に抑え込み、犠牲と差別をさらに強要するものと言わざるを得ない。「平成の琉球処分」と言ってもいい。」と述べている。
これは沖縄県民の圧倒的多数の声と言えよう。ところが、この沖縄の主要2紙に対して、4/9の衆院安保土地特別委員会で、新進党の西村真悟議員(大阪17区)らは、この2社の幹部に一坪反戦地主がいることを取り上げ、「はっきり言って普通の新聞ではない。偏向と言われても仕方がない」、「戦後史の長い間、二つの新聞に振り回されている」、「沖縄の心がマインドコントロールされている」などといった、沖縄の人々の心をまで侮辱、愚弄する参考人の意見が展開された。こうした新聞批判を超えた「”常識以前”の参考人を推薦する政党、また、その意見を拝聴する国会、選良の常識とは何なのだろうか」と琉球新報は問いかけている。
<『大政翼賛会』の再現>
大田沖縄県知事も、「多くの国会議員が、沖縄県民の切実な願いを自らの問題として受け止めていない結果、こうなったのではないか。非常に残念です」と述べている。同知事は4/12から約2週間の予定で直接米国を訪問、橋本首相が求めようともしない在沖縄米軍の削減を求める必死の努力に対する回答が、その直前に合わせるかのように急いで可決された日本政府と国会の仕打ちであった。
ところが、この4/11の衆院本会議で、自民党広報委員長でもあり前自治相でもあった安保土地使用特別委員会の野中委員長が、その委員会報告をする際に、「圧倒的多数で法案が可決されようとしているが、「大政翼賛会」のようなことにならないよう若い方にお願いしたい」と発言したのである。それまで思惑通りに進む議会場で上機嫌だった新進党の小沢党首は憮然とした表情に一転、会議後、発言の削除を求め、梶山官房長官はあわてて記者会見、「大政翼賛会と今日の事象を混同するのはナンセンスだ」として露骨な不快感を表明、急遽開かれた衆院議院運営委員会は問選の発言を削除してしまった。野中氏の当然の危惧と配慮を生かすどころか、発言の事実そのものまでなかったことにしてしまうという、まさに戦前の軍事ファシズム下の言論抑庄を地で行くような「大政翼賛会」の行動そのものが展開されたのであった。圧倒的多数の国会議員はそのことを問題にもせず、ただただ見過ごすという情けない事態が進行している。
小沢氏や梶山氏は、野中氏の発言に対してなぜそのょうに焦ったのであろうか。彼らが今や一心同体で行動していることは、まぎれもない事実であり、その伏線はすでに引かれていたといえよう。
<政治の決断と割り切れば>
彼らは相当以前から密かに連絡を取り合い、梶山官房長官が「5月14日までに特措法を上げないとクリントンは橋龍を見限るかも知れない。ここは天下国家のため協力して貰いたい」と切り出すと、小沢一郎「分かりました。心情は以前から一緒です。私も腹をくく
ります」と応じた、という(「週刊現代」4/5)。
きらに小沢側近の平野参院議員は「実は中曽根氏が、3/26小沢党首と秘密会合、今回の合意シナリオを措き、橋本首相との間を仲介した」ことを明らかにしている。またもや保保連合で暗躍を続ける中曽根氏である。そして同氏は、3/29の金丸一周忌の集いで
「情を振り払い、国家統治の原則を確立しなければならない。暫定使用はやむを得ないが、いずれ国家意思を厳然と決定しなければならない」とぶちあげたのである。
かくして、沖縄米軍用地特別措置法の国会提出前夜の4/2夜、首相官邸で橋本・小沢会談が設定され、「いっちゃん、ビールでも飲まないか。僕はウイスキーのお湯割りにしよう」-と、沖縄県民の心を踏みにじり、それを酒の肴にした密室の中の謀議は3時間半に
も及んだのである。その中から出てきた「合意」が「基地の整理・縮小・移転等を含め、国が最終的に責任を負う仕組みを誠意をもって整備する」(第三項目)であった。橋本首相自身が表面上は、「残酷に見えるかも知れない」とつぶやいた同法について、暫定使用どころか、「国が最終的責任を負う仕組みを整備する」、つまり地方自治体から米軍基地についての全ての権限を奪う方向でこの時に合意したのである。
小沢氏は、翌4/3の法案提出日に、「首相とは認識がかなり共通していた。首相は本気だ」と党の会議に報告し、法案そのものについては何の検討もしないで、橋本首相との合意事項を条件に法案賛成を決定し、ろくな審議もしない採決だけを急ぐ協力ぶりを露骨に表明。
このところあらゆる局面で求心力をなくしてきていた小沢氏は、これを挽回の絶好のチャンスと捉えたわけである。小沢氏は、安保・軍事に関することは国の専管事項として、地方自治体や収用委員会等の一切の関与を排除するべきであり、今回の特措法では生ぬる
いと主張し、そして「土地収用法とは違う法体系を整備することは、政治の決断と割り切れば難しいとは思わない」(4/9会見)とまで極言するに至ったのである。
<一つになるのが当然だ>
保保連合への動きはさらに加速しているといえよう。3/27、自民、新進両党の若手議員64人が、「日本の危機と安全保障を考える会」を旗揚げした。新進党からはほとんどが小沢側近の31人が参加、同党側の藤井代表は「安保問題で第一党と第二党が共通の基盤を
持つのは国益として大事だ」ともはや与党側の姿勢である。「新保・保連合」をとなえる亀井静香氏は、「自民党の安全保障政策と重なり合う部分は社民党よりも大きい。橋本政権としてこれを活用する以外ない」と自派グループの議員をこの会に送り込んでいる。
