【投稿】サナダ・ユキムラ作戦 PARTⅡ

【投稿】サナダ・ユキムラ作戦 PARTⅡ

村山富市の提案は、離職した炭鉱労働者に、トンネルの掘削を請け負ってもらえば良い、という突拍子もないものだった。
しかし、リマ事件の時も炭鉱労働者が、突入用トンネル造りに動員されたということであり、人が通れるだけの大きさで良いのだから、一理あるかと小沢は思った。
だが、やはり失敗した時のことを考えると、迂闊に承諾するわけにはいかない、やはりこのじじいは自分の足をひっぱりにきたのではないかと、小沢は疑いの眼差しを向けながら、村山の申し出を辞退した。
村山は「そうですか、残念じゃのう」と、いとも簡単に諦めたが、即座に第2弾を放ってきた。
「それなら、テロリストを撹乱さすために、迎賓館の周りで連日決起集会を開けばどうじゃ」
さすがの小沢も腕を組んで考え込んでしまったが、村山の執拗な要望に、周辺の道路をグルグル廻るだけならと、提案を受け入れた。
村山は、来たときよりも百倍も元気になった様子で部屋を出ていった。

トンネル工事が始まると同時に大阪城公園では、「サミットテロ事件の早期平和的解決をめざす全国総決起集会」が開催され、約5万人が集まった。
集会には、退職者も結構多く参加していたが、そこが一番元気が良かった。
「こんな集会は久々やのう」「ほんまや、メーデーでの人が集まらんようになってしもたしのう」「はよデモに行こうや」「ところで今日は何の集会やった」
主催者、来賓等の挨拶は早々に切り上げられ、早速でもが開始された。先頭にたったのは村山を始めとする社民党や旧総評の役員だった。
デモはいきなりジグザグ行進から始まった「わっしょい!ワッショイ!てぇーろぉー粉砕!人質解放」砂塵を巻き上げながら、16列縦隊のデモ隊は公園内を進んだ。
久々のデモを過激に開始したため、足を踏まれる者、将棋倒しになる者など怪我人が続出、まっさきに村山富市が担架で運ばれていった。第一挺団が通過したあとには、靴や財布の他、入れ歯や眼鏡などが散乱していた。
対策本部で様子を聞いた、小沢らは頭を抱え込んだが、異様な盛り上がりを見せるデモ隊を止めることは出来なかった。

それでも、暴騒音規制条例の適用除外となった、シュプレヒコールと、スピーカーの大音響に、トンネル掘削工事の音は、完全にかき消されてしまっていた。
集会は工事終了まで断続的に続けられ、最後は模擬店やカラオケ大会まで開かれ、内外の報道陣を唖然とさせたが、主催者や参加者はいたって満足げであった。
「死人が出ずに良かったのう」「来年もまたやろうや」

いよいよ突入は、秒読みに入っていた。トンネル内に息をひそめている、200名の自衛隊員は攻撃の手順を反芻していた。
まず、最初にプラスティック爆弾で迎賓館の床を吹き飛ばす、さらに、建物の周囲からも地上に飛び出し、スタン・グレネードを投擲しつつ、一挙に管内に突入、犯人が動かなくなるまで、射撃を続ける。
テロリストに容赦はいらない、命乞いをしようと許されるものではない。
そして、橋本首相から突入の指令が出されようとしていた、まさにその時、突然3機のヘリコプターが爆音と共に姿を現わした。
この全然シナリオにない事態に、対策本部はもちろん、周辺に展開していた各国特殊部隊も呆気にとられた。
橋本は、すっかり動転してしまい、思わず小沢を怒鳴りつけた。
「土壇場になって作戦変更とはどういうことだ!俺は何も聞いていない」
こればかりは身に覚えのない小沢は、対策本部の要員に向かって当たり散らした「どの国の部隊が動いたのかすぐに調べろ!」
対策本部が混乱している間に、ヘリからは次々と黒い影がロープを伝って、迎賓館の屋根に降り立っていた。
対策本部に第1報が入った。
「ヘリの機体に河内航空と記載」
「なんだそれは」「先ほど八尾空港から飛び立った民間機です」「?????」橋本も小沢も頭を抱えた。
その直後、迎賓館の方角から歓声が上がった。モニターの画面には、解放された人質の姿が映し出されていた。

明らかになった経過はこうだった。
突入した「真理赤軍」の武装はモデルガンなど、とるにたらないものだった。
人質の内に経済団体のリーダーもいたが、その人物は、各国首脳に売り込むために持っていた、自社製の超小型通信機を使って、民間のセキュリティサービスに救出を依頼したのだった。
政府機関に連絡しなかった理由について、彼は民間活力の導入だと、語った。
作戦には、傭兵経験のある外国人も参加していた。面目をつぶされた政府は、「入管法」違反で摘発しようとしたが八つ当たりのそしりは免れず、結局うやむやになった。
その後国会で、自衛隊の民営化法案が成立し、例の財界人の会社が経営権を獲得した。
コメントを求められた橋本は、ぶっきらぼうに答えた。「まあ、とにかく行革が一つ進んだという事だ」(おわり)  大阪O

【出典】 アサート No.240 1997年11月28日

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