【投稿】不安がよぎる民主・リベラルの未来

【投稿】不安がよぎる民主・リベラルの未来

都議選の結果に注目しながら、民主リベラル政党の再結集をめざす労働組合側の動き、さらにイギリス労働党の勝利に学ぶことで新しい方向について考えてみたい。

<政治不信を一層強めた都議選>
注目の都議会選挙結果等については、生駒、池田両氏が詳しい分析を試みてくれると思うので、私の方は感想めいたことにさせていただく。都議選の都道府県議会選挙史上最低の投票率はあるものの、国民が政治への関心を如何に失っているか、また政党への評価をどう行っているかについて、都議選の結果を事実として受け止める必要がある。
自民党・共産党の前進については、この4年間に結成また再編を行った他の政党と比べて「良くも悪くも」変わらないと言う意味で投票しやすかった結果であるし、昨年の衆議院選挙結果の延長と言える。一方共産党は、おそらく旧社民支持層に代表される「野党票」を集約することができた結果と考える。
低投票率という問題の方が、事態の深刻さを感じる。争点がないと言われているが、前回よりも20%の低下という数字は、不評の青島都政の問題も含めて、日本の縮図としての東京都に政治が不在という実態を明らかにした。

<民主党は不振だったのか>
民主党は1名減の12名となったが、マスコミは「不振」という評価。自らも支持者ということで判官贔屓という面もあるかもしれないが、私は「健闘」だったと思う。沖縄特措法での選択は、不評を買ったが、その後「公共事業コントロール法」や諫早干拓など環境問題と公共事業批判を全面にしての結果であり、よく維持したのではないか、と思う。特に労働組合側が後で述べるように一枚岩という状況になく、また地域組織もまだまだという中での結果という面もある。推薦の無所属7名を加えて、会派は19名となった。
一方社民党だが、現職が、世田谷区、練馬区、南多摩で落選。世田谷・練馬では民主候補に敗れている。もともと4名だったが1名になった。( 当選した候補も、北区で民主党候補に負けている)新進と同様に社民党も都議会で壊滅といった方が正確だろう。
この都議選の結果は来年の参議院選挙へ向けての各政党の動きを加速させることになるだろう。特に注目は新進党の動向であろう。都議選後愛知元防衛庁長官が離党。細川元首相に続く旧日本新党系の議員離党問題もある。また11日には旧民社党で鉄鋼労連組織内の北橋議員が離党を表明した。友愛会の中でも新進選択について議論がくすぶっている。

<民主リベラル結集は可能か>
さて労働組合の動きである。まず連合は、6月5日の第25回中央委員会で、「第18回参議院選挙対策(その1)について」を決定した。内容は、自民党の一人勝ちを許さず、構成組織の参議院選挙での統一対応が図れるよう支持協力政党に選挙協力を要請すること。比例区においても分裂選挙の回避、統一名簿方式など統一的取り組みを各政党に要請するなどとし、具体の選挙対策は10月の定期大会で提案するという内容である。
新進・民主そして社民と股咲き状態で昨年の衆議院選挙を闘わざるを得なかった連合は、結成8年めの「低迷状態」の下で、何としても政治の分野では主導権を握る意欲はあるのだが、この取り組みも新進・民主の低迷で先が見えない状況になっているのである。
一方旧総評系の産別労組を中心に「社会党と連帯する労働組合会議」は、民主基軸を打ち出し昨年の衆議院選挙を戦ったが、その後社民党が再建路線を打ち出し、また自社さ政権の中にいるという「政権政党」としての力を残したことから単純に民主基軸路線を貫徹できず、「本格的な民主リベラルの総結集」という民主・社民の統一をめざすという路線に落ち着いた。新しい組織は7月30日に「民主リベラル労組会議」として結成される予定で、地域組織も同様に再結成されることになる。民主党内に組織内議員を9名抱える自治労でさえ、5月末の中央委員会で「民主基軸」という言葉を削除し、「民主・社民を協力政党とする」と一定の軌道修正を行った。底辺に流れているのは、民主党基軸で本当にやっていけるかどうかの不安であり、組織内にいる協会派や旧社民支持グループに「配慮」の結果と言われている。

<民主・社民の統一は可能か>
私見だが、民主・社民の統一など不可能と考えている。そうであることは、ある意味でこの問題に関わる人は誰でも結論的にはわかっている。分かっているのに「統一」を言わねば、「組織論議」ができない、という袋小路に陥っているのが現状と言える。
すでに体制としての社会主義が崩壊した現在、社会主義を選挙公約に立てない共産党と先祖帰りしようとしている社民党の間に、イデオロギー的な垣根は、「政権党」に納まっているかどうかぐらいの違いでしかない。都議選で旧社民党票が共産党に流れるのは当然だ。社民党は崩壊秒読みだが、共産党は「元気」だからだ。その社民党が「新党結成」から突然抜けてた後、結成されたのが民主党。言わば分家したのが両党。民主党には、旧社民党議員がたくさんいるわけで、労働組合側がいくらまとまってくれ、と言っても政治の世界では「立党の立場」、国民からのイメージを考えても民主党側に何のメリットもない。
民主党は、旧社民+旧さきがけ+鳩山グループを管がまとめている、という少々ややこしい構造だが、簡単に言って「自民党的なもの」「新進党的なもの」からは区別できるものを持っている。民主はまだ結成時のように「はっきりしない」政党のように見えているし、実際そうだ。だから、今総選挙、都議選を経て「党内闘争」が始まった。管ー仙石ラインと鳩山ー鳩山ラインかどうかは知らないが、「党内闘争」は良いことだ。どんどんやればいい。その方が国民にはわかりやすいからだ。地域組織の立ち上げや党内の意見整理で民主党内はおそらく多忙だろう。参議院選挙までに社民との統一はだから有り得ないと思う。