4/2には、自民党の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」(小渕会長)と新進党の「靖国神社参拝議員連盟」(渡部会長)が合体して、合流、自民党の名称と会長を引さ継ぎ、会長代理となった渡部氏は「日がたつと夫婦喧嘩でも兄弟喧嘩でも輿曹がさめて
くる。一つになるのが当然だ」と、自民・新進一体化への期待を語りだした。
日米安保体制をめぐっては、朝鮮半島有事の際の米軍の後方支援などを想定した日米防衛協力の指針(ガイドライン)の見直し期限が11月に来る。自民党の軸足が「安保優先」に傾く限りは、いずれ自民党と新進党による政権の組み替えが浮上する公算が大きくなってくるといえよう。自民党内でも9月の党総裁選を背景に「保保連合」の機運がさまざまな確執を生じさせながらも急速に拡大してくるであろう。6月までの今国会を通じて、社・さとの与党連合よりも、自民・新進の政策、課遁ごとの「部分連合」が前面に登場し、9月以降、保守大連合政権の樹立が現実味を帯びてくることも予想される事態である。焦る部分からは、5月の連休明けにはおかしくなっているのではないかとまで言われ出している。
<白昼公然たる怒鳴り合い>
もちろん、事態はそう単純には進むものではない。
自民党自身においても、加藤幹事長グループと梶山グループとは白昼公然たる怒鳴り合いまで演じており、保保連合派においては小沢との密約で、次期首相は橋本ではなく、小淵か梶山を想定しており、矛盾は逆に拡大しかねない。新進党はさらにいっそう複雑である。保保大連合への合流は、結党以来掲げてきた「自民党を打倒して真の改革政権を樹立する」という目標に対する敗北宣言でもある。そうしたこの間の事態の進行から公明系は完全に外されており、ついに別の政策集団の旗揚げに踏み切っている。新進党でただ一人、今回の特措法案に励寸した白保氏(公明系)は、「地元では新進党が賛成に廻ったことにものすごい反発が出ている。期限切れになったから延長するなんておかしい」と公言している。民社系議員に対しては、支援している友愛会が、保保連合に賛同すれば支援を打ち切ることを通告している。細川の日本新党グループはもはや小沢について行ける状態ではない。
なにしろ自民・新進保守大連合が仮に成立すれば、先の衆院選挙では、小選挙区300議席の内、両党で265議席を占め、それだけで安定過半数を確保するという事態が生じるのである。危険極まりない連携、連合は、さまざまな懸念と矛盾を拡大させ、いっそうの政局流動化と不安定化をもたらすことは間違いないといえよう。ある意味ではそうした事態の進行は、逆に対立点と問題点を明確にさせ、政策にもとづかないあいまいな状況よりは、より広い意味での政策選択の幅を拡大させ、「体制翼賛会」的な状況を打破する可能性を提供しているとも言えよう。しかしそれには、保保大連合に対決する、革新であれ、民主であれ、リベラルであれしっかりとした連合戦線が築かれねばならない。社会民主党や民主党は、それに応えるにはあまりにもふがいない状況である。
<打開のカギ>
そもそも、今回の特措法問題に対しては、社会民主党や民主党側は、海兵隊の削減こそが、沖縄問題を打関するカギであることを正面から打ち出し、アメリカ側にそれを提起し、共通の議題とすることこそが要請されていたのである。冷戦体制崩壊後の今日、米軍の前方展開を年間6000億円も資金を提供して支えているような同盟国は今や存在していないのである。
たしかにこの間、オルブライト国務長官(2月)、ゴア副大統領(3月)、コーエン国防長官、シヤリカシエビリ統合参謀本部議長(4月)など米政権要人の来日が相次ぎ、圧力をかけていたことは間違いない。しかしその一方で、海兵隊の地上兵力をハワイや米本土に移転することは耶巨であり、沖縄に常時艦留し、訓練を続ける必要もない、ということは米国内で公然と議論の対象となっており、その現実的可能性まで具体的に論じられているのである。
J・プリアー米太平洋軍指令官などは、「朝鮮半島で和解が成立すれば、当然日本での兵力水準について話し合いをすべきだ」と、「朝鮮半島統一前でも米軍の削減に向けた協議を始めることが出来る」ことを明言し、また海兵隊の訓練を沖縄から日本の国外に移転することについても「現在より頻繁に沖縄を離れ、別の場所で訓練することは、今後有り得ることだ」として、オーストラリア北部をすでに視察し、候補地の一つとして考えていることまで明らかにしている。(3/27ホノルル司令部での朝日新聞インタビュー)
昨年、ハワイ州の知事は「ハワイで海兵隊を3万人でも5万人でも受け入れましょう」とのメッセージを大田知事に送っている。
こうした事態があればこそ、大別中縄県知事が直接アメリカに出かけ、具体的な打開の努力をいわば孤軍奪闘で展開しているのである。保保連合に反対するのであれば、それに対抗するリベラル大連合を目指すのであれば、冷戦体制崩壊後の平和・安全保障政策を大胆に提起し、大田知事を支えるような具体的な行動のイニシヤチブをとるべきではないのだろうか。 (生駒 敬)
【出典】 アサート No.233 1997年4月19日