【投稿】新しい労働組合運動をめざして
読者の中には、「青年の旗」183号から187号まで連載された、依辺瞬氏の「労働組合運動の再構築に向けて」という論文を覚えている方も多い。意欲的な論文で、普段ぼやっと考えていたことを的確に整理して問題提起してくれていたので、私も非常に感激した読者の内の一人である。
最近、私自身がひょんなことから労働組合をつくることになった。つくるからには、この依辺論文の問題提起をできるだけ実践してやろうと思っていろいろ試みてきた。一年経過してそろそろその総括をしなければならない。依辺氏のようにきちんとした論文にできたらと思うのだが、残念ながら彼のような能力はないし、佐野氏からのアサートの原稿依頼にいつまでも不義理ばかりしていられないので、報告のような形でとりあえずまとめてみた。
◎組合結成の経過
現在私の属している労働組合は地方自治体の職員労働組合である。組合結成の経過は主要な論点ではないので詳細にはしないが、結成過程でも労働組合のあり方についていろいろ考えさせられた。私は以前は共産党の指導下にある自治労連の組合に属していた。彼らが自治労から脱退する時は反対運動をし、その後も対立候補として執行部の選挙に出るなど反執行部派として活動してきた。自治労連が主導権を握っていた他市で次々と自治労組合が誕生する中、私たちは主体的力量のなさと、自治労連の中でも活動できると考えて新組合をつくることなく時を過ごしてきた。
しかし、自治労連組合の中で反対派として活動しつづけることは不可能であった。
彼らは自治労脱退以降ますます純化し、何の議論もなしに彼らの方針を押し付けてくる。特に部落解放運動に関しては、異常なほど解放同盟攻撃を強め、同盟貝が組合を脱退せざるをえないよう追い込んだ。いろいろいきさつはあるが、直接的にはそのことがきっかけとなって新しい労働組合を結成することになった。自治労連組合の対応はまさに依辺氏のいう「赤色労働組合主義」そのものである。労働組合を使って共産党の方針(この場合は部落解放運動方針)を具体化し、宣伝しようとする。
非常に少数の職員での組合結成は、苦しい選択であった。脱退届けを出しても脱退を認めず、当局も組合費の給与引き去りを続けるという中で、裁判闘争も覚悟で新組合をつくり自治労に加入した。毎日のように私たちを名指しで批判するビラがまかれ、結成大会には自治労連組合の役員が会場の周りで多数監視するという中での誕生であった。しかし、結果的には私たちにも、他の市職員にも良かったのではないかと今は思っている。
◎本当の相手は誰か
結成大会で私は次のように発言した。
「私たちをめぐる状況は必ずしも楽観できないというのも事実であります。組合結成のためにオルグにかけまわる中で、私は事務職を中心に多くの職員の皆さんが労働組合というものにそれほど期待していない、無関心であり、むしろ不信感を持っていることを痛感させられました。労働組合は自分達がやるものではなくて、幹部にやってもらうもの、反発もあるが言っても仕方がない、保険みたいなものといった意見を多く聞さました。これらの無力感が現在の市職労の運動の中で培われてきたことは間違いありませんが、しかし、最近の全般的な労働組合の組織率の低下の事実をまのあたりにするとき、それは、他人ごとではではなく、まさにこれから労働運動を担っていこうとしている私たち自身の課邁だと自覚せざるをえません。私たちの前の最大の相手は、当局でもなく、市職労でもなく、まさにこの組合に対する無力感ではないでしょうか。」
このことは、結成以来1年以上たった今あらためて痛感している。私たちが新組合を結成して以来、かなりの職員が自治労連組合を脱退した。しかし、それがそのまま我が組合の組織拡大には繋がっていないのである。彼らにとっては、まだまだ「自治労も自治労連も一緒」としか映っていないのであろう。他市の自治労組合結成の時期に比べ、政局も混迷、政界再編の熱気もなくなったという不利な条件はあるものの、やはり、私たちの活動の内容を大改革しなければならないと思う。