<イギリス労働党から学ぶもの>
党と労働組合との関係、また社会民主主義という点からも興味深いのは、イギリス労働党のことである。私自身、イギリスにはあまり興味を持っていなかったが、今回のイギリス総選挙での労働党の圧倒的勝利ということでまとまったものを探していたところ「英国労働党」(吉瀬征輔著:窓社)と出会った。
トニー・ブレア党首により18年ぶりに労働党政権となったことは記憶に新しいが、ここに至るまでの党内論争・闘争、そして新労働党の誕生までを経過にそって描き出している。印象的だったのは、ブレアー党首などの「新改革派」が行ったことが、党規約第4条の「生産・交易手段の公有化」条項の削除、国有化路線の修正であった。1959年の党大会で修正が否決されて以来35年目に削除されている。
70年代の労働党政権は、ポンド危機など経済の停滞を背景に、実現された「完全雇用と所得政策物価スライド賃金」を労組が企業単位でそれを打ち破る闘争により労働党政権と労働組合が対立する状況に至り、79年に方向性を失った労働党は保守党に敗北する。
その後、80年代を通じては、労働党左派( 社会主義派)が党の主導権を握ったが、4度の総選挙で連続して敗北。その間に政策論争が盛んに行われ、「階級闘争派」が凋落し、EU存続路線・国有化路線の放棄・労組の発言権の縮小と個人党員の増加などの変化の中で国民的支持を拡大し、「国民多数者の党」として党を再建したというのである。そして今年5月に若いブレアー党首による総選挙勝利に結実した。
詳しい書評ではないので、ご理解いただきたいが、私の印象ではイギリス労働党の現在の政策、立場は十分に普遍性を有しているということである。
まず、トロッキー派などの労働党左派の克服の過程で、88年の労働党大会では、社会主義については「個人主義的価値の実現をめざす社会主義」という提起が行われ社会主義と個人主義の両立性について語られ、「経済運営において・・・・社会的公正を経済的効率性の障害とみるサッチャー主義も、効率性の追求が社会的公正に脅威を与えるとする旧来の社会主義者の見解も単純な事実を見誤っている。社会的公正の持続的追求は繁栄する経済を前提としてのみ可能であり、後者を担う人々に求められる高度な能力は、社会的公正が保たれている社会でのみ育つと言う事実である。市場経済システムのメリットを生かす必要性とともに、放置できないその欠陥を是正するための国家活動の不可欠性を強調した。」(同書P94)こうした経過を受け、89年にはEC議会選挙では労働党が保守党に勝利し、サッチャーは退陣を余儀なくされる。しかし、「人頭税」問題もあり、勝利は確実と言われた92年総選挙でも得票率、議席数とも増加したとは言え、労働党は4度目の敗北を喫する。
この総括、議論過程では、都市部の比較的安定した労働者層・技能労働者層から支持を受けられなかったことを解明し、そこに「ストライキの党」「福祉偏重の党」などのイメージが強く、経済運営は任せられないという意識をもっていることから、①個人の自由を価値の中心に位置づけ、万人に開かれた「個人の党」であること、②すべての既得権益に反対する党であること③追求されるべき平等は、「機会の平等」であって「結果の平等」ではないこと④自由と平等をめざす意味からも市場経済が必要であることを明確にする必要がある、という結論に至り、国有化条項=党規約4条の削除へとつながっていく。
少し長くなったが、このイギリス労働党の路線は、十分に共感できる。ただ、ここにたどり着くまでに、党内議論と35年の期間がかかったという事実である。
民主党か社民党か、などは実は不毛な議論である。まさに「社会民主主義を超えて」新しい政権を担う路線が問われているのである。労働組合が政党の統一を願うのは理解できる。しかし問われているのは政党そのものの議論であり、党内議論である。

<共産党はどうなる>
最後に都議選で躍進した共産党について。社会主義体制が崩壊した今、共産党は社会主義の看板で選挙を戦っていない。そういう意味では55年体制時の社会党と変わらない。投票した「無党派層」もそれ以上を期待していない。政権を取るとも主張していないわけである。おそらく共産党内部で今後こうした路線をめぐる議論が起こってくることは必至であろう。いまだ「科学的社会主義」は堅持されているわけだから、激烈な党内論争が起こることを期待したい。(まず民主集中制から議論になるか) ( 97ー07ー14佐野秀夫)

【出典】 アサート No.236 1997年7月19日

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