◎いくつかの試み
私たちの組合が自治労連組合に比べて圧倒的少数とはいえ、労働者の要求実現という労働組合の基本的機能については、自治労連組合に決して見劣りしないと自負している。全国的には多数派である自治労に加入しているため、中央の情報はすぐに入るし、他市の情報も豊富である。自治労連組合のように、国への要求から職場の諸要求まで、できることもできないことも何もかも要求して、できなければ政府や自治労のせいにするという無責任な運動ではなく、課題を絞りながら、具体的な資料を明らかにし、対案を出しての運動は結構職員の注目を引いている。機関紙への投稿や激励の意見もあったりした。しかし、それだけでは新組合の新しいイメージとしては不十分である。この間の、依辺論文を参考にしたいくつかの試みを紹介する。
1、名称の改革
労働組合運動が社会主義運動と不離一体のものとして発展してきた関係上、その各機関の名称は、共産党組織の機関名と一緒である。しかし、社会主義が崩壊した現在、その名称にこだわる必要はない。もっと親しみやすい、わかりやすい名称こ変えた方が良いと思い、「中央委員会」を「職場代表者会議」、「執行委員会」を「幹事会」、「書記長」は「事務局長」、「執行委員長」は「幹事会代表」にした。
この名称が親しみやすいか若干疑問もあるが、「執行委員長」をなくしたのは良かったと思っている。組合の会議などでよく「委員長」と呼びあっているが、あれは何だか「社長」と呼ぶのと同じような雰囲気で、あまり気分のいいものではない。
2、自己実現プロジェクト
以前、誰かが、今は組合員は「カのある組合」ではなくて「やさしい組合」を求めているというようなことを言っていたが、確かに今の若い人は、「組合の方針についてこい」とぐいぐい引っ張るのではなく、自分たちの個性や能力を認め、それが実現できるような包容力のある組織を求めているように思う。私たちは、組合員自らが発案・企画してそれを組合でバックアップするという「自己実現プロジェクト」という事業をやっている。現在、英会話サークルをやっているが、会員の半数は自治労連組合の組合員である。「自己犠牲」ではなく「自己実現」がこれからの組合活動のキーワードのような気がする。
3、ボランティア活動の積極的取り組み
自治労は組合の社会的貢献ということでボランティア活動に積極的に取り組んでいるが、私たちも日本海重油除去ボランティア等に積極的に取り組んだ。自治労連組合も阪神大震災等でボランティア活動に取り組んではいたが、宣伝のため、奉仕的色彩が濃い。2、と関連して、ボランティアを自分たち自身の要求として取り組むことに積極的意義があると思う。
4、議員との懇談会
これまで、自治労連組合は共産党の議員としか交流がなく、情報交換もなかったが新組合結成をきっかけに他の会派の議員との懇談会を企画した。仕事にやる気のある職員とま
じめな議員との懇談は率直な意見交換でなかなか刺激的なものだった。
◎これからの課題
まだまだできたばかりの組合でなかなか思うような取り組みができないが、一つだけ是非やりたいと思っていることがある。それは、市民に「協賛組合員のようなかたちで組合運動に参加してもらうことである。現在、第2次の行革フィーバーともいうべき状況で、地方自治体に対する風当たりは非常に強い。これまでも市民運動との共闘という形で自
治体労働組合と市民運動の連携は追求されてきたが、まだまだ市民と自治体労働組合との壁は厚いと言わざるをえない。私たちの考えていることを本当に理解してもらい、また、私たちの中にある市民生活のニーズに対する無理解を打破するためには、もっと組合運動の中に市民が入ってもらうことが必要なのではないかと痛感している。
他にも課題はたくさんあるが、組合の分権化や直接民主主義的運営等、組合員が少ない中ではあまり問題意識になっていない。
急遽、書き上げた原稿で不十分だが、これからも「労働組合冬の時代」に生き残るべく様々な挑戦を試みていさたいと思っている。(若松一郎)
【出典】 アサート No.235 1997年6月15日